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Lost Girls

ExperimentalHouseTechno

Lost Girls

Menneskekollektivet

Smalltown Supersound

野田努   Apr 01,2021 UP
E王

 つい先日、ジェニー・ヴァルが地元オスロの音楽家ホーヴァル・ヴォルデンと組んだ新プロジェクト、ロスト・ガールズのアルバムが発表された。これが期待以上の出来で、ヴァルのこれまでの素晴らしいソロ作品とも違っている。
 アルバム・タイトルはノルウェー語で「人間の集団」、以前のreviewで書いたようにヴァルは言葉の表現者(実際に彼女は小説家)でもあるので、できれば歌詞をすべて知ったうえで紹介すべきなのだろうけれど、「何を歌っているのかまったくわからないけど素晴らしい」と感嘆している海外のフィシュマンズのリスナーを見習って、サウンドに集中しながら紹介しよう。なにせアルバムは次のような言葉からはじまっているのだから。「最初に言葉なし、私もなし/最初にサウンドあり(In the beginning, there was no word and no I / In the beginning, there is sound)」

 そう、最初にサウンドあり。「最初に私たちは私たちの口を作る。誰がどんな音を出すか知っていますか?」12分のタイトルトラックはこうしてはじまる。電子音はただ広がり、ヴァルの呟くような声は抑揚なく続く。
 「最初にサウンドあり/最初に声あり……」「最初に暗闇あり/最初にサウンドあり……」
 やがてゆったりとしたリズムが導入される。呟くような声はいつかしか歌声へと劇的に変わる。実験音楽家のロバート・アシュレーによる有名な『Automatic Writing』を彷彿させるとの海外評が散見されるが、ヴァルがアシュレーを知らないはずもないだろうから、少しは意識したのかもしれない。だとしても、後半の盛り上がりはアシュレーにはないし、うねりを上げる電子のファンクとヴァルの声はまさにひとつの「サウンド」と一体化している。ビートが入ってからは、テクノのダンストラックとしても充分に通用するだろう。

 ダビーなエレクトロにはじまる2曲目の“Losing Something”もずばぬけている。「鉄よりも、鉛よりも、ゴールドよりも、私には電気が必要」。ヴァルはここでも呟くように言葉を並べ、ゆらりゆらりと蛇行しながら、気がつくとまた歌っている。「私には電気が必要。ラム、ポーク、レタス、キュウリよりも必要、私の夢のために」
 ああ、なんてことだ、ヴァルはこのロボティックな空間で、ナンセンスを弄んでいる! いや、本当のところはRacterなる2人の科学者が80年代に開発したコンピュータ・プログラムによるシューレアリスティックな散文詩の一節ということだが、ヴァルが朗読するそれは、ベーシック・チャンネルとモデル500が異次元で結合したかのようなサウンドのなかにエーテル状に溶け込んでいる。
 で、この曲もまた後半になると異様に盛り上がっているわけだが、クライマックスでは次のように、ゴスペル調のアップリフティングなコーラスとの掛け合いが繰り返されている。「何かを失ってしまったのではないだろうか(Isn’t it that I’ve been losing something)」「わからない(I don't know)」
 わからない! その余韻を引き継いで、妖しいハウスのビートではじまる3曲目“Carried by Invisible Bodies”へとスムーズに展開する。シンセの洪水が押し寄せるこの容赦なくドリーミーな空間のなか、またしてもヴァルは半ば気まぐれな風を装って言葉を呟き続けているのであるが、ラテン・ハウスの金字塔スエーニョ・ラティーノをクラウトロックの音職人コニー・プランクがプロデュースしたらこうなるのではないかと。さもなければ、これはそびえ立つ大聖堂に響くアンビエント・ハウスである。

 ミニマルな電子のパーカッションからはじまる“Love, lovers”はアルバム中もっとも長い曲で15分もあるが、おそらくもっとも人気が出そうな曲だ。クラウトロックとデトロイトのディープ・ハウスとのあいだの溝を進むようなリズム──最初は淡々と進みながら途中で音の断片やギターがミックスされる。いつの間にか宇宙は膨張し、そして得も知れないところへとリスナーは連れていかれるという案配だ。この曲でもヴァルのパフォーマンスは効いていて、そのトランシーで妖艶な響きは、本当に近い将来ダンスフロアを支配するんじゃないだろうか。

 最後の曲“Real Life”は、まるでジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダーとの中間の領域にあるサウンドだ。ここでは、ヴォルデンのときにはザ・ドルッティ・コラムめいた暗い光沢を見せ、ときには騒々しく音を鳴らすギターがメリハリの利いた見事な表現力を披露している。ローリー・アンダーソンの作品を楽しむのにあらかじめ歌詞を知る必要がないように、ロスト・ガールズの出色のデビュー・アルバムにこれ以上の説明はいらないだろう。夢中になって聴いてぶっ飛んで欲しい。ジャケットのアーワークも良い!
 
 

野田努