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Home >  Interviews > interview with GING NANG BOYZ (Kazunobu Mineta) - 銀杏BOYZの世界/銀杏BOYZと世界、のその後

interview with GING NANG BOYZ (Kazunobu Mineta)

interview with GING NANG BOYZ (Kazunobu Mineta)

銀杏BOYZの世界/銀杏BOYZと世界、のその後

――銀杏BOYZ(峯田和伸)、インタヴュー 前編

磯部 涼    写真:寺沢美遊   Jan 16,2014 UP

やっぱり、自分のいまの気持ちに正直な音楽じゃないと、恥ずかしいんだよね。世の中だとか、お客さんだとか、これから巻き込んでいこうって人たちに示しがつかないし。

『君と僕~』と『DOOR』は、GOING STEADYの後期からの延長って感じもあるじゃないですか。実際、同じ楽曲も再演しているし。あるいは、解散と結成の熱気のなかでつくられた感じもあると思うんですけど、今回のレコーディングに関しては、やはり、勢いではつくれなかったのでは?

峯田:そうだね。前は音楽ってものをまったく考えていなかったかもしれない。だから、今回は初めてアルバムをつくるような感じだったの。それも、やっぱり、あぐらをかいてはいられなくて。いろんな音楽が溢れかえってるなかで、新しいことをやってやろうっていうことではないんだけど、少なくとも新しい腹づもりで、いままでの銀杏BOYZを否定するものでもいいから、何かを切り開いてやろう! って。そういうことにならないと、つくる意味がないなっていう気はあったんですよ。……オレ、10何年前とかだけど、GOING STEADYの頃は敵ばっかりだと思ってたの。ハードコアやメロコアの連中からしたら、「何、日本語でやってんだよ」みたいに思われてただろうし、だから「面白くねぇや」って打ち上げには出なかった。それが、最近になって、若いひとが、「聴いてました」とか「影響を受けてこういうバンドをやってます」とか言ってくれて。何かが変わってきてて。あのときのオレらを「お前らはよくやってるよ」って褒めてあげたい(笑)。

だって、いま、20代半ばから後半のバンドの子たちに話を訊くと、ゴイステと銀杏の存在って本当に大きいですもんね。

峯田:どついたるねんとかね。彼らはまだ高校生ぐらいの頃、よくライヴに来てくれてて、当時から客として面白かったの。「こういうやつらがバンドやったら最高なんだけどな」と思ってたら、まんまと楽器持っちゃってさ。良かったなぁって。あと、大森靖子ね。あのひとは、2年ぐらい、毎日、オレにメールをくれてたんだよ!

ああ、メールアドレスを公開したときがありましたよね。

峯田:そうそう、15人、毎日、メールを送ってくるやつがいて、そのなかのひとりだったの。だんだんと減っていったけど、まだ4人ぐらいいる(笑)。大森さんは、いつも、今日はこんなことがあってみたいなやつを40行ぐらい送ってきてくれてて、やっぱり、「あ~、こういうひとが音楽やんねーかな」と思ってたんだ。だけど、いつ頃からかメールが来なくなった。それで、ふと、雑誌を見たら、“大森靖子”って書いてあって、「あれっ、あいつじゃねえよな?」って写真を見たら「やっぱり、あいつだ!」って。自撮りの写真も送ってきてたから顔を覚えてたの(笑)。

他にもそういうひとがたくさんいるんでしょうね。

峯田:まさか、オレが誰かに影響を与えるんだなんて考えもしなかったよ。どうせ嫌われて終わるんだよ、こんなバンドって思ってたし。でも、自分より歳下のひとが頑張ってるのを見ると、素直に嬉しいし、自分も頑張んなきゃと思うよね。

それに、リスナーは上下関係なんて気にしないですからね。フォロワーの方が格好いいと思う場合もある。

峯田:だから、さっきも言ったようにあぐらをかいてられないのよ。ちゃんと、音楽ですごいものをつくらないと、やってる意味なんてないよね。

そういう意味でいうと、『光のなかに~』は「大人になるということ」をテーマにしたアルバムだと思いました。

峯田:“グローイング・アップ”だ。

まぁ、峯田くんも36歳なんだから当たり前ですけど(笑)。ただ、前の2枚は意識的に幼児退行ならぬ童貞退行しているようなところもあったと思うんで、なおさら、今作における成長ぶりが印象的でした。

峯田:やっぱり、自分のいまの気持ちに正直な音楽じゃないと、恥ずかしいんだよね。世の中だとか、お客さんだとか、これから巻き込んでいこうって人たちに示しがつかないし、ましてや、あのノリで止まっていても面白くないから。

ここから抜ければ、きっと、オレはすごい楽になるって感覚が当時はあったんだけど、じつは抜けても楽じゃないっていうさ、そっちの痛みの方がキツいような気がして。

今回の取材にあたって、前の2枚を聴き返していて思ったんですけど、どうして、あのアルバムは学校をテーマにしていたり、中高生が主人公の楽曲が多いんですかね? あの時点で既に20代半ばだったのに。

峯田:そうだよね。“SKOOL KILL”とか、『BEACH』にも入っているけど。

ただ、『光のなかに~』では、人生を積み重ねていくことの苦しみが歌われていますよね。それについて話をする前に、初期の銀杏における「学校」が何のメタファーだったのか訊いておきたいんです。

峯田:たぶん、「枠」ですよね。誰もが枠の中で生活していて、社会人なら会社っていう枠でもいいんだけど、学校ってわかりやすくシンボリックな存在だから使ったんじゃないかな。でも、当時はそれが有効だったのが、いまはインターネットがより身近になって、「枠」っていうテーマがあまり意味がないものになってきたことで、オレの中から「学校」っていうキーワードもなくなってきたような気がする。

それは面白いですね。たとえば、スクールカーストももちろん息苦しいと思うんですけど、実際の社会にはそれとはまったく別種のしんどさもありますよね。

峯田:ここから抜ければ、きっと、オレはすごい楽になるって感覚が当時はあったんだけど、じつは抜けても楽じゃないっていうさ、そっちの痛みの方がキツいような気がして。恋愛もそうなんだよね。彼女がいなくて、童貞で、クリスマスもひとりだっていう孤独と、彼女もいるのに、子どももいるのに、愛人もいるのに、孤独。どっちがキツいかな? オレは後者の方がキツい気がする。そういうアルバムなのかな、今回のやつは。

その話を聞いて思い出したんですが、ゴイステの“童貞ソー・ヤング”っていう青春パンクや童貞ブームを代表するような楽曲がありますよね。あれは、「一発 やるまで死ねるか!!!」って歌詞に耳を引かれがちですけど、実はその後の「一発 やったら死ねるか!!? 一発 やったら終わりか!!?」の方が重要だと思うんですよ。あの時点で、暗に、大人になったからといって幸せになれるわけじゃないんだぞ、むしろ、それからの方が苦しいんだぞっていうことが歌われていた。そして、『光のなかに~』はまさにそれを突き詰めたアルバムなんじゃないかと。

峯田:そうだね。いまの若いひとは、「学校さえ出れば、童貞さえ捨てれば楽になる」なんていう甘いことは考えていないだろうなっていうか、むしろ、「大人の方が辛そうだな」って思ってるだろうけど。そういう意味では、オレらが10代、20代の頃に比べて希望のようなものを持ちにくくなっているのかもしれないね。でも、最初に言ったように、こんな時代にも「ロマン」はたしかにあって。オレはそれを意地でもいいから見せたいんだよね。現実を見せるんじゃなくて。クソ面白くない生活のなかで、最低な彼女がいて、妹はメンヘラで……そこに音楽はあって欲しくないの。鳴った瞬間に、「はじまるんだ!」っていうものであってほしいの。

えっ、『光のなかに~』はそういう現実を突きつけるアルバムだと思いますけど。

峯田:わはは! ただ、オレは日常と非日常のどちらでもなく、そこの合間に一瞬だけ見えるような、スーパー・フィクションみたいなものをつくりたいんだよ。今回、それが成功しているかどうかは別としてね。

いまの若いひとは、「学校さえ出れば、童貞さえ捨てれば楽になる」なんていう甘いことは考えていないだろうなっていうか、むしろ、「大人の方が辛そうだな」って思ってるだろうけど。(中略)でも、こんな時代にも「ロマン」はたしかにあって。オレはそれを意地でもいいから見せたいんだよね。

なるほどね。たとえるならば、実生活でもなく、ネットでもないものがロマンだと。そう考えると、いまってたしかにロマンが持ちにくい時代っていうか。

峯田:アホだって言われるよね、そんなの持ってたら。

僕は、学校とか会社とかが辛くて、twitterとかネットの繋がりに救われるみたいなことが悪いとは思わないんですよ。辛いことはなるべく発散できた方がいい。ただ、峯田くんはそこで死にそうになってでも、ロマンを追いかけたい?

峯田:オレは、10年前と比べてネットが普及して、捌け口が増えたっていうかもしれないけど、ネットにすら捌け口が見つからないひとっていっぱいいると思うんだよ。そういうやつにとってみれば、現実もダメだ、ネットもダメだ、「じゃあ、オレはどこに行ったらいいんだよ?」みたいなさ。でも、そういうやつって面白い音楽をやりそうな気がするの。そういうやつらがロマンを持てるようなものをオレはつくりたいのかな。

まだまだ、ロックはキャッチャー・イン・ザ・ライとして機能すると。

峯田:うん、オレはそう思っているけどね。

(後編へつづく)

取材:磯部涼(2014年1月16日)

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Profile

磯部 涼磯部 涼/Ryo Isobe
1978年、千葉県生まれ。音楽ライター。90年代後半から執筆活動を開始。04年には日本のアンダーグラウンドな音楽/カルチャーについての原稿をまとめた単行本『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』を太田出版より刊行。

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