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interview with Bernard Sumner

interview with Bernard Sumner

一寸先は闇

──バーニー、STOLENやベルリンについて語る

質問:野田努    翻訳:瀬川徹美   Mar 03,2020 UP

 まずはバーナード・サムナーから今回の来日公演延期に関してのメッセージを。

 私たちは日本が大好きで、この決定をしなければならないことを残念に思っています。
しかしながら新型コロナウイルス感染症発症について不明確な部分が多く見られる現状から、東京と大阪の公演については当分の間延期とすることが最善であると考えました。これについてはファンの健康を危険にさらしたり、帰国時にウイルスを拡散する可能性の発生を避けたいという点も考慮しました。
この状況が解消され次第、できるだけ早く日本に戻ってくることを約束します。
バーナード・サムナー

We love Japan and are sorry to have to make this decision. However, with the uncertainty of the ongoing Coronavirus outbreak, we felt it was best to put our shows in Tokyo and Osaka on hold for the time being. As we would also hate to put our fan’s health at risk, or the possiblity of spreading the virus upon our return. We promise we will be back as soon as we can, once this situation has rectified itself.
Bernard Sumner

 さて、以下のインタヴューは、2019年10月9日水曜日、ニュー・オーダー(NO)のヨーロッパ・ツアー中におけるベルリン公演の際に録ったものである。このツアーのサポートアクトを務めたのは、中国・成都を拠点に活動するバンド、STOLEN(秘密行動)。石野卓球もリミックスで絡んでいる、いま注目のエレクトロニック・バンドである

 それで、昨年のベルリンといえば壁崩壊から30年を迎え、さまざまなイベントがおこなわれたわけだが、バーニーをはじめとするオリジナルNOの面々は、ジョイ・ディヴィジョン(JD)時代に初めてベルリンを訪れている。そもそも、前身のバンドの名がウォルソー(ワルシャワ)であり、東欧のイメージを好んでいるし、JDもナチスの慰安婦施設の名前から取られている。彼らにとってベルリンは特別な街である。

これがSTOLENの面々。マジ格好いいし、じつはこのインタヴューが載せられるのも彼ら経由でもあります。応援しましょう!

STOLENのようなバンドにとって、ごく普通のポップ・ミュージックをプレイするのは簡単なことだと思う。つまらない、どこに行っても聞こえてくるようなポップ・ミュージック、君も耳にするだろう? STOLENはメインストリームからはちょっと離れていて、少しだけ、より実験的なことをやろうとしている。勇気があるよね。

ベルリンでのライヴはいかがでしたでしょうか?

バーナード・サムナー(BS):すばらしかったよ! ベルリンでプレイするのは好きだね。ベルリンという街、ベルリンにいる人たちが好きだ。すばらしいヴァイヴを持っているよね。たぶん、みんなそう言うと思うよ。本当のことだから。
 ベルリンでのライヴは本当によかったよ。ベルリンの前にプラハとミュンヘンの2か所でライヴをやって、そのほかにも、このツアーがはじまる前にヨーロッパのサマーフェスに出演した。ソナーにも出演したね。このツアーでの最初のふたつの公演では、ちょっと苦労したんだ。大きな野外フェス会場ばかりでプレイした後だったから、屋内でのサウンドに慣れなければいけなかった。野外だと、音は空気中に散らばっていって、ドライな感じなんだけど、屋内でプレイすると、途端に会場内の音響が全部耳に入ってくる。だから最初の2公演では、音に慣れるのが難しかった。そして3公演目のベルリンでは、音と一体になることができた。とても楽しんでライヴができたよ。

2019年3月には、マンチェスターでのライヴ・アルバムもリリースしましたし、2020年3月には日本でのライヴも予定されています(※延期になりました)。とくにいまはライヴに力を入れているのでしょうか?

BS:そうだね。ライヴをたくさんやっているね。ライヴをあまりやっていないときは、みんな「どうしてライヴをやらないんだ?」って言うんだよ。そして、いま、ライヴをやっている。そうすると「どうしてレコーディングしないんだ?」って言われる。ファニーだよね。だから、ちょうどいいバランスを見つけるのが難しいんだと思う。新しい曲をつくろうかと思っているんだけど、バンド内ではまだちゃんと話されていないね。たぶん、いまはライヴ向きの体質になっているのかもしれない。いいホテルに泊まって、ライヴをやって、それがエキサイティングで、いいレストランで食事をして、すばらしい人たちに会ったり、僕らの音楽を好きでいてくれる人たちのためにプレイする。けっこういいライフスタイルだよね。だからライヴをやっているんだと思う。うん、本当にいい感じだよ。もちろん、本当にやりがいがある。
あと、ニュー・オーダーについてはこれを言っておかないとね。ニュー・オーダーの曲って本当に多いんだ。ジョイ・ディヴィジョンも含むととくに。みんなが好きな曲が何曲もある。どんなセットリストにしようか悩むね。それぞれをひとつのセットリストに組み込もうとすると長過ぎる。
 実際にプラハでは、1時間40分のライヴを想定していたんだけど、結局2時間のライヴになってしまった。いくつか長過ぎる曲があるからね。ニュー・オーダーはすでに、たくさんの曲を持っていて、新しい曲を書くと、本当に毎回、「どんなセットリストにすればいいんだろう?」って頭を抱えているよ。

新曲と過去にリリースされた曲を一緒にプレイするのは、難しいのでしょうか?

BS:今回のツアーでは『Music Complete』から3、4曲プレイした。過去の曲も新しい曲も両方演っている。そうだね、ジョイ・ディヴィジョンから3、4曲、『Music Complete』から3、4曲、あとは、ニュー・オーダーの初期の曲も3、4曲、それ以降の曲も3、4曲ってところかな。いつも選曲には苦労しているけど、楽しんでもいるよ。

STOLENをフロントアクトに起用したのは、もちろんマーク・リーダー氏との繋がりもあると思いますが、あなた自身もお気に入りだからだと思います。彼らのどんなところが気に入っていますか?

BS:彼らのことは大好きだね。とてもいい奴らだよ。彼らに会う前にマークが彼らのアルバムを聴かせてくれたんだ。何度も何度もね。いいバンドだよね。とても勇気のあるバンドだと思う。STOLENのようなバンドにとって、ごく普通のポップ・ミュージックをプレイするのは簡単なことだと思う。つまらない、どこに行っても聞こえてくるようなポップ・ミュージック、君も耳にするだろう? どうしてか聞こえてくるよね。みんな、ファスト・フードを食べるように、ファスト・ミュージックを消費しているんだと思う。こんなにもファスト・ミュージックが溢れているなかで、STOLENはメインストリームからはちょっと離れていて、少しだけ、より実験的なことをやろうとしている。勇気があるよね。だからおもしろいんだ。彼らは中国において、レフトフィールドの先駆者だ、たぶん、アジアのなかでもね。
 最近は、どこだろうが場所に関係なく、若いバンドが成功するのは難しい。本当に難しいと思う。僕もかつては若いバンドだったわけで、成功へのはじめの一歩を踏み出すことがどんなことなのかわかっている。どこから彼らが現れようが、STOLENのような若いバンドをサポートできるのはいいよね。

ベルリンに初めて来たときのことを憶えている。僕は長い長い道を歩いていた。その道の最後には帝国議会議事堂があって、巨大な建物なんだ。建物の円柱のひとつに赤い何かが書かれているのを見つけた。近付くとそこには、誰かがスプレーで書いた「MUFC」という文字があった。そう、「Manchester United Football Club」。うわー、僕より先に、誰かがマンチェスターからここに来たんだ! と思ったよね。

1980年代に初めてベルリンを訪れたジョイ・ディヴィジョンと、ベルリンでプレイしたSTOLENに類似性は感じますか?

BS:いや、どのバンドもすべて、同じではないんだ。当時、僕らは本当に大変だった。未来がまったくわからなかった。

(ここで、バーナードはニュー・オーダーの「東京新木場 ニュー・オーダー 一寸先は闇」と日本語でプリントされたとツアーTシャツを見せてくれた)

 ──要するに、ジョイ・ディヴィジョンだった当時、僕らは何が未来なのか見えなかった。未来への手掛かりを何も持っていなかった。イアン(・カーティス)の死とともにあんな波乱万丈な未来が待ち受けているなんて、僕らの身に起きたすべてについて、本当に知る由もなかった。でも僕らは前に進んだ。僕はいま、ここにいる。本当にサヴァイヴァーのような気分だよ(にこりと笑って)。
 たくさんの人たちが死んでいった。イアンが死んで、マーティン・ハネット(音楽プロデューサー)、ロブ・グレットン(マネージャー)、そしてトニー・ウィルソン(〈Factory Records〉オーナー)やマイケル・シャンバーグ(MVプロデューサー/フィルムメイカー)も死んだ。そうだね……本当にショッキングだったよ。みんな若くして死んでしまって。嗚呼、神様! 僕らは大丈夫だよね……神の微笑みを我らに(笑)!
 そうだ、このTシャツは(日本語で)「誰に未来がわかるんだろう?」って書いてあるっぽいよね。ジョイ・ディヴィジョンとして僕らがベルリンでプレイした当時、未来が僕らに何をもたらすのかわからなかった。おそらく、STOLENにとっても同じだと思う。彼らの未来には、困難もあるだろうけど、良い先行きが待ち受けていると思う。最近は、音楽でインパクトを及ぼすことは難しい。何かユニークなものを持っていないとね。
 若いバンドにとって大事なことは、楽しむこと。自分たちがやっていることを大いに楽しまなければならない。そうでなければ、いま頃、普通の仕事に就いているかもしれない。たくさんの若いバンドが音楽をキャリアのように思っているけど、音楽はキャリアなんかじゃない。音楽とは自由である。自由であり、日常生活の退屈から逃れることだ。何かを表現すること、啓蒙すること、可能にすること。音楽とはそういうものだと僕は思っている。
 音楽とは、束縛から解放されることだ。なぜ、若いポップ・バンドは自ら、彼ら自身に囚われているのか? 音楽とは、抵抗でもある。精神的な枠や壁に抵抗すること。調和への抵抗。でも、暴力的だったり、政治的に秩序を乱すようなことではない。僕にとって、抵抗とは、クリエイティヴィティを通じて、人びとに楽しいことや喜び、幸せを与えながら、自分自身を自由にすることを意味している。

来年の日本でのライヴの抱負を聞かせてください。どんなライヴになるのか楽しみにしているファンも多いと思います。(※もちろん、延期になってしまいましたが、載せておきます)

BS:日本食を食べること(笑)! ごみごみした東京のストリートを散歩したり、皇居の周辺を散歩したり。そして、音楽。もっとも重要なことは、日本の熱心なファンに僕らの音楽を届けること。彼らは、僕らの音楽をどう楽しむのかわかっているよね。日本のオーディエンスはすばらしい。日本にまた戻れるのは、良いことだね。久しぶりだし。そうだね、ファンの皆が待っていた何かを、音楽を届けるのが、抱負だね。

2019年8月、ぼくたちはジョン・サヴェージの著作『この灼けるほどの光、太陽そしてその他の何もかも ──ジョイ・ディヴィジョン、ジ・オーラル・ヒストリー』の日本語版を出版しました。あの本の表紙の写真はベルリンで撮られています。ベルリンという街に対する特別な感情があるように思いますが、いかがでしょうか?

BS:以前からマーク・リーダーはベルリンにいて、〈Factory Records〉のベルリン特派員だった。マークを通じてその頃からすでにベルリンとのコネクションはあった。マークがコンタクト・ポイントだった。なぜなら、マークは元々マンチェスターに住んでいて、イアンとロブ・グレットンの友人だったんだ。マークはジョイ・ディヴィジョンを早くからKant Kino(映画館)に出演させてくれていた。僕らはとにかくどこでもいいから、ライヴがやりたかったんだ。そして、ヨーロッパ各地でプレイし、ベルリンはそのうちのひとつだった。
ベルリンに初めて来たときのことを憶えている。僕は長い長い道を歩いていた。その道の最後には帝国議会議事堂(現在の国会議事堂)があって、巨大な建物なんだ。僕はそれを見ながら歩いていた。そして、建物の円柱のひとつに赤い何かが書かれているのを見つけた。近付くとそこには、誰かがスプレーで書いた「MUFC」という文字があった。そう、「Manchester United Football Club」。うわー、僕より先に、誰かがマンチェスターからここに来たんだ! と思ったよね。当時、帝国議会議事堂は荒廃していて、弾痕だらけだった。
ベルリンは、先の大戦と東ドイツの影響で、とても興味深い街だった。たしか、ブランデンブルク門は壁に囲まれていたと思う。たぶん、合っていると思うけど、ブランデンブルク門は東ドイツ、帝国議会議事堂は西ドイツだったと思う。
独特な風景だった。もし君が壁を見に来て、東ドイツの国境警備隊が君を見つけたら、検問を受けるだろう。マークと一緒にチェックポイント・チャーリー(国境検問所)を通って東に入り、他にも2ヵ所行った。かなり不思議だったんだけど、西ドイツから車で入ったとき、実は両方の回廊を通るんだ。僕は当時、ウィーンから西の回廊地帯と東の回廊地帯の両方を通った。つまり、文字通り、回廊だったんだ。壁に囲われたような道。本当にクレイジーなメンタリティーがいつもそこには隣り合わせていた。ただただクレイジーだったね。東と西のあいだにはノーマンズ・ランドとして知られる地帯があった。有刺鉄線が張り巡らされ、もし誰かがその地帯を越えようものなら、自動発射銃に撃たれるだろう。野蛮に見えた。クレイジーだと思った。僕にはどうしてそうなったのかわかる。東に入ろうとする西の奴らを徹底的に排除するためさ。ロシア人による話だけどね。まあ、僕はそれが本当だとは思っていないけど(にこりと笑って)。
もし、冷戦時代について知りたいなら、『寒い国から帰ってきたスパイ』(ジョン・ル・カレ著)という小説が僕のおすすめだよ。

質問:野田努(2020年3月03日)

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