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僕は普通になるように勉強しているところもあるんです。普通になるというか、いちばん安定するところにベースの音を置きたいと思うんです。
■服部さんはNRQはじめ、穂高亜希子さんエミ・マイヤーさん、多数のセッションに参加されていますが、そうやって勉強している意識は──
服部:もちろんあります。さっき松村さんにノートの選び方がおもしろいといっていただきましたけど、僕は普通になるように勉強しているところもあるんです。普通になるというか、いちばん安定するところにベースの音を置きたいと思うんです。それが足りない意識はずっとあるんです。音大を出ているわけじゃないし、理論的な下支えがあるわけではない。理屈じゃなくて反射的にいま鳴っている音にもっとも安定する場所に音を置けて、でもそのうえであえてこっちをやるんだというのをやりたい気持ちがあるんです。それもたぶん自分の演奏に感じる怖さとかぶる部分もあると思うんです。直感だけで自分はこうだとがんがん進んでいけるタフは僕にはちょっとない。
■それはベースという楽器の役割と重なるものですか?
服部:そうですね(とやや留保するように)。
■たとえば、エミ・マイヤーさんと永井聖一さんの『エミ・マイヤーと永井聖一』はJポップですよね。その場合、Jポップの枠内でもっとも安定するフレーズを探すということですか。
服部:あのアルバムのレコーディングはけっこう楽しかったんですよ。普段やらない、でもJポップってふだん何気なく耳にするじゃないですか。聴いていたけどやってこなかった音楽をできる楽しさ、というか、いわれてみれば、ちょっとしたコピー感覚みたいなものが、それがいいか悪いかはさておき、あったかもしれません。
■アコベとエレベだと服部さんは自分はどちらの演奏者だと思いますか?
服部:いまはアコベですね。
■このふたつはともにベースですが、じつはまったくちがう楽器だと思うんです。それを両立させるのはたいへんじゃないですか?
服部:たいへんです――けど考えないようにしています(笑)。たいへんだと思うとやりたくなくなっちゃう。流れでエレキ・ベースをまた弾くことになったので、再開した年はけっこう後悔していたんですよ。そう考え出すとどんどんネガティヴになっていっちゃって(笑)、どっちも放り出したくなったりもしたんですが、いまはどっちも楽しいし、あまり考えないようにしています。ウッド・ベースにはウッド・ベースならではの雰囲気があるじゃないですか?
でもエレキ・ベースはものすごく剥き出しだと思うんです。エレキ・ベースには空気感がないぶんフレーズが問われる。そこがすごくおもしろくて、その経験がウッド・ベースにフィードバックされているところはあります。いまはそれが相乗効果になっていると思うんです。
■服部さんのいまの当面の目標はありますか? NRQでの活動にかぎらず。
服部:自分の作品はつくりたいとは思いますね。純粋に自分の作品はまだ出したことがないので。
■どういう形態でつくります?
服部:バンド形式ではないでしょうね。
■ベース・ソロですか、バール・フィリップスみたいな?
服部:そういうのはたぶんできない(笑)。曲をいっぱいつくって、ひとりでできるのを選んでそれをちゃんとやりたいとは思います。
■NRQのアルバムに採用している各人の曲数ってだいたい同じじゃないですか? 牧野くんがいちばん多くて、吉田さん服部さんの順ですよね。ルールでもあるんですか?
服部:そんなことはないですよ(笑)。がんばりしだいですけど(笑)。曲数を増やすとか、そういった作戦は僕のなかであまり練らないようにしているんですよ、あくまで流れのなかでやっていこうと思っています。
自分は芸大に行っていて最近はあまりないですけど、芸術やアートに対するアレルギーがあったんです。僕はアーティストより職人になりたい気持ちが強いんです。
■いまは演劇の劇伴の仕事もやられているんですよね。
服部:さほど数があるわけじゃないですけどね。
■新たに進出したい分野はありますか?
服部:仕事ということでいえば、もっとギャラがいい仕事をしたいとは思いますけど(笑)。
■そんなナマナマしい話してんじゃないですよ(笑)。服部さんはどんな仕事でも断らない?
服部:基本的に断らないです。
■職業意識ということですか?
服部:職人に対する憧れのようなものです。自分は芸大に行っていて、最近はあまりないですけど、芸術やアートに対するアレルギーがあったんです。僕はアーティストより職人になりたい気持ちが強いんです。
■職人的なベーシストというだれを思い出しますか?
服部:僕のなかでは松永(孝義)さん、あとは渡辺等さん。
■松永さんには影響は受けましたか?
服部:受けていると思います。どこがといわれるとわからないですけど。
■松永さんも渡辺さんもタテヨコどちらも弾きますね。ああいうふうになりたいというより彼らの職人的な佇まいに憧れがある?
服部:そうです。
■演奏者にはイノヴェーションへの憧れもあると思うんです。ベースだとジャコ・パストリアスのようになりたい人はいっぱいいると思うんです。服部さんにはそういった考えは?
服部:それはまったくないです。職人的にしっかり下支えして、そのうえで自分のやりたい小さい作品ができたらいいと思うんです。自分の作品は職人性とは関係のないものですね。まだつくっていないのでわからないですけど。
■この3作、7年くらいNRQを続けて、中尾さんとのリズム隊はかなりこなれてきたと思いますが、そもそもNRQにはリズム隊という概念はあるのでしょうか?
服部:その考えはないかもしれないですね。全体のアンサンブルはありますけど、リズムと上物の関係性はないかもしれない。ほかのバンドでやるときは、けっこうドラムのバスドラを意識して合うように探っていくんですけど、NRQではそういった作業はしたことはないですね。いまいわれるまでまったく無意識だったんですが。
■演奏するときはなにをいちばん聴いていますか? NRQの演奏の中心になっているものということですが。
服部:完全に牧野くんのギターだと思います。ギターはリズム、メロディ、ハーモニー全部の要素をもっていて全体の軸になっているということですね。牧野くんはギターでベースラインを弾くこともあるので、彼のギターとの兼ね合いは考えますね。
■それでやりにくいとかやりやすいということも――
服部:いや、NRQはやりやすいです。でもあまり自由は感じない。ベースラインをきょうはちょっと変えてみようとか、そういう選択肢はNRQでは僕はあまり感じないです。思うに、牧野くんのギターには弾いていなくてもベースラインが決まってくる感じがするんです。吉田くんや中尾さんがどう考えているかはわかりませんし、曲にもよりますけど、僕にとってはわりと固定している気がします。
■でもアルバムを追うごとに自由度は高まっている気もしますね。
服部:それは感じます。“日の戯れ”とかはとくにそうですよね。あと“門番のあらまし”は自分的には新しいというか3枚めならではだと思います。NRQのアンサンブル法があるわけじゃないですけど、それに則ってそこにラテンを加えてみたような、ちょっと余裕というか遊び心が出る余地ができた気がします。
■その変化がNRQの成熟を物語っているのかもしれませんね。そのなかで私は服部さんの曲ももっと聴きたいので、次も楽しみにします。
服部:精進します(笑)。
取材:松村正人(2015年2月04日)
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