Home > Interviews > dialogue: suppa micro pamchopp × Captain Mirai - 偏見をぶっ飛ばせ!
僕が言う「偏見」って、世代的な断絶でもあるんですよね。高年齢の音楽マニアとのあいだにすごく大きな壁があるというか。 (スッパマイクロパンチョップ)
![]() Various Artists 合成音声ONGAKUの世界 Pヴァイン |
■今回のコンピはどういった基準で選曲していったのでしょう?
S:これを聴けば偏見が吹き飛ぶだろう、という選曲ですね。よくあるボカロのイメージにそぐわない曲というか。「え、これボカロなの!?」って、あっさりボカロを好きになっちゃうような選曲のつもりです。とはいえボカロのおもしろい曲ってすごくバラエティに富んでいるので、それを「ベスト・オブ・ボカロ・ミュージック」みたいにひとつにまとめるのは難しい。そこへ、「音楽好きの人がさらっと聴ける」「BGMとして心地良く聴ける」のがいいというお話をいただいたので(笑)、それもテーマにしました。もちろん自分の趣味も入っているんですけど、それだけじゃなくておしゃれに聴けることを意識したというか。ボーカロイドってべつに「おしゃれ」のイメージはありませんよね。
C:そうですかね。
S:偏見を持っている人たちは、アニメとか萌えとか、そういういわゆるオタクな世界に悪いイメージを抱いていて、それは「おしゃれ」とは正反対だと思うんです。もちろん音楽ファンも「おしゃれ」だけを基準に聴いているわけではないですけど、やっぱりイメージってあると思うんですよね。「このサウンドがいまいちばんかっこいい」っていう感覚って、「(そのサウンドが)おしゃれ」ってことでもあると思うので、そのラインは守っているというか。「ボカロっておしゃれかもしれない」とか「意外と気持ちいいんだな」と思ってもらえるよう選曲していますね。たとえばでんの子Pさんの曲でも、選曲を間違えたら「え……」って思われちゃうかもしれないので(笑)。だから、突出した才能を持っているけど、その人のなかでも耳触りが良いもの、たとえばエルメート・パスコアールなんかと同列に聴けるもの、という基準ですね。キャプミラさんも名曲揃いですから、どの曲でもよかったんですが、せっかくなので僕がいちばん感動した“イリュージョン”を選びました。僕、ボカロを聴いて泣いたのはその曲だけですからね(笑)。
C:おお(笑)。ありがとうございます。
■今回の収録曲のなかではいちばん古い曲ですよね。
C:そっか、ディキシーさん(Dixie Flatline)より古いのか。
S:ディキシーさんのは最近の曲なんです。2015年。古いのはTreowさんとキャプミラさんだけです。おふたりはクラシック代表なんですよ。
■ということは、この曲で使われている鏡音リンのヴァージョンも初代ということですよね?
C:そうです。初代のリンってソフトウェアのエンジンがVOCALOID2という古いヴァージョンなんですけど、いまの環境で動かすにはちょっとめんどくさいんですよね。Windows10とかだとけっこう微妙な感じになっちゃっていて。データをコンヴァートしたりしなきゃいけなくて、かなりたいへんなんです。
■この曲に感動して同じような音を鳴らしたいと思った人がいても、それはもう難しいという。
C:そうなんですよね。ソフトはどんどん新しくなっていって、もちろん内容は素晴らしくなっていっているんですけど、やっぱり声が違うので「初代のほうが良い」みたいなことはありえますよね。
■楽器だといわゆるヴィンテージの機材を追い求める人たちもいますが、これからVOCALOIDもそういう感じになっていくのかもしれませんね。
S:そういう時代は来そうですね。
C:そしたらリヴァイヴァルするかもしれないですよね。いまのエンジンで当時の声がそのまま出るよ、みたいな感じのライブラリを出してもらえるといいんですけどね。
■今回のコンピには入っていませんが、多くの人がボカロと聞いて思い浮かべるだろう、テンポの速いロック系の曲についてはどうお考えですか?
S:数年前に流行った高速ロックの流れもまだそんなに廃れていないというか、「ボカロと言えばとにかく速い」みたいなイメージが一般的にもあると思うし、じっさいそういうものがたくさん聴かれているのはすごく感じるんですよね。わりと再生数を稼げる人たちのなかでも、ボカロのそういう側面を追求する層と、どうやったら「おしゃれ」に作れるかで競っている層と、ロックか「おしゃれ」かみたいなふたつの線があるように思いますね。
C:いまのバンド・シーンの若い子たちのなかでも、あの頃の高速ロックの流れを汲んだバンドは多いですよね。BPMが速くて、四つ打ちで、速いギター・リフみたいな。中学生のときにもうボーカロイドがふつうにあってそれを聴いて育ったから、大きくなってバンドをやろうってなったときにおのずとそういう楽曲が出てくる、そういう世代がもうけっこういるのかな。やっぱり高速ロックは影響力ありますよね。
S:ありますね。だから僕が言う「偏見」って、世代的な断絶でもあるんですよね。高年齢の音楽マニアとのあいだにすごく大きな壁があるというか。若い子が音楽を始めようと思ったときに、いまだとやっぱりコンピュータで音楽を作るという選択肢があって、それで作ったものをアウトプットする場所としてボーカロイド・シーンがすごく身近なんだろうなと。曲を作ってアップロードするだけならべつにSoundCloudでもいいんですけど、若い子からしてみると華やかな感じというか、SoundCloudにアップするよりもキャラクターとビデオのあるボーカロイド・シーンのほうが注目されるんじゃないか、というような期待があるんでしょうね。そもそも音楽と最初に出会った場所がニコニコ動画だったという人も多いでしょうし。それでいろんなタイプの音楽が集まってきているような気がします。
■キャプミラさんが今回の収録曲のなかでいちばん印象に残った曲はどれですか?
C:羽生まゐごさんの“阿吽のビーツ”かな。民族っぽいパーカッションのリフで始まる曲。でも、たしかに全体的におしゃれだなとは思いましたね。
S:1曲目とその羽生さんの“阿吽のビーツ”はガチでおしゃれだと思います。それ以外はオーソドックスな感じもあって、「エヴァーグリーン」という感じですね。僕はどんな音楽を聴くときも普遍的かそうでないかみたいなところでジャッジしていて、もちろんそうでなくてもいいんですけど、コンピを組む場合は50年後とかに聴いても古いと思わないような強度のある曲を選んでいるつもりなんですよね。それでいてサラッと聴ける曲。あまりにも濃いと引っかかっちゃうので。作業しながら聴いていて「えっ!」って(笑)。
■僕は松傘さんやでんの子Pさんが好きなので、その両方が入っていたのは嬉しかったですね。でも、彼らの曲のなかではわりと聴きやすいというか、比較的癖のない曲が選ばれていますよね。
S:松傘さんの個性ってずば抜けているところがあるんですが、松傘さんが単独で作っている曲をこのコンピに入れるのはちょっとエグいかなあと(笑)。でんの子さんもそうなんですよ。でも彼らのおもしろさはなんとか伝えたいので、誰が聴いても「良いな」って思ってもらえそうな曲を選びましたね。
C:そういう意味では、最近のボーカロイドをそれほどチェックできていない僕みたいな人向けでもあるというか、ここからいろいろ漁っていくという聴き方もできそうですね。
S:そうなんです。たとえばある曲に惹かれて、もっと掘ろうと思ってその作り手の他の曲を聴いてみると、そっちはそれほどでもなかったり、というようなことがボカロではわりと多いんですよ。だから今回のコンピも、その曲に出会った人がもっと掘っていったときにがっかりしないように、そもそも作っている曲が全体的におもしろい人たちのなかから選りすぐっていますね。あと、ぜひ入れたいと思ったけど、そもそも連絡先がわからないというパターンもありました。連絡が取れないとどうしようもないので、現実的にコンタクトできてOKしてくれそうで、それでいて誰が聴いても良いと思える曲がある人、という基準で選んでいます。
C:そうなるとけっこう難しそうですね。連絡の取れない人、多そうだから(笑)。
S:難しかったですね(笑)。でも良い内容にできたとは思っています。
取材・文:小林拓音(2018年3月29日)