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二木 信   Jan 12,2011 UP
E王

 どーも、あけましておめでとうございます!

 年末、野田編集長に「保守的なブラック・ミュージック・リスナー」と書かれてしまった二木です。どーん! 実際それは否定できない事実です。まあ、否定する必要もないか。保守的なブラック・ミュージック・リスナーがいるように、保守的な音楽もある。一方で前進を止めない音楽もある。ドゥービーズのデビュー・アルバム『ドゥービーズ』は、イスギやシンクタンクとはまた違ったドス黒い感性を持ったヒップホップ・アルバムで、はっきり言って、眩暈がするほど素晴らしい。2010年12月末にリリースされたこの作品は、この国のヒップホップにおける果敢な音の冒険という意味において、少なくとも2010年のベスト5には入るでしょう。彼らは深い酩酊と陶酔のために命を削っている。まずその気合いに拍手したい。年末にこれを聴いて、そう思った。ジャズ、ソウル、ファンク、レゲエといったブラック・ミュージックを土鍋にぶちこんでかき回したカオティックなサウンドは、ジョージア・アン・マルドロー&デクレイム『SomeOthaShip』を彷彿させる。

 ドゥービーズはヒデンカ(HIDENKA)とゴーキ(GOUKI)から成るユニットで、ヒデンカはラッパーであり、DJであり、トラックメイカーでもある。彼は、ガーブルプー!(GARBLEPOOR!)というヒップホップ・グループや天国プランワールド(TENGOKUPLANWORLD)というソロ・プロジェクトでも活動するキャリア10年以上を誇るベテランで、ガーブルプー!名義ですでに3枚のアルバムを出している。シンクタンクを擁するアヴァン・ヒップホップ・レーベル〈ブラックスモーカー〉から発表した通算3作目『ペイジ・トゥー(PAGE TWO)』で僕はヒデンカの魅力の虜になった。DJ/トラックメイカーとしての顔である天国プランワールドの催眠的なミックスCD『メランコリック・スウィート・ベッドタウン・フッカー(MELANCHOLIC SWWEAT BEDTOWN HOOKER)』を聴けば、彼が音の退屈を許さない享楽主義者であることがよ~くわかる。スピリチュアルなトライバル・ハウス、スモーキーなヒップホップ、メロウなソウル、コンピューター・ファンク、エネルギッシュなビック・バンド・ジャズ、酔狂な漫談、パンキー・レゲエといったさまざまな音の断片が溶けた褐色のミックスジュースのなかを実に愉しそうに泳いでいる。『ドゥービーズ』の構成要素の秘密を解き明かしているようでもある。

 さて、そこで本作について語りましょう。DJ イタオと八合目トラックスが手がけた1曲目"ブラックボード(BLACKBORAD)"のイントロが流れ出した瞬間、「おっ!」と思う人は多いだろう。かの有名な女性ソウル・シンガーの名曲の甘美なエレピをユニークに解体している。続く"ブルー・シット(BLUE SHIT)"は彼らの嗜好性の表明であり、真夜中の入口に私たちを立たせる。「安定より冒険」を好み、「昼間はカモフラージュ、夜にむらが」り、「見たことのないところに行きたい」連中のお楽しみがはじまるわけだ。
 "ミート・セックス(Meet Sex)"、"セックス・バス(Sex Bus)"、"アス・ホール(Ass Hole)"といった卑猥なタイトルから想像できるように、ファンクやジャズがシェイクされ、夜の闇のなかで淫靡に響きわたっている。サイケデリックなギターがぐるぐると回転したかと思えば、ジャマイカとブリストルを往復しながら、うなりをあげるダブワイズが空間を一気に押し広げリー・ペリーが顔をのぞかせる。DJ 3268による8分にも及ぶジャジーなストーナー・ラップ"ロング・フォレスト(Long Forest)"のラップは、僕の勘が正しければ、おそらくフリースタイルじゃないだろうか。彼らが部屋かスタジオのなかで低空飛行する様子がありありと目に浮かぶ。最近は隣に住む塗装屋のオヤッサンがうるさくて我が家では爆音を出せないが、深夜にこういう曲をBGMに友だちとバカ話に花を咲かせたいものだ。
 エレクトロニカ風味の"パープル・レイン(Purple Rain)"や"マリアッチ(Mariacchie)"は、マウント・キンビなんかを愛する音好きも振り向かせるかもしれない。女性シンガー、チヨリをフィーチャーした"ウォーター・ルーム(Water Room)"は、それこそジョージア・アン・マルドローが歌うコズミック・ソウルを想起させる。DJ ツネオという名をこの曲ではじめて知ったが、他の曲も聴きたくなった。

 大半のトラックは天国プランワールドが手がけている。『ドゥービーズ』はアナログの質感にこだわるために、オープンリール・テープによるマスタリングを施したという。なるほど、実際にそのこだわりは単なる懐古趣味に留まることなく、ドゥービーズの音に見事な説得力を与えている。最初は音に耳が行くが、じょじょに言葉の面白さに惹きつけられていく。なんというか、ドゥービーズの享楽的な退廃は、最近読んだ深沢七郎の本のタイトルに倣って言えば、"生きているのはひまつぶし"というニヒリズムの仮面を被った、逆説的な前向きさを主張しているように思える。忙しない師走に小生はそんな感慨に耽り、このアルバムに不思議と勇気づけられたのであります。

二木 信