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Columns

『ザ・レフト──UK左翼列伝』刊行記念筆談(後編)

『ザ・レフト──UK左翼列伝』刊行記念筆談(後編)

ブレイディみかこ×水越真紀

Dec 24,2014 UP

お待たせしました! 『ザ・レフト──UK左翼列伝』刊行記念の筆談。衆議院選挙をはさんでの後編です。それではみなさん、よきクリスマスを。

→前編はこちら

『ガーディアン』電子版の読者コメント欄に「私が会った多くの日本人が、この選挙では意志的に投票したい党がなかったと言っていた。『既存の党以外』という選択があれば投票したと言った人がたくさんいた。自民党は日本で起きている不快な現象を利用して勝った。それは日本の人々はアンガーを感じるのではなく、撤退してしまっているということだ」という意見があって、うーむ。となりました。──ブレイディみかこ


ブレイディみかこ
ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝

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水越 総選挙が終わり、テレビは与党大勝とか言ってますが、自民党の議席は減りました。とは言え絶対数で話にならないので、国会はあまり変わらず、ただ安倍政権の任期が延びただけ。「だけ」ではあるけれど、これこそが安倍首相が求めていたことですからね、満足過ぎる結果ということでしょう。「史上最低の投票率」については、政権側のあまりにも強引で用意周到なシナリオを前に結果が見えすぎていましたから、それこそよく5割を維持したといってもいいくらいかもしれません。選挙日程にしても運動のやり方にしても、第二次安倍政権は徹底して戦略好きというか長けていることを何より思い知らされたと言うか……。結果としては大筋予想どおりではあったものの、次世代の党がほとんど壊滅して、組織票とは言え公明、共産、さらに最低に不甲斐ない民主党という比較的リベラル寄り勢力が増えたことから、全体としては極右・タカ派路線は拒否されたということにはなるんでしょうか。給料を上げてくれるなら多少のタカには目を瞑るけど、それが欲しいわけではないって感じかな。かと言って、現実的には「自民より右」の次世代の党が一掃されたことが今後の安倍政権のタカ派っぷりを抑制するとも思えない。極右がおとなしくなることで、経済政策も安保法制化もかえって伸び伸びできるってことになるかもしれません。
 この選挙は『ガーディアン』なんかでもけっこう報道されていたようですが、どんな論調になっていましたか?

ブレイディ  英メディアも「大勝」ってのと「微妙な勝ち方」の両方があり、『ガーディアン』はやはり左寄りなので、「勝った途端に憲法改正のことを言いだした」、「ウーマノミクス(何が舐めてるってこのPR用語の激烈なひどさが一番国民を舐めてる気もしますが)はどうなった」みたいな記事も出てきて。ズバッとは書いてませんけど、憲法改正以外はどれもあんまり本気でやる気がないんじゃないか(経済も含めて)。矛盾だらけだし。みたいな感じが行間から零れています。あとBBCの東京駐在記者が「ブロークン・ジャパン」という表現を使っててちょっと動揺しました。
 『ガーディアン』電子版の読者コメント欄に「私が会った多くの日本人が、この選挙では意志的に投票したい党がなかったと言っていた。『既存の党以外』という選択があれば投票したと言った人がたくさんいた。自民党は日本で起きている不快な現象を利用して勝った。それは日本の人びとはアンガーを感じるのではなく、撤退してしまっているということだ」という意見があって、ちょうど「私たちは『怒れない』から選挙にいけないのかもしれない」という若いお嬢さんの文章をポリタスで読んだばかりだったんで、うーむ。となりました。
 『ザ・レフト』を書いてた間は本を読む暇がなかったので、ようやく今年出たジョン・ライドンの自伝を読んでるんですが、それは「Anger Is An Energy(怒りはエネルギーだ)」というPiLのファンならよく知っている言葉がタイトルなんです。ライドンは冒頭で、「アンガーは必ずしも暴力的でネガティヴなものではない。非常に前向きな力になり得る」と書いていて、たしかにアンガー問題はあるよなあと思って。
 「なんでアタシらだけこんなに貧乏なのよ、おかしいだろ」とか「なにが戦争だ。俺は死にたくねえ」とかいちいち怒る人は、やっぱ強力な指導者とか「この道しかない」とかいう方向には行けませんよね。『ザ・レフト』とは、アンガーの人なのかも。あーこれ、本が出る前に考えときゃよかった。この線で書けた人もいる(笑)。

水越 米大手紙の結果分析では軒並み、安倍晋三の歴史修正主義的思想が推進しやすくなったのではないかと危惧されていたようですね。私もめんどくさい人と話してるときに使っちゃうし、おおかた日本の左派はこんなとき、外国、とくに欧米からのガイアツをもち出す癖があります。でも「外国はこう言ってるぞ」って、最低ですよね。ある時期までの日本人には説得力を持っていた方便だけど、怠惰で不真面目な上に安直なこの癖が、稚拙なナショナリズムをますます燃え上がらせてしまったという意味で自分のクビを締めてる。でも「ブロークン・ジャパン」とはっきり言われると、逆に気が強くなる気がします。最近、大日本帝国とかフランコ政権下とかピノチェト政権下とかで生きた人たちは何を考え、どんな生活をしてたんだろうとか考えることがあります。私ならそういう時代をどう生きられるだろうなんて。そんなときには「怒り」は縮んでいますが………。たとえば「ウーマノミクス」には「怒り」を感じますが、でも「怒り」より無力感の方がもっと強い。国民国家の“庶民”はしょせんは国民国家運営のための駒とか道具であって、人権なんて取り繕いでしかないんだという宣言みたいだもの。
 でも、ポリタスのその記事を読んで、若い世代の多くが言ってる「投票しても自分たちには見返りがない、自分のために政治は何もしてくれない」とは、私は若い頃に思ったことなかったなあ。もちろん私の1票が何かの力になるとも思ってなかったし、まして「政治家が自分たちの世代のために何かしてくれる」なんてことは頭をよぎったことすらなかったのはいつの時代も変わらないとは思うけど。まあ、いまのように若年層が絶滅危惧種ではなかったし、金権政治が大問題だった当時、野党もマスメディアもいまとは比べ物にならない「怒り」を表現していたようには思います。若い私はそういう社会全体にあった「怒り」のエネルギーを、さらにはサブカルチャーが素朴な形で表出していた「怒り」のスタイルを自然に吸収して、「政権交代はあり得ない選挙」にも諦めないことを自分に言い聞かせながら投票していました。だから、いまの若い人たちが自分の生活や将来と政治を結びつけて考えた上で、無力感を抱いているのだとすると、私が若い頃よりも政治は若い人たちにとって身近なものになっているということではないでしょうか? だた、身近なだけに、その記事にあるように、「社会に貢献する」とかってことにやたら生真面目になっていて、短絡的な怒りに到達しないのかもしれない。「怒り」にもロールモデルが必要なんでしょう。いまのように、大学受験や就職活動でボランティア経験が評価の対象になったり、それこそ子どもを生んでいないことに自責を感じさせるようなキャンペーンがあったりするうちに、「怒り」は仕舞い込まれてしまうのかも。解消され得ない世代間闘争を考えると、「若者よ、投票所へ」運動より先に、「年寄りよ、社会へ」運動が必要ですよ。
 ところで「怒りの人」ってたとえばどんな人ですか? そういえば、ジュリー・バーチルと対立したこともあるというジョン・ライドンは『ザ・レフト』では取り上げられてませんね。ブレイディさんならまずはジョン・ライドンだろうなんて思っていたんですが……(笑)。あと、自由民主党党首ニック・クレッグのアドバイザーになっていたブライアン・イーノのことも気になります。イーノのイスラエル支持のアメリカ人に対する手紙には怒りを感じました。

ブレイディ ガイアツに関しては、日本人って異様なほど海外からの目線を気にしますからねー。大きなニュースがある度に第二報はもう「海外の反応」だし。だから海外から物を書くにしても、「海外では日本はこう見られてるぞ」「海外から見たらそんなの変だぞ」というのをやった方が、本当は楽に話題になれるしPV稼げる。でも、わたしは「人の目なんか気にすんな」というのがどうしてもこう、染みついていて、やっぱ思春期に聴いた音楽が良くなかったと思うんですけど(笑)、それはしたくないんです。英国で何が起きているかを書きたいし、この国には日本の人たちが考えるネタになることが転がっているような気がする。それは単に「俺らもそうなんきゃ」とスタンダード視する材料ではなくて。スタンダードなどどこにもないですから。
 「アンガーの人」は、『ザ・レフト』で書いた人みんなそうだと思います。各章の最後の囲みのなかの名言(ファシャヌだけ違うんですが)だけ読み返したら、みんな怒ってますよね。静かにストイックに怒ってる人もいるし、もはやアートと言えるような熟練の怒り技を見せている人もいるし、アンガーを前向きな力に変えてマラカスふってる人もいる。わたしは外国人だから多種多様な考えの人たちを「レフト」として見れると仰ってましたよね。あれから考えてたんですけど、それはたぶん、底辺生活者をサポートする施設でヴォランティアした経験が大きいと思います。あそここそ、もうアナーコなんちゃらとか組合系レフトとかいろんな考えを持つ人たちが毎日派手に口論になったりややこしいことになったりしながら、それでもなぜかコミュニティを形成していた。最終的にはなんか「でも俺らはここに集まる人」みたいな共有する 認識がありました。みんな「これじゃいかん」というアンガーがあって。かなり心の許容範囲を拡大しなければ受け入れられないような人々もいましたし、けっしてラヴリーな場所ではなかったですけどね。
 ライドンについては、わたしが書く本は陰の主役は彼だと前に指摘されたことがあるんですが、今回は、カレーで言えば福神漬け、うどんでいえば七味のような役で出てもらいました。日本も、世界の真ん中で咲き誇りたがらずに、この本のライドンのような脇役になれたらクールじゃないかと思います。ブライアン・イーノはちょっと考えました。ガザ問題ではたしかにアンガーがありましたし。でも、わたしはニック・クレッグがダメなんです。チャールズ・ケネディ党首が好きでした。スコットランド人らしいレフト性が根底にある人で。アルコール問題で破滅しましたけど(ここら辺も他人事じゃないし)。

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Profile

ブレイディみかこブレイディみかこ/Brady Mikako
1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『花の命はノー・フューチャー』、そしてele-king連載中の同名コラムから生まれた『アナキズム・イン・ザ・UK -壊れた英国とパンク保育士奮闘記』(Pヴァイン、2013年)がある。The Brady Blogの筆者。http://blog.livedoor.jp/mikako0607jp/

Profile

水越真紀水越真紀/Maki Mizukoshi
1962年、東京都生まれ。ライター。編集者。RCサクセション『遊びじゃないんだっ!』、忌野清志郎『生卵』など編集。野田努編『クラブミュージックの文化誌』などに執筆。

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