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interview with Star Slinger

interview with Star Slinger

世界中の日曜日に

――スター・スリンガー、インタヴュー

橋元優歩    写真:小原泰広  通訳:萩原麻理   May 30,2013 UP

 こう言うとちょっと馬鹿みたいだけれども、スター・スリンガーが素敵なのは明るいところだ。自然で、ウラがない。含み、隠喩、仕掛け、オマージュ......サンプリング・ミュージックであるにもかかわらず、そうした二重性がことごとく外されたウルトラ・ストレス・フリーなトラックをつくる。

 むろん、サンプリングという方法にはそもそも「何を切り取ってくるのか」「どう使用するのか」という批評的な契機が含まれているし、それこそがいのちであるような音楽であることも間違いないから、スター・スリンガーのような一種の無邪気さを否定的にとらえる人もいるだろう。

 だが、いいじゃないか。赤ん坊に微笑まれたら思わず微笑みかえしてしまうように、彼の音にはついつい頬がゆるんでしまう。それは間違いなくスター・スリンガーの音楽のちからだ。「星を携えるもの」というその名のとおり、まばゆいまでの音のシューター。彼はいま、シーンにおいても自身のキャリアにおいても輝いている。


Star Slinger
Volume 1

よしもとアール・アンド・シー

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 マンチェスターで活躍するプロデューサー、ダレン・ウィリアムスによるプロジェクト、スター・スリンガー。いまやリミキサーとしては引っ張りだこの人気者だが、その名がとくに意識されるようになったのは〈メキシカン・サマー〉から2010年に発表されたチームスとの共作『チームス・Vs・スター・スリンガー』からだろう。チルウェイヴの盛りあがりがピークに達していた頃に、その心臓部分ともいえるレーベルからリリースされた同作は、サイケデリックでドリーミーなシーンのムードを完璧にとらえていたし、そこにスウィートな感覚を補填しもした。彼らの手によって、甘やかでかつみずみずしい回転を得たネオ・ソウルは、クラブ・リスナーにとどまらず、ひろくインディ・ロック・リスナーの耳にも残ることになった。

 さて、その彼のファースト・アルバムでもある『ヴォリューム1』が、『ローグ・チョ・パ』『ベッドルーム・ジョインツ』というふたつのEPやその他のトラックも収めた初期アンソロジーのようなかたちで改めてリリースされることになった。CD化はすべて初だから、まとまった彼の作品に触れるには格好の一枚である。

 さっそく聴いてみよう。「日曜の曲」だという冒頭の“モーニン”で、彼は世界中の日曜の朝に、遅めのおはようを投げかける。

チルウェイヴ? 意識はしてたけど何でもかんでもリヴァーブをかけてやってた人たちとは違うと思うよ。ははは。自分のやってたことって、もうちょっとロウな、生なかたちでサンプリングを使うということだったんだ。

スター・スリンガーの音楽の特徴のひとつは、ふだんは踊りに行かないようなベッドルーム・リスナーや、インディ・ロック系のリスナーもきっちり接続できるようなダンス・ミュージックを構築しているところだと思うんです。あなたにはインディ・ロック的なバックボーンがあるのではないかと思いますが、いかがですか? ブロークン・ソーシャル・シーンや、モーニング・ベンダースのリミックスもやってますよね。

ダレン:僕らくらいの世代にとっては、ロック的なバックボーンがあるのはわりと普通なことだと思うんだ。僕にとってブロークン・ソーシャル・シーンは、リミックスを頼まれる前7年間ほどずっと聴いていたようなバンドだったりするから、頼まれたときはすごく特別な気持ちがしたよ。ただ、最近のインディに関してはちょっと退屈かなって思ってあんまり聴いてないんだ。

へえ! 最近っていうとどんなあたりでしょう?

ダレン:もちろんいい要素もたくさんあると思うんだけど、個人的にはエレクトロニックな音楽のほうによりインスパイアされているということがまずあって、ジャンルごとにやっぱり盛り上がりの波もあるから、最近はレーベルが持ち上げすぎているバンドが出てきてるという感じもするな。○○とかはあんまり好きじゃない。ははは。

ああー。でも一方で、ディアハンターの“ヘリコプター”(『ハルシオン・ダイジェスト』収録)のアンオフィシャルなリミックスなんかも発表されてるじゃないですか。これはスター・スリンガーというアーティストを語る上ですごく象徴的なことだと思うんです。ああいうサイケデリックでシューゲイズな音楽性は、きっとお好きなんですよね?

ダレン:ディアハンターはすごく好きなんだ。『ハルシオン・ダイジェスト』が出る直前にライヴを観たんだけど、新曲として“ヘリコプター”を演奏したときにすごく気になって! 「これはぜったいチェックしなきゃいけない!」って思ったんだ。だからリリースされた瞬間に、彼らに頼むんじゃなくて、もう勢いで勝手にリミックスしてしまったんだよ。ただ、あの時代は好きだったんだけど、いまはどうかなあってちょっと思う。いちばん新しいやつは、聴いてもそこまで好きにならないかもしれない。それはフレーミング・リップスとかも同じで、昔はすごく好きだったんだけど、最近はそんなに興味がないんだ。自分のテイストも変わってきてるし、自分だけのちっちゃな世界で音楽を楽しみたいという気持ちもある。

なるほどー。だったらこの話を引きずって申し訳ないんですけど、ピッチ変更って、あなたの作品における特徴のひとつだと思います。“ヘリコプター”のヴォーカルにももちろんすごく手が加えられていたんですが、ブラッドフォード・コックスのヴォーカルをいじるって、けっこう勇気のいることだと思うんですよね。大胆だなと思いました。結果として、個人的にもとても好きなリミックスになっているんですが、あなた自身としてはあの曲の何を大切にしたかったんです?

ダレン:ソウルっぽい曲でやっていることと同じなんだけど、あの曲ではもともとのヴォーカルのサンプリングを刻んで、短くして、そのメロディの部分を使ってるんだ。そうするときっていうのは、原曲よりももっとエモーショナルにしたいと思ったときかな。楽器も加えたかったしね。

ヴォーカルのピッチ変更自体は方法として珍しいものではありませんが、あなたが多用するのは、なにかあなた独特の感性に支えられてのことだと感じるんです。ソウルとかレア・グルーヴとかのあの芳醇なヴォーカルを、ある意味では台無しにする行為でもあると思うんですけど、それもやっぱり、エモーショナルな部分を取り出すためという意識なんでしょうか?

ダレン:いちばんは自分が楽しいからっていう理由なんだけど、僕の場合はヴォーカルだけじゃなくて後ろのトラックもまるごとピッチ変更するんだ。曲をまるごとね。それはもちろんア・カペラの音源がなかなか手に入らないからっていうことも大きいんだけど。でもパートを見るんじゃなくて全体を見る、全体のフィーリングを按配しながら使うっていうことは意識してるんだ。あれで何をやりたいのかっていうことはなかなか説明が難しいんだけど、音楽のなかの6~7秒を切り取って、それをもっと大きなものに変える、そこで何かを拡大する、そんなようなことだよ。

なるほど、よくわかります。あなたの音楽では、ドリーミーとかサイケデリックということもとても重要な要素だと思うんですが、2010年前後っていうのは、それこそ「チルウェイヴ」という言葉をキー・ワードに、ドリーミーでサイケデリックなフィーリングがいろんなジャンルに共有されていたと思うんです。そういうムードは意識されていましたか?

ダレン:意識はしてたけど、何でもかんでもリヴァーブをかけてやってた人たちとは違うと思う。ははは。自分のやってたことって、もうちょっとロウな、生なかたちでサンプリングを使うということだったんだ。だからその意味では、自分が本当にドリーミーなものを作ったというのはこの“スロー・アンド・ウェット”だけなんじゃないかって思えるよ。そういうものを作ろうと意識して作ったのはこの曲だけなんだ。

へえー。こういう流れのなかで〈メキシカン・サマー〉ってとても重要なレーベルですけれど、彼らはサイケデリックの埋もれた名盤の発掘にも意欲的ですね。ここからチームスといっしょにEPを出したことは、あなたのキャリアにとっても決定的な方向性を与えることになったのではないかと思いますが、どうでしょう?

ダレン:あのEPをリリースしたときは、ドリーム・ポップとかチルウェイヴを聴いている人のことは意識していたよ。それと、あのシーンには友だちもいたしね。たとえばスモール・ブラックなんかは、彼がマンチェスターでライヴをやったときに会って、それがきっかけでリミックスをやったりもした。だからそういう人たちのファンにも聴かれることになるということは意識してたけど、「〈メキシカン・サマー〉にヒップホップ的なものを投げてみたらどんな反応が起こるだろう?」とかね、もうちょっと広がりのある、その上を行くようなことをやってみたいとは思ってたんだ。

取材:橋元優歩(2013年5月30日)

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