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Home >  Interviews > interview with Shota Shimizu - 10年目の情熱

interview with Shota Shimizu

interview with Shota Shimizu

10年目の情熱

──清水翔太、インタヴュー

取材・文:二木信    写真:小原泰広   Feb 27,2017 UP

清水翔太 - FIRE
MASTERSIX FOUNDATION

J-PopR&BSoul

(初回生産限定盤)
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(通常盤)
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 R&Bシンガー、清水翔太のデビュー10年目にしての並々ならぬ情熱が伝わってくる。清水が2016年にリリースした通算6作目となる『PROUD』が素晴らしい。それまでの彼の音楽から劇的な変化を遂げている。ゴスペルがあり、ヒップホップ・ソウルがあり、トラップがある。伝統的なリズム&ブルースの濃厚な味わいとJ・ポップの折衷があり、モダンR&Bのメロウネスがある。ドレイクやリアーナの影がちらつく。

 別の言い方をしてみよう。KREVAが最新作『嘘と煩悩』で「歌えるラッパー」としてのプロダクションの可能性をさらに追求したとすれば、清水は『PROUD』で「ラップするR&Bシンガー」の次なる可能性を提示している。日本語を母国語とする人びとが生み出したJ・ポップという音楽産業の荒波の中で――。

 「くだらないラブソングを聞いて/何がくだらないか見抜こうよ」「キツめの言葉でごめんなさい/でも、これで俺に保険はない」(“Good Conversation”)。清水は自身の想いをクールなテンションでそうラップする。清水は自ら曲と歌詞/リリックを書き、ビートを打ち込み、アレンジもこなす。言葉からは、彼の複雑な、そして熱い想いが滲み出している。

 日本語ラップ・ファンであれば、ラッパーのYOUNG JUJUが清水の楽曲を引用して話題となったことを知っているだろう。そんな清水は『PROUD』のリリース後、「My Boo」、そして先日「FIRE」という2枚のシングルをリリースした。“FIRE”は『PROUD』の経験を経て完成したヒップホップ・ソウルである。変化のときを迎えている清水翔太がいま何を考え、創作しているのか。おおいに、そして情熱的に語ってくれた。

清水翔太 『FIRE』Short Ver.

とにかく意味をわからせる、共感してもらう、みんなの耳に馴染みやすい音楽を作る、ということをずっと意識してやってきたんです。『PROUD』以降はそういう自制がかかるところを一切なくしたんです。

『PROUD』で音楽性が大きく変化した部分があると思います。その点についてまずお訊きしていいですか?

清水翔太(以下、清水):そうですね。僕の中でベスト・アルバム(『ALL SINGLES BEST』 2015年)を出すまではCDを出せることへの感謝というところで、自分を見つけてくれた人たちであったり、なるべく色んな人に還元できるようにしたいという感覚が強くあったんです。自分の音楽だし、そういう作品たちもすごく大事なんですけど、自分のエゴはあんまり出さずに、何を求められているかとかそういうことを考えながらやっていました。それをベスト・アルバムを出すことでリセットしたいというか、恩返し的なことは一旦終わりにしたんです。もちろんプロである以上は数字に対しての目標はつねにあるんですけど、その方法をちょっと変えていきたい、自分のやり方で狙っていきたいという思いが強くなった。実際にこれが売れるとみんなが信じているものをトライしてみてもいまいち思ったような結果が出なかったのもあって、自分のやり方で自分の音楽を主張することによっていまよりいい結果が出るかもしれないと考えるようになりました。でも、「じゃあどうすればいいのかな?」と考え始めたら、今度は全然曲が書けなくなってしまった。それでいまの環境でやっていることをやめて、いちど海外に住んでみようかなと思って、実際にLAに家を探しに行ったりとかもしました(笑)。

『ALL SINGLES BEST』を出したあと、『PROUD』をリリースする前ということは2015年くらいですか?

清水:そうですね。2015年だと思いますね。LAから帰国して思いっきり恐れずに自分の好きなことをやりまくる作品があってもいいのかなという気持ちになって、そういう気持ちにシフトした瞬間にバーッと曲ができて、『PROUD』が完成した。数字や評価よりもライヴをやってみたらすごく良くて、「これでいいのかな」という気持ちになれた。そういう経緯で作った作品でしたね。

USラップ・ミュージックやR&Bなどリスナーとしての清水さんが普段聴いている音楽をこれまで以上に創作に活かしていくというか、ダイレクトに直結させた作品なのかなと聴きました。先ほど「自分のエゴを出したかった」とおっしゃっていたじゃないですか。あるインタヴューで『PROUD』について“ドープ”という言葉を使って説明されていたと思うのですが、自分のエゴを出した部分はどういったところなのでしょうか?

清水:あんまりジャンルは意識していなくて、その瞬間に鳴らしたい音、言いたいことをバーッと言っちゃうみたいな感じで作りました。それまでは、これはちょっと言わないほうがいいかなとか、これは(リスナーが)意味がわかんないかなとか、自分でセーブしていたんです。とにかく意味をわからせる、共感してもらう、みんなの耳に馴染みやすい音楽を作る、ということをずっと意識してやってきたんです。『PROUD』以降はそういう自制がかかるところを一切なくしたんです。

例えば、タイトル曲の“PROUD”はラヴ・ソングという形を採りながら、音楽への愛や人生における向上心など複数の意味が折り重なっていますよね。

清水:そうですね。本当の意味でのラヴ・ソングは“lovesong”ぐらいしかないと思います。他の曲はラヴ・ソングっぽい書き方をしていても別の対象について歌っていたりしますね。このアルバムには裏テーマがたくさんあるんです。例えば、BUMP OF CHICKENに“K”って曲があって、けっこう好きな曲なんです。で、その曲の裏の意味や“K”というタイトルの意味について本人たちはそこまで説明していないんですけど、みんながそれを解明しようとしているんですよね。

リスナーとかファンが?

清水:そうですね。で、それを動画にしたりしている。『PROUD』について「この曲のここの歌詞は本当はこういうことを歌っていて……」という深読みをしてくれるんじゃないかと思っていたら誰もしてくれなかった。それはそれで意外と寂しいなと(笑)。

ははは。ただ、“Good Conversation”はわかりやすいですよね。「くだらないラブソングを聞いて/何がくだらないか見抜こうよ」とか、「キツめの言葉でごめんなさい/でも、これで俺に保険はない」とか、清水さんの先ほど語った気持ちを率直に攻めの姿勢でラップしています。

清水:そこはわかりやすいですけど、他にも裏テーマがあって意味深なところのある曲がアルバムの中にいっぱいあると思うんですけど、誰も言ってくれないなって……(笑)。なので、いまは自分だけの裏テーマみたいなものはそこまで入れずに作っていますね。

“MONEY”では、お金をテーマにして歌っていますね。「カネ」はヒップホップやラップの定番テーマでもありますね。青山テルマさんとSALUさんがラップしています。

清水:テルマにラップしてほしいなという思いがずっとあって、トラックが先にできてとりあえず軽いデモを作ってみようというところから始まりました。ヒップホップ的な観点だと、「俺は金を持ってるぜ」とかそういうリリックが多いじゃないですか。だからあえて“MONEY”というタイトルにして、お金が軸じゃなくて、男にお金を使って欲しそうな女性のことを書こうと思ったんです。女が男にお金を使って欲しそうな瞬間ってイヤじゃないですか。

ははは。

清水:僕はすごく嫌いなんですよ。卑しいじゃないですか。僕はまだ若いんでお金を目的に寄ってくる女性ってそんなにいないし、僕、お金そんなにないんですよ(笑)。

はっはっは。大丈夫ですか、そんなぶっちゃけて(笑)。

清水:だから余計にそういうシーンを見ると卑しいなと思って、自分の好きな女の子とか可愛い女の子がそうだったら嫌だなと思うんです。それよりももっとナチュラルな気持ちで異性と向き合っていたいし向き合ってほしい、という気持ちを曲にしたかったんです。だからタイトルは“MONEY”なんですけど、曲の中のストーリーは違うんですよね。そこは自分らしい目線かなって。

しかもSALUさんと一緒にやられていますよね。あるパーティで初対面して共作に至ったということらしいですね。

清水:知り合いのアーティストの誕生日パーティで会ったんですよ。自分は基本インドア派で限られた友だちとしか遊ばなくて、そういうところにはあまり行かないんです。でも、その日は珍しくフットワークが軽かったんですね。そうしたら、彼がいて。僕は彼が曲をYouTubeでアップしていたころから好きで、ずっと期待していたアーティストだったんです。でも、『PROUD』を出す前には思いきりやれていないコンプレックスというか、R&Bにせよヒップホップにせよ、コアなことをやっていたり、好きなことを思いっきりやっている人たちに対して怖さがあったんです。僕は「そっち側の音楽をやりたいし、作れるし、好きなんだけどなあ」と思っているけれど、「あいつは違う。リアルじゃねえから」みたいな線引きをされているんじゃないかって。「向こうはどう思っているんだろう?」って。でも話してみたら、「俺は(清水の音楽が)大好きだよ」という感じで来てくれたので、「それならぜひ一緒にやりましょうよ」とお願いした感じですね。

取材・文:二木信(2017年2月27日)

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Profile

二木 信二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

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