Home > Interviews > interview with Grimes - 宅録女子からの一撃!
好きじゃない仕事をするくらいなら、空腹や寒さにも耐えるほうがましだって思っていた。信念のためだったら、快適な生活を犠牲にしてもいいと思うの。9時5時の仕事をするくらいなら暖房費が払えなくて凍えたほうがましだって思うの。
■最近はアナログ志向のアーティストが増えてきたように感じます。あなた自身もJUNOを使用されているようですが、イクイップメントについてはどのように考えていますか。
クレア:私はデジタル機材のほうが選択肢の自由があるから好き。JUNOは超融通が効く機材だわ。あれ一台でなんだってできる。ヒップホップの曲だって作れるし、IDMのトラックだって作れる。とにかく操作しやすいし、デジタルだから無限に何でもできる。もちろんアナログでも同じことはできるけど、私は昔からデジタル思考で、無駄が省けたほうがいい。だから楽なやり方があるだったらそっちを選ぶわ。
それとあと、できた曲に改良を加えることが多いから、デジタルだと簡単に手を加えることができる。いちど録音したらそれで終わりってわけじゃない。曲が出来た後で、「全部変えたい」って思うことがしょっちゅうあって、全部始めからレコーディングし直す代わりに、必要な箇所だけ手を加えればいい、という効率性は私にとって重要なの。
■あなたのヴォーカル・スタイルに影響を与えたものがあれば教えてください。また、音域を広げる練習を積んだというのは独学によるものですか?
クレア:独学だけど、影響を受けた部分も大きいわ。たとえばいまは次の作品の曲を作っていて、アーサー・ラッセルのヴォーカルにすごく影響を受けているわ。今作に関してはアウトキャストやダンジョン・ファミリーやマライア・キャリーあたりにすごくはまっていたわ。もちろん彼らのほうが私よりもずっと歌はうまいんだけど、自分の声を鍛えるのに、彼らの曲に合わせて歌ったし、プロダクション面でも影響を受けているわ。
■"sagrad npekpachbin"や"ワールド・プリンセス"、"ノウ・ザ・ウェイ"などでは声とハーモニーの音楽的な可能性が意識されています。あなたには聖歌隊などの経験があるのですか? そうでなければこうした曲はどういうものにインスピレーションを得て作られたものですか?
クレア:中世の音楽をよく聴くのと、宗教音楽もよく聴くわ。私自身は信仰心が強いわけではないけど、子どもの頃は家庭がカソリックだったからカソリック・スクールに行ったし、毎日教会に通わされたわ。だから聖歌合唱に接する機会は本当に多かった。そういう合唱音楽は私にとって何か霊的なものだったり、漠然とした全知全能な存在を連想させるし、子どもの頃に経験したものとして懐かしいものでもある。それに、合唱音楽には独特のパワーを感じるの。
私は信仰心が厚いわけでは決してないけど、キリストが十字架に張り付けになった陰惨なモチーフを表現した偶像や絵画に覆われた様式美を極めた巨大な建造物の中に立って、大きな窓、ステンドグラス、高い天井に囲われ、その巨大な空間の自然な音響の中で、2~300人の子供が合唱するのって、本当にパワフルだし、鮮烈なイメージとして私の脳裏に焼き付いているわ。5歳の時の思い出が。当時はまだ神を信じていて、歌いながら全知全能の神の存在を常に感じてたし、その存在に怯え、とにかく劇的な体験だった。私にとって芸術や音楽触れた最初の経験でもあったし、私の子供時代の大きな部分を占めているわ。
■ジュリアナ・バーウィックやグルーパーは聴いたことがありますか。
クレア:彼女たちの音楽はすごく好きよ。グルーパーとは一緒にライヴもやったことがあるわ。
■彼女たちはウーマン・リブとはまったくべつのやり方で女性の強さや繊細さを表現したアーティストだと思います。あなたの音楽にも共通したものを感じますが、どうでしょう?
クレア:たしかに彼女たちのフェミニスト精神というのは、彼女たちの存在そのものだったり、彼女たちが自分のやりたいことを貫いていることに集約されていて、決して押し付けがましくない、というのはいいやり方だとは思うわ。というのも、政治的なメッセージをあからさまに作品の中で主張するのは人をしらけさせるだけだと思うの。だからフェミニズムのいちばんいい取り上げ方というのは、必要な時には自分を貫くけど、過度に主張し過ぎないことだと思う。そうした過度な主張がこれまでフェミニズムに悪いイメージを与えてきたから。
取材:橋元優歩(2012年6月06日)