Home > Interviews > interview with Eiko Ishibashi - 進化する音と歌の迷宮
私がやっているのは探すことかもしれないですね。
石橋英子 Imitation of life felicity |
■ちょっと気が早いですが、次にやるとしたらどういうことをやりたいですか?
石橋:まだ構想段階でボンヤリしていますが、このバンドで次のチャレンジをしたいと思っていることはあります。だけどまだヒ・ミ・ツ(笑)。
野田:ヒップホップ?
石橋:ハハハハ。
野田:エレクトロニクスもまだやってないから。あとドローンもやってないじゃない。
■そういうのはどうですか?
石橋:それはまた別の話ですけど、このバンドでカヴァーアルバムをつくろうという話はありましたけどね。この前のライヴではブラッフォードの"ヘルズ・ベルズ(Hell's Bells)"をやりましたよ。途中まででしたけど。スタジオでふざけそういう曲をよくやってるんですよ。
■石橋:英子ともう死んだ人たち以外で予定していることはありますか?
石橋:ピアノのアルバムを予定しています。
野田:フローリアン・フリッケがモーツァルトのカヴァー集(『Florian Fricke Spielt Mozart』1991年 )をつくったじゃない。それみたいなのをやろうとしているんだよ!
石橋:まあオリジナルの曲なんですけどね(笑)。
■どういう曲調のピアノ曲ですか? モーツァルト、ドビュッシー、ベートーヴェン、バッハ......無数にありますけど(笑)。
野田:石橋さんはベートーヴェンだよ!
石橋:たしかに一番長く弾いてきたのはベートーヴェンとバッハでしたね。
野田:石橋さんはやっぱり庶民派なんだよ。
石橋:ベートーヴェンはロックですからね。
野田:ベートーヴェンは大衆に愛されたからね。
石橋:ドビュッシーのような繊細な音楽を聴くようになったのは大人になってからですよ。
■野田さんは石橋さんの弾き語りの方が好きなの?
野田:弾き語りもこのアルバムも最高ですよ。ダイナミックになりましたよね。だって俺は『drifting devil』を個人の年間ベストにいれたくらいですよ。でもあれをファーストって書いて、「セカンド・アルバムです」って石橋さんに訂正されたんだけどね(笑)。
石橋:実質はファーストですけどね。
■ファーストはそれまでの集大成でしたからね。4作目まできて、ソロ活動をはじめて6年になり、石橋英子のアーティスト像も板についた感じがありますが、あらためてご自分を位置づけるとしたらどうなりますか?
野田:いますごく業界人的ないい方だったね!
■なんでまぜっかえすんですか!
野田:ハハハハ。演奏家としての石橋英子と、歌手=石橋英子ってのはあるでしょ?
石橋:さっきの肩書きの話に戻りましたね(笑)。やっぱわかんないや(笑)。
野田:じゃあさ、歌うたいの自分をどう思う?
石橋:ヘタクソだと思いますよ。
野田:でも歌うのは好き?
石橋:しょうがないから歌っている。
野田:絶対それはウソだよ!
石橋:ウソじゃないですよ! ジムさんにもいわれたのは、ミックスの段階で、「英子さんは歌いたくて歌っているひとじゃないから、ミックスするときにこうなる(歌がひっこんだ)」とはいわれましたね。歌いたいって感じで歌っていたら声の出し方も変わってくるはずなんですよね。今回のアルバムなんかは、バンド・サウンドのなかで浮き出た方がいいような、歌が好きなひとが歌った方がいいような曲ではあると思うんですよ。だけど、私がそうじゃないから、その点は(ジムさんも)困ったみたいですね。でもだんだんライヴするうちに好きになってきましたよ。
野田:シンガー・ソングライターとしての自覚が出てきた?
石橋:それはわからないですけど、バンドのなかで歌うのが好きになってきたのはありますね。
野田:メロディみたいな聴覚に強く訴えるものは一歩まちがえれば、簡単にひとを馴らすことができるじゃない。おなじみのメロディがあってパターンがあって、ようはクリシェだよね。クリシェっていうのはコントロールしやすいものじゃない。でも石橋さんはコントロールしにくいものをやろうとしているから心を打たれるんですよ。
石橋:ありがとうございます。
野田:そうなんだよ、松村! 政治的な問題とか絡んでないんだよ。
■そんなこといってないですよ。
石橋:さっきの話に戻るけど、音楽が社会にとってどういうことができるかという話になると、私は基本的に役に立たないと思っているんです。
野田:必ずしもそうじゃないよ!
石橋:もちろん私はいろんな音楽を聴いて人生が変わったと思っているんですけど、自分がつくる側としてはそうは思わない。
■「役立たずの音楽家が寄り添う事も出来ず海の底に震えて轟く」という歌詞("long scan of the test tube sea")がありますね。
野田:これは敗北宣言なの!?
■敗北主義的な意味ではないと思いますけど。
石橋:そもそも戦いの土俵にあがっていないということかもしれないですね。
野田:最近、サファイア・スロウズって女の子にインタヴューしたときに、彼女はJ-POPを好きにれなかった。なぜなのか訊いたら、与えられるものが嫌いだからという答えだったのね。彼女にとっては自分で探すものの方が価値がある。そういう意味でいうと、石橋英子がやっていることはまさに――
石橋:探すことかもしれないですね。
野田:与えられるものじゃないじゃない。探してたどりつける音楽じゃない。リスナーが能動的にならなければたどりつけない音楽をやろうとしているわけじゃない。それでもかなり今回のアルバムにしても前回のアルバムにしても、リスナーにアプローチしてきていると思うんだよね。
■難曲はありますけど、難解ではないですからね。
野田:レコメン系っていったら石橋さんに怒られたからね!
石橋:怒ったんじゃないです。わからなかったんです(笑)。
取材:松村正人+野田努 文:松村正人(2012年6月27日)