Home > Interviews > interview with Daughter - 〈4AD〉のいま
歌詞はとてもわたしにとって大事で、いろいろな感情や、暗い考えとかいったマイナスのエネルギーを昇華させて吐き出すことができるの。自分が音楽を聴くときも、歌詞を聴くことで他の人の考えていることを知るのが昔から好きね。
![]() Daughter If You Leave 4AD / Hostess |
■非常にイマジナティヴな弾き語りのスタイルだと思うのですが、ではたとえばリンダ・パーハックスやサンディ・デニーなど、ブリティッシュ・フォークの女性シンガーへの憧憬があったりしないですか?
エレナ:じつを言うと、どちらも知らないわ......。ギターも歌もほとんど独学だったし、わたしのスタイルに影響を与えている人を挙げるとするなら、それってギターを教えてくれたりした友人たちなの。わたしが最初にギターをはじめたころは、ジョージっていう友だちがギターのコードやいろいろなテクニックを教えてくれたし、そういう友だちが影響としてはいちばん大きいわ。ジェフ・バックリーは昔からすごく好きだったし、彼のギターのスタイルが好きだから影響は受けているかも。でも基本的には、友人や知人がギターを弾いているのを見て「これってかっこいい!」と思ったものを自分でもやっているだけだから、有名なミュージシャンからそれほど影響を受けているかどうか自分でもわからないの。わたしが前にソロでやっていたころの音楽はいまよりもっとフォークっぽかったと思うけど、それってただ単にわたしが弾けるのがギターだけだったからそういうふうに聴こえていただけで、必ずしもフォークのつもりでやっていたわけじゃないっていうか......。他の楽器が入ったいまは音楽的にも変化したと思うわ。
■音楽を大学で学ばれたということですが、それぞれどのようなことを専門にしていたのですか?
エレナ:そう、わたしとイゴールのふたりとも北ロンドンの音楽のカレッジで、1年間のソングライティングのコースに通っていたの。そしてレミは同じ学校でドラムの学部コースに通っていて、その最後の年にわたしたちに出会って全員卒業するのとほぼ同時にバンドがはじまった感じね。
■いまのバンドに生かされている部分はありますか?
エレナ:ソングライティングって教えるのが難しいものだし、「はい、これが作曲の仕方です」って言えるようなものがあるわけでもないし、自分に合っている部分を選んで学ばなきゃいけないものだと思う。わたしにとっては、いろいろなソフトウェアを使ってプロダクションをしたりトラックを組み立てたりっていう技術はそこで初めて学んだから、それがとても役に立っているわ。そもそも私たちが出会ったのがカレッジでだったから、それがなければバンドも存在しなかったしね(笑)。でも学校に行ったことでわたしの作曲の仕方とかが変わったかと言われるとわからないな。作曲するときの素材や題材みたいなものは変わったけれど、それはただ単にわたしの年齢や経験とともに変わった部分だと思うし。あと、学校で人前で演奏したりすることで、自信はついたと思うわ。いまもまだ人前に出ることにすっかり慣れたわけじゃないけど、学校に行く前よりはずっとましになったんじゃないかな(笑)。
■曲はやはり詞からできるのでしょうか? まだ歌詞がないのですが、スタイルからも音楽からも言葉が重要なのではないかと感じさせる作風ですね。
エレナ:曲によるわ。歌詞とメロディーが同時に出てくることも多いし、そういうときはとても自然な感じにまるでアイデアが頭のなかからこぼれ落ちて来るみたいで、すごく気持ちいいの(照れ笑い)。でも家にいなかったりしてギターが弾けないようなときとかは、歌詞だけ書きつけておいて、あとでギターとかピアノとかを使ってメロディーを作ったりするの。今回のアルバムではやり方を変えようと思って、たとえば"ウィンター"はイゴールが作った、ちょっと変わったギターのループをもとに曲全体を組み立てていって、あとで別に歌詞を書いたんだけど、そういう新しいやり方はとても楽しかったわ。まだまだわたしたち自身試行錯誤したり、チャレンジし続けているところ。歌詞はとてもわたしにとって大事で、いろいろな感情や、暗い考えとかいったマイナスのエネルギーを昇華させて吐き出すことができるの。自分が音楽を聴くときも、歌詞を聴くことで他の人の考えていることを知るのが昔から好きね。もちろん歌詞だけじゃなくて音楽も同じく重要だけど、わたし自身は自分のことを「シンガー」や「ギタリスト」というよりも、「ライター」だと思っているわ。
わたし自身は自分のことを「シンガー」や「ギタリスト」というよりも、「ライター」だと思っているわ。
■たとえば"スティル"などで生のドラムにリズムボックスのような電子ビートが混じってきたりするのは、誰のアイディアなのでしょう? リズムもドーターの音楽の大きな要素だと思いますか?
エレナ:"スティル"に関して言えば、あの曲はアルバムを作りはじめたころに、わたしとイゴールふたりで1週間くらい別の所へ行って、デモを作ることにしたの。ふたりともエレクトロニックなサウンドをアコースティックの音と組み合わせるっていうことに対して興味があったから、そのとき作った最初のデモの時点で既にエレクトロニックな要素が入っていたわ。ただふたりのうちどちらがそのときそのアイデアを出したかはちょっと思い出せないな。私たちはいつもずっといっしょに音楽を作っているから、どっちが何をやったかとかあまりはっきり覚えていないんだけど、あのときはイゴールだったかも......。
■ドラムパートもふたりで作っているんですか?
エレナ:そう、最初のデモのときはわたしとイゴールでリズムまで作って、その後でレミがアレンジを少し変えたりして、生のドラムのレコーディングをしたわ。レミはすごく才能のあるドラマーで、わたしたちが作ったビートを何倍もいいものにしてくれるの。でも自分たちでリズム・パートを作って、どこでドラムが入ってくるかとか、どこで休止するかとかを決めるのはいいことだと思う。
■あっという間に人気に火がつき、USにまで飛び火しているわけですが、それがあなたがたの目指している音楽の妨げになったりするということはありませんか?
エレナ:このレコードを作っていたときは、わたしたちはずっとスタジオにいてほとんど出歩くこともなかったし、ツアーをしている間も忙しすぎていろいろ見聞きする時間もなかったから、その質問に対する答えは「ノー」ね。あまりそれについて深く考えないで、そういうものが妨げになってしまわないようにしていたわ。まだ作っている段階で他の人たちが「いいアルバムになるに違いない!」とか言っているのを聞いたりしていると、やる気が削がれるっていうか、変に考えすぎてしまって創作の仕方に影響が出てしまったりするから、そういうのに注意を向けてしまうのって危険だと思う。
今回のわたしたちは、できるだけ隔離された場所で自分たちについて書いてあることを読んだりせずに、「これがわたしたちの作りたいもの」っていうのを一から作っていって、結果的に他の人たちがそれを気に入ってくれるといいな、って感じだった。まずは自分たちが誇りに思えるものを作ることが大事だもの。でも正直言って、イギリス国内のプレスを見ていて、わたしたちが特別派手に取り上げられているとは思わないわ。ちゃんと読んでいるわけじゃないからよくわからないけど......(笑)。でも雑誌とかですごくもてはやされているバンドを見るとちょっと同情するときもある。とくにまだアルバムができていないバンドにものすごく期待がかかっていて、無理に急いでアルバムを完成させなきゃいけなくなったりとかするのってよくないことだと思うの。アルバムには完成するタイミングっていうものがあるし、他の人たちが完成してほしいときにはい、完成! っていうものじゃないから。
取材:橋元優歩(2013年3月27日)