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interview with New Order

interview with New Order

我らがニュー・オーダー

──バーナード・サムナー、インタヴュー

野田 努    通訳:伴野由里子   Sep 14,2015 UP

曲作りでいちばん難しいのはいいメロディを書くことだ。ビートを作るのはさほど難しいことではない。いまではネット上でビートを買うことだってできるわけだからね。


New Order
Music Complete

[ボーナストラック収録 /大判ステッカー付 国内盤]
Mute/トラフィック

Indie RockElectronicDisco

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ジョイ・ディヴィジョンのときはポストパンク、ニュー・オーダーのときはディスコやエレクトロ、『テクニーク』のときはアシッド・ハウスとセカンド・サマー・オブ・ラヴなど、あなたはわりとムーヴメントとともにアルバムを作ってきたと思うのですが、『ゲット・レディ』以降は、音楽文化自体が、ムーヴメントなき時代に突入したました。そういう時代の変化と、ニュー・オーダーのやり方がズレはじめたと感じたことはありますか?

BS:ダンス・ミュージックに関しては多少あったね。ダンス・ミュージックが細かく区分化され過ぎてると感じた。ディープ・ハウスにファンキー・ハウスにアシッド・ハウス……という具合にジャンルが細分化され過ぎてしまって、ダンス・ミュージックの曲を書こうと思っても、まずどのジャンルに当てはまるかを考えなきゃいけないような気にさせられた。音楽はそうあるべきじゃないのに。
 今度の新作でもダンス・ミュージックをやっているけど、いまどんなサウンドが流行っている、といったことは一切考えずに作った。自分たち独自のことをやった。ダンス・ミュージックが一時期から細分化され過ぎて、作っていて拘束着を着せられているように感じた。「このジャンルはこのサウンドでこのビートじゃなきゃ駄目」といった縛りが多すぎるって。
 あともうひとつ感じたのは、ぼくたちは“ブルー・マンデー”でダンス・ミュージックにおけるパイオニア的存在だと見られていたのもあって、常に人がこれまで聴いたことのない音を出すことを期待されていた。でもそれって不可能なことなんだ。「新しい車輪を毎回発明しろ」と言っているようなものだ。それもあってダンス・ミュージックから少し距離を置こうと思ったんだ。ギターを核とした作品を作った。『ゲット・レディ』にしても『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』にしてもダンスの要素が薄れ、ギターが前面に出たアルバムになった。ギターで曲を作るときというのは、サウンドをそんなに気にせず歌をそのまま書けばいい。ギターの音は所詮ギターの音であって、ベースにしてもドラムにしても同じだ。サウンドのことをあれこれこだわる部分は少なく、単刀直入な作業だ。当時はそれが凄く新鮮だった。
 ジョニー・マーとやったElectronicの3作目、つまり最後のアルバムがギター中心のアルバムだった。その後の『ゲット・レディ』もギターが前面に出たアルバムだった。その後の『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』は少しエレクトロニックの要素もあったけど、ギターが主だった。その後ぼくはサイド・プロジェクトのバッド・ルーテナントで『ネヴァー・クライ・アナザー・ティア』というアルバムを出して、それもギター・アルバムだった。
 という流れがあって、もう十分ギター・アルバムはやったと思って、エレクトロニックなサウンドに戻るのにちょうどいま機は熟したと感じた。やりたくて飢えていたんだよ。ぼくだけじゃなく、スティーヴン(・モリソン)やジリアン(・ギルバート)もそう感じていたんだと思う。たとえるなら、ある食材を長い間全く口にしていなかったと想像してみて欲しい。チョコレートとか。で、ある時思い立ってまた口にしてみたら、美味しくてしょうがないと思うよね。それと同じで、今回またシンセサイザーを多用したことは、まるでおとぎの国にいるようだった。テクノロジーの進化がまた、制作をさらに面白いものいしてくれた。前はやりたいことがあってもそれを上手く音にすることができないこともあった。ジョイ・ディヴィジョンや初期のニュー・オーダーでは、持っていたシンセでかなり苦労をした。やりたいことがあっても、当時のシンセには限界があった。シンセそのものよりも、シーケンサーやコンピュータのテクノロジーがいまほど進んでいなかったから。それがいまはできるようになった。いまは音楽をまるで粘土遊びのように扱うことができる。曲やサウンドを粘土や石膏のように自在に形作ることができるようになった。それがすごく面白いと感じる。

アルバムのなかのジョルジオ・モロダー的なミニマルなビートに関しては、スティーヴン・モリスがファクトリー・フロアのような若いバンドに触発されたところがあるようですが、あなた自身がUKの若いクラブ・ミュージックに触発されることはありますか?

BS:う〜ん……ないかな。

なるほど。では、シングルのリミキサーで、たとえばですが、ジェイミーXXのような、クラブ系の若いタレントを起用することは考えませんでしたか?

BS:彼に限らず可能性はいくらでもあると思っている。リミキサー選びはこれからの作業になるから、いまからじっくり時間をかけて才能ある人を選びたいと思っている。ただ、いまの時代、可能性や選択肢が多すぎるというのも、それはそれで困ったものなんだよね。ニュー・オーダーの初期の頃はリミックスをお願いする人にしてもひとり、ふたりくらいしか選択肢はなかった。でも、いまは何百と優れたリミキサーがいる。いまの段階ではまだ話せないけど、いろいろ進めているものもあるよ。

マンチェスターの新しいシーンには関心がありますか? 

BS:さっきも若いクラブ・ミュージックに触発されることは「ない」って話をしたけど、ぼくの場合、音楽のインスピレーションは自分の内側からくるもので、外から受けるものではないんだ。最初に自伝の話をしたときにも話したけど、ぼくという人間の生い立ちから来るものなんだよ。

ニュー・オーダーの曲にはダンスもありますが、メロディアスな曲調もバンドを象徴していると思います。“レストレス”なんかは、ぼくには“リグレット”を彷彿させわけですが、あの当時“リグレット”は、サマー・オブ・ラヴが終わった感じをとてもよく表していました。そのセンで考えると“レストレス”にも時代が描かれているのでしょうか?

BS:おかしなもので、本来エレクトロニックなアルバムを作るつもりだったのに、アルバムの1曲目にアコースティック調な曲を持ってきたんだよね。まあ、それもニュー・オーダーらしいよ。矛盾だらけのバンドだ。「こうする」と言っておきながら、違うことをしてしまう(笑)。今回もエレクトロニック・アルバムだって言うのにアコースティックな曲で幕を開ける。なんでかって聞かれたら、これがシングルだからだろう。これまでもシングル曲を1曲目にしてきたことが多い。そして、君が言うように非常にメロディアスな曲でもある。
 曲作りでいちばん難しいのはいいメロディを書くことだ。ビートを作るのはさほど難しいことではない。いまではネット上でビートを買うことだってできるわけだからね。あるいは勝手にビートを作ってくれるプラグインだってある。当然、独自のサウンドのビートを作ろうと思ったら、もっと難しくなるわけだけどね。“ブルー・マンデー”のような独特のビートを作ろうと思ったら。それでもいちばん難しいのはいいメロディを書くことだと思う。曲を書く上でいちばん苦労する部分だ。で、今回いちばん意識した部分でもある。全員が今回いいメロディに重点を置いて曲作りをした。どの曲にもいいメロディが不可欠だと思った。
 “レストレス”は、我々がいかに慢性的な消費社会になってしまったかってことを反映している。大量消費ついて考えていたんだ。本当の意味では何も我々を満たしてくれないって。何かを買っても、数日間は満たされた気持ちになるかもしれない。でも、すぐにまたもとに戻ってしまう。だったら何が自分を幸せにしてくれるのかって疑問に思った。お金では買えないもので自分を幸せにしてくれるものは何かって。この曲は消費者主義に対するぼくなりの所見を述べている。消費者主義を批判しているわけではない。誰もが消費者はわけで、ぼく自身も一消費者だ。つい先日もApple Watchを購入したばかりだ。立派な消費者さ。でもふと考えたんだ。個人のみならず、社会全体をより幸せに、より満たしてくれるものは何か?って。
 現代社会において、日々の生活のなかで満たされる気持ちがどんどん欠けてしまっているんじゃないかって思うんだ。それは我々が消費することに取り付かれていることに起因しているのではないかって。例えば大量消費とは無縁の熱帯の島で暮らしている人たちに比べたとき、彼らのほうがずっと満たされた生活を送っている。例えば日本の何処かの島ないしは沿岸の漁村に住む人たちは非常に素朴な生活を送っている。消費者主義とは無縁の彼らのほうが幸せなんじゃないかなって思うんだ。(この曲は)批判しているわけではないし、所見というよりも、むしろ疑問に近い。「何が我々を幸せにしてくれるのか」「何が我々の生活をより幸せにしてくれるのか」「いかにして我々は嘗てあったものを失ってしまったのか」という。大きな疑問だね。

そうした資本主義の行き過ぎてしまっているような社会状況に関連した歌詞は今回のアルバムの大きなデーマのひとつと言えるのでしょうか?

BS:アルバムを通してひとつの大きなテーマがあるわけではない。歌詞に関して言うと、ぼく自身のことを歌っていると思われることが多いんだけど、必ずしもそうではないんだ。架空の人物や架空の人物たちについて書いた、自伝的でない曲を書くことだってある。人間関係についての歌にしても、ぼくの実体験というよりも、作り話であることだってある。
 今作の曲にしても歌詞の内容は多岐にわたっている。自分の歌詞を解説するのは好きじゃないんだ。自分の歌詞を聴いた人が、その人なりの解釈を加えることで、聴き手側も関与する、曲を介した双方向の対話になったほうが、ただ聴き手が受動的に曲を聴くだけよりもいい。それに、ぼくの歌詞は抽象的なことが多い。そもそも音楽はもっとも抽象的な芸術的表現だ。絵画における抽象画が登場する以前から、音楽は常に抽象表現だった。人びとはいくつかの和音を組み合わせたり、旋律を書く、あるいは太鼓のリズムを作ることで音楽を表現した。言葉などを使って具体的な何かを示しているわけではない。完全な抽象芸術だ。
 実はアルバムのタイトルを『アブストラクト(抽象的)』にしようかとも考えたんだ。なかなかいいタイトルだといまでも思う。でも実際、曲に歌詞をつける段階で、書き手としては抽象的であることを諦めなければいけなくなる。言葉で曲に意味をつけなければいけない。さらにはそれを聴き手が解釈をする、ということを念頭に書かなければいけなくなる。最初の頃はそこにかなり抵抗があった。ニュー・オーダーの初期の頃。自分のことを語るのが苦手だった。自分が何を考えているのか人に知られるのが嫌だった。自分だけの大切な逃げ場所だったから。でも、バンドのシンガーになったことで、自分の殻から出ることを強いられた。だから最初の頃は非常に曖昧な歌詞を書いた。ぼんやりとした表現をすることで真意をわざと隠した。いまでも自分の歌詞はそういう要素を引きずっていると思う。いまは、表現はより明瞭になったかもしれないけど、想像上の物語だったり、架空の人のについて書くようになった。ちょっとした短編小説のようにね。

バンドとしてもアルバムを完成させるのにとにかく集中して力一杯取り組んだ。作業に費やした時間も長かった。クリスマスでも週に50時間働いた。仕上げの1ヶ月は週に70時間働いた。それくらい大変な作業だったけど、そこまで頑張ったからこそ出来たアルバムには凄く満足しているよ。

シンガーという話が出ましたが、『ミュージック・コンプリート』を聴いてもうひとつ思ったことがあります。あなたは以前よりも歌がうまくなっているんじゃないかということなんですが、ご自身ではどう思いますか?

BS:ミュージシャンとしてもシンガーとしても常に成長していると思う。音楽をやってれば、必ず何か新しいことを学ぶ。だからいつだって成長し続けている。だからこれだけ長くミュージシャンを続けられているんだと思う。学校に通っていたときと違ってね。
 学校は大嫌いだったよ。学校で教そわる科目も嫌いだったし、先生も嫌いだった。つまらないと思ったし、だから勉強する気になれなかった。学校で教えてることがたわいもないものにしか思えなかったから、知識として得ることができなかった。それに比べて音楽は興味をそそられた。音楽のことを学ぶ過程にも興味が尽きなかった。ぼくをはじめ、バンドの全員が独学で音楽を身につけた。他のミュージシャンを聞いて学んだり、彼らのことを読んで学んだり、実際に自分たちでプレイすることで学んできた。人から教わるのではなく。全て独学で覚えた。その辺りがクラシックのミュージシャンたちとは違う。
 決して彼らが間違っていて自分のほうが正しいと言ってるわけじゃない。そうやって独学で習得する部分がぼくとしては気に入っている、というだけ。いまでも学ぶことはたくさんある。そしてぼくはヴォーカリストだ。昔と比べて、ヴォーカリストであることに慣れて自信が持ててきたといのはある。ニュー・オーダーの初期の頃はヴォーカリストであることが苦痛だった。そもそもヴォーカリストになんてなりたくなかったわけで。イアンが亡くなったからそうするしかなかった。でもいまは、自分がシンガーという事実を受け止めて、やるべきことをやると割り切っている。……それでも難しいけどね。
 いつも、曲が先にでき上がるんだ。今作では3つのグループに別れて曲作りをした。スティーヴンとジリアンは彼らのスタジオで曲作りをして、トムとフィルはスティーヴンとジリアンと共同で作業することもあれば、トムの家で自分たちで作業することもあった。ぼくもスティーヴンとジリアンのスタジオまで行って彼らと作業することもあったけど、かなりの時間をいまいる自宅のこの部屋で過ごした。すごく狭い部屋をスタジオとして使っているんだ。邪魔されることなく作業に集中できる。一つのスタジオに全員が集まって作業する代わりに、そうやって今回は曲作りを進めた。そこでできた曲やアイディアをみんなで持ち寄るんだ。ぼくが発案したアイディアを誰かが発展させることもあったし、他の人のアイディアをぼくがさらに発展させることもあった。正直、凄く集中力を要した張り詰めた制作プロセスだった。「凄く楽しんで作ることができた」とは決して言えない。というのも、ニュー・オーダーにとって重要なアルバムになるとわかっていたから。バンド内で起きた変化を経て、バンドの歴史においても節目となる作品だった。それだけに、バンドとしてもアルバムを完成させるのにとにかく集中して力一杯取り組んだ。作業に費やした時間も長かった。クリスマスでも週に50時間働いた。仕上げの1ヶ月は週に70時間働いた。それくらい大変な作業だったけど、そこまで頑張ったからこそ出来たアルバムには凄く満足しているよ。バンド全員が満足している。

トム・ローランズは3曲で参加していますが、彼が関わることになった経緯について教えて下さい。あなたは彼のどんなところに期待をしたのですか?

BS:ケミカル・ブラザーズとは、ぼくが個人的に参加した「Out Of Control」がこれまでもあったし、トムもニュー・オーダーと“Here To Stay”で共演している。これまでも何度か一緒に仕事をしたことがあったし、ケミカル・ブラザーズのふたりと考えも似ていると思っている。自然と噛み合う。だから今回もトムに何曲かプロデュースを依頼したいと思った。あまり保守的な人には依頼したくないというのもあった。勢いのあるトラックに関してはとくに。もちろんトム自身も好きなものがはっきりしているから、アルバム全部をお願いするつもりはなかった。結果的に2曲を手がけてもらうことになった。ケミカル・ブラザーズの音楽は非常に革新的で進歩的で、畳み掛けてくる迫力がある。だから今回彼が手がけた曲に関してはそういう彼ならではのテイストが反映してもらいたいと思ったんだ。

取材:野田努(2015年9月14日)

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