Home > Interviews > interview with Ogre You Asshole - ディフェンスよりも“黒歴史”を
1960年代って真空管の音だと思うんですけど、僕らはそれよりも後の、70年代的なアナログっぽい音が好きなんだと思います。トランジスタのディスクリート回路というか。(勝浦)
■『ペーパークラフト』を聴いて、ザックリと「70年代感」みたいなものを感じたのですが、あの時代の音楽に惹かれてるっていうのはとくにありますか?
出戸:それはありますね。
勝浦:最近はとくにそうですね。
■あの時代のどういうところに惹かれるかって言葉にできますか?
出戸:音質だと思います。
清水:81、82年あたりから、録音の機材が大きく変わってくるんですよね。どんどんデジタルの機材が普及していって。
出戸:たとえばシンセひとつとっても、アナログ・シンセとデジタル・シンセではぜんぜん音色がちがってくるんですよ。
勝浦:1960年代って真空管の音だと思うんですけど、僕らはそれよりも後の、70年代的なアナログっぽい音が好きなんだと思います。トランジスタのディスクリート回路というか。
清水:そうだね、トランジスタだね。
■たとえば“他人の夢”の間奏のギター・パートなどはどのようなアイディアだったのでしょうか?
馬渕:あれは最初、ブルースっぽいギターを入れてほしいという話だったんですけど、いいフレーズが思い浮かばなくて。ミニマルっぽいフレーズを重ねていくのはどうですか、と逆に提案してできたパートですね。
出戸:あそこはいいよね。
馬渕:あれ、12弦のアコギなんですよ。それがまたいい味を出しているんだと思います。
■今回はヴィンテージ機材のリストがついていたりとか、使う楽器の種類を増やしているのも意識的なことですか?
馬渕:機材に関しては、前から中村さんの持っているものを出してもらっているものがほとんどなので、今回に限った話ではないんですけどね。いろいろ勧めてくれるんですよ、「これどう?」みたいな。
出戸:それも、小出しにね。最初から全部教えてくれるんじゃなくて、「じつはこんなのもあって」みたいな。
馬渕:そうそう。「こんなものも持ってたんすか!」みたいな(笑)。いまだに驚くことが多いです。
■中村さんとの仕事は石原さんよりも早かったと思いますが、どういう経緯だったのですか?
出戸:マスタリングを一度お願いしたことがあって、それで顔を知っているというのもあったんですけど、直感で選んだ部分もあります。当時は僕らにもそれほどレコーディングの経験がなかったので、スタジオやエンジニアによって音がどうちがうのかとか、マスタリングによってどう変わるのかとか、よくわかってないまま頼んだ部分もあったので。それで、最初は思うような音になかなかならなかったんですよね。
■自分たちが頭のなかで思い描く理想の音とズレている感じですか?
出戸:中村さんて、バンドが鳴らしている音をそのまま録るんですよ。イコライザーいじったり、パソコンで音を整えたりってことをしないんです。僕らが未熟だったら、未熟なものがそのまま録れるっていう。僕らがいまいるスタジオがそういう場所っていうのもあります。いいところも、恥ずかしいところもそのまま出るスタジオだと思いますね。
勝浦:実際は、ヘタなまま録れるという(笑)。
■僕も中村さんのマジックみたいなものがあるのかと思ってました。
出戸:いまって、プロ・ツールスとかを使って補正するから、多くのバンドが似通った音になりがちだと思うんですよ。そういう意味では、バンドの音をそのまま録ってくれる中村さんみたいな存在はすごく珍しいんです。中村さんの場合、マジックがないように見えるのにいい音に録るのがマジックなんだと思います。僕らのわからないところですごく色々やってるんでしょうね。
中村さんて、バンドが鳴らしている音をそのまま録るんですよ。僕らが未熟だったら、未熟なものがそのまま録れるっていう。(出戸)
■それはいい話ですね。また話が変わるんですけど、『ele-king』も毎年恒例の年間ベスト号が出る季節なのですが、みなさんが2014年の作品でベストを挙げるとすると、どうなりますか? 気にしているリスナーも多いと思うのですが。
一同:……(沈黙が訪れる)。
出戸:今年観たもの、聴いたものでもいいですか?
■大丈夫です。
出戸:映画は、ポール・トーマス・アンダーソンをDVDで全部観たりしてました。音楽は、サンタナの弟がやってるディスコのレコードがよかったです。
清水:ああ、あの女の人のピンクの水着のやつね!(注:Jorge Santanaの1978年のアルバム『Jorge Santana』のことだと思われる。)
勝浦:僕は、イタリアのプログレをよく聴いてたな。アレアとか、オパス・アヴァントラとか。
出戸:あれはよかったなー。
■普段はどこでレコードを買うことが多いですか?
一同:ディスク・ユニオン。
■やっぱりそうなるんですね!
出戸:やっぱり種類が多いし、価格も地方とかに比べると安かったりするので、どうしてもそうなっちゃいますね。地元にも、長野市のGoodTimesさんとか、松本のほんやら堂さんとかはたまに行きます。
■『タイニー・ミックス・テープス』という批評サイトがアリエル・ピンクを評論するときに、「レコード・コレクター・ロック」という言葉を使っていて、オウガにも当てはまる言葉だと思ったんですね。要は、レコードをたくさん集めている人の作るロックというものがあると。逆を言うと、ロックのフォーマットは過去に出つくしていると思いますか?
出戸:手法はある程度、出つくしているとは思いますけど、その組み合わせにはまだ試されていない領域があると思うし、あとは同じ曲でも歌う人によってぜんぜんちがう曲になったりするじゃないですか。組み合わせとか、伝わり方という意味では、「新しく感じられるもの」はまだまだ作れると思う。
勝浦:今回の「ミニマルメロウ」というのも、そう思えたわけだしね。
受け取る側にも、受け取りに行く姿勢みたいなものがあってほしいし、そうでないと通じない部分もあるとは思いますね。(勝浦)
■なるほど。とすると、オウガ・ユー・アスホールは、リスナーには一定のリテラシーが必要だと考えますか?
出戸:どういうことだろう?
■つまり、アートに関する知識というか、作品を理解したり、解釈する能力だったりをリスナーに求めるか、という質問です。
出戸:自分たちの音楽が完全にアートだとは思ってないんですよね。ライヴだったらグルーヴとか、ビートだけでも伝わるものはあると思うから。
勝浦:でも、ある程度は知識というか、自分から受け取りにいく姿勢みたいなものがないとね。たとえば、子どもはマクドナルドがいちばん好きだったりするじゃないですか。そのままでは煮物の渋い味わいとか、複雑な味っていうのはわからない。だから、J-POPのわかりやすい泣きの進行とか、みんな好きだったりすると思うんだけど。そういう意味では、受け取る側にも、受け取りに行く姿勢みたいなものがあってほしいし、そうでないと通じない部分もあるとは思いますね。
■清水さんの2005年くらいのインタヴュー(http://idnagano.net/interview/2005/10/vol02.php)を拝読したのですが、「わかる人だけ来ればいいっていうのではなくて、良いものを解るお客さんを増やしたい、育てたいと思う気持ちが強いです。偉そうですけど、何が面白くて何が高度な表現かっていうのをわかってほしい」と語られているのが非常に印象的で、いまのオウガもそのような役割を担う側に来ているんじゃないかと思うんですが。
清水:まあ、あのときは「ライヴハウスの人」って立場で話していたので、そういうこともちょっと言ってみたんですけどね。いま聞くと恥ずかしいです。でも、作り手としてそういうことを言葉にしてしまうと格好悪いというか、説教くさい感じがしますよね。それはちょっと格好つけて言うと、後ろ姿で伝わればいいことだと思うので。
■なるほど。では、質問を変えましょう。そういう役割をオウガが担えているとしたら、うれしいことですか?
清水:そりゃあ、うれしくなくはないですけど……。
勝浦:まあ、ぜんぜん担えてないと思いますけどね。
出戸:うん。それに、たとえばクラウト・ロックをリスナーに教えるためにバンドをやっているわけじゃないですからね。そこを目的にしちゃうのはちがうと思うし。あくまで結果として、僕らを好きになってくれた人が、僕らの音楽から派生してクラウト・ロックなり、他の音楽を聴いてくれることはあるかもしれないけど、そこは目的じゃないと思う。
勝浦:それはもちろん、そうだね。
清水:「RECORD YOU ASSHOLE」みたいな番組をやってることもあって、そういう「教育者」みたいな立場で話を訊かれることが増えているのかもしれない。でも、教育者ってかんじでもないしね。
勝浦:教育なんてできる立場にない(笑)。
出戸:もっとすごい人たちはいくらでもいるので。
他のバンドがやっていることにそれほど興味がないのかもしれないですね。(馬渕)
(同世代のアーティストについては)歳が近いからこそ、嫌な部分が見えちゃうことが多いのかもしれない。自分を鏡に映して見るような気分になってしまって。(勝浦)
■国内のミュージシャンで、リスペクトできる存在といえば?
出戸:ROVO、メルツバウ、山本精一さん、ヒカシューなど、いっしょにやらせてもらった中でもリスペクトできる人はたくさんいます。
■では、下の世代、たとえばいわゆる「TOKYO INDIE」と括られるバンド群って、気にしていますか?
勝浦:気にしてないですね。
出戸:森は生きているみたいに、対バンする機会があれば聴きますけど……。あまり詳しく知らないので、何ともいえないです。
馬渕:「TOKYO INDIE」に限らず、他のバンドがやっていることにそれほど興味がないのかもしれないですね。
清水:憎んでるでも、避けているわけでもないんですけど、たんに縁がないっていうか。まあ、作り手なんでそんな感じでいいように思いますが。
馬渕:長野にいるので、そういう最新の情報とかも自分で求めないかぎりは入ってこないしね。
■同世代とのヨコの連携もあまり見ない印象なので、孤独じゃないのかな? と思ったりもするのですが。
出戸:田我流とかがいるかな。彼はすごいリスペクトできますけど。
勝浦:あとはなんていうか、歳が近いからこそ、嫌な部分が見えちゃうことが多いのかもしれない。自分を鏡に映して見るような気分になってしまって。70年代の人とかだと、対象化できるくらい遠くに離れているから、関心を持つうえでの条件もいいんですよね。
■なるほど。超然としているというか、『ペーパークラフト』にしても、2014年という尺でどうこう、という作品ではないですよね。そういうものを感じます。
勝浦:いまっぽいやつって、2~3年で飽きちゃうことが多いんですよね。いま、CDを整理して売ったりしているんですけど、発売した当時に流行っていたものにかぎって、全滅に近いほどの買取価格なんです。逆に、家に残るのは時間の経過のなかで生き残ってきた作品が多いですね。
馬渕:あと、作った時代がわからないものを作りたいっていうのはあるかもしれないですね。リスナーとしても「これ、いつの音楽で、いったい誰が作ってるんだろう?」みたいな音楽に惹かれることが多いし。
守りに入るくらいだったら思い切って黒歴史を作りたい、とは思っています。(出戸)
■この三部作でオウガ・ユー・アスホールは何を達成したと考えますか? あるいは逆に、やり残していることはどれくらいありますか?
出戸:やり残していることがあるかはわからないですが、今回の『ペーパークラフト』ではとくに、コンセプトを深めるのとレコーディングを進めていくことが同時に、すごく自然にできたと思っています。それに、ジャケットやアートワーク、MVやアーティスト・フォトなどを総合的に作ることができたと感じています。そういうやり方ができるようになったのは、この三部作を通してだと思います。
■あえて名前を出しますが、ゆらゆら帝国が『空洞です』を作ったあとに、何年かライヴをやって、「『空洞です』の先にあるものを見つけられなかった」「ゆらゆら帝国は完全に出来上がってしまった」と言って解散してしまったことがトラウマになってるリスナーも少なくないと思うんですよ。
出戸:まだ次のことは考えてないですけど、少なくとも「これ以上のものは作れない」という感じではないよね。
勝浦:それもそうだし、次のアルバムで思いっきり失敗してもいいと思うんですよ。予測のつく範囲で守りに入ってしまうよりは、失敗したら失敗したでまたその次にいいものを作れればいいし。
出戸:もちろん、失敗したいわけじゃないですけどね。ただ、煮詰まって何もできなくなるよりはいいですよね。それに、何をもって失敗と言うのかっていうのもあるし。
■たしかに。
清水:リスナーの立場になってみても、考え過ぎて袋小路にいくよりは、いろいろなことをしてみてほしいよね。失敗作を聴くのも楽しかったりするし。
出戸:失敗したくはないですけどね。
一同:ははは(笑)
出戸:80年代にやらかしてる大物のミュージシャンもけっこういるじゃないですか。でも、それでそのミュージシャンがリスナーに見放されたかというと、そんなこともないわけで。そういう意味で、守りに入るくらいだったら思い切って黒歴史を作りたい、とは思っています。
大阪を皮切りにスタートした『ペーパークラフト』リリース・ツアーはすでに大盛況のうちに3公演を終了。来る12/27(土)には、恵比寿〈LIQUIDROOM〉にて東京公演が開催されます!
ツアー日程一覧はこちら
http://www.ogreyouasshole.com/live.html
■OGRE YOU ASSHOLE
ニューアルバム・リリースツアー “ペーパークラフト”
OPEN / START:
18:00 / 19:00
ADV / DOOR:
¥3,600(税込・ドリンクチャージ別)
TICKET:
チケットぴあ [241-735]
ローソンチケット [71374]
e+ 岩盤
INFO:
HOT STUFF PROMOTION
03(5720)9999
取材・文:竹内正太郎(2014年12月26日)