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Levon Vincent

HouseTechno

Levon Vincent

Levon Vincent

Novel Sound

髙橋勇人   Jun 02,2015 UP
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 過去10年以上にわたりアンダーグラウンドで支持されつづけてきたアーティスト、レヴォン・ヴィンセントのファースト・アルバム。フィジカルはレコードのみで限定うん百枚、リリース前に期間限定フリー・ダウンロード、レコードのラベルのアートワークは一枚一枚異なるといった、凝りまくりな手法に対して、僕なんかよりもキレる誰かが何かを言うんじゃないのか……と思っていた。でも発売の2月から時間が経っても、日本では誰もちゃんとしたレヴューを書いていない、らしい。これは悲しい。なぜならハウスやテクノに限らず、彼ほど多くのDJにサポートされているプロデューサーってあんまりいないんじゃないのか? と、ハウスを去年あたりからマジメに聴きはじめた僕ですら感じてしまうからだ。そういえば、この前来日していたジョイ・オービソンもヴィンセントの“ソレム・デイズ”を長尺で丁寧にかけていた。

 「ていうかレヴォン・ヴィンセントって誰だ?」という方も多いのかもしれない。ざっと経歴を説明をすれば、彼はニューヨークでハウス/テクノのDJとしてキャリアをスタートさせ、2002年に自分のレーベル〈モア・ミュージック・ニューヨーク〉を設立し、レコードのリリースを開始。同レーベルからのリリースは2005年に止まっているが、いまはもうひとつの自身のレーベル〈ノーヴェル・サウンド〉から主にリリースを行っている。現在はベルリンに在住。

 最近ではディスコグスの値段がアーティストの人気を表すメーターのようになっている悪しき傾向があるが、その法則に従うならば10000円越えでレコードが取引されることもあるヴィンセントはぶっちりぎりのアンダーグラウンド・ヒーローと言える。だが、ヴィンセントはディスコグスで上昇する自分の株に対してニヤニヤしているような電波野郎ではなく、法外な値段をふっかけるセラーに対して怒りをぶちまけるクールな男だ。楽曲をフリーかつ高音質でダウンロードできる形でネットにアップをしたり、過去作を突如リプレスするといった形でその「怒り」は表出し、ディスコグス・バブルを巻き起こすこともある。
 
 2011年のEP「インプレッション・オブ・レインストーム」は去年リプレスされた作品のひとつだが、この作品は僕が彼を知るきっかけになった“レヴス/コスト”を収録している。ペヴァラリストのDJを経由してなだれ込んできたこの曲は、当時ダブステップとグライムしか聴いていなくて、ガチガチに凝り固まった僕の視界を押し広げてくれた。4つ打ちだが足を引きずるようなビート、スモーキーなコード、陰鬱なメロディ。ベースが鳴っていないときがあるからこそ低音が「重く」なる曲だ。
 テクノにもベース・ミュージックにも変異するこの曲のように、ヴィンセントはつねに越境性のようなものを持っている。オーセンティックなファンキーな曲だなと思った矢先にインダストリアルな展開を見せることもあれば、ドレクシアやベーシック・チャンネルへのオマージュ的なアプローチをとることもある。若い世代にとってレヴォン・ヴィンセントを聴くということは、ダンス・ミュージックの歴史を学ぶ体験に近いのかもしれない。

 冒頭でも触れたが、今作『レヴォン・ヴィンセント』は10年以上に及ぶ彼のキャリアでの初のアルバム作品だ。故郷のニューヨークで電車に乗り、ラフな編集によってあたかもその電車をベルリンで降りるかのような演出が施された短い映像とともに、彼自身のフェイスブック・ページでアルバムのリリースが発表された。レコード店にアルバムが並ぶ前に、ファイル共有サイトであるウィトランスファーにリスナーが音源をフリー・ダウンロードできる形でアップしたのが、その発表から1ヶ月後の今年の2月のことだった。

 ニューヨーク発ベルリン着の電車というメタファーが示すように、彼のこれまでのスタイルが『レヴォン・ヴィンセント』にはコンパイルされていることに異論はないだろう。アルバム全体をシンプルな4/4のイーブンキックが貫いており、リズム面においてたしかに真新しさがあるわけではない。けれども、冒頭の“ザ・ビギニング”と次の“ファントム・パワー”におけるノスタルジックなエレクトロ・チューンは、ヴィンセントがハナっからペラい「新しさ」なんぞ興味はないと言っているかのようにメロディを描いている。

 そう、メロディは今回のアルバムを語る上では外せない重要な要素だ。フィリップ・グラスやスティーヴ・ライヒのミニマリズムを、シンプルなハウス・トラック上で披露したような“ラウンチ・ランプ・トゥ・ザ・スカイ”、タイトルを体現しているレクイエム“フォー・モナ・マイ・ビラブド・キャット_ レスト・イン・ピース”。おそらくはローランドの古いシンセサイザーで爪弾かれている一音一音が、空から光が差し込むように輝き、雲を変えるように展開をつけていく。

 ヴィンセントはもちろんリスナーたちの期待を裏切らない。4年前に“レヴス/コスト”が多くのリスナーに夢見させたダブ・テクノの続きを、“ジャンキーズ・オン・ハーマンストラッセ”と“アンチコーポレート・ミュージック”におけるだだっ広い空間に投影している。だが以前とちがうのは、ここにも何通りものメロディによる表情があり、最初と最後ではまったく異なる曲を聴いているかのような劇的なオチが待っているということだ。

 さて、つまるところヴィンセントはこのアルバムで何をしたかったのだろう。電車がベルリンに到着したあと、楽曲を無料で世界に向けて放ったときに彼は同時にある言葉を残した。

「醜いアヒルの子、つまり白鳥のための音楽がここにはある。もし仮に君が権力を手にいれるためにゴミ収集容器の周りをよじ登るネズミたちといっしょになって、ラット・レース(出世争い)に参加しているとする。そうだとしても、もちろんこれを聴いてくれてけっこう。だけどこの音楽は君のためのものじゃないことは忘れるな。これはアンタに対する反抗のアクションなんだよ」

 音楽の発展からビジネスを切り外すことは難しいのは周知の事実だが、ヴィンセントはそこからラディカルに距離を取ってきたアーティストだ。「反企業音楽(アンチコーポレート・ミュージック)」、そういうことである。
 RAのインタビューで答えている、「どうやったら人々を欺くことなく自分自身の人生に必要なお金を稼ぐことができるのか?」という彼の命題の延長線にこの言葉があることは確かだ。ファクトでスコット・ウィルソンが述べているように、近年増加する「レコードのリリースのみ」を標榜し作品の価値を高めようとするレーベルへの対抗姿勢を、いままで行われてきたヴィンセントによる楽曲の無料アップロードに見い出すこともできる。僕もこの言葉をフォーマットや値段にとらわれずに音楽の価値を決定するのはリスナー次第だ、というふうにマーケット目線で捉えていた。

 けれども、何ヶ月かこのアルバムを聴いてみると、この言葉はもっとパーソナルな部分で音楽とひとの関係を表しているように思えてきた。なんとなく周りと距離を感じていたり、アセンブリー・ラインを踏み出してしまったひとに寄り添うような音楽をヴィンセントは作りたかったのかもしれない。
 アルバムのラスト曲“ウーマン・イズ・アン・エンジェル”を聴いていると、去年〈アゲハ〉で観た明け方にDJをするヴィンセントの姿を思い出す。ステージは海が見える屋外のプールを囲む例のあそこにある。雨が降っていたのでフロアにひとはポツポツといったところ。僕は疲れていたので陰鬱なクリック・ハウスを聴きながら海をぼーっと眺めていたら、一羽のカモメが雨のなかを飛んでいった。いま思えばあの姿は白鳥のように見えなくもなかった。

髙橋勇人