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野田 努   Mar 10,2010 UP
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 2003年から電子音とゾンビ声によってひたすら"荒廃"を描き続けるブルックリンのイクセプター、アニマル・コレクティヴのレーベル〈ポウ・トラックス〉になってからは昨年の12インチとDVDによる『ブラック・ビーチ』を挟んで2年振りの2枚目となるアルバム(通算では8枚目らしい)――といっても2003年から2009年前の彼らのライヴ音源を編集したもので、CDで2枚組140分近くの代物となる。ここで取り上げるくらいだから、それを最後まで聴かせる力量がこのバンドにはあると思っていただきたい。喩えるのなら......ヘア・スタイリスティックスから駄洒落を抜き取ってもっとへなへなにして意味不明にしているのがこの5人組の音楽で、初期クラスターやコンラッド・シュニッツラー、あるいはドローンやミニマル・ミュージックやハウス・ミュージックさえも通過している痕跡を瞬間的には見せるものの、しかしそのどこにも依拠しないという本物の根無し草としてこのバンドは、『ピッチフォーク』から一定の評価を得ている(出せばほとんどレヴューされる)。そして今回の壮大のインプロヴィゼーションの記録においてその根無し草感性のたしかさが証明されている。早い話、つかみどころがないのである。

 31分におよび、6つのパートからなる1曲目の"テレポーテーション"(08年10月収録)はこれまでの彼らの軌跡を追うように、イクセプターのすべてが込められていると言える。おおよそクラウトロックの残骸とダブの抽象概念のブレンドによってはじまるこの冒険は、ノー・ネック・ブルース・バンドの輪郭をゆっくり溶解しながら限りなく退屈な、そして実に魅惑的なトリップを繰り返す。ハイライトに向かって電子音がまばたきをするようにとことこ鳴る。そしてテリー・ライリーの悪夢と腐敗したハウス・ミュージックのダンスフロアが待っている。尽き果てることのない異常な酩酊状態......それはこのバンドの真骨頂だろう(タイトルの"テレポーテーション"="念力移動"通りの展開とも言える)。7曲目の"レング"(08年冬)はメランコリックなアンビエント、8曲目の"OG"(07年)は寒々しいドローンである。

 2枚目の1曲目、タイトル曲である"プレジデンス"は03年の演奏で、本作でいちばん古い。"テレポーテーション"の不透明でカオティックなトリップと違って、中心人物であるジョン・フェル・ライアンによるソロ・シンセのミニマリズム(実に33分にもおよぶ)は明らかに催眠効果を高めていく。電子の単音が延々と鳴り続けて、いつ展開があるのかという思いを踏みにじるかのようにそれは続く。20分を過ぎたあたりでリスナーは宇宙の誕生を見てしまうかもしれない。そしてこの曲をアルバム・タイトルにした理由を悟ることだろう。「ああ、そういうことだったのか」と。少なくとも底力がなければ演奏できない曲である(バンドはこれを"long distance music"と定義している)。"アンチ・ノア"(07年)ではテレビのナレーション(天気予報らしい)のコラージュ、"ザ・オープン・ウェル"(08年)ではいっさいのヒューマニズムを排した人工的で無機質な電子を鳴らし続ける。年代不明の最後の曲"ウェン・ユー・コール"は、言うなればスーサイドの屍体とダブステップの混合である。

 電子によるフリー・ミュージック、いまどきこういう音楽はあるものだと思われるかもしれない。しかしイクセプターはそう考える以上に挑戦的で頑固者である。

野田 努