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Coldplay

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竹内正太郎   Dec 13,2011 UP
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あの星たちを見てごらん
彼らが君のために輝く様子を
そして、君の行いすべてのために輝く様子を
そう、彼らはイエローなんだ "Yellow"(2000、筆者訳)

 歴史の一側面において、長らく「政治」的なものと向き合い、深くコミットしてきたロック・ミュージックにとって、サブプライム住宅ローン・クライシス以降、「政治」よりもむしろ「経済」の問題が世界にとって支配的になってきたのは不幸だった。『ローリング・ストーン』誌は、はっきりと書いている。「コールドプレイの前作から3年、世界が抱える問題は切迫を増しており、もはや子守唄などでは解決できないところまで来ている。それがたとえ、21世紀で最大のバンドによるものであったとしても、だ」。そう、音楽という抽象表現の役割は、この複雑な世のなかで、ますますシビアなものになっていくだろうし、その渦中で「民衆を導く女神」に扮するには、いるかもわからない「敵」を想定しながら、あくまでも便宜的に抵抗し、傷ついていく人たちに寄り添う(=子守唄を歌う)しかないのであろう。とすれば、その反動として、ダブステップ、チルウェイブ、あるいはジュークと、ポップ・ミュージックの先端が、それぞれの手段で非言語的な方向に逸れていくのは必然だったとも言える。

彼女がまだ幼かった頃
彼女は世界に希望を持っていた
しかしそれは彼女の手の届かないところへ行ってしまう
彼女は逃げ出して夢を見る
パラダイスの夢を....
彼女はいつでも目を閉じている "Paradise"(2011、筆者訳)

 そんな季節に、「希望」はあるのだろうか。「希望が前提でなくなった時代、私たちは何を糧に未来へ進んでいけばいいのでしょうか」(『希望のつくり方』、2010)と、玄田有史は、希望を追求した理由をこのような疑問に求めている。そう、それが無根拠に、素朴に、高々と掲げられることは、多分もうない。そうなってくれば、批評家の筋から「もしかしたら絶望は共有できるかもしれない」(宇野、2009)みたいな声が聞こえてくるのも必然であり、「希望は、戦争」(赤木、2007)のようなアンダークラスからの捨て身の言説が一定の共感を得る、というのも、ゼロ年代のリアリティとしてはONだったのだろう。しかし、結局のところ、「希望を語れない知性」に何の価値があるのだろう、とは、ときどき思う。それだったら、希望を歌う阿呆の方が、いくらか生産的なのでは、とも思う。また、ポップ・ミュージック的には、「シューゲイザーよりはスターゲイザーの方がマシなのでは」、という言い方もできる。

子どもたちは踊る
子どもたちはみな踊り明かす
月曜日の朝に生まれ変わるまで
僕は音量を上げる
いまはすっかりいい調子だ "Every Teardrops Is a Waterfall"(2011、筆者訳)

 それは最初、子守唄に過ぎなかった。だが、ミドルクラスの憂い、日々の漠然としたメランコリアを、いまでいう「セカイ系」(初出不明)的な遠近感でビッグ・スケールに歌い上げていたコールドプレイはいま、驚くべきことに、希望的な何かを無根拠に先取りしようとする。それは捏造、と言ってもいいのかもしれない。透明感の高い、いわゆる叙情的なブリット・ロックに、クリス・マーティンのファルセットを乗せるところからスタートした彼らはいま、アリーナ・ロックの大風呂敷に、ビッグ・エレクトロから剥奪したビビッドなシンセ、U2の諸作に深くインスパイアされたギター、大言壮語な詩情、そして、ほとんどの曲で繰り返される「Wow Wow」のビッグ・コーラスを投入。ビートはいつになく力強く打ち鳴らされており、"Hurts Like Heaven"、"Charlie Brown"から"Don't Let It Break Your Heart"まで、アルバム全編をアップリフティング(高揚的)な矢印が大きく貫いている。当然、それらはたとえ聴き手を強引にアップリフトさせても、その先には「何もない」、ということになる。その空虚さに耐え得るものを、彼らはまだ持ち得ていないし、強引に提出された希望というものを、具体的な何かに置き換えるのは難しい。一時的な気休めと言えば、終わりかもしれない。

 私は、もしかしたら考えすぎだろうか? 『ピッチフォーク』が言うとおり、重要なのは「リアーナを客演に招いた"Princess of China"がグラミー栄えすること」であり、「"Every Teardrops Is a Waterfall"がフェスの大トリにピッタリなこと」なのだろう、多くの人にとっては。それでもなお、野田努のような人間からすれば、これはロックの不名誉なのかも知れない。しかし今、こんな役割を担えるのは、彼ら以外にいないのだろうし、私は彼らがそのことに(多分)自覚的であったことを、好ましく思う。バッド・ニュースを好む人があまりにも多いいま、メインストリームをひた走る世界最大のバンドが、事実、スターゲイズしている(=希望を見上げている)というのは、決して悪い絵ではない。"Every Teardrops Is a Waterfall"で描かれるような、子供たちが夜通し笑い転げ、踊り弾け、世界の朝に小さな革命が灯っていく日を無根拠に夢見ること。"Paradise"で打ちひしがれた少女が、夢から目覚めて、朝の光をもう一度受け入れること。ヒーリング・ロックから出発した『The Bends』(レディオヘッド、1995)症候群のブリット・ロック・バンドは、いまや、数千万人に向けて"Yellow"(=子守唄)を歌うだけ以上の役割を、ついに担いつつある。

竹内正太郎