Home > News > Nick Cave - ──コロナ時代における態度、ニック・ケイヴの場合
ディヴィッド・バーンやRDJのほかにも、アーティストがいま何を考えているのかをなるべく紹介したいと思っています。で、今回は、ニック・ケイヴが彼のサイト「レッド・ハンズ・ファイルズ」で書いている文章です。読者からの質問に答えるカタチでニック・ケイヴが彼の考えを述べているのですが、これもまたひそかに世界で話題になっているようです。今回も沢井陽子さんが訳してくれました。なんともケイヴらしい力強い言葉をどうぞ。
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このコロナ・パンデミックで、あなたはどうする予定ですか? どのように時間を埋めようとしていますか? 家のピアノからソロ・パフォーマンスですか? ーアリス、オスロ、ノルウェイ
バンドはコンサートをライヴストリーミングする予定はありますか? この期間に人びとが繋がりを感じる助けになると思います。 ーヘンリー、シドニー、オーストラリア
とくに創造的でない人は、この孤独な時間をどうしたらよいでしょうか。答えを見つけられません。ーサスキア、ロンドン、英国
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アリス、ヘンリー、サスキアへ
危機に対する私の答えは、いつも創造的になることでした。この衝動は、何度も私を救いました。物事が悪くなるとツアーをプランしたり、本を書いたり、レコードを作ったり、仕事に身を隠します。そして追い求めていたよりも一歩先を行くようにしていました。なので、バッドシーズのヨーロッパツアーが延期になるとわかったとき、少なくとも突然3ヶ月間の空き時間ができ、私の心はその空き時間をどうやって埋めようかという衝動にかられました。チームとヴィデオコールをしてアイディアを出し合ったり、自分の家からソロパフォーマンスをストリームしたり、孤独なアルバムを書いたり、オンラインでコロナ日記を書いたり、終末論的な映画の脚本を書いたり、Spotifyでパンデミック・プレイリストを作ったり、オンラインで読書クラブをはじめたり、レッド・ハンド・ファイルズの質問に答えたり、曲作りやクッキングのチュートリアルをストリームしたり、など、すべては、私の創造的な勢いを維持すること、私の孤立したファンに何かをするための目的でした。
その夜、これらのアイデアを考えたとき、私は過去3か月に自分がしたことについて考えはじめました。ウォレンとシドニー・シンフォニー・オーケストラと仕事し、デンマーク王立図書館との大規模で信じられないほど複雑なニック・ケイヴ展の計画、実施をしたり、「Stranger Than Kindness」の本をまとめたり、自分の集めた歌詞を更新したり、Ghosteenの世界ツアーのショーを開発したり(ちなみに、これを私たちがやったらすごいことになるだろう)、2番目のBサイドとRaritiesレコードを作ったり、もちろん、レッド・ハンド・ファイルズを読んだり、書いたり。私がベッドに座って反省していたとき、別の考えが現れました、明確で不思議で人道的でした。「なぜいまがクリエイティヴになるときなのか?」
私たちは一緒に歴史に足を踏み入れ、いまや私たちは、生涯で前例のない出来事のなかに住んでいます。ニュースは毎日、数週間前には考えられなかったような、目まいがするような情報を提供してくれます。1か月前に私たちを混乱させ、分裂させたものは、せいぜい大昔の恥ずかしさのようです。私たちは、内部からいま起きていることを見ている、大災害の目撃者になりました。私たちは孤立させることを余儀なくされ──警戒し、静かにし、リアルタイムで文明の起こり得る爆破を監視し、熟考することになります。最終的にこのときから離れると、リーダー、社会システム、友人、敵、そして何よりも自分自身についてのことがわかります。私たちは回復力、赦しの能力、そして相互の脆弱性について何かを知るでしょう。おそらく、いまは注意を払い、気をつけ、観察するときです。アーティストとしてこの異常な瞬間を見逃すことはできません。が、突然、小説を書いたり、脚本や一連の歌を書いたりする行為は、過ぎ去った時代の耽溺のようにも見えます。創造ビジネスに埋もれるときではありません。いまこそ後部座席に立ち、この機会を利用して、私たちの機能が何であるか、つまりアーティストとしての私たちが何のためにあるのかを正確に反映するときです。
サスキア、私たち全員に開かれている、エンゲージメントの形があります。遠くの友だちにメールをし、両親や兄弟に電話し、近所の人に親切な言葉をかけ、第一のラインで働いている人たちのことを祈ったりなどです。これらの簡単なジェスチャーで世界を結びつけることができます。あちこちに愛の糸を投げ、最終的に私たち全員をつなぎ──私たちがこの時から抜け出すとき、私たちは思いやり、謙虚さ、そしてより大きな尊厳によって統一されるのです。おそらく、私たちはまた異なる目を通して世界を見ることになるでしょう。これはたしかに、すべてのなかでもっとも真の創造的な仕事であるかもしれません。