Home > Interviews > interview with Eiko Ishibashi - 進化する音と歌の迷宮
枠組みから抜けだそうとして、曲として強いものをつくって、歌詞でも壮大な物語をつくる。形式ではなくて。形式を乗り越えることがプログレッシヴだと思うんです。
![]() ![]() 石橋英子 Imitation of life felicity |
■歌詞は7曲でひと続きの物語のような構成になっていますね。
石橋:ライヴのときは歌詞は仮歌だったんですね。時間がないし。ライヴをある程度積み重ねていって、レコーディングでベーシックを録り終わって、曲順が決まってから、メロディと歌詞にとりかかりました。けっこう時間がかかりました。一ヶ月くらいずっと歌詞を書いていましたね。歌詞に関しては、物語性をもたせたいというのはあったかもしれないです。地震が無関係とはいいきれないですが、でもみんなが取り沙汰していないような物語を探すつもりでつくっていたかもしれない。誰もとりあげていない物語、声にだしていないひと、声にされていない物語があるかもしれない、それを探すつもりで歌詞を書いていた気がします。
■内面を直接歌うより登場人物の声に耳を澄ませた、と。
石橋:そういう感じです。今回はパッと言葉を出していく、自分の気持ちを出すのとはちがう、物語を書きたいと思っていたので。
■偏見かもしれませんが、歌手、とくに女性の歌手にはエモーショナルなりがちだと思うんですよ。そういう歌い手とは距離を置きたかった?
石橋:ひとに対してはそういう風には考えはないですが、私が自分のことを歌ってもつまらないと思うんですよ(笑)。でもふりかえってみると、『drifting devil』のときはそれでも、そういうものもあったかもしれない。自分のエゴのようなものが。
■なぜそれが『imitation of life』では変わってきたんでしょう?
石橋:バンドに守られているところがあったと思うんですよ。『drifting devil』のころはひとりで多重録音をしていたし、同時に歌詞も書いていましたから。
■『imitation of life』はバンドとの共同作業の面が強い?
石橋:私の気持ちのなかではそうですね。
■ソロ活動をつづけてきて、あらためてバンド・サウンドに回帰したとき、そのふたつを較べて、どちらがいいとかありますか?
石橋:この前久しぶりにひとりでライヴをやったんですよ。ピアノの弾き語りだったんですが。すごく疲れるな、と思いました(笑)。
■どうして疲れたんですか?
石橋:歌い方が変わるんですよね。声を張って歌っている方が楽なんですよね。バンド・サウンドでアンプから音が出ていて、ドラムがバーって叩いているなかで歌うには声を張らないといけないじゃないですか。ダイナミクスよりも声量が必要になりますよね。その方が私は楽なんですね。それがピアノと自分の声だけになると、恥ずかしさも相俟って(笑)。
■恥ずかしさはまだあるんですか?
石橋:あります。緊張もしているし。声のだし方も変わってきちゃうから、すごく疲れるんですよ。
■楽器を弾いている方が楽?
石橋:作業はともかく、気持ち的にはそうです。歌うのは別の重圧感があります。
■いまご自分の肩書きをあえてひとつに限定するとしたら、なんになると思います?
石橋:なんでしょうね(といってしばし考えこむ)。
■シンガー・ソングライター、器楽奏者、歌手、いろいろありますが。
石橋:全然関係ないですけど、以前「ex SSW」って書かれたことがあるんですよ。
■どういう意味ですか?
石橋:「SSW」がシンガー・ソングライターであることがわからなくて、バンド名だと思われたんでしょうね(笑)。
■元SSWですね。でもそれは暗示的ですね。たとえばCDのオビにジャンル名を書くじゃないですか。その場合、自分の音楽はどう区分されると考えますか?
石橋:ロックじゃないかなあ。
■いまのいい方は半疑問形でしたね。
石橋:ジャンルってわからないよなあ。
■飲み屋のオヤジみたいな質問でもうしわけないですが、まあ飲み屋でインタヴューしているのでしょうがないところもありますが、プログレ四天王だったらどれが一番好きですか?
石橋:四天王?
■えーっと、キンクリ、EL&P、イエス、ジェネシスかな。
石橋:フロイドは?
■諸説ありますからね。ピンク・フロイドも入れましょう。そのなかでどのバンドが一番好きですか?
石橋:そのなかではピンク・フロイドとピーター・ガブリエルがヴォーカルのときのジェネシスです。その他は好きじゃないです。ひと通り聴きましたけど、グッとこない。キング・クリムゾンだったらロバート・フリップのソロの方が好きだし。
■『imitation of life』は(ユニオンの)新宿のプログレ館のお客さんに今回の作品はストライクではない気がしますよね。
石橋:私もそう思います。でもときどき、プログレ館をみているとジュディ・シルとかがあったりしてちょっとうれしくなったりするんですけどね(笑)。
■その端っこにある音楽なのかもしれないですが、ジャンルの音楽ではないと思いました。
石橋:私はプログレッシヴという言葉をほんとうの意味で考えると、ジェネシスがやろうとしていたことなんかがそうだと思うんですよ。枠組みから抜けだそうとして、曲として強いものをつくって、歌詞でも壮大な物語をつくる。形式ではなくて。形式を乗り越えることがプログレッシヴだと思うんです。
取材:松村正人+野田努 文:松村正人(2012年6月27日)