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Rachid Taha

Arab RockPunk

Rachid Taha

Zoom

Naïve/プランクトン

Amazon iTunes

鈴木孝弥   Jul 23,2013 UP

 イギリスの反戦市民連合体《Stop the War Coalition》のための、2005年のチャリティー・ライヴのDVD『Stop the War Coalition Benefit Concert』を観たとき、ラシッド・タハと元クラッシュ:ミック・ジョーンズの2ショットは異様に絵になるな、と思った。ブライアン・イーノが加わったラシッド・タハ・バンドが、ミック・ジョーンズをゲストに迎えたその晩のハイライト・シーン"Rock the Casbah(Rock el Casbah)"に、しばらく鳥肌がおさまらなかったものだ。

 ソロとして9作目のスタジオ録音。これまでのタハは全作聴いているし、存在それ自体に価値があるこの男の歌に傾聴に値しないものなどないのだが、それにしても、個人的にはこれが過去もっとも好きかもしれない。ティナリウェン(プロデュース)やロバート・プランド・バンドでも知られるジャスティン・アダムズのプロデュースとギターの音色も見事にフィットしているが、それ以上にミック・ジョーンズがギターとヴォーカルで参加していることで興奮するし、アルバムの締めに置かれたタハの代表曲のひとつ"Voilà Voilà(ヴォワラ・ヴォワラ)"のセルフ・カヴァーではブライアン・イーノも合流し、例の"Rock the Casbah"の興奮が甦る。アルバム全体としてゴツゴツしたブルージーなロックンロールが基調になっており、卑近な形容を探すなら、〈ミック・ジョーンズ入りのアラブ版『メイン・ストリートのならず者』〉......ってくらい魅力的な字面がふさわしい。

 ラシッド・タハは1958年アルジェリアに生まれ、1968年、10歳のときに両親とフランスに渡った。81年、当時住んでいたリヨンでカルト・ドゥ・セジュール(Carte de séjour=滞在許可証)というグループを結成。91年のアルバム『Barbès(バルベス)』以降はソロ・アーティストとしてのキャリアを積み、今日フランスの移民系アーティストの中で、押しも押されもしないトップ・スターのひとりとなった。
 しかし、その54年の人生のうち44年をフランスで過ごし、自身も「自分が完全にフランス人だと感じる」と語るタハ(フランス式に発音するなら"タア")が、いまだにそのフランス国籍を申請さえしていないことは、日本ではあまり知られていない。フランスで生まれ育ち、成人して久しいフランス人の息子がいるにもかかわらず、である。タハのキャラクターを知る上でこの点は重要で、つまり、"完全にフランス人"であることを自認し、フランス人の父親でありながら、自分は滞在許可証を更新し続けてフランスに暮らす"政治的外国人"の立場でい続け、そしてアラビア語とフランス語で歌い続けるのである。これが"政治"的行為でなくてなんだろう?

 もう少し詳しく書こう。カルト・ドゥ・セジュール時代の1986年、その"政治的外国人"として、シャルル・トゥレネの穏やかでノスタルジックな愛国歌"Douce France(ドゥース・フランス/甘美なるフランス)"を、かしましいダンス・ナンバーとしてカヴァーしたのは、当時の極右政党(国民戦線)の台頭を批判する意味合いがあった。"douce(=sweet)"は、甘美な/心地よい/優しい、というニュアンスだが、一部の自称"愛国者"がその(いびつな自尊心を満たすための方便としての)愛国心を振りかざすほどに、国が sweet なものでなくなっていくことは、昨今の日本国内の例を引くまでもなく明らかだ。
 93年のソロ2作目『Rachid Taha』では、前述の「Voilà Voilà(ヴォワラ・ヴォワラ/ほら、ほら)」でその〈ドゥース・フランス/甘美なるフランス〉というシンボリックな表現を再び俎上に載せた。
 ほら、ほら、あっちこっちで、また同じことの繰り返しだ。この甘美なる国フランスで、連中(レイシスト)が台頭する。この国の問題の原因は外国人なんだとさ。国から出てけ! って叫ぶことが、文明人の取る措置なのかい......という曲だ。そこで歌い飛ばされる〈ドゥース・フランス〉のニュアンスを想像するには、ちょうど安倍晋三の〈美しい国〉を思い浮かべればよい。タハはそれからちょうど20年後の今年、あれ以来何も進歩のないフランスに、敢えて国籍を持たないフランス人として、つまり国籍などに捕らわれない純粋に人間としての矜持をもって、また同じプロテストを叩きつけなくてはならなかった。その特筆すべきせっかくの不幸の分け前に、この国でも(歌詞対訳と解説付きの正しい日本盤で)あずかろう。それに値する国なんだから。......っていうのが皮肉に過ぎると感じる人でも、「ほら、ほら、また始まったぜ」と、ミック・ジョーンズがクラッシュ時代と何ら変わらない歌でもってタハとバッチリ絡んでいるのを聴くだけで、胸のすく思いをするはずだ。

 以前、レイシズムに対するタハのコメントで感銘を受け、書き抜いておいたものがあるので、ついでにお裾分けしておく。
「差別主義は、とにかく何より愚かさに基づくものだ。しかしながら、我々は永久にそいつと一緒に生きていくんだってことを知る必要がある。で、そいつから超越したところに自分を位置づけることを学ばなくちゃならない」

 この言葉は政治にも当てはまる。レイシストのヘイト・スピーチ同様、政治屋も翻弄するし、両者の言葉の質にもしばしば近いものがある。現行の政治システムを嫌悪しながらも、使い捨て手袋をつけ、鼻をつまみながら、"よりひどくない方"の名前を書きに投票には行くつもりだが、それにしたってその制度のためにオレの人生があるわけじゃない、ってことは、何らかの方法できちんと示しておく必要がある。
 よく考えてみなくても、国籍なんて権力が決めたただの徴税のための"政治"だし、パスポートも税源を囲い込むための必要悪の事務書類だ。ラシッド・タハは、そんなものもまとめて超越しようとしている。身をもって。そういう男の歌は、実に人としての本質的なことを教えてくれる。

鈴木孝弥