Home > Interviews > inteview with Satomi Matsuzaki (Deerhoof) - ディアフーフの10作目と彼女の記号性
ディアハンターの初めてのショウって、ディアフーフのオープニングなんですよ。それでね、ディアハンターが有名になってからはすごい間違えられるんですよ。ディアハンターが出るのに「ディアフーフ!」ってMCが紹介したり、ディアフーフが出るのに「ディアハンター!」って言われたり。
ディアフーフ ディアフーフ vs イーヴィル Pヴァイン・レコード |
■さて、ではこのアルバム・タイトルについてお伺いします。「イーヴィル」っていうのはつまり?
サトミ:はい。「悪」なんですけど、「スウィート・シックスティーン」というのがコンセプトだったので、そういうティーンエイジャー的な、キャッチーなタイトルがいいねっていう話になって、そしたらグレッグが「じゃあ、『ディアフーフ対イーヴィル』は?」って言い出して。"スーパー・デューパー・レスキュー・ヘッズ"って曲がありますけど、まさにスーパー・デューパー・レスキュー隊っていう、ゲームっぽい感じがいいんじゃない? ってことでこうなりました。「ナントカ隊」とか「ゴジラ対キングギドラ」みたいな感じ。ティーンらしい。
■なんとなく「イーヴィル」という言葉によって名指されているもの、イメージっていうのはないんですか?
サトミ:みんなが思いつく「イーヴィル」っていうのはそれぞれ違うと思うんですけど、戦争だったり、メディアだったり、みんなが思いつく悪だったら何でも。
■はい、ゲーム的なイメージの戦争だったりってことでしょうか。
サトミ:ゲーム的にテレビで放送されるブラウン管の向こうの遠い戦争。悪ってなんだろう? って。だからってディアフーフが悪じゃないわけじゃないんです。それはみんなのイメージを膨らませて考えてほしいです。先生が悪だっていうティーンもいるだろうし。
■でも「ディアフーフ対善」ではなくて、「悪」なんですよね。
サトミ:そうですね。「ディアフーフ対善」でも良かったかも! でも、それだと毒々しさが欠けるかな。「対悪」がディアフーフっぽいかなというのがありました。どうですか? どんなふうに感じました。
■私は「ディアフーフ対世界」って感じの意味かなと。
サトミ:そこまでおおきくなっちゃいますか?
野田:それはむちゃくちゃ深読みだね。
■すみません(笑)。「イーヴィル」って「悪」って意味ですけど、「全体」というイメージで捉えました。ディアフーフ対それ以外のすべて。
サトミ:じゃあ孤立してるんだ。
■「自分対それ以外のすべて」っていう感じで16歳の子が立ってる。
サトミ:ああ、それいいですよ。それ、じゃあ「イキ」で。
野田:最近は対立構造っていうのをあんまりはっきり言わないじゃないですか。
■去年だとハイ・プレイシズがちょっと似たタイトルでしたね。
サトミ:ああ、それこの前なんかのインタヴューでも尋かれました。ハイ・プレイシズ対、何でしたっけ?
■マンカインド......
野田:マンカインドだね。
サトミ:マンカインドを敵に回したらヤバイでしょう!? それはちょっと。
■ははは! では「イーヴィル」は「マンカインド」ではない。
サトミ:「カインド」ではないですよ。「マンカインド」って人類じゃないですか。「ディアフーフ対人類」はひどくないですか? 「ザ・マン」ならわかりますけどね。社会的にいちばんトップの人とかが「ザ・マン」だから、そういう人って悪い人かもしれないけど、「マンカインド」は。すごいですね、そのタイトル。
■はははは。ジャケットのハートは「スウィート」の意味ですかね。
サトミ:たぶんそういう冗談ですね。マットっていう......マシュー・ゴールドマンってアーティストが作ってくれて、「ディアフーフ対イーヴィル」って言ったら、もうそのタイトルで頭の中浮かんだ! って言って、描いてくれました。アートワークができあがってから思ったんですけど、「イーヴィル」については、ソニック・ユースの昔のアルバム『イヴォル(Evol)』を連想しました。「ラヴ」の逆。善と悪は常にお隣同士、「ラヴ」と「イーヴィル」(「イヴォル」)は背中合わせのイメージ。だから(ハートの)後ろに原爆が写ってたりとか......
■ああ、これ原爆ですか。
サトミ:きのこ雲ですね。
■じゃあ、なんとなくイーヴィルのイメージも固まりますね。
野田:もうティーンエイジャーのイメージではないね。ポリティカルだね。
サトミ:でも中開けるとポリティカルじゃないですよ。女の子がこうして写ってて。中見てみてくださいよ!......ほら、こんなにカラフルで!あ、でもこれ一瞬ポリティカルにも見えますね。
■ちょっとヒップホップのイメージですね。
サトミ:ぱっと見がゲームのパッケージみたいから、子どもが間違えて買っていけばいいなあ。
野田:デザイナーにこういうイメージがあったんでしょうね。イーヴィルっていったら戦争だよなっていうような。
サトミ:歌詞にちょっとそういう言葉もあるんですけど、歌詞もみてないのに、このきのこ雲入れてきたんですよ、デザイナーは。アメリカってカルチャー的にそうなんでしょうね。すごくポリティックな話題をよくするんですよ。みんな政治に興味があるから、シティ・カレッジ行ってたときももう政治の授業がパンパンに人入ってて。
野田:でもアメリカで「原爆」っていう表現は、それこそアメリカ批判の奥の手というかねえ。ある意味すごくきわどいデザインなんじゃないですか。中身は可愛くても。
サトミ:なんか原爆をモチーフにしてるものって多いですよね、パンク・ロックとか。たぶんこれもわざとなんだと思うんですよね。ほら、パンク・ロックだと必ず原爆が出てきて、今回ディアフーフは「スウィート・シックスティーン」がテーマなわけだから、マシューはすごくパンク・ロック的なイメージで使ったのかなと思います。デッド・ケネディーズとか、アシュックとか。
■白黒の。
サトミ:そう、だからあんまり色を使わない。色っていうか、何色も何色も使わない。モノ・トーンな感じで。最初のギタリストのロブがものすごくポリティカルだったんですよ。メンバーも私以外みんなベジタリアンで、でもロブはもっともっとすごくて。フード・ノット・ボムズってオーガナイゼーションがあるんですけど、みんなボランティアでホームレスに食事を作ったりするんですよ。私も一回行ったことがあって、チャーチの地下とかで食事を作るんです。明日賞味期限が切れちゃうような食品をもらってきて、それで料理するんですね。そしたらホームレスがそれをジャッジし出すんですよ。「このスープはいまいちだな」とかって。もう「ええー!?」って感じ(笑)。
野田:僕の同級生もサンフランスコで同じことやってましたけど、その文化は日本では一般的ではないですよね。
サトミ:隣りで一緒にホームレスのおじさんと食べながらね。面白いんですよ。けっこう政治的な関心が高いから、あとはアニマルの保護とかにいったり。その頃に遊んでた友達がみんなけっこうおもしろくて。カリフォルニアの木が伐られるからって言って、木に自分を縛りつけたりとかするの。
野田:おおー。「俺を斬ってから木を伐れ」という(笑)。
■はははは!(一同笑)
サトミ:そう、そしたらその彼が「ちょっと僕ポートランド行くからディアフーフの車に乗せてって」って言ってきたんで一緒に行ったことがあったんですよ。それで途中のガソリン・スタンドですれ違ったとき見たんですけど、彼、手を洗ったあとに何枚も紙を使ってました!
■ははははは!(一同笑)
サトミ:なにそれ、それちょっとわかんない! って(笑)。「それはいいの?」って訊きました。
■ちょっとそういう意識が高いあまりに病的になっちゃうんですね。意味があべこべになっちゃう。さっきソニック・ユースの名前が出ましたが、ディアフーフってギター・バンドとしてのプライドがすごくあると思うんです。
サトミ:そうですか? 私はあんまりディアフーフにギター・バンドになってほしくないです。いつももっと「キー・ボード、キー・ボード!」って言ってます。
■ソニック・ユースとかにも共通する、90年代のギターの音と、2000年代の知性と、サトミさんのヴォーカルとでほんとにずっと新鮮な音を出しているという印象なんです。ここ2、3年は深いディレイやリヴァーブのかかったギターの音がインディ・シーンでは主流で、そんな中でディアフーフのようにソリッドなギターの音が聴こえてくるとすごく緊張するんですね。あ、違う音がなってるって。たとえばディアハンターとか、どうですか?
サトミ:はい、お友だちです。ディアハンターの初めてのショウって、ディアフーフのオープニングなんですよ。
野田:ああ、そうなんですか!
■へええ! そうなんですか!
サトミ:それでね、ディアハンターがポピュラーになってからはすごい間違えられるんですよ。ディアハンターが出るのに「ディアフーフ!」ってMCが紹介したり、ディアフーフが出るのに「ディアハンター!」って言われたり。
■はははは! 大雑把だなあ。音ぜんぜん違うのに!
サトミ:Hまで合ってるから、いいかな。
■よくないよくない!
サトミ:「ディアハンターでーす」とかって言ったりして。
■もしディアフーフがすっごいリヴァービーだったりするとびっくりしますが。ではシューゲイザーとか興味はないですか?
サトミ:うーん、シューゲイザーってカテゴリーなんですか? だってシューを見てるっていう意味なんじゃ......
■ですよね。でもカテゴリーになっちゃってますね。私よく言うのが、彼らは「シュー芸ザー」だっていう。シュー芸、つまりマイブラやスロウダイヴごっこをやる芸人さんたちなんです。そういう人たちでなんというかコミュニティというか。シーンが出来上がってしまっている。
サトミ:あははっ。シュー芸。なるほど。たぶんぜんぜん興味ないですね。でもディアフーフは何やってもよくて。レゲエとかやってもいいんですよ。ジャズやってもいいし。レゲエはあんまり上手じゃないですね。たまにリハとかでレゲエやろうよとか言って、ッジャッ、ッジャッ、ってはじめるんですけど、全然合ってないっていうか、常夏のイメージが全然出ないねってなって。難しいですねレゲエ。どう思いますか、ディアフーフのレゲエ。
野田:いや、面白いね。すごい聴きたいです。次のアルバムはぜひ(笑)。
サトミ:あはは、ほんとですか? 「ジャー!」って言って出てくるんです。
■ははは。ダジャレじゃないですか! では次作の方向性も見えてきたということで(笑)、どうもありがとうございました。
取材:橋元優歩(2011年1月24日)