Home > Interviews > interview with How To Dress Well - 新しい愛に目覚めるために
僕の方でもむしろ、体育会系の野郎のファンはいらない。男根主義的なものというのは欠落を抱えているんだ。過去の遺物でもある。
■すごくよくわかりました。前作もそうですけど、冒頭がフィールド・レコーディングからはじまってますね。ここにも何か意図がありますか?
クレル:今回のは、ドイツで電車に乗ったときの音だね。オスロから4時間くらい行ったところにあるフィヨルドで船に乗ったりもした。そのときの音もある。ありえないくらいの沈黙、静寂、太陽の音が聞こえるんじゃないかと思ったよ。それを録ってみようと思ったんだ。だから実際には僕くらいにしかわからないかもしれない。フィールド・レコーディングのおもしろさって、一種のサブリミナル効果なのかもしれないけれど、それを録った空間の側が持つ想像力というものを移植するすることができる。聴く側は音とともにそうした要素を楽しむことができるんだ。その空間について肉体に訴えかける豊かさを持たせることができて、僕はおもしろいと思うんだ。
■フィールド・レコーディングについてもそうですが、今作はピアノもとても印象的に用いられていますね。これまでの作品に対してより開放的でより救いの感じられるこのアルバムの性格を、よく象徴していると思うんです。ピアノを大きくフィーチャーしたのはなぜです? そしてピアノはあなたにとってどんな楽器なんでしょう?
クレル:おっしゃる通りだよ。希望を感じさせるものがピアノの音にはあると思う。スピリチュアルで、とても美しい楽器だ。アントニー(アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ)のピアノの使い方がとても好きで、参考にしていたりするよ。あとはコロフォン(Colophon)の『ラヴ・ループス』というアルバムも一時期とてもよく聴いていたんだけど、まさに救いや希望となるようなピアノが印象的なんだ。
■昨日のライヴでは、ラストまでずっとフィルムの一コマをつないだような映像が流れていたんですが、ほぼすべてが女性か女性の顔であったように記憶しています。小さいころにお母さんが歌っていた歌が自分の音楽の原体験だというふうに話しておられるインタヴューを読んだんですが、あなたのなかで母親というのは創作行為においても重要なことなのですか?
クレル:母親はたしかに音楽的にも僕に影響を与えているし、ここ数年は病気を患ってもいて、それが自分にとっての将来の不安につながったりもしている。女性の顔の話についていうと、"スーサイド・ドリーム"で映していたのはじつは少年の顔なんだ。ただ、非常に女性的な顔だと思うよ。僕は音楽に女性的なものをすごく感じるし、重要な要素だと思っている。だからかな、最近、僕の音楽はおネエ的な人からすごくポジティヴな反応をもらうようになったよ。僕の方でもむしろ、体育会系の野郎のファンはいらない。男根主義的なものというのは欠落を抱えているんだ。過去の遺物でもある。キリスト教における父と子と精霊という三角形があるね。精霊じゃなくてそこは母だろって思わないか? 霊的なもの、精神的なものっていうのはイコール女性だと思う。西欧社会において、人生のなかで豊かさや愛情といったものをもたらしてくれるのはつねに女性なんだ。そんなふうに言われている。ぼくはそうしたものを大事にしたい。
■非マッチョイズムはHTDWにとってすごく重要な要素のひとつだと思います。昨日ココロージーのTシャツを来てましたよね。やはり女性に寄せるイメージには「雌」にとどまらない精神的なものがあるのだなと思いました。
クレル:ココロージーやアントニーが好きだよ。僕は男性だけれども、ある種の男性主義、女性卑下の主義や思想を排除することができれば、もっと人間は深いつながりや豊かな関係性を築くことができると思っている。
取材:橋元優歩(2013年4月16日)
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