「S」と一致するもの

Whatever The Weather - ele-king

 今年も嬉しいお知らせです。ロレイン・ジェイムズ、3年連続となる来日公演が決定しました。今回はワットエヴァー・ザ・ウェザー名義のみでのツアー、東京と大阪のCIRCUSをまわります。新作がリリースされたその年にパフォーマンスを体験できるのは……いやこれはかなり嬉しいですね。
 そして、共演者たちにも注目しておきましょう。東京では、先日ソロ・デビュー作を発表し新たな一歩を踏み出した篠田ミルがライヴを披露。大阪ではヴェテランのAOKI takamasaがDJを担当します。相乗効果、起こりますねこれはきっと。

Whatever The Weather Japan Tour 2025 | Loraine JamesのWhatever The Weather名義での来日ツアー決定

現代のエレクトロニック・ミュージック・シーンにおいて中核を担う才人Loraine Jamesのアンビエント志向のエイリアス、Whatever The Weather名義の来日ツアーが決定!
今年3月にGhostly Internationalから待望のセカンド・アルバム『Whatever The Weather II』を祝しての東京・大阪公演となります。
東京公演にはyahyelのメンバーで先日ソロ・デビューEP『Pressure Field』をリリースしたばかりの篠田ミルがライヴ・セットで、大阪公演にはLoraineが予てからリスペクトしているAOKI takamasaがDJとして出演致します。
今回の来日はWhatever The Weather名義でのみの来日となります。

Whatever The Weather Japan Tour 2025

◆Whatever The Weather 東京公演
日程:11/28(金)
会場:CIRCUS Tokyo
時間:OPEN 18:30 / START 19:30
料金:ADV ¥4,500 / DOOR ¥5,000 *別途1ドリンク代金800円必要

出演:
Whatever The Weather (Live)
篠田ミル (Live)

◆Whatever Ther Weather 大阪公演
日程:11/29(土)
会場:CIRCUS Osaka
時間:OPEN 18:30 START 19:30
料金:ADV ¥4,500 / DOOR ¥5,000 *別途1ドリンク代金800円必要

出演:
Loraine James (Live)
AOKI takamasa (DJ)

主催・企画制作:CIRCUS / PLANCHA

Jerskin Fendrix - ele-king

 2020年に『Winterreise』をリリースして以降、ロンドンのインディ・アーティスト、ジャースキン・フェンドリックスを取り囲む景色は大きく変わった。UKアンダーグラウンド・シーンを支えるレーベル〈Untitled(recs)〉から出された彼のデビュー・アルバムが『籠の中の乙女』や『女王陛下のお気に入り』でオスカーにノミネートされた映画監督ヨルゴス・ランティモスの心に届き、次回作の劇伴をジャースキンに担当して欲しいと願い出たというのだ。当時のジャースキンはサウスロンドンのライヴ・ハウス・ウィンドミルの周辺シーンのミュージシャンたちから称賛を集めるカルトヒーローといった立ち位置で大きな場所ではほとんど無名に近かった。そんな中でランティモスは彼の才能に惚れ込み直接メールを送って映画の世界を一緒に形作ることを求めた(オーヴァーグラウンドのシーンとアンダーグラウンドのシーンがダイレクトに結びついたこの事例は現代のインターネット社会における美しさが集約された出来事だといってもきっと過言ではないはずだ)。事前にこうして欲しいという大きなリクエストも制約もなく、それどころか撮影時に脚本を元に作られたサウンドトラックを流してからカメラを回したというのだからランティモスがいかにジャースキンの才能を信頼していたかがわかるだろう。そうやって制作された『哀れなるものたち』は高い評価を得た。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲得し、主演のエマ・ストーンがアカデミー賞で主演女優賞に輝き、ランティモスは監督賞にノミネートされ、そして我らがジャースキン・フェンドリックスは初の映画スコアでオスカー・ノミネート作家になった。
 これが2023年のことだ。そして2024年にはランティモスの次回作『憐れみの3章』が公開されこちらも続いてジャースキン・フェンドリックスが劇伴を務めた。さらにこれから公開される『Bugonia(原題)』でもジャースキンが音楽を手がけている(なんでも90人のオーケストラを使ったとのこと)。これまでの2作と同じく制作にエマ・ストーンが入り主演を務めるランティモス作品、ここまでくるとジャースキン・フェンドリックスもこのチームの欠かせない一部のような感じだ。もはやインディ・ミュージックのカルト・ヒーローとしてではなく、映画音楽作家としての顔の方が知られているのかもしれない。

 だが彼はこのふたつの世界を隔てることを選ばなかった。本名であるジョスリン・デント=プーリー名義を使わずに学生時代の友人がふざけてつけたジャースキン・フェンドリックスという名前のままで映画業界に関わり、そうして2025年のいま再び故郷に帰ってきた。インディーミュージシャンとしての帰還、そして文字通り少年時代を過ごしてきたふるさとへの帰還。この2枚目のアルバムは彼が幼少期からティーンエイジャーの頃まで暮らした牧歌的な田舎町シュロップシャーを舞台に展開する。森や風景、光と動物、それらの全ては子ども時代の思い出と芸術的な感覚に包まれている。音楽家にかかわらず小説家や映画監督が晩年に自分の生まれ故郷をテーマに作品を作ることは珍しいことではないが彼はキャリアのこのタイミングでそれをおこなうことに決めたのだ。

 その最初のきっかけは2020年に亡くなった幼なじみに捧げるアルバムを作ろうと考えたことだった。「自分たちが育った場所がどんな場所であったのか、その文脈を切り離して書く事はできないと思ったんだ。そうして子ども時代や思春期について自分たちのあいだで共有されていたものについて書きたいという思いに発展した」The Quietusのインタヴューでジャースキンはそう話している。しかしこのアルバムの制作を前にもうひとつの死がそこに重なる。2022年に彼の父親が進行性の運動ニューロン疾患を発症しその年に亡くなったのだという(レコードのブックレットの最後のページにはこのふたりの名前が並んで記されている)。

 だから当然のことなのかもしれないが、このアルバムの中の故郷シュロップシャーにはノスタルジアと共につねに死の影が付きまとっている。「太陽の熱を恐れるな/2001年にここに引っ越した時からずっと感じている」その街で過ごした牧歌的な日々を唄った優しく柔らかな幕開けのポップ・ソング “Beth’s Farm”の中にも「ベスの農場では誰も死なない」と繰り返しその外にある死が意識され、その後に起こることの予兆を静かに感じさせる。けたたましく人を食ったようなラップトップの狂騒 “Jerskin Fendrix Freestyle”でも悪い予感を胸に破れかぶれになったようなニュアンスがそこに乗る。この曲は特にアルバムの流れの中で聞くと印象が一変する曲だ。「これがThe Universeだ/俺は決して死なない、約束する」誰彼構わずに噛みつき、不遜にまくしたてているように思えるその中に友を失い、父を失おうとしている人間の強がりが見え隠れするのだ。
 そこで予告されている次曲 “The Universe” では酔っ払い子ども時代に戻ったような答えを探し意味を求める弱く優しい人間の姿が映し出される。この街では都会と違い気心の知れた、心安らげる人たちに囲まれている。「こんなに長くスマホを気にしなかったなんて/ 愛する人がみんなここにいる」そう、だからこそいなくなった人の姿をそこに見るのだ。アカペラで始まり、心の波を映し出すかのようなストリングスの震えが添えられるこの曲は虚飾が取り除かれたジャースキンの生の感情がそのまま出ているかのようだ(レコードで聞くとちょうどここで2枚目に入り、交換のための空白の時間が入るので余計にこの曲たちが重なり合っているように感じられる。裏と表、弱音と強がり、中にしまいそうして別のものを取り出す。それは人間の言葉が常に正しいわけではないということと同じなのだ)。

 この曲だけではなく、このアルバムには物語全体のイメージ、文脈とも言えるそれを伝えるべく、曲と曲とをつなぐ断片がいたるところに埋め込まれている。そしてそれはブラック・カントリー・ニュー・ロードの1stアルバム2ndアルバムでも用いられたような手法でもある。「僕のやりたかったことがジャースキンのセットの中ですでに完成されていたんだ」というのはBCNRを脱退したアイザック・ウッドの言葉だが(2019年The Quietusのインタヴューでの発言)どうして彼がジャースキンをここまで信奉したのかこのアルバムを聞くとよくわかる。彼は言葉やサウンドをキーにして映画のように多面的で複雑に捻れた人の心を描き出すのだ。それもふざけたようなユーモア混じりで。うさんくさく人を食ったようないスタイルの、マジメで弱く優しい男、その全てが物語の中に、ひとりの人間の中に存在するというのがたまらなく心を惹きつける。

 そうしていくつもの気配が重ねられ複雑に歪む “Together Again”に繋がる。父の最期を看取る為にシュロップシャーに帰ってきた息子。母と兄弟、家族の時間が描かれたこの曲は避けられない出来事への哀しみや優しさに包まれ、慈しみや戸惑い、過去に思いをはせるノスタルジアと未来への不安、そしてそこから逃れるためのユーモアが絡み合っている。「父はキッチンにいて/僕は彼の脳を心配する/きっと壊れていくのを見ることになるだろう」「ウサギと、その頭を食べた猫がいる/そしてここに死を悼む家族がいる」田園地帯の風景の中に死の気配が漂うこの曲はこのアルバムを象徴するような曲だ。それはまるで重厚な映画の劇伴のようにも、小さな部屋で録音されたアーティストの個人的な記録のようにも聞こえてくる。おそらくこれは1stアルバムとの間に挟まれた映画の経験が大きかったのだろう。そのままストレートに制作に入ったならばこのようなアレンジにも映画のように故郷の景色を描くという手法にも至らなかったはずだ。ピアノを基調とし、そこに様々な人間の気配やいびつで複雑な感情の揺らぎの音(それはストリングスの波やエレクトロニクスのひび割れとして現れる)が挟み込まれたアルバムは1stアルバムだけでなく『哀れなるものたち』のサウンドトラックの延長線上にあるように感じられるのだ。映画のサウンドトラックのようにキャラクターに寄り添い描かれるアルバムの物語、ここでの死は克服すべき物語上のメタファーではなく常に隣にあるもののように描かれる。死を意識するからこそ生を考え、ノスタルジックに故郷を想うからこそいまを強く意識する。我々はもう存在しないものと共に生きている。それはないものを感じられるという人の想像力の賜物であり、そしてその創造の隙間にこそ芸術は入り込む。

 故郷と死をテーマにしたジャースキン・フェンドリックスの試みはこの2ndアルバムで見事結実しているように思える。子ども時代の安寧のように優しく牧歌的で、哀しみと慈しみ無常感と強がりに包まれた複雑な人の感情が混じった物語。父と友人の死という極めてパーソナルな出来事を作品の中に落とし込み普遍的なものへと繋げるのはまさに優れた作家としての仕事だ。そしてこれを個人的なものとして作り上げ提示するというのがまた素晴らしい。ブラック・ミディの面々やイーサン・P・フリン、ロビー&モナのウィリアム・カーキートら、昔から知っている仲間の手を借り、古巣である〈Untitled (Recs)〉からリリースする。それはオスカー・ノミネート以前のうさんくさく誠実な彼の姿勢となんら変わりがないように思えるし、それでいて “Beth’s Farm”のビデオではヨルゴス・ランティモス監督、自身とエマ・ストーンが主演という信じられないような贅沢なことをしていたりもする(3人のオスカー・ノミネートの共作、これはおそらくインディーレーベル史上最も豪華なビデオだろう)。彼を見ているとオーヴァーグラウンドもアンダーグラウンドも死や生、過去も未来も全てが地続きで繋がっているように感じられる。もしかしたらこれこそがあるべき姿で、そして理想なのかもしれない。インディのカルト・ヒーローであり続けながらもオスカー像を手にする姿を見たいと望まれる希有な存在、ジャースキン・フェンドリックスはなんと興味深い人なのだろう。この2枚目のアルバムには彼の子ども時代から現在に至るまで、ジャースキン・フェンドリクスの世界の空気が詰まっている。

Jonny Nash & Tomo Katsurada - ele-king

 オランダ拠点の音楽家、ジョニー・ナッシュによる9年ぶりの来日が決定。同じくオランダを拠点とし、昨年ナッシュも参加したソロ・デビュー作『Dream of the Egg』をリリースしているTomo Katsurada(ex. Kikagaku Moyo)が帯同。ダブル・ヘッドラインでのジャパン・ツアーとなる。互いの楽曲を演奏するという、役割を交代しながらのパフォーマンスが披露されるようだ。
 なお、ツアー前日の11月14日(金)には赤坂・草月ホールにて開催されるmaya ongakuのワンマン・ライヴにもTomo Katsurada with Jonny Nash & Kotsuguyとしてゲスト出演予定。
 今夏リリースされた7枚目の新作アルバム『Once Was Ours Forever』はフォークとアンビエント・ジャズ、そしてドリーム・ポップの境界をまたぐような作品であり、サトミマガエや池田抄英(maya ongaku)なども参加している。日本の音楽家たちとも接近したこの新作を引っ提げ、群馬・山梨・大阪・兵庫・愛知・東京を巡ります。

BAYON PRODUCTION presents
Jonny Nash & Tomo Katsurada Co-Headline Japan Tour 2025

[ACT] Jonny Nash / Tomo Katsurada (Kikagaku Moyo)

11月15日(土) 群馬 高崎・新島学園短期大学講堂
11月16日(日) 山梨 甲府・こうふ亀屋座
11月18日(火) 大阪・旧桜宮公会堂
11月21日(金) 兵庫 神戸・KOBE QUILT
11月22日(土) 愛知 名古屋・秀葉院
11月23日(日) 東京 渋谷・7th Floor
11月24日(月/祝) 東京 青山・青山月見ル君想フ

群馬公演

日程:2025年11月15日(土)
会場:新島学園短期大学 講堂(群馬県高崎市昭和町53番地)
アクセス:北高崎駅から徒歩5分
時間:開場14:00 / 開演15:00
料金:前売5,000円 / 当日5,500円

出演:Jonny Nash / Tomo Katsurada

[ご予約&お問い合わせ]
cowandmouse489@gmail.com / 080-3136-2673

※件名に【Jonny & Tomo’s 群馬公演】と明記の上、お名前(フルネーム)・お電話番号・チケット枚数をご記入いただき、上記メールアドレスにお申し込み下さい。確認後、ご購入方法などを折り返しご返信致します。

注意事項:
※開場時間前の会場のご入場はご遠慮ください。
※会場内飲食禁止です。
※大学の駐車場(西門駐車場または正門駐車場)をご利用いただけます。
※駐車場利用の場合は必ずご予約の際にお申込みください。


山梨公演

日程:2025年11月16日(日)
会場:こうふ亀屋座(山梨県甲府市丸の内1丁目11-5)
アクセス: 甲府駅から徒歩10分
時間:開場17:00 / 開演18:00
料金:前売5,000円 / 当日5,500円

出演:Jonny Nash / Tomo Katsurada

[ご予約&お問い合わせ]
cowandmouse489@gmail.com / 080-3136-2673

※件名に【Jonny & Tomo’s 山梨公演】と明記の上、お名前(フルネーム)・お電話番号・チケット枚数をご記入いただき、上記メールアドレスにお申し込み下さい。確認後、ご購入方法などを折り返しご返信致します。

注意事項:
※開場時間前の会場のご入場はご遠慮ください。


大阪公演

日程:2025年11月18日(火)
会場:旧桜宮公会堂 (大阪市北区天満橋1丁目1-1)
アクセス: https://produce.novarese.jp/kyusakuranomiya-kokaido/access/
時間:開場19:00 / 開演19:30
料金:前売5,000円 / 当日5,500円(別途ドリンク代)

出演:Jonny Nash / Tomo Katsurada

[ご予約&お問い合わせ]
cowandmouse489@gmail.com / 080-3136-2673

※件名に【Jonny & Tomo’s 大阪公演】と明記の上、お名前(フルネーム)・お電話番号・チケット枚数をご記入いただき、上記メールアドレスにお申し込み下さい。確認後、ご購入方法などを折り返しご返信致します。

注意事項:
※開場時間前の会場のご入場はご遠慮ください。
※入場時にドリンク代別途800円を現金でお支払いください。


神戸公演

日程:2025年11月21日(金)
会場:KOBE QUILT(神戸市中央区山本通1丁目7-21 B1)
アクセス: 三宮駅から徒歩 約10分 / 新神戸駅から徒歩 約15分
時間:開場18:00 / 開演19:00
料金:前売5,000円 / 当日5,500円(別途ドリンク代)

[ご予約&お問い合わせ]
cowandmouse489@gmail.com / 080-3136-2673

※件名に【Jonny & Tomo’s 神戸公演】と明記の上、お名前(フルネーム)・お電話番号・チケット枚数をご記入いただき、上記メールアドレスにお申し込み下さい。確認後、ご購入方法などを折り返しご返信致します。

注意事項:
※開場時間前の会場のご入場はご遠慮ください。
※入場時にドリンク代別途700円を現金でお支払いください。


名古屋公演

日程:2025年11月22日(土)
会場:秀葉院(名古屋市港区作倉町2-46)
アクセス: 地下鉄名港線「港区役所」より東へ徒歩8分
時間:開場17:00 / 開演18:00
料金:前売5,000円 / 当日5,500円

出演:Jonny Nash / Tomo Katsurada

[ご予約&お問い合わせ]
cowandmouse489@gmail.com / 080-3136-2673

※件名に【Jonny & Tomo’s 名古屋公演】と明記の上、お名前(フルネーム)・お電話番号・チケット枚数をご記入いただき、上記メールアドレスにお申し込み下さい。確認後、ご購入方法などを折り返しご返信致します。

注意事項:
※開場時間前の会場のご入場はご遠慮ください。
※ドリンクや軽食の出店を予定しております。1オーダーのご協力お願いします。
※会場無料駐車場あり。


東京公演 DAY1

日程:2025年11月23日(日)
会場:渋谷 7th FLOOR(渋谷区円山町2−3 O-WESTビル 7F)
時間:開場18:00 / 開演18:30
料金:前売5,000円 / 当日5,500円 共に+1drink別途 (座席自由)

出演:Jonny Nash / Tomo Katsurada

[お問い合わせ]
7th FLOOR 03-3462-4466

<TICKET INFO>
ぴあ
イープラス
ZAIKO


東京公演 DAY2

日程:2025年11月24日(月・祝)
会場:青山 月見ル君想フ(港区南青山4丁目9−1 シンプル青山ビル 地下1階)
時間:開場18:00 / 開演18:30
料金:前売5,000円 / 当日5,500円 共に+1drink代別途 (座席自由)

出演:Jonny Nash / Tomo Katsurada

[お問い合わせ]
月見ル君想フ 03-5474-8115

<TICKET INFO>
店舗メール予約
ぴあ
イープラス
ZAIKO

主催:BAYON PRODUCTION
企画・制作:BAYON PRODUCTION / Cow and Mouce
協力:PLANCHA / BRIDGE INC.

maya ongaku “Maybe Psychic” Japan Tour 2025 -Final-

日程:2025年11月14日(金)
会場:東京・赤坂 草月ホール
時間:開場17:30 / 開演18:20
料金:¥5,000
チケット(※座席指定):https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2532271&rlsCd=001

出演:
maya ongaku

[GUEST ACT]
Tomo Katsurada with Jonny Nash & Kotsuguy
※Jonny NashはTomo Katsuradaのバック・メンバーで出演

主催:SMASH
企画/制作:BAYON PRODUCTION / BIAS & RELAX adv.
INFO:SMASH

NIIA - ele-king

 イタリア系アメリカ人女性ヴォーカリスト、NIIA(ナイア)の『Ⅴ』に関する資料を見て、「〈Candid〉から出るの!?」とひとりごちてしまった。リリース元が筆者の信頼/愛好する米国の老舗〈Candid〉だったことに驚いたのだ。〈Candid〉はチャールズ・ミンガスやマックス・ローチといったビバップ期のジャズ・ミュージシャンやブルースの名盤をリリースしてきた由緒あるレーベル。特に、ローチが公民権運動を背景に人種差別に抵抗した『We Insist!』は、長年に渡り語り継がれるレベル・ミュージックの嚆矢である。

 驚いたのはなぜかといえば、NIIAの音楽が正統派のジャズやブルースには到底収まり切らない、多様なエレメントから成り立っているからだ。この驚きは例えば、〈ブルーノート〉がフリー・ジャズの雄セシル・テイラーと契約したと知った時や、〈ECM〉がフューチュー・ジャズを背負っていたニルス・ペッター・モルヴェルの作品をリリースした時と似たものといってもいい。いずれも、レーベルの度量の大きさと懐の深さと柔軟性を知らしめるという意味で、NIIA『V』の発売と似たような感慨があった。

 なるほど、ジャズ・ヴォーカルとクラシック・ピアノがNIIAのバックグラウンドなのは分かる。だが、繰り出される音楽的ヴォキャブラリーは多彩で乱脈。ある意味、節操がない。彼女はアンビエントもトリップ・ホップもドラムンベースも自家薬籠中のものとしており、それらが重なり合った交点に『V』は位置している。

 漆黒の闇のような音像がレディオヘッドにも通じる“fucking happy”、重厚なベースのループにエフェクトをかけたヴォーカルが乗る“Ronny Cammareri”、ポーティスヘッドを想わせるダークで不穏な“Again with Feeling”、四つ打ちのキックとエキゾティックなメロディが融和する“Dice”など、いずれの曲も一筋縄ではいかない。

 特に面白いのは、ジャズを出自とするNIIAが〈Candid〉から発表した本作が、決してスウィングしないということだ。フォー・ビートの曲がないというのもあるが、そこは本質的な問題ではない。ピアノもヴォーカルも、点描的にぽつりぽつりと置かれている印象で、全体で線や面になることがない。テンポも遅めだしヴォーカルは今にも消え入りそうなかそけき囁きがメインとなっている。少なくとも筆者には、思わず身体が動いてしまうような音楽ではない。

 決してスウィングしない、そして、まったくダンス衝動を誘発しない本作はしかし、筆者の耳を捉えて離さない。気怠くて体温が低く、煙が目に沁みるような甘美なメランコリー。それは従来の〈Candid〉のパブリック・イメージとは大きく異なっている。『We Insist!』のような怒りや憤りは微塵も感じられない。泥臭さやいなたさも感知できない。むしろ、本作はNIIA が自己の内部に沈潜していくような、内省的でパーソナルな響きが基調となっている。鎮静剤のような一枚と言ってもいい。

 彼女は自分の音楽について「私は“ジャズ=博物館”としての捉え方には興味がないの。むしろ、その言語を変形させて、今までに語られたことのない物語を語ること——その可能性に興味があるの」と述べている。ちなみに、ほかに2025年に〈Candid〉からリリースされたのは、ナンシー・ハロー『Wild Women Don't Have the Blues』、ジャキ・バイアード『Blues for Smoke』、メンフィス・スリム『Memphis Slim, U.S.A.』のリマスター盤である。ここにNIIAの新作が加わる。なんだかこの事実だけで心が浮き立ってくるじゃないか。そう、レーベルにとっても、NIIAにとっても、本作は新しい物語のはじまりを告げるのに相応しい。そう断言したい。

Shinichi Atobe - ele-king

 00年代初頭に〈Basic Channel〉の直系レーベル〈Chain Reaction〉より『Ship-Scope』をリリースしたのち十数年にわたり沈黙、2014年に〈DDS〉よりアルバム『Butterfly Effect』を発表して以降は精力的な活動を続ける日本の電子音楽家・Shinichi Atobe。2025年7月には自主レーベル〈Plastic & Sounds〉を立ち上げるなど、また新たな動きを見せている。

 そんなShinichi Atobeの2018年作『Heat』より“Heat 1”を、2000年生まれの音楽家・E.O.Uとその盟友・Vísがリミックス。E.O.U主宰レーベル〈halo〉より2曲入シングルとしてデジタル・リリースされた。10月30日(木)には〈Plastic & Sounds〉のローンチ・パーティがデイタイムの渋谷WWWにて開催。Atobeのほかにフエアコ・S名義で知られるブライアン・リーズ(Loidis名義)とデッドビートが出演するほか、サブ・フロアをE.O.Uによるパーティ・シリーズ〈loopな〉がキュレーションするなど、世代を超えた交歓が生まれているようだ。ミニマル・テクノを、斬新な解釈とともに。

Artist:Shinichi Atobe, E.O.U, Vís
Title:Heat 1 (Remixes)
Label:halo
Release: 2025.10.22
Format:Digital
Stream / Download:https://haloooo.bandcamp.com/album/shinichi-atobe-heat-1-remixes

Tracklist:

1. Shinichi Atobe - Heat 1 (eV流mix)
2. Shinichi Atobe - Heat 1 (Vís Remix)

10月28日 川上哲治(プロ野球選手) - ele-king

※安田謙一(略歴担当)による序文はこちらから

川上哲治(プロ野球選手)

1920年3月23日生まれ。野球選手。トレードマークは赤バット。プロ初の2千本安打を記録した打撃の神様。「ボールが止まって見えた」の名言を残す。巨人軍の監督としてV9を達成。「巨人の星」や「アストロ球団」など創作物にとどまらず、57年の映画「川上哲治物語 背番号16」では本人を熱演。

1920.3.23-2013.10.28

フランク永井(歌手)

1932年3月18日生まれ。歌手。「有楽町で逢いましょう」、「夜霧の第二国道」、「夜霧に消えたチャコ」、松尾和子との「東京ナイト・クラブ」、「君恋し」などヒット曲を多数生み出す。「西銀座駅前」の歌詞“ABC,XYZ。これはおいらの口癖さ”さえも、低音の魅力で魅惑のムードに仕立てあげた。

1932.3.18-2008.10.27

赤瀬川原平(美術家)

1937年3月27日生まれ。芸術家。ハイレッドセンターでの清掃パフォーマンス、裁判沙汰となった千円札の模写作品など特異な表現で驚かせる。「超芸術トマソン」では眼で日常に芸術を幻視した。雑誌「ガロ」に漫画を寄稿、「朝日ジャーナル」に「櫻画報」を連載。尾辻克彦名義で小説を書き、芥川賞受賞。

1937.3.27-2014.10.26

アベベ・ビキラ(陸上競技選手)

1932年8月7日生まれ。陸上競技選手。エチオピアから強化選手としてローマオリンピックのマラソン競技に出場、世界新記録で金メダルを獲得。レース前に靴が破れたため裸足で完走し、世界に衝撃を与えた。東京大会ではプーマ社の運動靴を履いて連覇。36歳で参加したメキシコ大会は途中棄権に終わる。

1932.8.7-1973.10.25

ファッツ・ドミノ(歌手)

1928年2月26日生まれ。歌手。ピアニスト。「エイント・ザット・ア・シェイム」、「ブルーベリー・ヒル」、「ブルー・マンデー」、「アイム・ウォーキン」、「ウォーキング・トゥ・ニューオリンズ」など全米ポップ・チャートを賑わすヒットを連発。ニューオリンズ産リズム&ブルースの表看板となる。

1928.2.26-2017.10.24

天野祐吉(編集者)

1933年4月27日生まれ。編集者。明治学院大学中退後、創元社、博報堂で勤務。独立して誌「広告批評」を創刊。朝日新聞での連載コラム「私のCMウォッチ」、「天野祐吉のCM天気図」は29年続いた。易しい言葉の、鋭い社会時評が人気を集める。著作も多く、テレビのコメンテイターとしても活躍した。

1933.4.27-2013.10.20

Wけんじ(漫才コンビ)

宮城けんじ。1924年8月20日生まれ。漫才師。Wけんじのツッコミ担当。映画の子役から、春日八郎ショウの司会業の前歴がある。東のズレた「痛てーなー」に「遅せーよ」と返す。東の死去でコンビは解散。

1924.8.20-2005.10.19

東けんじ。1923年12月17日生まれ。漫才師。Wけんじのボケ担当。レンズのないロイド眼鏡と、とぼけた口調で笑いを誘う。宮城けんじのツッコミに「痛てーなー」と遅れて返す。時に「やんなっ!」とキレる。

1923.12.17-1999.1.7

加藤和彦(歌手)

1947年3月21日生まれ。ミュージシャン。ザ・フォーク・クルセダース「帰ってきたヨッパライ」が大ヒット。最初の妻、加藤ミカとのサディスティック・ミカ・バンド、二番目の妻、安井かずみとのコンビによる作家活動など都会的センスを極めた表現をいくつも繰りひろげる。プロデュース作も多数。

1947.3.21-2009.10.16

輪島大士(力士)

1948年1月11日生まれ。力士。第54代横綱。ライバルの北の湖と熱戦を繰り広げた。金色の廻しのイメージから力士としての特性を「黄金の左」と命名される。プロレスラー転向後のデビューとなった、故郷の七尾体育会館でのタイガー・ジェット・シン戦は、遠藤賢司「輪島の瞳」で歌になった。

1948.1.11-2018.10.8

和田誠(イラストレーター)

1936年4月10日生まれ。イラストレーター。日本にまだ定着していなかったイラストレーションという職業を先駆け、圧倒的な美意識とユーモアを持って、その魅力を広く深く浸透させた。ハイライト、話の特集、週刊文春、ゴールデン洋画劇場、映画「麻雀放浪記」……と、数多くの記憶に残る意匠を残す。

1936.4.10-2019.10.7

Blawan - ele-king

 コロナ禍に入ってからのシングルがほぼすべて当たりだったベース系インダストリアル・テクノのブラワンことジェイミー・ロバーツによるセカンド・アルバム。タイトルは「病気になるための秘薬」とでも解すればいいのか、ボルヘスやトム・ロビンズの魔術的な小説みたいで、作品に迷い込む気を満々にさせる。ブラワンのダンス・ミュージックはいつも人間性のダークな面に焦点が当てられる。ファニーな側面はもちろんあるけれど、不必要にハッピーであった試しはない。13年前に彼の名を一躍有名にした“どうして僕のガレージに死体を隠すんだよ?(Why They Hide Their Bodies Under My Garage?)”も、母親のフェイヴァリットだったというフージーズの“How Many Mics”から「部隊を殲滅させて死体をガレージの下に隠すんだ」と軽くトーンを上げてラップされる歌詞に愚直なアンサーを返したもので、人間の不可解な行動を誇張して示すことに成功し、ジェフ・ミルズからスキルレックスまでノン・ジャンルでヘヴィープレイされる結果となった。くだらないベースラインの氾濫で多幸感に支配されたダンスフロアに異質な感触を持ち込むのがブラワンであり、『SickElixir』には“心配しないで、僕たちは幸せだよ(Don’t Worry We Happy)”と、ダークサイドに興味を持つ人々を否定しようとする動きにもあらかじめ楔は打たれている。ブラワンという名義はちなみにジャワ・コーヒーの銘柄で、ダンフロアに苦味を注ぎ込むのがロバーツの役割ということだろう。

 7年前に闇の中を突っ走っていくようなデビュー・アルバム『Wet Will Always Dry』でシンプルな力強さを見せたロバーツは(最近だと“Caterpillar”が素晴らしかった)パーリア(Pariah)ことアーサー・ケイザーと組んだカレン(Karenn)名義のジョイント・アルバム『Grapefruit Regret』(19)でテクノ以外の要素をすべて削ぎ落としたことが裏目に出たとしか思えず、無限に思えたポテンシャルももはや尽きたかと思われたものの、ソロでは再びダブステップやウォンキーのようなテクノ以外の要素も回復させ、『SickElixir』ではついに別人のような風格を伴って堂々たるリターンを果たしている。ケイザーとはその後も〈Thrill Jockey〉からパーシャー(Persher)名義でメタル系のアルバムを立て続けにリリースしていて、『SickElixir』にはあからさまにそのフィードバックも感じ取れる。最も特徴的なのはハード・ドラムの多用で、バーミンガム・サウンドと称されるイギリス流のポスト・インダストリアルがベース・ミュージックに埋め込まれた様は、それこそバーミンガム・サウンドを代表するサージョンがヒップホップをやっているように聞こえたりと、アグレッシヴな破壊衝動がダンス・ミュージックのフォーマットにがっちりと畳み込まれている。この4年間にリリースされた「Soft Waahls EP」「Woke Up Right Handed」「Dismantled Into Juice」といったEPはいずれも野心的で発想も多岐に渡っているのはさすがで、とくに「Bou Q」は素晴らしいのひと言だけれど、『SickElixir』に詰め込まれた曲の数々はそれらとも一線を画す強度があり、それこそリスナーを病気にしてやるという熱量が全編に漲っている。ここ数年、批評に熱量を求める声が高まっていて、論破を忌避する人たちがよりにもよって精神論に回帰していく感じはなんだかなーと思うのだけれど、音楽自体に熱量が宿ることはもちろん素晴らしいことである。

 基本的にはイーブン・キックだった『Wet Will Always Dry』とは異なり、『SickElixir』の基調をなしているのは広義のブレイクビーツ。全体にザ・バグがキャバレー・ヴォルテールをブラッシュ・アップさせたような響きに満ち、ディスコやハウスと出会ったインダストリアル・ミュージックがダンスフロアに感じた可能性や初期衝動を再燃させているかのよう。曲の長さも平均で3分ちょいと『Wet will always dry』の半分ぐらいになり、酩酊感よりもイメージの喚起が優先されている。BPM90~110に収まる曲が多く、これに80や130で緩急をつけ、アルバム全体の展開も迷宮的な構成を助長している(“Birf Song”はヘン過ぎてBPMがとれない)。何度聴いても頭にスヌープの“Drop It Like It's Hot”が浮かんでくる“NOS”や、空中分解したUKガラージを無理やり曲として成立させている“Creature Brigade”など、多種多様な曲のどれもが印象的で、好きな曲は人それぞれに異なることだろう。ノイズがねっとりと絡みつく“Sonkind”もクセになるし、アシッドヘッドには“Rabbit Hole”がたまらないことでしょう。今年はエレクトロが奇妙な変化を遂げた年で、その動きに反応したらしき“Style Teef”はシェレルばりにBPM160で展開される高速エレクトロ。リック・ジェイムズやMCハマーがてんてこ舞いで回転している姿が目に浮かぶ。

 実は、この夏に〈Planet Mu〉からリリースされたスリックバックのデビュー・アルバムに多大な期待を寄せていた。オフィシャルでは初となるアルバムであり、なによりも〈Planet Mu〉にレーベルを定めたという安心感もあったのだけれど、この5年間にアンフィシャルで8枚ものアルバムをリリースしてきたことが裏目に出たとしか思えず、皮肉なことに『Attrition(消耗)』と題されたアルバムは確かに疲れを感じさせるものがあり、〈Nyege Nyege〉から頭角を現してきた時のスリリングな響きには遠く及ばないものを感じてしまった。『消耗』というタイトルは、実際にはケニアからポーランドへ移住する際に、1年間にわたって国境付近で待機させられたことに由来し、音楽性と直接結びつくことではないらしいのだけれど、どうしてもこの5年間にやってきたことが悪い意味で投影されているタイトルだという印象を受けざるを得なかった。そこに、等しくデコンストラクテッド・クラブの要素としてハードコアやポスト・インダストリアルを取り入れた『SickElixir』が届けられたことで、肩透かしに終わってしまったスリックバックに対する期待感は見事なほどレスキューされてしまった。しかも、UKベースの文脈にポスト・インダストリアルを取り入れる手際がより巧みであり、ハードコアやポスト・インダストリアルといった荒々しいモードを現在の文脈で活性化させるにはこれ以上はないと思うほど『SickElixir』はよくできていると思う(もちろん、スリックバックにもまだまだ期待はしたい。それにしてもケニアからポーランドへと、どうして2次大戦中にナチスが支配していた国を渡り歩こうと思ったのだろう?)。

10月のジャズ - ele-king

Ruby Rushton
Legacy!

22a

 テンダーロニアスことエド・コーソーン率いるルビー・ラシュトンは2010年代初頭より活動しているが、当初はジャズにヒップホップやビートダウンなどの要素も交え、生演奏にエレクトロニクスも融合したグループだった。当時はメンバーも流動的なところがあり、テンダーロニアスのアイデアを具現化するプロジェクト的な色彩が強かったのだが、アルバムやライヴを重ねるにつれてグループを精査していき、2019年の『Ironside』ではテンダーロニアス(フルート、サックス、パーカッションほか)以下、ニック・ウォルターズ(トランペット、パーカッション)、エイダン・シェパード(フェンダー・ローズ、ピアノ、シンセほか)、ティム・カーネギー(ドラムス)に固定され、ジャズ・バンドとしての姿を完成させた。楽曲もクラブ・サウンド的なアプローチは後退し、より純粋なジャズ・ファンク、モーダル・ジャズ、スピリチュアル・ジャズなどの即興的な演奏が強まっていった。その後、グループとしてシングルやEPのリリースはあったが、テンダーロニアスとしての数々のプロジェクトが忙しかったり、ニック・ウォルターズもパラドックス・アンサンブルやソロ活動があったりで、ルビー・ラシュトンとしてのアルバムはしばらくお預けとなっていた。そうして6年の歳月が経過したが、ここにようやくニュー・アルバム『Legacy!』が完成した。

 ファースト・アルバムの『Two For Joy』のレコーディングから14年が経過した2025年初頭、英国ケント州にあるスタジオで4日間に渡って集中的にレコーディングされた。オーヴァーダビングを排した一発録音を基本とするルビー・ラシュトンだが、今回はテンダーロニアスとエイダン・シェパードが作曲した楽曲をメンバーで演奏し、それらのライヴ・テイクの上にホーンとフルートのメロディを重ね、最終的にテンダーロニアスによるスタジオ・ワークを交えて完成させている。“Charlie’s Way” は滑らかなエレピの上をピッコロが舞うムーディーな出だしから、6/8拍のアフロ風味のジャズ・サンバへと変化していく。“Walk to Regio’s” もモーダルな7/8拍のナンバーで、ルビー・ラシュトンにはこうした変拍子の作品が多い点が特徴的だ。“The Lighthouse” も3拍子のジャズ・ワルツで、エモーショナルなテナー・サックスもフィーチャーされたスピリチュアルなムードの作品。チップ・ウィッカムにも通じるタイプの作品でもあるが、1960年代後半から1970年代のヨーロッパに見られる硬質で洗練されたムードのジャズに近い。テンダーロニアスとチップ・ウィッカムには影響を受けたジャズ・ミュージシャンや作品に共通するところがあるのだろう。


Alfa Mist
Roulette

Sekito

 2025年のアルファ・ミストは非常に精力的に活動していて、リチャード・スペイヴンとのユニットである44th Move(フォーティーフォース・ムーヴ)のアルバム『Anthem』を春にリリースし、そして秋には新作の『Roulette』をリリースした。彼は昨年弦楽四重奏のアミカ・カルテットと共演した『Recurring』というライヴ・アルバムをリリースしているが、スタジオ録音盤としては2023年の『Variables』以来の作品集となる。『Variables』は「無限の可能性」をテーマとしており、自身が興味を持つさまざまな音やアートを具現化したものとなっていた。それ以外にもメンタル・ヘルス、家族コミュニティ、議論文化、個人的な成長など内面や精神にかかわることが、これまでの彼の作品のテーマや手掛かりとなってきた。今回は「輪廻転生」がテーマになっていて、夢の世界と前世を繋ぐものが輪廻転生であり、近未来へと想像を巡らせる旅がアルバムの底辺に流れている。参加ミュージシャンは長年のコラボレーターであるカヤ・トーマス・ダイク(ベース、ヴォーカル)に、ジェイミー・リーミング(ギター)、ジョニー・ウッドハム(トランペット、フリューゲルホーン)、サミュエル・ラプリー(サックス、バス・クラリネット)、ペギー・ノートン(チェロ)など、『Variables』にも参加していた面々が中心となる。そのほかゲストでアメリカからラッパーのホームボーイ・サンドマンと、2000年代からクラブ・シーンを中心に活動するソウル・シンガーで、シネマティック・オーケストラにも参加してきたタウィアがフィーチャーされる。

 テーマである「輪廻転生」を曲名とした “Reincarnation” は、ホームボーイ・サンドマンのラップをフィーチャー。楽曲自体は重厚なストリングスを用いた深みのある作品で、ホームボーイ・サンドマンの理知的なラップともうまくマッチしている。アルファ・ミストらしいジャズとヒップホップの融合で、彼がデビューの頃から一貫してやっているスタイルと言える。“All Time” はタウィアをフィーチャーし、ギターがダークでメランコリックな雰囲気を奏でる。こうした繊細でフォーキーな質感の楽曲もまたアルファ・ミストらしいもので、内省的なテーマの作品にぴったりである。“From East” はダビーでコズミックな質感のインスト曲で、エレピ、ドラムス、ギター、トランペット、サックスのインタープレイもディープで幻想的な世界を繰り広げる。ジョー・アーモン・ジョーンズなどと並び、いまのロンドンらしい現代ジャズと言えるだろう。


Matt Wilde
Find A Way

Hello World

 マット・ワイルドはマンチェスター出身のキーボード奏者/プロデューサーで、2021年頃から作品リリースを続けている。DJ/ビートメイカーからキャリアを始め、J・ディラマッドリブ、ピート・ロックなどの影響を受け、J・ディラがマイルス・デイヴィスをサンプリングしていたことからジャズそのものにも興味を持つようになった。そのJ・ディラへのトリビュートである “Dilla Impressed Me” という作品もリリースしているが、トロンボーン奏者のロージー・タートンなどジャズ・ミュージシャンと共演し、単なるビートメイカーではないピアニストへと成長を遂げている。こうしたDJ/ビートメイカーからミュージシャンになった人はアルファ・ミスト、テンダーロニアスなどいろいろいるが、マット・ワイルドは edbl やアメリカのキーファーあたりに近いタイプのミュージシャンで、ヒップホップと親密な結びつきを持っている。ファースト・アルバムは2023年の『Hello World』で、ジョー・ラッキン(ドラムス)、オスカー・オグデン(ドラムス)、スタン・スコット(ベース)、ナッティ・リーヴズ(ギター)、アーロン・ウッド(トランペット)などさまざまなミュージシャンたちとコラボしている。ヒップホップのビートを咀嚼したリズム・セクションに、マット・ワイルドによるメロウなエレピやホーンなどのフレーズを差し込み、生演奏とプログラミングやサンプリングを極めて精巧に融和している。

 新作の『Find a Way』はファースト・アルバムの名前をレーベル名にした自主レーベルからのリリース。今回は参加ミュージシャンを絞り、スタン・スコット、アーロン・ウッドと、一部オスカー・オグデンのドラムス・パターンを借用している。マット自身はキーボード演奏とドラム・プログラミングをおこない、複雑にプログラムされたドラムの上にピアノ、ベース、トランペットを重ねて全体構築している。『Hello World』をよりコンパクトにした形であるが、ヒップホップ色の濃かった前作よりサウンドの幅は広がっている。“It’s OK, Feel It” はブロークンビーツ的なビートで、ロニー・リストン・スミスやアジムスを想起させる1970年代フュージョンのエッセンスに包まれる。“Yellow Days” や “Everyday Words” もジャズ・ファンクとブロークンビーツをミックスしたような楽曲で、透明感に溢れたマットのピアノが印象的。“Windup” は変拍子によるミステリアスなムードで、ルビー・ラシュトンあたりに近い作品と言える。“Smile Today” はメロウなテイストの重厚なジャズ・ファンクだが、ビートの作り方など非常に凝ったものである。


Glass Museum
4N4LOG CITY

Sdban Ultra

 グラス・ミュージアムはベルギーのブリュッセルを拠点とするユニットで、2016年にアントワーヌ・フリポ(ピアノ)、マルタン・グレゴワール(ドラムス)によって結成された。方向性としてはゴーゴー・ペンギンに近く、コンテンポラリー・ジャズにテクノなどエレクトリック・サウンドやクラブ・サウンドのアプローチをミックスしている。これまでアルバムは『Deux』(2018年)、『Reykjavik』(2020年)、『Reflet』(2022年)とリリースしていて、『Deux』では一部にトランペット奏者を加えた作品もあったが、基本的にふたりのコンビネーションで楽曲を作ってきた。そして、新作の『4N4LOG CITY』では新たにサポート・ベーシストのブリュー・アンジュノを加えたトリオとなっている(ただ、アルバム・レコーディング後に正式なベーシストとしてイッサム・ラベンが加入し、現在はこの3名でライヴなどを行っている模様)。ほかにサックスやシンガーも加え、いままでに比べてより多彩な表現が可能となった。また、スイスのドラマー/作曲家/プロデューサーであるアーサー・フナテックとのコラボから始まって “Gate 1” という楽曲も作るなど、外部との交流や広がりが見られるアルバムだ。

 その “Gate 1” は電子音の反復によるミニマルな始まりから、パワフルなビートが前進していくテクノとジャズ・ファンクが融合したような楽曲。クラークフランチェスコ・トリスターノが共演したようなイメージというか、グラス・ミュージアムとしてもこれまで以上にエレクトリック・サウンドに振り切ったサウンドである。“Rewind” はドラムンベース的なビートを持つナンバーで、途中で半分のテンポのジャズ・ファンクへと変わる。ゴーゴー・ペンギンに近いイメージのエレクトロニック・ジャズだ。“Call Me Names” は新進気鋭のヴォーカリストである JDs を起用しているが、彼の歌声はスペイセックを思わせるソウルフルなもの。そして、少しレゲエ・シンガー風のアクセントを持っていて、ナイトメアズ・オン・ワックスのような独特のスモーキーな風味を出すナンバーとなっている。いままでの路線のジャズ的なナンバーとは異なるが、グラス・ミュージアムの新しい魅力を引き出す作品となっている。

 Hello Hello! hey hey! はろはろ! へいへい!
 今月からこの連載を書かせていただくことになりました、DJのheykazmaですッ!!

 普段は東京で高校一年生をかましつつ、experimentalを軸に、TechnoやHouse系のDJをしたり、ギャルマインド満載なトラックを作ったり、モデルをしたり、パーティを主催したり、遊びに行ったり……。アーティストとして、学業の傍ら、楽しく活動しています。

https://lit.link/heykazma

 この連載では、ワタクシことheyが制作した音源の話や、最近聴いてムネアツな音楽、日常のワラえることなど、みなさんと共有したいものをひたすら書いていく予定(キリッッッ)。ゆる〜く読んでもらえたら嬉しいhey!

 hey的にお気に入りのheyの現在地的なDJ Mixはこちら! 1億回聴いておくんなまし〜

 初回のテーマは……10/1にU/M/A/AからリリースされたRemix EP「Happy Halloween Remixes 2025 Curated by heykazma」について。
 この作品は、毎年10月になるとSNSでよく耳にするハロウィンソング定番曲!再生数がマジでヤバいJunkyさんのボカロ楽曲『Happy Halloween』をテーマに、heyがキュレーションを担当したEPです!

Junky- Happy Halloween (heykazma Remix)

 このお話をいただいたきっかけは、「Happy Halloween」の原曲をリリースしたレーベルのみなさんが、私が主催しているパーティ「yuu.ten」に遊びに来てくれちゃったことでした(感謝!!♡)

 「yuu.ten」は、2024年からスタートした“音に溶ける”をコンセプトにしたダンスパーティ\(^o^)/

 初回となるvol.1は、地元・仙台で愛しているお店「ファシュタ -Första-」で開催したの。東京から、普段一緒にユニットを組んだりしているマヴ・北村蕗をゲストに迎え、2人会をやっちゃいましたよ。

 そして、6月20日に開催したvol.2は下北沢SPREADにて。LIVE、DJ、アートパフォーマンス、似顔絵ワークショップなど、私の“好き”と“友人”をぎゅっと詰め込んだ内容に(((o(*゚▽゚*)o)))♡

 会場は満員で、来てくれたまゔたちからも「こんなイベント待ってた!」と言ってもらえて、本当に嬉しい夜だったよん˚ˑ༄

 後日、「heyちゃんにお願いしたいことがあったんだよね!」と、今回のリミックスEPの企画のお話をレーベルの方からいただきました。すごく光栄でテンション爆上がり!(わーーい

 今回私が担当したのは、いわばディレクター的な役割。
 リミキサーの選定、アートワークをお願いするアーティストの選定、MV監督の起用、リリースパーティの企画などなど…。

 特に最初に取りかかったのが、「誰にリミックスをお願いするか?」という部分。hey的に、原曲の“Happy Halloween”が持つ、ポップでキャッチーで、ちょっとホラーでかわいい世界観を、それぞれの解釈で楽しく再構築してくれそうなアーティストたちをピックアップ!

 結果、リミックスをお願いしたのが、Shökaちゃん、清水文太くん、バイレファンキかけ子さま、foodmanパイセンの4名! そしてアートワークを村田みのりせんせー、MVをALi(anttkc)っちにオファ〜しました!

 ジャンルも活動スタイルもバラバラだけど、それぞれの個性がピカピカで、hey的に「この人たちが並んだら絶対おもしろい!」と思える方々ばかり。
この選定には、これまでheyが遊びに行ったパーティや出会ったアーティスト、SNSで気になっていた方など、これまでの縁やつながりがめちゃくちゃ活きているchanょ。

 ここからは、今回リミックスをお願いした4組のアーティストについて、heyとその人たちとの出会いや制作までの流れを書いてみますっ!

Shöka (Remixer)
 Shökaちゃんとは、もともと共通の友人を通じて知り合いました。最初にちゃんと話すようになったのは、彼女が出演していたイベントに遊びに行ったときのこと。そこから、会ったり会わなかったりを何度か繰り返して、気づけば自然と仲良くなっていました。
 あるとき、「高校時代にボカロをよく聴いてた」って話をしてて、それを聞いた瞬間に「これはShökaちゃんにリミックスお願いしたいかも!」って直感で思ったんです。
 思い切ってオファーしたら快く引き受けてくれて、出来上がった曲を聴いたときは本当にびっくりしました。普段のShökaちゃんの独特なバイブスが音にも滲み出ている一方で、作品ではあまり見せていない音楽性もあって、すごくドープに仕上がっていて……不思議で、でもクセになるタッチの曲。何度も聴いては刺激受けまくりで、ひたすら最高!!

ライヴ観に行ったとき謎の遊びをしている写真...

清水文太 (Remixer)
 文太くんのことは、小学生のころハマっていた「水曜日のカンパネラ」のスタイリストをしていたり、私がずっと好きなクィア&フェミをテーマにした東京のDJパーティ「WAIFU」でライブ出演していたりと、名前を見かけるたびに気になる存在でした。
 ちゃんと話すようになったのは、実は今年に入ってから。私が出演したパーティにふらっと遊びに来てくれたのがきっかけでした。
 話してみたら、表現の幅広さとか感性の鋭さとか、想像以上で。彼の実験的かつ自由なバイブスにめちゃくちゃ惹かれて、今回のリミックスもぜひお願いしたいと!!!!
 実際に届いた音源は、まさに文太くんの空気感そのまま。“ハロウィン”というテーマに対して、甘すぎず、美しくて、でもちょっと毒もある。その微妙なバランスを取れるのは、やっぱり文太くんしかいないなって〜〜〜!♡

一緒に新宿御苑行ったら急にストレッチをし始める文太くん

バイレファンキかけ子 (Remixer)
 かけ子さまとは、クラブの現場で出会ったというより、SNSでかけ子様のDJ Mixや情熱大陸のBootlegを先に聴いて、「この人やばっ!」ってなったのが最初。
 初めて実際にお会いしたのは、上京してすぐ。かけ子さまが出演しているパーティに遊びに行って、フロア最前でマヴと爆踊りしてました(笑)。
 プレイ後に話しかけたら、めちゃくちゃ優しくて面白くて、バイブスが最高すぎて! かけ子様の音楽のお祭り感とハロウィンのお祭り感をMixしたら絶対最高になると思って、すぐオファーしちゃた! 結果、めちゃくちゃフロア爆発しそうなリミックスが届いて感動。安心信頼、安定のかけ子大先生!!

初めてお会いした時に撮ったツーショ!!

食品まつり a.k.a foodman (Remixer)
 食まつパイセンとも、かけ子様と同じく最初はSNSにアップされていた音源を聴いて強く惹かれたの.........!!!!!
 さらに、大好きな作家・アーティストのシシヤマザキちゃんと「1980YEN」というユニットを組んでいたこともあり、当時からすごく気になる存在。昨年の夏、下北沢SPREADで初めてライブを拝見したのですが、そのパフォーマンスが圧倒的で、やっと会えました!
 そんな中ふと!「ボカロと食まつパイセンの音楽が混ざったら面白いのでは!?」と思い、今回無茶振りオファーを〜〜〜〜(*´∇`*)
 そして生まれたのが、めちゃくちゃ異色でエグいサウンド。聴けば聴くほどクセになる、“スルメ楽曲”の極みです!! パイセン サイコー!

りんご音楽祭で会ったときの写真!!

村田みのり(アートワーク)
 みのり教授と出会ったのは6月。コムアイさんとみのり教授が主催する「おかしなおかね」に、参加したのがきっかけ。
 もともとインスタで作品を見ていて、「この世界観めっちゃかわいい!」って思ってたんです。
 実際にお会いしてみたら、テンションの波長がすごく合うし、初対面でもすぐに仲良くなれちゃた。
 そのあともイベントで何度か会ううちに、みのり教授の持つ柔らかさとか、アイデアの発想力にどんどん惹かれていって。今回のハロウィンのテーマを考えたときに、真っ先ににお願いしたい!って思いました。

はじめてみのりさんとbonoboでお会いした日
w/もりたみどりちゃん&Yoshiko Kurataさん

ALi(anttkc) (Music Video監督)
 ALiっちは、普段からよく遊ぶマイメンのひとりで、もう説明いらないくらい信頼しまくってる存在。私が主催している「yuu.ten」でもVJを担当してくれたり、彼が運営している神保町のイベントスペース「RRR」でブッキングしてくれたりと、お互いに呼び合ったり、遊びに行ったりな関係!映像制作に関しては本当に安心と信頼のクオリティで、今回も絶対にお願いしようって迷いなく思いました。打ち合わせではふわっと伝えただけなのに、彼が作ってくれた映像はPOPでかわいくて、動きもテンポも最高。本当に、ALiっちの映像が加わったことで、今回のEPやハロウィン企画全体の世界観が一気にぐっと立体的になったな〜と感じています。

りんご音楽祭で会ったときの写真!!

 そして最後に、hey自身が制作したRemixについて〜。
 heyはこの曲の「アゲな部分」にフォーカスして、Hard Technoでわっしょい感を大切に、数々の有名ダンスアンセムから影響を受けて、NEO盆踊りの極みmixに仕上げました! 500,000,000回聴いてくれ!

 今回の企画を通して、改めて「人と人とのつながり」や「音楽が持つ広がりの力」を強く感じました。heyがこれまで現場で出会ってきた人たちと、ひとつの作品を一緒に作り上げられたことが本当に嬉しい( ; ; )

 それぞれのリミックスが持つ世界を聴きながら、ぜひハロウィンという季節を自由に楽しんでほしいなと思うよんっ♪

 またリリースを記念して、日本橋にあるアートホテル”BnA_WALL”でhey主催リリパを開催します!!こちらも激アツな企画になってるので...絶対に来て欲しいです!!!!!!!!!!

 これからも私heyは己かましまくりで前に進んでいこうと思うよっ
 それでは次回の連載、どこかのパーティでお会いしましょう˖ . ݁

Happy Halloween Remixes 2025 Curated by heykazma
Release Party at BnA_WALL 日本橋

2025年10月31日(金)
18:00 Open
19:00 Start
22:00 Finish

■ DJ
heykazma
バイレファンキかけ子
カワムラユキ
CASE(Wangone)
■ Live
Shöka
清水文太

■チケット
¥3.500 当日(会場のみで販売)
¥3.000 前売り ※非売品ステッカー付 50枚限定
¥2.000 Under 25
※小学生以下のお子様のご入場は無料です。
※会場キャパシティの上限に達した際には当日券が販売中止となる場合があります。

Peatix | eplus

R.I.P Dave Ball - ele-king

野田努

 デイヴ・ボールは、ポール・ボールになったかもしれなかった。 彼が生まれた1959年5月3日、じつの母親はポールと名付けている。しかし未婚のシングルマザーは、1年間の貧しい生活の果てに我が子を養子に出すことにした。ポールを養子に迎え入れたボール夫妻は、ポール・ボールのような韻を踏んだ名前ではこれから学校に行ったときに問題になるかもしれないと、デイヴィッドに改名したのである。かくしてデイヴ・ボールは、イングランド北西の街、ブラックプール──サッカーファンからは、弱いけど人気があってサポーターが熱い(駿河湾のくぼみのどこかのチームのようだ)地元クラブのことで知られ、英国音楽ファンからはノーザン・ソウルの大いなる拠点のひとつとして記憶されている──で思春期を送ることになる。
 ボールが初めてディスコに行ったのは10歳のときで、のちに彼がマーク・アーモンドとともに結成するソフト・セルがカヴァーし、最初の、そして最大のヒットになった“Tainted Love”を初めて聴いたのは16歳のときだった。グロリア・ジョーンズがこの曲を吹き込んだのは1965年、しかもこれは不発シングルのB面曲、そもそもあまりよく知られていない曲だった。ノーザン・ソウルとは、このように、大勢がまだ知らない埋もれたアメリカのソウル——デトロイト、シカゴ、フィラデルフィア、LAなどのなるべくヒットしなかった曲——をディグするというレアグルーヴ的なアプローチによる選曲と、そしてDJは会場にやって来たダンサーのためにひと晩中踊る曲をかけ続けるというレイヴ的なアプローチを兼ね備えた、1970年代の、DJ/ダンス・カルチャーの初期段階だった。南部やロンドンの洗練された文化と違って、北部のいなたい労働者階級の若者が週末のダンスのために生きる刹那的なライフスタイルに根ざした巨大なアンダーグラウンド・ダンス・シーンである。

 デイヴ・ボールがポップ史において果たしたひとつの成果は、ソウルとパンクとクラフトワークを合体させたことだった。ソウルとスーサイドを合体させたことだった、とも換言できる。ひとりのヴォーカリストとひとりのエレクトロニック担当者のふたりでステージに立つことの先駆者にはスーサイドがいたし、第二期DAFもそうだったけれど、言うなれば彼らはアンダーグラウンドの脅威だった。1979年(ウィキペディアほかネット情報では1978年結成とあるが、本人の述懐によれば、サッチャー当選の1979年に結成。おそらく、アーモンドのパフォーマンスのバックに初めて音を付けたのが1978年なのだろう)に誕生したボールとマーク・アーモンドのソフト・セルは、チャートを賑わせ、トップ・オブ・ザ・ポップスに出演するようなポップ・ミュージックのユニットである。
 とはいえ、ソフト・セルがポップスとして聴かれるには少し時間が必要だった。だいたいポスト・パンク期からゴシック期へと(つまり70年代末から80年代へと)移行する時代における若きエレクトロニック・ミュージックは、いきなりMoogを買えるほど裕福ではなく、機材が日進月歩していたこともあって作品ごとサウンドが異なっている。初期のシンセサイザーと言えばモノフォニック(単音しか出せない)で、シーケンサーの代わりはテープデッキ、ドラムはBOSSのDr Rhythmとか、もしくはプリセットを使うことも珍しくなかったし、最初期のキャバレー・ヴォルテールのようにホワイト・ノイズをリズムの代わりに使っていたバンドもいる。しかしながらそうした制限が、創造的な音楽を促していたと言いたくなるのは、いま聴くと、今日のPC内でつくられた音楽にはない、それぞれ固有のテクスチャーや創意工夫に基づいた深みのある魅力を放っているからだ。

 ロックンロールが大嫌いだった父親のもとで、10歳から音楽オタクとなったデイヴ・ボールは、すべてのお小遣い/アルバイト代をレコードにつぎ込み、リーズ工科大学に進学する頃にはそれなりのレコード・コレクションを有していたという。ソウル・ミュージックからグラム・ロック、ディスコ、プログレからクラウトロックまで、横断的に蒐集していた彼が最初に天の啓示を感じたのは、高校時代にアイスクリーム屋でバイトしていたときにラジオから流れたクラフトワークの “アウトバーン” だった。それから、ブライアン・イーノの『アナザー・グリーン・ワールド』、そしてドナ・サマーの “アイ・フィール・ラヴ” ……。
 大学に進学するとリーズにやって来たパンク・バンド/ポスト・パンク・バンドのライヴ──オリジナル・ヒューマン・リーグ、キャバレー・ヴォルテール、ジョイ・ディヴィジョン、ACR、スピッツ・エナジー、スロッビング・グリッスル等々──を目撃している。在学中、学位取得のためしばらくマンチェスターへ移り住んだときは、2トーン・レコードのツアーやディーヴォ、YMOのライヴにも足を運んだ。そのころには、ボールの関心はエレクトロニック・ミュージックに絞られていた。在学中、ギターを売って得た金と300ポンドで、ふたつのオシレーターを搭載したKorgのデュオフォニック・アナログ・シンセサイザー、800 DVを買った(数年後にはソフト・セル・サウンドのトレードマークにもなる、もう一台のKorg、ベース・シンサイザーSB-100を手に入れる)。
 大学の同級生にはマーティン・ハネットの実弟がいて、最上級生にはフランク・トーヴェイがいたが、大学に入って最初に声をかけた相手が、ヒョウ柄のシャツを着てアイラインを入れたマーク・アーモンドだったのは運命的である。ジョン・ウォーターズの「ディヴァイン」シリーズやラス・メイヤー、ケネス・アンガー、ウォーホル等々、トラッシーなカルト映画好きという共通の趣味もあって意気投合したふたりだが、最初のボールの役目はアーモンドのパフォーマンスのためのBGMをつくることだった。そうこうしているうちに、ふたりの関心は音楽制作に向かったのである。歌と作詞はアーモンド、曲の担当がボール。そしてふたりがつくりあげたのは、ノーザン・インダストリアル・キャバレー・エレクトロとでも言いたくなるような独特の雰囲気をもった音楽だった。
 
 ソフト・セルは、ポスト・パンク時代のエレクトロニック・バンドの第一波(キャブス、ヒューマン・リーグ、TG、シリコン・ティーンズ、ファド・ガジェット等々)に続いた第二波(ほかにデペッシュ・モードやブランマンジュなど)に相当する。ボールはリアルタイムで、トーマス・リアの「Private Plane」、キャバレー・ヴォルテールの「Extended Play」、スロッビング・グリッスルの「United / Zyklon B Zombie」、ザ・ヒューマン・リーグの「Being Boiled」といった1978年の重要な7インチ・シングルに共感を寄せていた、つまり、その次のステージを狙っていたのである。
 最初期のソフト・セルにおいて——そしてエレクトロニック・ミュージック史においても——もっとも重要な曲、 “Memorabilia”(1981) は、ボールの憧れのひとり、ダニエル・ミラーのサポートを得て制作された。この曲の、反復的な四つ打ちのグルーヴ、フィルターをかけたシンセ、ダブ処理されたヴォーカルといった構成は、明らかに、ディスコのその先へと突き進んだサウンドで、のちに「ハウス・ミュージックの先駆け」と評価されることになる。また、世界初の「Eレコード」などと呼ばれてもいるが、それは誤認だ。ソフト・セルは当時まだエクスタシーの存在など知るよしもなかった。もちろん、それから1年後、この時代としては画期的なリミックス・アルバム盤 『Non Stop Ecstatic Dancing』(1982)に収録された同曲の別ヴァージョンをNYで録音する頃には、ふたりとも経験済みではあった。ちなみに言うと、当時はまだ、それは違法ではなかったのである。
 初期のソフト・セルでもう1曲重要なのは、もちろん──当然、オリジナルと違って──大ヒットした “Tainted Love”になるが、こちらのプロデュースはマイク・ソーン、それ以前はワイアーを手がけた才人である。1975年に〈スパーク・ノーザン・ソウル・レコード〉からもカヴァーEPが出ているほどノーザン・ソウル・クラシックたるこの曲のカヴァーの提案をアーモンドが受け入れた理由は、オリジナルでは彼のヒーローのひとり、マーク・ボランの妻=グロリア・ジョーンズが歌っていたからだった。シングルではこの曲からスプリームスのカヴァー曲 “Where Did Our Love Go” にミックスされる。Roland CR-78のリズム、 SB-100によるシンセベース、それから電子ドラムパッド、 電子クラップ──それらメタリックな響き(それは電子パンクと言える)のなかで歌われるソウル・ミュージック。こうしたある種の倒錯が、ジョン・ウォーターズの醜いものほど美しいと同様にソフト・セルの個性となった。

 モノフォニック・シンセが奏でる絶妙な音色のうつくしいメロディをもったソウル・バラード“Say Hello, Wave Goodbye”はソフト・セルの代名詞と言える人気曲だが、ファースト・アルバム『Non-Stop Erotic Cabaret』のなかでは、週末のクラブに勤しむ若者の孤独を歌った “Bedsitter” のようなダークな曲(MVのなかでアーモンドが読んでいる本はジョン・ブレインの『年上の女』である)も好きだし、彼らのカルト映画趣味がここぞとばかりに噴出した(そしてすぐに放映禁止になった) “Sex Dwarf” のMVにおけるTG的な恐れを知らぬ侵犯的タブーへの挑戦も興味深く思ったものだったけれど、リアルタイムでいちばんよく聴いたのはセカンド・アルバムの『The Art of Falling Apart』(1983)だった。
 ぼくはここで読者諸氏に言いたい。その曲を聴いてから、20年後も30年後も40年後もずっと好きでいられる曲があるということは幸せなことである。若い読者が、今年自分が好きになった曲をこの先もずっと聴き続けると思っているのなら、それでいい。音楽はファストフードになりつつあるかもしれないけれど、老兵としては、そうではない音楽もまだあると思いたいのだ。ぼくは『The Art of Falling Apart』(明らかに機材的にアップグレードされた、しかし全体としてはファーストよりも暗く重い作品)に収録された“Where the Heart Is” がいまでも、曲そのものもその歌詞も、大・大・大好きだ。モリッシーよりも数年早く、家族からつまはじきされた少年のよすがをなくした孤独な心を歌い上げるその曲に天使の羽を与えたのは、間違いなく、デイヴ・ボールのシンセサイザーである。
 しかしながら、このころすでにソフト・セルは友好的に分裂していた。アーモンドは、ニック・ケイヴ、リディア・ランチ、ジム・フォータスらアンダーグラウンドな人たちと交流しつつ、マーク&ザ・マンバス名義でソロ・アルバムをつくっている(それもまた、とてつもなくすばらしいアルバムだ。なにしろ、あのアノーニに決定的な影響を与えたのだから)。ボールもまた、ジェネシス・P・オリッジやヴァージン・プルーンズのギャヴィン・フライデイ、コイルのジョン・バランスらアンダーグラウンドな人たちと交流し、最初のソロ・アルバム『In Strict Tempo』(1983)を制作する。そしてボールは憧れだったキャバレー・ヴォルテールのアルバム『The Crackdown』(1983)に参加もしている( “Just Fascination” と “Crackdown ” の2曲である)。ソフト・セルの最後のアルバムはいまひとつの内容だったが、彼らにはこんなエピソードがある。あるとき、ソフト・セル宛の郵便物がレーベルに届いた。分厚い写真集が入っていて、そこには、「あなたたちの音楽が大好きです。ポール&リンダ・マッカートニーより」とつづられていた。

 とはいえ、ソフト・セル解散後の80年代なかば以降のボールは、物事がうまくいっていたとは言いがたい。好転したのは、ジェネシス・P・オリッジがアシッド・ハウスに心酔し、彼が自分でもアシッド・ハウスをつくろうとJack the Tab名義で『Acid Tablets Volume One』(1988)を企画し、そこに参加してからだった。P・オリッジから紹介された『NME』のライター、リチャード・ノリスといっしょにM.E.S.H.名義で “Meet Every Situation Head on ” をつくると、それに反応し、サポートしたDJのひとりにアンドリュー・ウェザオールもいた。
 ノリスとのコンビが、ザ・グリッドへと発展することはよく知られている。この時期、UKのダンス・ミュージックを聴いていた人なら、ザ・グリッドによるリミックス──ハッピー・マンデーズの「Loose Fit」やペット・ショップ・ボーイズの「DJ Culture」、イレイジャーの「Am I Right?」、ブライアン・イーノの「Ali Click」,デイヴィッド・シルヴィアン「Darshan」等々──を少なくとも5曲以上は聴いているだろう。
 ボールが初めて日本の地を踏んだのも、1995年のザ・グリッドとしての来日公演だった。 “Crystal Clear” や “Swamp Thing” といったソフト・セル以来のポップ・ヒットが続いていたころで、場所はたしかリキッドルームだったと思う。ライヴに駆けつけたオーディエンスのなかにはソフト・セルのファンも少なくなかったけれど、ぼくがそのとき取材したのは複数のメディからインタヴューされたボールでもノリスでもなかった。同じく初来日で、そのときはぼく以外の誰も取材しなかったアーティスト、前座を務めたオウテカのほうだった。

 リアーナが “SOS”(2006) でソフト・セル版“Tainted Love”をサンプル・ネタとして使ったころ、かつてはチープなソウル・エレクトロで一世を風靡したふたりは、再度タッグを組んで精力的な活動をしていた。2002年には1984年以来の4枚目のアルバムをリリースし、2003年にはハイドパークで開催された6万人規模のゲイ・プライドのヘッドライナーを務めたソフト・セルだったが、ボールにはこんなエピソードもある。彼が恋人とNYのゲイ・バーに入ったとき、まったくの偶然だが、カウンターの隣にはフレディ・マーキュリーが座っていた。マーキュリーはボールの顔を見ると、「デイヴィッド、教えてくれ。君とマークは恋人同士なのか?」と訊いた。ボールは自分がストレートでガールフレンドがいると説明すると、マーキュリーは黙ってその場を去ったという。このことが、ボールが髭を剃るきっかけとなった。

 それはさておき、長年にわたるあらゆる依存症がボールを蝕んでいた。1990年代後半には、飲酒と喫煙、ドラッグの乱用で精神的にも身体的にも、そして日常生活に支障がでるほど窮地に追い込まれていたボールは、なんとかしようと一時期はアルコール依存症匿名会と薬物依存症匿名会に通ったほどだった。ドラッグと煙草を断ったデイヴ・ボールは新生ソフト・セルを始動させると、先述の通りアルバムを発表し、大きなライヴもいくつかこなし、2020年には自伝『Electronic Boy』も上梓している。2022年の『Happiness Not Included』が比較的高評価だったので、翌年にはその姉妹作『Happiness Now Completed』もリリースした。2025年10月22日自宅で亡くなったというボールだが、ソフト・セルとしての新作『Danceteria』の制作を終えたばかりだった。そういえば、つい先日ラスト・アルバムを出したセイント・エティエンヌの『International』にはザ・グリッド・リミックスがあったけれど、ボールはまだぜんぜんやる気だったのだろう。

 ほんの数年前、石野卓球とのメールで、あのころ自分が好きだったのはクラフトワークの “Numbers” よりもソフト・セルの同名曲のほうだった、というやりとりをしたことがある。そうしたら、あの曲をエイフェックス・ツインがサンプリングしているの知ってた? と卓球から教えられた。自分としては、あの時代の人たちがここにまたひとりといなくなるのはとても寂しい。先週末は多くのファンが “Say Hello, Wave Goodbye” を聴いたのだろうけれど、あらためてあのころのボールの音楽を聴いていると、良い曲ばかりで、やはりすごいことをやった人だったんだなと思った。

[[SplitPage]]

三田格

 9年前、デイヴ・ボールは(ジャーナリストではなくピアニストの)ジョン・サヴェージと『Photosynthesis(光合成)』と題されたアンビエント・アルバムをリリースしている。どちらがイニシアティヴを取ったのかはわからないけれど、『Photosynthesis』はダーク・ドローンに分類され、ひと言でいえば不気味な作品に仕上がっていた。その当時はまだL.A.から解き放たれたベルリン・スクール・リヴァイヴァルの余波がニュー・エイジのポテンシャルを増幅させていた時期で、簡単にいえばアッパラパーな雰囲気のなかで、どんよりとした『Photosynthesis』には出る幕がないと感じられた。そして、無意識のうちに僕にはデイヴ・ボールに期待する、ある種のムードがあることを自覚した。それはやはりソフト・セルやザ・グリッドといったキャリアの初期に展開されていたポップでカラフルな響きであり、重苦しい曲調のなかにもどこか抜けのある軽妙洒脱なセンスだった。『Photosynthesis』にはあまりにもそれがなかった。しかし、デイヴ・ボールの訃報を聞いて僕が最初に聴いたのは、なぜか『Photosynthesis』だった。暗く、のったりと蠢くシンセサイザーに哀悼の気持ちは少しずつ吸い込まれていった。

『Photosynthesis』から5年後にソフト・セルは再-再結成を果たす。そして、3枚のアルバムを完成させている。彼らにとってファイナルとなった7thアルバム(発売は来年)を完パケた直後にデイヴ・ボールは亡くなり、ヴォーカルのマーク・アーモンドは「2026年はデイヴ・ボールにとって高揚感に満ちた年となるはずだった」と饒舌な追悼文で嘆いている。「僕たちの50年を一緒に祝えたらよかったのに」と。その追悼文によると、ソフト・セルはロンドンというよりもN.Y.のディスコ・カルチャーに属すると彼ら自身は考えていたようで、ラスト・アルバムに『Danceteria』と名付けたことは、ガビ・デルガドーが最後に残した曲のタイトルが“Tanzen(ダンス)”だったことと共鳴している。そう、1981年は彼らがイギリスでダンス・カルチャーを爆発させた年だった。ニュー・ロマンティクスやブリティッシュ・ファンクも呑み込んで「メソッド・オブ・ダンス」を合言葉に。

 ソフト・セルがN.Y.のディスコ・カルチャーに属すると考えるのはとても納得のいくことである。実際にN.Y.のディスコでMDMAを経験したことが彼らの音楽性に影響を及ぼしたこともそうなら、マーク・アーモンドの変態的な歌詞はルー・リードの強い影響下にあり、性的マイノリティが集まるN.Y.のディスコ文化とは親和性が高かった。ルー・リードと世代的な差を感じるのはユーモアの質で、「自動車の後部座席でセックスをしているとシートに張り付いていたガムが背中でくちゃくちゃと音を立てている(大意)」といった発想はやはりルー・リードのそれとは距離を感じさせる。大学生の頃、単純な手作業のアルバイトをしている時に退屈なのでニューウェイヴの曲を集めたテープを作業場で鳴らしていたら一緒に作業をしていたカナダ人のモナちゃんが、ジョイ・ディヴィジョンがかかると「辛すぎる……」といって作業の手を止めてしまい、ソフト・セルがかかると笑いが止まらなくなって、やっぱり仕事にならなかったことがある。なるほど、ソフト・セルというのはそういう風に聞こえるのかと思ったものである。

 シンセポップというのはどれも極めてチープで、ソフト・セルも例外ではなかった。先行したパンク・ロックの影響もあるのだろうけれど、「極めてチープなサウンド」で表現される世界観は普通の生活様式からは逸脱した人間性や、人間の隠された一面を戯画化して取り出す傾向があった。ヒューマン・リーグやザ・ポリスがストーカーを題材にして人間のファナティックな行動を通して時代を照射するのとは異なり、ソフト・セルは背景としての社会に目を向けることはなく、彼ら自身がどのように生きているかを切々と歌い、その核心は多様なラヴ・ソングに結実していった。人間の性を支配や消費という観点からドライに歌ったことで大きな論争を呼んだ“Sex Dwarf”は極端な例だけれど、彼らの曲の多くは強く変態性を帯び、ノーマルな人々にとっては気持ち悪いものにしか映らなかったことだろう。愛を歌い、その姿がどれだけ無様でも取り繕う様子もないどころか堂々としていたところは、日本だと戸川純が立っていた場所を想起させる。エロ・グロ・ナンセンス全開で好きなことをユーモアたっぷりに歌っていた戸川純がそれでも新曲を出せばTVに呼ばれていたという「社会的な評価」は、おそらくイギリスでソフト・セルが置かれていた位置に通じるものがある。がんばろうとか人にやさしくといった表面的な言葉ではなく、人が人を強く求める思いが彼らの表現の中心にはあり、時に人間の弱さを受け入れてくれることがない社会派の音楽よりも彼らの方が愛されていたとしたら、それはやはり制度よりも彼らの心が人の方に向けられていたからだろう。

「正しいことをするのに、僕の力はもういらないんだね」(“Tainted Love”)
「僕たちは初めて会った見知らぬ他人さ、そうだろ?」(“Say Hello, Wave Goodbye”)
「バカすぎて君にはヒドいこともできない」(“Torch”)

 ソフト・セルにとって最大のカヴァー・ヒットとなり、ロング・ランを続けたあげく、『サイトシアーズ 殺人者のための英国観光ガイド』という映画のテーマにもなった“Tainted Love”は、タイトにリズムを刻むグロリア・ジョーンズの原曲よりもルーズな曲進行で、語尾を伸ばすように歌うことで歌詞の内容を強調し、シャカタクのヴォーカル、ジル・サワードがラス・スワン名義でカヴァーしたヴァージョンを参考にして彼らのヴァージョンを練り上げたという。ギネス・ブックに載るほどのメガ・ヒット曲となった“Tainted Love”はそして、12インチ・ヴァージョンでは途中からシュープリームス“Where Did Our Love Go”に変わり、再び“Tainted Love”に回帰してくるという不思議な構成となっていて、カップリングには完全に遊びでつくられた“Tainted Dub”を収録するなど12インチ・シングルという新たなメディアのポテンシャルをこの時点でここまで引き出したグループはほかにいなかった。ソフト・セルの12インチ・ヴァージョンはその後も原曲の2~3倍の長さになるのは当たり前で、10分を超える“Numbers”や12分近い“Soul Inside”など、デイヴ・ボールがいかにミックスで遊ぶのが好きだったかということを印象づける(このことだけでもデイヴ・ボールがDJカルチャーに移行することは初めから決まっていた気がしてしまう)。

 デイヴ・ボールのサウンド・プロダクションが唯一無二のものになるのはセカンド・アルバム『The Art of Falling Apart』からで、場末のキャバレーを音で表したようなファーストから一転、それはヴェルサイユ宮殿かトプカプのような荘厳さを感じさせた。シンセポップにこんなことができるのかと当時の僕はかなりショックを受け、シンセポップ=「チープ」という形容詞はもう使えないと思った。基本的には“Sex Dwarf”のゴージャスなアレンジを全体に敷衍させ、オーヴァー・プロデュースを恐れなかった結果が『The Art of Falling Apart』になったのだと思う。どの曲も本当に素晴らしく、すべてにああだこうだと言いたいところだけど、当時は台所がテーマなんて珍しいと思い、“Kitchen Sink Drama”の歌詞を訳してみると母親が現実逃避ばかりしているという内容で、マーク・アーモンドが離婚した自分の母親をディスりまくっているのかと思っていたのだけれど、今回、調べ直してみたら“Kitchen Sink Drama”とは社会的リアリズムに基づくイギリスの文化運動を指す名称で、「怒れる若者」の源流だということを初めて知った。マーク・アーモンドにしてみれば自分の書く歌詞はアラン・シリトーに連なるものであり、マイク・リーやケン・ローチといった映画監督の表現と地続きなんだという表明だったのかもしれない。デイヴ・ボールのサウンドはピアノを導入に使い、歌詞に合わせて幻想的なフレーズを多用し、流れるように白昼夢を描いていく。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“Sunday Morning”が念頭にあったのだろう。

『The Art of Falling Apart』と同じ年にデイヴ・ボールは初のソロ・アルバム『In Strict Tempo』も完成させている。ソフト・セルはシンセポップの代表格ではあるけれど、デペッシュ・モードやユーリズミックスと同じ文化圏にいたわけではなく、それは彼らのマネージメントが〈Some Bizzare〉だということと深く関係している。〈Some Bizzare〉とサインしたことがあるミュージシャンにはサイキックTV、ノイバウテン、スワンズ、コイル、ザ・ザ、ジム・フィータス……とオルタナティヴのフロントラインが揃い踏みで、それこそ「普通の生活様式からは逸脱」した音楽家しかいなかった。『In Strict Tempo』はニュー・オーダーが“Blue Monday”で新たなモードに歩を進めたようにデイヴ・ボールがダンス・カルチャーに模索の手を延ばした痕跡が残る一方、ヴォーカルにヴァージン・プルーンズからギャビン・フライデイを迎え入れるなど〈Some Bizzare〉という環境から得られるアンダーグラウンドな価値観がひしめき合ってもいる。実は、最初に取り上げたジョン・サヴェージとのジョイント・アルバム『Photosynthesis』は、こうした〈Some Bizzare〉の文脈でデイヴ・ボールを捉えればもっと鷹揚に楽しめたのかもしれない。デイヴ・ボールにとってそうした環境がどれぐらい吉と出たのかはわからないけれど、それこそ後には『Live in Heaven』にも参加するなどサイキックTVのメンバーにもなったことで、ジェネシス・P・オーリッジやジャーナリストのリチャード・ノリスとともにアシッド・ハウスにのめり込んでいく機会を得たことは間違いない。サイキックTVの変名アルバムとして認識されているアシッド・ハウスのコンピレーション『Jack the Tab/Tekno Acid Beat』はジェネシス・P・オーリッジに加えてデイヴ・ボールとリチャード・ノリスが全曲で関わっていて、すでにザ・グリッドの前段階と言えるものになっていた。同じ年にデイヴ・ボールはキャバレー・ヴォルテールの2人とラヴ・ストリートを結成し(両者は『The Crackdown』ですでに結びついていた)、バリアリック・ビートの“Galaxy”でもファンキー・ビートを聞かせている。『Jack the Tab/Tekno Acid Beat』と“Galaxy”を続けて聴くと、ある種の迷いのなさは伝わってくる。この時期のブリティッシュ・アシッド・ハウスはオリジナリティを否定し、他人と同じものをつくるのがいいとされていたので、デイヴ・ボールのそれもとくに彼の個性が反映されたものではない。ジャケット・デザインがデザイナーズ・リパブリックだというのがデイヴ・ボールの美意識からかけ離れ、いまとなっては同時代性だけを強く主張している。

 84年に第1期ソフト・セルのラスト・アルバム『This Last Night in Sodom』をリリースした後、デイヴ・ボールの足跡はあまりに細切れになる。最初は当時の妻、ジニ・ボールとアザー・ピープル名義でサンプリングを散りばめたディスコ・ナンバー、“Have a Nice Day!”をリリースし、続いて3人組のイングリッシュ・ボーイ・オン・ザ・ラヴランチ名義では“Blue Monday”のバッタもんにしか聞こえない“The Man in Your Life”やハイエナジー調の“Sex Vigilante”を連打と、ソフト・セルからマーク・アーモンドによるメロディ・センスを取り除いたディスコ・ビートへの執着をとにかく強く感じさせる。ストローベリー・スウィッチブレイドのローズ・マクドウェルやシュガーキューブスのアイナール・オルン・ベネディクソンらと組んだオーナメンタルでも多幸感あふれる“No Pain”にどこまでもさわやかな“Crystal Nights”とシンセポップの延命をこれでもかと追求するも、これらがどれも長続きしなかったことがアシッド・ハウスへと舵を切るきっかけになったのだろう。デイヴ・ボールの作業でいえばソフト・セルの12インチでやっていたことをメインとすればいいだけのことだからロック・カルチャーからダンス・カルチャーに乗り換えられないと苦悩するほどのこともなく様変わりはできたはずである。サイキックTVやラヴ・ストリートとの習作を経て正式にリチャード・ノリスとスタートさせたザ・グリッド(マネージメントはアラン・マッギー)はデビュー・アルバム『Electric Head』ではまだイングリッシュ・ボーイ・オン・ザ・ラヴランチやオーナメンタルに近い音楽性を多分に残していて、これが最初にシングル・カットした“Floatation”のリミックスにアンディ・ウェザオールを起用したことで完全にダンス・カルチャーの領域へと歩を進められただけでなく、プレスの注目を最初から集めることにも成功する。ザ・グリッドによるソフト・セルのリミックス集『Memorabilia - The Singles』と並行して続くセカンド・アルバム『456』から“Crystal Clear”をヒットさせたのはもはや時間の問題だった。1993年にグラストンベリー・フェスに行った際、昼間のプログラムが終わるや否や、暗くなった途端に会場内で小規模なレイヴ・パーティがあちこちで始まり、ほどなくして“Crystal Clear”が僕たちの頭上にも鳴り渡った。クラウドはあっという間に恍惚としたムードに包まれ、多幸感の波を全身に浴びていた。ザ・グリッドは、さらにサード・アルバム『Evolver』からバンジョーをフィーチャーした“Swamp Thing”をヒットさせ、その頃には「国民的人気」と書き立てられるまでになっている(その勢いでカイリー・ミノーグ“Breathe”までプロデュースする)。

 リチャード・ノリスの指向だったのではないかと思うのだけれど、ザ・グリッドは『456』から“Heartbeat”をシングル・カットする際、ブライアン・イーノにアンビエント・リミックスをオファーしている。ダンス・アクトとしてのザ・グリッドは4作目の『Music for Dancing』で一旦休止し、10年以上空けて復活するも、ラスト・アルバムとなった『Leviathan』ではロバート・フリップをゲストに迎えてアンビエント・アルバムも製作している。荒涼として寒々しいアンビエント・アルバムである。これがデイヴ・ボールの過去の作品とどう繋がっているのか、僕にはさっぱりわからなかった。アンビエント・ミュージックには個人の資質を出しづらいということもあるのかもしれないけれど、『Leviathan』や唯一のソロ作となった『In Strict Tempo』を聴いていると、もしかするとデイヴ・ボールには生涯を通じて本当にやりたかったことはなかったのかもしれないとも思えてくる。それこそ本当に意志の強い人と共に作業をすることで作品の完成度や相乗効果を高めることが彼にとっては才能を活かす道であり、デイヴ・ボールでなければソフト・セルやザ・グリッドは仮りに生まれていたとしてもまったくの別物になっていただろう。ソフト・セルやザ・グリッドが現在、残されているかたちになったこと、そして、“Torch”を聴いてトランペットという楽器が好きになった僕は、それだけでも彼が存在したことに感謝したい。……Say Hello, Wave Goodbye。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026