Home > Interviews > interview with Tune-Yards - チューン・ヤーズが語る、フェミニズム、BLM、トランプ、アリエル・ピンク…… そしてこの社会に希望はあるのか
チューン・ヤーズをはじめた当時、わたしはアフリカ音楽ばっかり聴いていたのが大きい。
自分が内面化していたのはアフリカ音楽とそのリズムだった。
たとえば“Bizness”は明らかにフェラ・クティとトニー・アレンに多くを負っている。
■ちなみに、パンク・ロックからの影響は? あなたたちのバックグラウンドはパンクやインディペンデントなDIYカルチャーにあると思っています。パンクやその周辺のDIYコミュニティは先進的な思想を掲げ、人びとを啓蒙しようとし、社会における不平等とも闘ってきました。あなたたちも強く影響されましたか?
メリル:……たぶん、ネイトはこう答えるんじゃないかな──
ネイト:(苦笑)
メリル:(笑)──パンクから、音楽的にはべつに影響されてない、って。ただ、精神性という意味ではイエス、影響された。パンク・ロックはそれほどがっつり聴いているわけじゃないんだ。ふたりとも、正直そんなに聴かないし……いや、そうは言ってもラモーンズの曲は聴いたことがあるし、ザ・クラッシュの音楽はよく聴く。ただ、それだって自分にとっては、クラッシュを聴くのは彼らがレゲエを取り入れていたからであって。
ネイト:そうだね。
メリル:彼らはそうやって、ほかの音楽伝統の数々を自らの音楽に含めていたし。だから、パンク・ロックおよびそのDIYな精神については、たしかに自分も影響を受けたと思う。そうは言っても、アメリカのパンク・シーンの多くは白人が圧倒的に大多数を占めることが多く、ゆえにそれぞれ問題を抱えていた、そこは承知しているんだけどね。ただ、あの「パワーは自分たちの側にある」というパンクの気風とか、巨大な力を持つ大企業に支配されずにリリースされた唯一の音楽だったこと、そして金銭目当てではなくたってポピュラーな音楽を作ることはできると教えてくれた、そういった意味では、うん、パンクは確実に、わたしの信条システムのなかに大きな位置を占めている。
■なるほど。はじめてチューン・ヤーズを聴いたときはザ・スリッツを重ねてしまったので、ポスト・パンクに影響されたのかな? と思ったんです。
メリル:うんうん。わたしの耳を通過してきた音楽はたくさんあるし、きっとそのなかにスリッツも混ざっているんだろうな。それもあるし、単に「美しい」だとか、「天使のような歌声」と形容される以外の女性の声を耳にするのって……それが誰であれ、「女性の声はこういうもの」と普通思われているものとは違う歌い方をする女性シンガー、大声で張りさけぶひとたちは(笑)、わたしにはとても大切な存在。
■アフリカのリズムを取り入れるきっかけはなんだったんでしょうか? またどうして自分の音楽にパーカッシヴな律動を取り入れたいと思ったのですか?
メリル:べつに「そうしよう」と決めてやったことではなくて……いまあれをやろうと思ったら、たぶん二の足を踏むだろうな。それくらい、(アフリカン・リズムを白人が取り入れるのは)問題をたくさん引っ張り出す行為だから(苦笑)。
でも、それよりむしろ──チューン・ヤーズをはじめた当時、わたしはアフリカ音楽ばっかり聴いていたのが大きい。自分が消化し内面化していたのはアフリカ音楽とそのリズムだった。たとえば“Bizness”(『whokill』収録)は明らかにフェラ・クティとトニー・アレンに多くを負っているし、ほかにもいろいろある。ああ、もちろん『Nikki Nack』(2014)も。あのアルバムはとくにそうだな、実際にハイチに行ってハイチ音楽とダンスを習った上で、現地の音楽を学んだことで生まれたレコードだから。でも、意図して取り入れたのではなく、良くも悪くも、わたし自身が心から反応した音楽がアフリカ音楽だった。
それもあるし、アフリカ音楽へのアクセス路もあったから。要は、大学を卒業した頃にインターネットが存在するようになった、と(笑)。子供の頃からアフリカ音楽をいくつか聴いて育った面もあるとはいえ、目覚めたきっかけの多くはやっぱり、インターネットの登場以来もっと多くの音楽に触れることができるようになった、そこだろうな。でも──うん、さらに付け加えれば、わたしたちのどちらも、主にアフリカン・ディアスポラによる音楽を聴きながら育ったわけで。それはニューオーリンズ産の音楽かもしれないし、ジャズかもしれない。マリやナイジェリアの音楽、ジャマイカの音楽等々にハマっていったし……。うん、そういった音楽にわたしはとにかく、常に惹き付けられてきた。本当に、ごく若い頃からね。
■それはもしかして、あなたはダンスが好きだからでは?
メリル:ああ、たぶんそう! アッハッハッハッハッ! たしかに、踊るのはずっと好きだから(笑)。
■アメリカのことで、今回あなたに訊きたかったことがひとつあります。1月のトランプ騒動(議会乱入事件)の際にアリエル・ピンクもワシントンに出向き、トランプ応援を表明しましたよね。
メリル&ネイト:ああ……(顔をしかめる)。
■音楽コミュニティ、とくにインディ音楽シーンの住人はまず反トランプ派だろうと思っていたのであれはかなりショッキングだったんですが、なぜ彼のような人がトランピストになるのか、あなたの意見を聞かせて下さい。
メリル:……(フ〜〜〜ッと大きく息をついて考え込み、ネイトと顔を見合わせる)
ネイト:……ぼくにもさっぱりわからない。不思議に思う、っていうか、同じ質問を自分自身に「なんで?」と尋ねているくらいで。
メリル:(苦笑)
ネイト:(苦笑)
メリル:答えるのは難しいな。ほかの誰かさんの頭のなかがどうなっているかを勝手に憶測したくはないし。ただ、ひとつ思うのは、わたしたちは……フム、これはどう言ったらちゃんと伝わるかな?(と軽く考え込んで)……うん、だから、わたしたちは「自分の近辺にトランプ支持者はいない、彼らからはかけ離れている」、そう思っているわけだけど、じつはトランプは多くの意味で真実を語っているんじゃないかと。彼は形式張らずに言いたい放題で、この、一種の──いや、もちろん、ここで言うのは注意書きつきの「真実」だけどね、彼は嘘八百だし。けれども彼は……
ネイト:……彼はそれこそ、もうひとつのリアリティを作り出してしまったって感じがする。だから、彼の支持者になると、その人間は彼の言う何もかもを鵜吞みにするようになり、メディアの報道は一切信じなくなる。大統領選で彼は破れたわけだけど、そのオルタナティヴなリアリティのなかでは勝ったことになっている、と。深くハマっていけばハマっていくほど、人びとは彼の言葉に心酔しのめり込み、完全に彼を支持するようになる、みたいなことだと思う。彼らの見方だと、実際のリアリティ/現実がちゃんとあるのに、彼らにとってそれはぜんぶ嘘だ、ということになって……(首を横に振りながら)いや、ぼくにもさっぱりわからないんだけどさ!
メリル:(吹き出す)クハハハハハッ!
ネイト:ただまあ、そんな風にいったんワームホールにものすごく深く、深く落ち込んでしまうと、突如として別の場所に抜ける、みたいなことじゃないかと。そこでは真実は何なのか、リアリティは何なのかがもはやわからなくなる。上昇が下降になり、下降しているつもりが上昇していたり、いわばあべこべの世界という。
メリル:(話し出そうとして)ごめん、発言を中断させた?
ネイト:いいよ、気にしないで。
メリル:いや、わたしにもひとつ言わせて。考えるんだけど……というか、つい思ってしまうんだよね……真実やなにかを想像し責任を負うことって、とりわけ白人男性にとっては、難し過ぎてやれないことなのかな? って──(「白人男性」に含まれるネイトに向かって)いや、あなたは除くから安心して。
■(笑)
メリル:ただ、白人男性はいまや様々な批判にさらされているわけで。たとえば“nowhere, man”でわたしが取っ組み合っている疑問は、あなたはどんな風に──というか、自分を例にとって言うと、白人としてのこのわたしは、自分の生きるこの社会、そのすべてが自分(=白人)のために築かれたものであるという現実、それをどう受け止めるか? ということで。で、トランプが白人男性に対して──もちろん白人男性以外にもたくさんいるけど、彼がとくに白人男性層に向けて言っているのは「現実は悲惨過ぎる。事態がこんなにひどいなんてあり得ない、嘘に違いない。だからわたしの言うことを信じなさい」みたいなことで。
で、そういうひとたちが考えるのは……自分の環境を支配すること、そこなんだと思う。いまは生きているのがおっかない、本当におそろしい時代だし、だからこそ自分自身の引き起こしてきたいろんな破滅・破壊や苦痛の数々を自覚し脅威を感じるよりも、むしろ自分なりのこの世界の理解・把握にしがみつくことを選ぶ、そういう人びとが一部に出て来るんだろうな。
■最後の質問というかお願いですが、“be not afraid.”に込めたあなたの思いについて話してもらえますか?
メリル:あれは……(ネイトに向かって)音楽的なフィーリングでなにを表現したかったか、覚えてる?
ネイト:(おどけた表情で「思い出せない」という仕草)
メリル:フッフッフッ!……あの曲のヘヴィなドラム・ループが本当に気に入ったんだ。どこかしらこう、地に足の着いた感覚を抱くし、たくさんの人間があのループに合わせて行進できそうな、そんな気がした(笑)。歌詞の面で言えば、あれはわたしからのお願い、でしょうね。あの曲で、わたしは自分をもっと責任を問われるポジションに置いていて、進んで責任を問われたがっている。自分の周囲にいる愛する人たち、彼らに、これまでわたしがどんな風に彼らを傷つけてきたか、それをわたしに教えてもらいたいと思ってる。
それにあの曲の多くには、いままさに大きくなっている子供たちに向けたもの、というフィーリングもあって。彼らに対して「いいよ、はっきり言ってくれて大丈夫。わたしは批判を受け止められるから」と呼びかけている、みたいな。これまで自分が数多くの害と破壊を引き起こしてきたことは自覚しているし、あなたたちの未来をより困難にしているもの、自分がその一端を担ってきたのはわたしも承知しているから、と。
だからあの曲は、そういう決して楽ではないことをやろうという誘いだし、耳に痛い言葉を聞かせてちょうだい、と招いている。どうかあなたの言葉を聞かせて、我慢して内にため込んだりしないで欲しいし、わたしに直球でぶつけてくれていいんだよ、と。
■質問は以上です。今日はお時間いただき、どうもありがとうございます!
メリル&ネイト:こちらこそ、ありがとう!
■新作をわたしもとても気に入っていますし──
メリル:ありがとう。
■──あなたたちが再びツアーできる日が来るのを祈っています。
メリル:同感〜〜〜っ! ほんとそう! ともあれ、起きて取材に付き合ってくれて本当にありがとう。ロンドンでしょ? そっちはいま何時?
■えーと、午前1時45分です。
メリル&ネイト:(仰天した表情で口々に叫ぶ)えええぇーっ!? まさか!
■(苦笑)
メリル:そうなんだ? なんてこと……(とひたすら申し訳ない表情)
■いや、よくあることなんで。あんまり気にしないでください。
メリル:本当に、本当にありがとう。
(子犬がまたもふたりの膝に飛び乗って画面に割り込み、大あくびする)
■(笑)遊んでもらいたいみたいですね。じゃあこのへんで。
メリル:(子犬を愛おしげに眺めて笑顔)クックックックッ!
■さようなら、お元気で!
メリル&ネイト:ありがとう! おやすみなさーい!
序文・質問:野田努(2021年3月29日)