Home > Interviews > interview with POWELL - すべてのテクノが退屈に聴こえるとき
セックス・ピストルズとぼくが共有するものがあるとすれば唯一、彼らが登場したときの状況ぐらいかな。興味深い時代ではあったよね。そこで彼らはガラリと方向転換をはかった。音楽の可能性における別の選択肢を示したわけだ。ああいう姿勢を、もっとみんな示すべきだとぼくは思うな。何でもそうだけど、何か違うことをやろうとするのなら、ジワジワと違う方向へ押していくんじゃなくて、過激なまでに違うものをいきなり提示するのがいい。
Powell Sport XL Recordings/ホステス |
■じゃあ、パンク・ミュージックとの出会いについて教えてもらえますか。
P:さっきも言ったように、いわゆるパンクスだったことはないんだ。聴いてたのはジャングルとかドラムンベースだから。それからテクノ・ミュージックを知って、その後は2004年、2005年あたりにダブステップが出てきてからは2年ぐらい、本気で入れ込んだ。でも、それでエレクトロニック・ミュージックに飽きてしまって、あらためてパンクやポストパンク、インダストリアル・ミュージックを聴いたり、本で読んだりするようになった。ノイズとか、実験音楽、コンピュータ音楽も含めて、そこから5年ぐらいかけていろいろ消化していったんだ。後追い、だよね。「ジーザス、なんでこんなに色んなのをぼくは知らずに来てしまったんだろう!」って感じで。
なんで、ずっと音楽の旅を続けていて、どこか特定の場所に沈没することはなかったんだ。その代わり、あらゆる音楽を楽しんでこられた。とくに……、なんだろう、それぞれ理由があって何でも好きなんだよな、明瞭な姿勢があるやつ、とか、そういう条件はあるけど……、まあ、願わくばぼくの音楽に、何か特定のひとつからの影響だけでなく、あらゆるものから受けた影響が組み合わさった何かが聞こえていてほしい。だからこそのPOWELLミュージックだと思ってるんで。
■たしかに折衷的な音楽性で、いったいどこから作りはじめるんだろう、何がヒントになるんだろうと考えてしまうわけですが、例えばアルバム冒頭の不快にも思えるノイズとか。多幸感溢れるクラブ・ミュージックとは対極ですよね。
P:うん、だけど、自分ではあれが不快だとは思っていない。まあ、ある意味そうなのはわかるけどね。アルバムの冒頭であれが鳴るのは不快ではあるかもしれない。でも自分ではそうは思わないし、耳障りな音だから使った、というのでは決してない。気に入ったから使ったんだ。だから、あの音楽をクラブでプレイするときは、やっぱりみんなを不快な気持ちにさせたいからじゃなくて、純粋にその音がいいと信じているからで。
■はい。
P:イライラさせるのが狙いではなく、ぼく自身は大好きで、すごくいい音だと思って使っているわけ。あと、ぼくが使う音って、けっこうブライトでプラスチックなんだよね。歪んでるって言う人が多いんだけど、そんなことはない、かなりのハイディフィニションだ。そういう高周波がぼくは大好きで、脳みそに聴いている音楽について考えさせる効力があるように思う。いつもベースとキックドラムとサブベースにばかり依存するんじゃなくて。そういう低音は伝統的に体に訴えてくるものとされているけど、ぼくは頭のど真んなかと胸の真んなかと、両方にドリルをねじ込んでくるような音のコンビネーションが好ましいと思ってる。
■さっき名前を挙げたレーベルの作品は、とても知的だけれどもときにシリアスでオタクっぽさもあるのに対して、あなたのレーベルの作品はそれもありつつ、実験的で、すでに話に出たようにユーモアが必ず含まれている。そこがあなたやあなたのレーベルの作品の好きなところだ、と質問者は言っています。
P:それはまったくその通りだし、ぼくらの見解そのものだよ。ぼくらはみんな、背景は似ていて、音楽的にも……クレイジーで意外性があってファニーで美しくて……というのが好きだし、そういうのをライヴでも、リリースするレコードを通じても届けたいと思ってやっているのも同じだけど、要は自分らしさ、だね。
■あなたのクラブ・ミュージックEPをフランケンシュタインのモンスター・サウンドと称した人がいるそうですが……
P:うん。
■それは認めます?
P:あぁ。
■わかりました。ところで、その後、スティーヴ・アルビニから折り返しの連絡はありましたか。
P:Yeah yeah yeah! Eメールで話してるよ。あれはぼくが彼を攻撃する意味合いじゃなかったんだ。彼が言っていることをぼくもその通りだと思ったから、発言を引用したんだよ。コミュニケーションの機微ってやつをみんなわかってないんだな、と思った。ぼく自身は間違いなく、スティーヴと同じ考えだ。あのEメールに名前が出たバンドをぼくも大好きなんで、スティーヴ・アルビニの声を借りてぼくがしゃべっている、という主旨だったんだけど……。彼は理解してくれている。
でもま、あれがきっかけで興味深い会話があちこちで生まれて、みんなが音楽の状況について語り合うようになったらしいから、ね。ロック・シーンからパンク、エレクトロニックからEDMに至るまで、色んなジャンルの人を巻き込んで、あの一風変わった広告から議論が巻き起こったんだから面白い。ヘンな広告ではあったけど、あれはぼくがスティーヴの言うことに賛同したから出したんであって、反論の意味ではなかった。
■みんな誤解してますね。しかし、ホワイト・ノイズ、ゼネキス、スーサイド、クラフトワーク……とくれば、あなたのやっていることと共通点は多いですもんね。
P:まったく、その通り。
■では、ここでNHKのコーヘイ・マツナがの話を。あなたのレーベルから出していますが、彼の作品についてはどう感じていますか。
P:コーヘイはスゴイよね。たしか2008年に彼はラスター・ノートンから1枚、「アヌミニアム(Unununium)」ってレコードを出している。黄色と白のやつ。〈Raster-Noton〉がやってたシリーズの一環だったと思う。あれで俺が考えていた音楽の可能性が、ガラリと変わったのを覚えてる。ぼくは最初のレコードをやるにあたってコーヘイに 「ハイ! ロンドンのオスカーっていいます……」 みたいな手紙を書いたことがあったんだけど、それからまたたまに話しをするようになったり……って感じで、割と自然な流れでリリースが決まったんだ。それってスゴくない? ヒーローだったコーヘイと5年ぐらいしたら一緒に仕事してるんだから。最高だよ。すごく感謝してる、彼に対しても、だけど音楽というものに対して。音楽のおかげでぼくは彼に信頼して任せてもらえるようになったんだから。音楽ってスゴイよ。
■イーロン・キャッツは?
P:イーロンもだけど、みんな経緯は似たり寄ったりで、自然と出会った人たちなんだ。知らない人のレコードをリリースしたことはない。決まって、家族なり友だちなりってのが先にある。インターネットの中だけに存在する実体のないレコード・レーベルを作るのなんて、お安い御用さ。ただ、それがどういう方向へ進んでいくか、となるとレーベルに関わる人間どうしのつながりがすごく重要になってくるからね。
■ふたつ名前をあげます、まずはセックス・ピストルズ。彼らと音楽的に、あるいはメッセージなど姿勢の上で、何か自分と共通するものはありますか。
P:う~ん、ないな、別に。パンクを踏まえてるって意味では通じるところはあるけど、う~ん……、セックス・ピストルズとぼくが共有するものがあるとすれば唯一、彼らが登場したときの状況ぐらいかな。興味深い時代ではあったよね。そこで彼らはガラリと方向転換をはかった。音楽の可能性における別の選択肢を示したわけだ。ああいう姿勢を、もっとみんな示すべきだとぼくは思うな。何でもそうだけど、何か違うことをやろうとするのなら、ジワジワと違う方向へ押していくんじゃなくて、過激なまでに違うものをいきなり提示するのがいい。
■もうひとつの名前はアンドリュー・ウェザオール。知っていますか?
P:もちろん! 会ったことあるし。
■あ、面識もあるんですね。
P:うん、一度だけ、あれは……スイスか、去年の夏に。すごい人だよね。イギリスの音楽界ではアイコンのような存在だから、みんなリスペクトしてるよ彼のことを。ぼく自身はあんまり彼の活動をフォローしてなくて、長年追いかけてますって感じじゃないけど、英国の音楽に大きく貢献した人だから当然のようにリスペクトしている。
■ありがとうございます。最後に、POWELLという自身の苗字でレコードを出すことにしたのはどうしてですか。
P:ほかに名前を思いつかなかったから。
■(笑)
P:いや、他にも名前は山ほど考えた。でも、どれもピンとこなかったから本名にしたんだよ。
(以上)
質問:野田努+染谷和美(2016年11月16日)