Home > Interviews > interview with Lee Bannon - チルウェイヴからジャングルまで
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』はとてもシリアスな映画じゃない?だから近作も俺の中でかなりシリアスな作品にしたかったからこの映画のシリアスさを参考にしてこんな感じの作品に仕上げたかったというところで影響されたのはあるかもね。
■あなたはカリフォルニア州サクラメントでキャリアをスタートさせました。サクラメントとはどのような街なのでしょうか?
LB:とてもユニークな街だと思う。とくに“この街”っていう特徴的な音はなかったと思うんだけど、俺やデスグリップスとかの登場で、こういう音を鳴らすアーティストがいる街っていう認識ができたんじゃないかな。
■どのようにクラブ・カルチャーと関わっていくようになったのですか?
LB:自然に入っていった感じかな。正直なところ、最初は自分がやろうとしているドラムンベースが受け入れられるのかどうかもわからなかったから、始めは俺のヘッドホンの中だけで流れている音楽って感じだった。だけど、ライブをやるようになってから、自分の音楽がみんなに自然と受け入れらていったんだ。
■レコードからサンプリングをしているようですが、普段はどのようなスタイルで音楽を聴いているのでしょうか?
LB:実は、最近はもっぱらデータばっかりなんだ。もちろんCDやレコードも買うけどほとんどデータだね。
■今回はライヴ・セットを披露しますが、DJもするのでしょうか?
LB:普段はあまりDJはしないんだよね。基本的に自分の曲だけでセットを作っているよ!
■ヒップホップのアーティストが最初に使う機材はアカイのサンプラーであるMPCの場合が多いですが、あなたはローランドのドラムマシーンで作曲をはじめました。この最初の機材との出会いは、いまのあなたにどう影響していますか?
LB:最近はまたMPCを使いはじめているんだ。俺にはロジック(アップルの音楽制作ソフト)よりもこっちの方が、音的にしっくりくるんだよね…….他にローランドのSP555(サンプラー)を使っていて、これはエフェクトには最適なマシーンなんだ。このローランドのマシンは俺に新しい音の使い方を示唆してくれたりする。最初の入り口が生楽器ではなかったから、いまでもサンプラーやドラムマシンから影響を受けていると思うよ!
■あなたに影響を与えたヒップホップのアーティストを教えてください。
LB:実は最近はあんまりいないんだけど……。ラキムとかは好きだったよ。Jean-Luc King Brownもいいよね。
■フライング・ロータスが主催する〈ブレインフィーダー〉周辺では、現在も実験的なヒップホップを作るプロデューサーが多くいますが、彼らのことをどう思いますか?
LB:いいんじゃないかな。いろんなジャンルの垣根を越えて、例えばフットワークとか新しいものを作っているわけだし。
■あなたはファースト・パーソン・シューター名義で『モービリティ・フォー・ゴッズ』というチルウェイヴ的な作品を発表しています。なぜこの作品は生まれたのでしょうか?
LB:このプロジェクトは友だちとやってる超レフトフィールドなものなんだけど、チルウェイヴよりもっとアンビエント寄りのことをやりたかったんだ。例えばここに来る間に15時間飛行機の中で作った音が結構良かったから、もっと完全なアンビエントな作品としてまとめてもいいかなって思ってる。環境音楽的なものを入り口として広げていくのも悪くないね。
■ファースト・パーソン・シューターとして曲を発表したとき、あなたは自分の素性を明かすことはありませんでした。リー・バノンも本名ではありません。どのように名義を分けているのですか? またあなたにとって匿名性とは何でしょうか?
LB:匿名性ってのは、もっと自分を大きく見せるツールのひとつでもあると思うんだよね。なんていうかもっと自分とは切り離された別物というか……。例えば、もし会社に行って自分が経理担当だとしたら、自分の名前が“経理”ってわけじゃないけど、“経理の仕事をした人”っていうことになるじゃない?でも家に帰れば自分自身に戻る。俺もそれと似た感じなんだ。それに違う音をやりたい時もあるから、そういう意味でも都合がいいというか。その音がその名前に帰属するというか、その名前によってその音だと認識して貰いんだよね。
■カリフォルニアからニューヨークへなぜ引っ越したのでしょうか?
LB:ジョーイ・バッドアスのため、っていうのがいちばん大きい理由かな。俺は、彼の作品のプロデュース以外にツアーのDJもやってたりするから彼の近くにいる必要があるしね。
■ニューヨークおける音楽のシーンはどのような感じなのでしょうか?ドラムンベースやヒップホップに限らず教えてください。
LB:ニューヨークのシーンは大好きさ。バイブや雰囲気がいまの俺の感じにとても合っているのもあるしね。ドラムンベースやヒップホップ以外にもボサノヴァとかのシーンもあるだろうけど、そこまでいろんなシーンはないんじゃないかな(笑)。
■ジュークはBPMがドラムンベースに近いため、両方をプレイするDJが増えてきました。あなたにとってジュークはどのような存在なのでしょうか?
LB:俺にとってのジュークは、DJ アールや友だちのテックライフ、DJラシャドとかのことなんだ。次はカナダでラシャドと一緒のイヴェントに出る予定だよ!
■今回の作品を制作するうえで、影響を受けた音楽作品はありますか?
LB:今夜出演する予定のソース・ダイレクトなんかよく聴いていたよ! だから今回のブッキングはすごく嬉しかった。さっきみんなで夕食に行ってきたんだけど、ナイス・ガイだった。それと『エクササイズ・アンド・ディーモン』は影響された作品だね。
■今作のインスピレーションの源として、ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を挙げています。この作品のどのような部分にインスパイアされたのでしょうか?
LB:インスパイアされたというより、対比したものの参考にしたと言う方が正しいかな。この映画はとてもシリアスな映画じゃない?だから近作も俺の中でかなりシリアスな作品にしたかったからこの映画のシリアスさを参考にしてこんな感じの作品に仕上げたかったというところで影響されたのはあるかもね。
■お気に入りの映画とサウンドトラックを教えてください。
LB:オリジナル版の『コスモ』のサントラは凄くいいね。最近だったら『ネッフルマニア』のサントラが良かった。
■既存の映画のサウンドトラックを作り変えられるとしたら、どの映画を選びますか?
LB:うーーーん、良い質問だね(笑)。そうだな、もし出来るとしたらフランス映画なんだけど『ブルー・イズ・ザ・ウォーメスト・カラー』っていう映画のサントラをやりたいかな。
■「同じことを2回しない」ことを信条としていますが、今後はどのような作品を発表する予定ですか?
LB:今俺は新しいステージにいると思ってるんだけど、しばらくはいまのサウンドを追求していきたいかな。そしてまたそこから新しい可能性を見つけて発展させたい。もちろんジャングルやジュークも先にはありえると思うけどね。
■昨夜大阪公演でエイフェックス・ツインの“ウインドウ・リッカー”を演奏されていましね。
LB:(笑)! そうなんだよ。俺、彼の大ファンなんだよね。彼の音って不思議の国のアリスの兎のように追いかけても追いかけても捕まらないっていう不思議な音速感があるんだよ。
この取材から1週間後の27日の朝、DJラシャドの訃報が舞い込んできた。新作の『ダブル・カップ』は最高の1枚で、このマスターピースを携えて、彼はほんの少し前に〈ハイパー・ダブ〉のイヴェントで来日したばかりだった。フットワークという言葉を彼は世界に広め、ジャンルを超えて多くのミュージシャンからリスペクトされてきた。フェイスブックページで、ワンマンやカーンなどの若手から、アンダーグラウンド・レジスタンスのような重鎮までが追悼の意を寄せるなか、そこにはリー・バノンのコメントもあった。彼はDJラシャドの死をどのように受け止めていくのだろう。ただ悲しみに暮れるだけでは故人は救われない。
新しいステージに足を踏み入れたバノンの次の作品には、ラシャドへのリスペクトが込められているはずだ。
取材:高橋勇人(2014年5月02日)
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