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Lucas Santtana

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Sem Nostalgia

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野田 努   Sep 01,2011 UP

 2005年にロンドンの〈ソウル・ジャズ〉レーベルはトロピカリズモを主題にしたコンピレーションをリリースしているが、その解説においてもっともフィーチャーされていたのは、カエターノ・ヴェローゾでもジルベルト・ジルでもない。トン・ゼーだった。1990年代にデヴィッド・バーンによる......ボサノヴァ以降のトロピカリズモにおける、ときにフーゴ・バルのような出で立ちでそこにいる天才の"発見"は、ボサノヴァという長い影からなかなか抜けられなかったブラジル音楽の新しい未来に見えたのだ。日本ではボサノヴァというとたしかに大人気ジャンルのひとつだが、しかしどうしてもお父さんの外車のなかのBGMという印象が強いためか、トン・ゼーどころかカエターノ・ヴェローゾでさえもある種のミドルブローというか、まあ、難しいところである。
 が、本サイトをチェックしてくれている方々にとっては、ルーカス・サンタナのこのアルバムがさらにまた素晴らしい"発見"に違いないと思われる。ロンドンのDJが昨年設立した新しいレーベル〈Mais Um Discos〉がリリースするのは2008年に録音された彼の作品の再発盤だが、これが「フォー・テット+トン・ゼー+トム・ヨーク」という宣伝文句があながちハズレではないほどの名盤なのだ。つまり、ここにはボサノヴァ、エレクトロニカ、インディ・ロックが見事にブレンドされている。あくまで愛らしい混合だ。思わず押し黙ってしまうような美しい静けさ、ラテン的な甘い叙情性、そして、IDMのような音に戯れることの喜びがある。
 面白いことに、この音楽はポルトガル語で歌われているのか英語で歌われているのかわからないような(自分の語学力の低さゆえでもあるのだが)、要するに、ボサノヴァの時代にはむしろその味として活かされていたブラジルにおけるポルトガル語のクセが見事に脱臭されているのである。実際、英語で歌われている曲も多いが、それは、この音楽がブラジル音楽の独自性(サンバ、そしてボサノヴァにおけるサウダーヂなどなど)をもとにしながら、コスモポリタン的な感性を持っているからだろう。ノスタルジックでありながらアヴァンギャルドで、ヴィンテージではなくモダンな音楽なのだ。それでもハイライトのひとつはルーカス・サンタナのアコースティック・ギターの響きと歌なんだけれど......。

 バイーア州(カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ガル・コスタ......てか、ジョアン・ジルベルトなどを輩出したところ)出身のルーカス・サンタナは、ブラジル音楽の勤勉なリスナーやワールド・ミュージックのリスナーにはすでに賞賛されている。マルチ・インスト奏者としてもそれなりのキャリアを持っているというが、僕はもちろん今回、ロンドン経由の再発で初めて聴いた。そしてブラジル音楽の"現在"に夢中になっている自分に気がついた。
たとえば......ヴェローゾの『ジョイア』がIDMの時代に蘇ったと想像してみよう。素晴らしいでしょう? 
 まあそうは言っても、同時期に〈ミスター・ボンゴ〉から再発された1968年のトン・ゼーのデビュー・アルバム(ブラジル音楽とアメリカン・ポップスとのもっとも奇妙な出会い)も聴かないとね。

野田 努