ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Wool & The Pants - Not Fun In The Summertime | ウール&ザ・パンツ
  2. PAS TASTA - GRAND POP
  3. Nujabes Metaphorical Ensemble & Mark Farina ──ヌジャベスの音楽を未来につなげるイヴェント「flows」、会場ではマーク・ファリナのミックステープが先行販売
  4. ele-king vol.34 特集:テリー・ライリーの“In C”、そしてミニマリズムの冒険
  5. Albert Karch & Gareth Quinn Redmond - Warszawa | アルベルト・カルフ、ガレス・クイン・レドモンド
  6. Columns Squarepusher 蘇る00年代スクエアプッシャーの代表作、その魅力とは──『ウルトラヴィジター』をめぐる対話 渡辺健吾×小林拓音
  7. Columns エイフェックス・ツイン『セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2』をめぐる往復書簡 杉田元一 × 野田努
  8. Tyler, The Creator - Chromakopia | タイラー、ザ・クリエイター
  9. Shabaka ──一夜限り、シャバカの単独来日公演が決定
  10. interview with Wool & The Pants 東京の底から  | 德茂悠(ウール&ザ・パンツ)、インタヴュー
  11. patten - GLAQJO XAACSSO
  12. PAS TASTA - GOOD POP
  13. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2024
  14. interview with Kelly Lee Owens ケリー・リー・オーウェンスがダンスフロアの多幸感を追求する理由
  15. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  16. interview with Neo Sora 映画『HAPPYEND』の空音央監督に(主に音楽の)話を訊く
  17. Jabu - A Soft and Gatherable Star | ジャブー
  18. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2
  19. Wool & The Pants ——新作を出したウール&ザ・パンツが、年明けの2月には初のワンマン・ライヴを新代田FEVERにて開催
  20. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」

Home >  Interviews > interview with あるぱちかぶと - 政治性もないし、そういう“戦い”のようなものが僕にはないから平々凡々とした日常を描写するしかないんです。

interview with あるぱちかぶと

interview with あるぱちかぶと

政治性もないし、そういう“戦い”のようなものが僕にはないから平々凡々とした日常を描写するしかないんです。

――あるぱちかぶとなる新人へのインタヴュー

野田 努    photos by Yasuhiro Ohara   Feb 23,2010 UP
あるぱちかぶと
あるぱちかぶと
◎≠(マルカイキ)

Slye

Amazon

ちなみに中学のときに好きだったラッパーは?

中学のときはアメリカに住んでいたんです。そこでラジオでいつも流れていたんです。

当時は?

エミネムのセカンドが出たぐらいですね。

マーシャル・マザース』だよね。

ジェイ・Zも聴きました。

ブルー・プリント』?

その前後です。あとアウトキャストですね。

スタンコニア』だね。

そうです。

長く住んでいたんですか?

中学の3年間です。

インターナショナル・スクールみたいなところ?

普通の現地の中学でした。

英語には馴染んでいたんだ。

ただラップは、耳障りの良さで聴いていましたね。

なるほど。先日、アルバムの発売記念のライヴを観たんですけど、とてもラッパーとは思えないというか、不思議な違和感を発していたんだけど(笑)。

そうですね。

自分のなかではヒップホップ文化に対して親密な感情を抱いているんですか?

ないですね......いまとなってはない。ヒップホップ愛はなくなったけど、表現するというところで残っている感じです。

方法論としてだけ残っている?

中学のときに好きになって、それでラップをはじめたくらいだからヒップホップへの愛情は強いほうだと思っていたんです。けど、いざ活動をはじめてみて、まわりを見渡してみたら自分のそれはそこまで強いものではないと、そう思うところが大きかったんですね。それに、好きでいればいるほど飽きてくるというのもあって、だったらもう固執しなくてもいいかと、そうなっていきましたね。

アルバムを聴くとそこはすごくよくわかる。聴いているだけでどの曲が古いか新しいかがわかる。ヒップホップのクリシェがある曲と、それをまったく度外視している曲とがあるよね。"元少年ライカ"のような曲になると韻を踏むことにもう囚われていないでしょ。

そうですね。

"大震災"みたいなヒップホップらしい曲も僕は格好いいと思うんだけど。

"大震災"は、自分のなかではもう3年ぐらい時間が空いているんですよね。声の出し方がもう違ってきているし。

ヒップホップ以外の音楽は好きになったことはない?

とくに他に深くのめり込んだってことはないですね。高校時代はヒップホップ一辺倒でしたから。高校のときに日本に帰ってきて、日本語のヒップホップも聴きはじめました。シンゴ02、餓鬼レンジャー......、あとは降神も聴きました。

知り合いから「あるぱちは降神と似てる」という話を聞いたことがあって、でも違うよね(笑)。

影響は受けていると思うんですけどね。

でも、降神にはカウンター・カルチャーってものがあるじゃないですか。『マルカイキ』にはそれがないでしょ。

そうですね。政治性もないし、プライヴェートなことを言ってるだけとも言える。

"元少年ライカ"は不思議な曲で、人の一生を綴っているんだけど、そこには批評性というのがない。シンゴ02や降神には、多かれ少なかれ、"戦い"というものがあるでしょ。

そういう"戦い"のようなものが僕にはないから、平々凡々とした日常を描写するしかないんです。

ただ、"元少年ライカ"や"完璧な一日"で描かれる凡庸さがとてもユニークに思えたんですよ。その凡庸さを茶化すのでもなく嘆くのでもなく、バカにするんでもなく、どこか優しい眼差しを注いでいるでしょう。というか、あの曲には音楽表現にありがちな感情の起伏のようなものがない。しかし、それでも大量の言葉がある。で、いったいどこからこの大量な言葉が出てくるんだろうというのが謎で......。

 

 そして、あるぱちかぶとが『マルカイキ』のコンセプトを明かしてくれた。以下、彼の説明をまとめてみた。
 アルバムにはふたつの自分がいる。ひとりは、この先社会で生きていくにはパッションや感受性がないほうが楽であると考えている。彼は自らを去勢し、そして生きていくことを望む。もうひとりはまったくその逆で、パッションや情念に生きる人=それが或蜂(あるぱち)という人格になって表象される。アルバムの最後の曲"日没サスペンデッド"では、結局、すべてを葬り去った(去勢した)自分がそれでどうなったのか? ということを空想して描いている――という。



文:野田 努(2010年2月23日)

1234

INTERVIEWS