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アニメOPの条件
アニメのオープニング・テーマって、タイトルも言ってほしいし、必殺技の名前とかもできれば言ってほしい(笑)。
Cornelius 攻殻機動隊ARISE O.S.T. flying DOG |
野田:映画のサントラとかって、今回が初めて?
小山田:ちゃんとしたのは初めてだね。
野田:サントラとか好きだったじゃない? いまはないけど、渋谷の「すみや」っていうレコード屋で、日本盤で出てないイタリア映画のサントラとかを漁っていた人なわけだから。
小山田:あははは。そのときからそうなんですけど、観たことない映画のサントラとかを聴いたりしていて、それ自体は何かの映画のなかで機能させるために作られたものなんだけど、iPodとかで聴くとまったく別のもののようにも聴こえるというか。その映画と切り離されたところで楽しめる部分っていっぱいあって。
そういう意味では音楽って器というか、何かのために作られたものが別のかたちで機能することがありますよね。サントラはとくにそうかも。だから、僕はこのサントラを『攻殻機動隊』のために作ったけれども、それを切り離した部分でも聴けるものにしたいなというところはありますね。
■アニメ音楽で参照されたものとかはありますか?
小山田:わざわざ聴いたりとかはしていないんですけど、“ゴースト・イン・ザ・シェル・アライズ”っていう『ARISE』のテーマ・ソングでは、頭にあったのは『ルパン三世』のはじめの曲ですね。「ルパン~ルパン~」って、ひたすらルパンっていうタイトルを連呼する曲で、それを意識しました。「ゴースト・イン・ザ・シェル」をひたすら連呼する、みたいな。
■へえー。
野田:なんで『ルパン』だったの?
小山田:『ルパン』がっていうより、タイトルを連呼するっていうところですかね。僕のなかでは、アニメのオープニング・テーマって、タイトルも言ってほしいし、必殺技の名前とかもできれば言ってほしい(笑)。ちゃんとそのコンセプトに合ったものが入っていてほしいっていうのがあって。それで、アニメ「らしい」オープニング・テーマというと、どうしても『ルパン』が出てくるという感じです。
■小山田さん的なアニメOPの条件みたいなものが、ちゃんと入っているんですね。
小山田:うん。それに、ひたすら繰り返すから曲のミニマルな構造に合うというか。そういう曲って他にないなと思って。
■連呼というところでは、「きおくきおくきおく……」(“じぶんがいない”)もそうかと思いますが、「記憶」も『ARISE』のひとつのテーマですよね。記憶が勝手に操作されたりいじられたり、不安定で信用できないものとして描かれています。この曲はそのテーマをそのまんまというか、かなり直接的に使っていておもしろかったんですが、音節ごとに「き」「お」「く」と切ってエディットされているのも、やっぱり「記憶をいじる」というようなテーマを意識してのことなんですか?
小山田:歌詞は坂本(慎太郎)君が書いてるんだけど、それは曲の後にできたものなので、最初から音のなかに「記憶」という言葉が当てはまっていたわけじゃないんだよね。ただ、素子が「義体」というキャラクター――人間とロボットの中間、アンドロイド的なものなので、あんまり人間ぽくない編集で作ったヴォーカル・ラインが合うのかな、とは思っていて。
歌詞は、最初に「き、き、き」ときて、次に「きく、きく、きく」ときて、最後に「きおく、きおく……」となるんですけど、「一文字でも意味があって、二文字でも意味があって、三文字でも意味があって、という構造になっている言葉が何かないかな?」って坂本くんに相談したら、「きおく」っていう言葉を出してきてくれたんです。
■へえー、必ずしもテーマから来たものではないんですね。
小山田:もちろん坂本くんは、ちゃんと脚本を読んで言葉を選んできたとは思うんだけれども。
■なるほど。戦後詩では最初、谷川俊太郎の『ことばあそびうた』みたいなものが精神的に低いものとして厳しい評価を受けていたようですけれども、言葉遊びみたいなものの方が、逆に空気を受容する器にはなりやすいのかもしれないですね。
詞が後に上がったということですが、今回、詞のついているものは全部そうですか?
小山田:うん。
■それをまた組み替えるということですか。
小山田:あ、組み替えはしないですね。
■そのままでしたか。では、本当にうまくはまっているんですね。
小山田:そうですね(笑)。
ブッダマシーンは草薙素子の夢をみるか
あれは、もともと中国にあった「電子念仏機」っていう機械がモデルになっているんですよ。
■なるほど。ところで、「ゴースト・イン・ザ・マシーン」という新しいブッダマシーンとダミーヘッド・マイクを使って、動画を撮っておられますね。あれはどこから来たアイディアなんですか?
小山田:ダミーヘッド・マイクに関しては、たまたま使っていたスタジオにあったんですよ。ブッダマシーンを作ったんですけど、あれってたくさんで鳴らすとおもしろくって。いろんな層で音楽が流れていて、ずっとドローンで、ピッチも変えられるし、演奏みたいなこともできるし。あのときは同時に4台使ってるんですけど、おもしろかったですね。
■ダミーヘッド・マイクって、まだまだおもしろい使い方があるんでしょうか? ドラマCDみたいなものではさかんに使用されていますけれども。
小山田:ん? ドラマ?
■はい。お話とかセリフの朗読が収録されているCDなんですけど、耳もとで甘い言葉を囁かれるとか、そういうことがリアルに感じられるようにダミーヘッドで録音されていることが多いんです。でも、音楽でそんなふうにうまいこと使用されている例はあんまりありませんよね。
小山田:たしかにね。CDでやってもあんまりよくわかんないというか。ダミーヘッドを使ってる例だと、マイケル・ジャクソンとかルー・リードとかもやっているんですよね。
■へえー。
野田:ルー・リードも?
小山田:そう、他にもいろんな人がやってるんだけど、「ギター、ドラム、ベース」みたいな音楽で使ってもべつに何もおもしろくないというか(笑)。
■それはそうですよね(笑)。以前に読んだインタヴューで、髪の毛を耳元でちょきんと切られる音が立体的に再現されたCDで感動されたというお話をされていたように思うんですが……。
小山田:うん。やっぱりいちばんおもしろいのは髪の毛をきってもらったりとかだよね。
■なるほど(笑)。このマイク自体はけっこう歴史の長いものなんですね。
小山田:うん。80年代くらいからかな……。70年代くらいからあったっけ?
■その頃からの進歩ってあるんでしょうか?
小山田:だいぶ進歩しているんじゃないですか? ダミーヘッドじゃなくてさ、ヒューゴ・ズッカレリっていう人がいて、知ってる? アルゼンチンかどこかのちょっとマッド・サイエンティストみたいな人で、詳細は明かしていないんだけど、立体音響に関してちょっとすごい録音技術を持っている人なの。マイケル・ジャクソンとかはそのやり方を使っているみたいなんだよね。それはダミーヘッドではないって言われてるんだけど、どういうノウハウかはわかってない。
■へえー。
小山田:サイキックTVとかもそうだよね。80年代後半とかに、一時期すごい話題になってた。
野田:あー、そうだったね。
■あの動画に関しては、「あ、頭の後ろ通った!」っていう気持ち悪い感触とかが生々しくあって、おもしろかったです。小山田さんにとっては、旋律とかそれがリニアに導いていく物語じゃなくて、こういう体験のようなもののほうにより興奮があるんじゃないかなと思いました。
野田:ほとんどそうでしょう。ライヴとかを観るとほんとにそうだよ。
小山田:はははは。
■音響体験のほうが優先される。
小山田:まあ、このサントラに関してはわりとそういうものですよね。
■テーマ性がたしかに色とか空気みたいなものとして感じられます。では、ブッダマシーンのほうはどうでしょう? そもそもはあのガジェットのなかにブッダがいる、というジョークみたいなものだったように思うんですけれども。
小山田:あれは、もともと中国にあった「電子念仏機」っていう機械がもとになっているんですよ。お経を自動で流してくれる機械。それをみんな流しながらお祈りとかをしていたみたいで。それを、中身をミニマルっぽくしてあんなかたちに仕上げたのがブッダマシーン。
■実用的なものだったんですか!
小山田:そう。昔、中国に行ったときにお土産でもらったことがあって、それには本当に念仏が入ってた。形とかもだいたいあんなものですね。わりと最近になって中国の若い人がブッダマシーンのかたちにしたっていう。
■そうなんですね。わたしもシリーズの最初のマシーンから知っているんですが、てっきりヨーロッパが作り出したオリエンタルなジョークみたいなものだと思っていたんです。そんな日用品だったとは意外ですね。
小山田:うん。ふつうにあったものなんだよね。
■なるほど。そうすると余計おもしろいんですが、『攻殻機動隊』には、ロボットとかマシンみたいなものにゴーストが宿ることがあるか、あるとすればどんな条件のときか、っていうようなテーマも通底していますよね。ブッダマシーンの「機械のなかに宿った声(=ゴースト)」っていう性格は、なんてこの作品にぴったりなんだろうって思ったんです。
小山田:はははは。「ゴースト・イン・ザ・マシーン」っていう名前つけてるしね。
野田:あ、意識しているんだ。
小山田:もちろん。
■あれ? このブッダマシーンのアイディア自体、小山田さんのものなんですか?
小山田:そうです。
■そうなんですか! これ、すごくびっくりしたんですよ。よく『攻殻』とブッダマシーンが掛け合わさったなって、すごく不思議だったんです。いままでのブッダマシーン・シリーズでいちばん気がきいていると感じましたし。実際に声優さんの声が入ってるんですか?
小山田:声優さんの声は入ってなくて……、あ、ちょっと入ってるか。でも基本は声優さんの声じゃないんです。
■へえー。「機械のなかの心」みたいなものへのロマンチックな気持ちは、小山田さんのなかにありました?
小山田:……なかったね(笑)。
(一同笑)
野田:そこまで少年じゃなかった(笑)。
■ははは。すっごいドライなんですね。バトーさんが天然オイルを与えつづけたタチコマにだけは、ゴーストが宿った? みたいなエピソードもとても印象でしたけれども、そういうロマンティシズムも作品を牽引する強さだと思うんですね。ものに宿るゴースト、みたいなものはぜんぜん感じませんか。
野田:『ファンタズマ』の人だもんね。
小山田:(笑)そういうのとはちょっと違うかもしれないんだけど、何かつかみきれないものというのは意識していて。曲の構造だったりもそう。“ゴースト・イン・ザ・シェル・アライズ”も、ただ「ゴースト・イン・ザ・シェル」って言っているだけなんだけど、頭のなかに残らないというか……。同じように展開しているように聴こえるかもしれないんだけど、実際はぜんぜん解決しないままどんどん進行していくっていう構造になっていて、そこはつかみきれない感じを意識してはいますね。
■すごく複雑で、複雑すぎて不透明になっている感じでしょうか。でも、そういうつかみきれない模糊としたものが表現されつつ、やっぱりコーネリアスって、音は透明になる感じがするんです。その透明な感じは、この新しいシリーズのなかにも大きなインパクトを与えていると思うんですけどね。
取材:橋元優歩(2013年11月29日)