「AY」と一致するもの

Lost Souls Of Saturn - ele-king

 かならずしもロマンティシズムや冒険心、好奇心ばかりが宇宙を目指すとは限らない。サン・ラーがもっともよく体現していたように、地上=現代社会に嫌気がさしている者たちのユートピアのメタファーとしてもそれは機能する。宇宙とはいわば外部だ。X-102の影響だろうか、いきいきとしたダンス・テクノを打ち鳴らすロスト・ソウルズ・オブ・サターン、「土星の失われたソウル」を名乗るデュオもまたそうしたフューチャリズムの可能性に賭ける挑戦者のひと組だ。

 メンバーはセス・トロクスラーとフィル・モッファのふたり。この名義としては2017年に〈R&S〉からデビュー、2年後にはセルフ・タイトルのファースト・アルバムを同レーベルから送り出している。が、けして若手というわけではなく、それぞれがすでに短くないキャリアを歩んできている。
 00年代から活躍するミシガン州レイクオリオンのトロクスラー(ベルリン拠点との情報もあり)は若くしてDJの才を発揮、2015年の時点で名物シリーズ『DJ-Kicks』を手がけるなどすでに確固たる地位を築いている。デトロイトに住んでいた時期もあったようで、そのときできたつながりだろうか、ヤング・セス(Young Seth)名義で〈FXHE〉のコンピに参加していたりオマー・Sとコラボしていたり。〈Visionquest〉や〈Play It Say It〉、ブラックとヒスパニックのための〈Tuskegee〉といったダンス・レーベルを主宰してもいる。タスキギーとはアラバマ州の市で、活動家のブッカー・T・ワシントンやらローザ・パークスやら悪名高い人体実験やら、合衆国黒人の歴史と切り離せない固有名詞だ。トロクスラーに現代社会にたいする問題意識があることは疑いないだろう。
 デュオのもうひとり、フィル・モッファはNYのDJ/プロデューサーである。彼のほうもまたすでに中堅と呼ぶべきキャリアを築いていて、ブッチャ(Butcha)名義はじめさまざまな別名やグループで多くのリリースを重ねている。ようするに、テクノ/ハウスの実力者2名によるコンセプチュアルなユニットがこのLSOSというわけだ。

 初っぱなから展開されるスペイシーなシンセに顕著なように、ファースト・アルバムを特徴づけていた宇宙的なムードはこの第二作にもしっかり引き継がれている。ダブ×ジャズ×インド音楽のみごとな折衷を響かせる2曲目 “Scram City” は最初のハイライトだ。ブラック・ミュージックの大いなる遺産を惜しみなく活用するこの曲では、シタールの乱入が宇宙的想像力をブラック以外にひらく役割を果たしている(奏者はラヴィ・シャンカールの最後の弟子だというリシャーブ・シャルマ)。
 イーヴン・キックのうえをジェフ・ミルズ風の旋律の反復、加工された声、ヴィデオ・ゲームの効果音のような断片が駆け抜けていく “This Foo” もかっこいい。どこか気だるげなヴォーカルの裏でブロークンビートが暴れまわる “Click” の終盤にはオーガスタス・パブロを想起させるピアニカが仕込まれている。80年代ニューウェイヴっぽい “Mirage” も独特の余韻を与えてくれたりと、いろんな趣向が凝らされたアルバムだ。

 ぼくのリスニング能力ではちゃんと歌詞を聴きとれないのが残念だけれど、どうやら本作には反資本主義のテーマが搭載されているらしい。なるほど、たしかに資本主義は奴隷制=人種差別を基盤に発展してきた。だから、その延長線上にある現代社会とは異なる宇宙を想像してみようじゃないか、と。
 たいせつなのは、そうした重めの主題をあくまでダンス・ミュージックで探求しているところだろう。テクノやハウスがただ快楽をもたらすだけでなく、世界にたいする違った見方を与えてくれる音楽でもあることをLSOSはあらためて確認させてくれる。多様な電子音楽が生み出されている昨今だからこそ、こうした力強いダンス・テクノがいまなお生きつづけていることを忘れずにいたい。

interview with Tei Tei & Arow - ele-king

 いわゆるコロナ禍が一旦の終わりを迎えた2023年以降、ここ日本においてもナイト・ライフは復活を果たし、東京という手狭な都市には平日・休日を問わず多種多様なパーティが溢れかえっている。ただし、その姿形は2019年以前のものとは一変したようだ。

 2020年──世界中のクラブ、ライヴ・ハウスが閉鎖され、ほとんどの人が自室に縛り付けられていた、パンデミックの時代。しかし、そんな苦況でもアンダーグラウンドの水面下では新たな動きが同時多発的に発生していた。それこそがいま、2020年代の新たなクラブ・シーンを形成した発端であり、抑圧されたユースの底知れないフラストレーションと真っ直ぐな音楽愛を熱源に燃え盛っている「クラブ・オルタナティヴ」ともいえるムーヴメントなのだ。

 ラッパーが、DJが、バンドが、ひとつの空間上で交差し連帯する。シーン、ジャンル、界隈、リアル、フェイク、そんなしがらみはどうでもいい。とにかく、見たこともない景色と聴いたことのない音楽を浴びよう、場所がなければ作ろう、場所が失われることを食い止めよう。そうやって自然なクロスオーバーが各所で発生していった。そんな流れも2024年のいま、さらなる変容を遂げつつある気配がする。

 吹けば飛びそうな小さな火種をアンダーグラウンドで守り続けた立役者は枚挙に暇がないが、今回はコロナ前夜にコレクティヴ〈XPEED〉を立ち上げ、現在は(こちらもコロナ禍に誕生した)新宿のクラブ・SPACEでスタッフを務めるDJ/オーガナイザーのAROW亜浪(CCCOLECTIVE)と、中国から日本に移り快活にサイケデリック・ワールドを探検するTEI TEI(電気菩薩)の2名を証言者として迎え、コロナ禍のこと、それ以前のこと、そして未来についてざっくばらんに語った。聞き手はNordOst名義で2021年にDJとしてのキャリアをスタートしたパンデミック世代の音楽ライター・松島です。

どんどん自分でヤバいパーティ作ってみよっかな~って! 見たことないパーティ作りたいよ。(TEI TEI)

改めて振り返ると、TEI TEIちゃんは2021年のシークレット・パーティ「愛のテクノギャルズ」でデビューしてから大活躍ですね。

TEI TEI:2021年の6月ね!

TEI TEIちゃんが主催してるパーティ〈電気菩薩〉をはじめたのはいつのこと?

TEI TEI:2022年の終わりごろぐらい。だからいま1年ぐらいやってきた感じになるかな。

亜浪:1年しか経ってないんだ! スピード感ヤバいね。

サイケデリック・トランスから入って、いまはミニマル・テクノ的なアプローチになってるのもTEI TEIちゃんの面白いところで。

TEI TEI:でも、サイケから入って別の感じになっていったDJって多いと思うよ?

亜浪:その印象はあるかも。〈Liquid Drop Groove〉っていうレーベルをやってるYUTAさんのDJが好きなんだけど、インタヴューを読んでると「最初はトランスから入って、そのあとヒプノティック・テクノやミニマルに移ってった」って話をしてたし。

なるほど、そうなんだ。「サイケデリック」って冠してないジャンルにサイケ感を見出して、そっちに行くようになるってことなのかな? よりトリッピーな音を求めて。

亜浪:ちょっと大人になって……みたいなね。

2020年から今年で4年目になって、3年以上経ってるわけで。そうすると自然とみんな大人になってくだろうし、趣味も変わるしね。亜浪も、いまもう一度2020年11月に主催したシークレット・レイヴ〈PURE2000〉をやるのは難しいでしょ、初期衝動的なヴァイヴスのままだと(笑)。

亜浪:そうだね、絶対無理(笑)。

やっぱりあのレイヴに自分はすごく影響されて、DJやってみようかなと思ったきっかけでもあったし。TEI TEIちゃんはその頃からもう日本にはいたんだっけ?

TEI TEI:私、けっこう日本に来てから長いよ。もう8年ぐらいかな。最初は全然音楽のことわからなくて、「愛のテクノギャルズ」に出る前もそんな感じで。ageHaのサイケのパーティとか、富士山の麓のレイヴとかでなにも知らないけど遊んでて、誘われたからDJやってみたの。もう、本当に運命だと思う、私と音楽って(笑)。

ジャンル問わず、アンダーグラウンドと呼ばれるシーンで連帯が生まれやすかったのがコロナ禍だったよね。バンドとかラップのフィールドで活動してる人もそうだし、同じようなことがダンス・ミュージックの場でも起きていたなっていう。(亜浪)

コロナ禍で生まれた新しいクラブの動きを「ハイパー」みたいな言葉で総括することもあるけど、TEI TEIちゃんと電気菩薩はそういうシーンとは近くて遠い、よりアンダーグラウンドな場所にいたってことなのかな。僕らはあの時期、限られた遊び場を求めて自然と合流していった、というか。パンデミックがなければ、いまこうして3人で座談会をするなんて機会もなかったと思うし。具体的には2020年から2022年ぐらいまでかなと思う、シーンに点在してた人が一箇所に集まってた時期っていうのは。

亜浪:ジャンル問わず、アンダーグラウンドと呼ばれるシーンで連帯が生まれやすかったのがコロナ禍だったよね。それはライヴ・ミュージック、つまりバンドとかラップのフィールドで活動してる人もそうだし、同じようなことがダンス・ミュージックの場でも起きていたなっていう印象が強いかな。

いまはもうみんな、古巣とか実家みたいなところに戻っちゃった印象もあるけどね。

亜浪:でも、一度できたつながりが完全に消えるっていうのは、やっぱありえないからさ。たとえばシーンは全然違うけど、バンドのAge FactoryとラッパーのJUBEEがAFJBってバンドをはじめたりとか。あれはコロナがなかったら実現されなかった動きだと思うし、そのタイミングでメンバーもDJやビートメイクをはじめたりしてて。ああいうタイプのバンドがここまでミクスチャー的に動いていく、っていうのはほぼなかったんじゃないかな? もちろん、その背景にはオカモトレイジ君の〈YAGI〉みたいなパーティが入口の役割を果たしてくれてる、っていうのもあるだろうけど。

コロナ禍の時期ってとにかく表現の場が失われてみんな追い込まれてたから、既存のこだわりとか固定観念を超えた違う手段を見つける必要もあったしね。遊びに行く側も音の出る場所がなくて飢えてたところがあるし。亜浪が最初に〈XPEED〉を立ち上げたのは2019年ぐらい?

亜浪:うん、19年の10月ぐらい、コロナ前夜だね。幡ヶ谷のForestlimitからはじまって。

幡ヶ谷Forestlimit、中野heavysick zeroとかの、ライヴ・ハウス性も持ったクラブではじまったんだよね。

亜浪:そうだね、でも次第にクラブのなかだけでやるのも違うな、って思って野外でやったのが2020年の〈PURE2000〉だった。

〈PURE2000〉は、その前に同じ川崎のちどり公園でやってた〈SLICK〉の初回で体験したことに感化されて開いたレイヴだったんだよね。

亜浪:そう、〈SLICK〉の初回にめっちゃ感動して、「これを俺らでもやりたい!」って気持ちだけで動いてた(笑)。〈SLICK〉の7eさんたちに「どうやってここを借りたんですか?」とか、ゼロから質問させてもらったりして。本当に初期衝動的な感じ。

だからこそ今年の5月に電気菩薩が川崎・ちどり公園でレイヴをやるっていうのは結構感慨深いものがあって……(笑)。

亜浪:たしかにね!

TEI TEI:ありがと(笑)。そろそろDJのブッキングもしようと思ってる。やるのは24時間!

24時間やり続けるんだ!(笑)。

TEI TEI:フロアは2個ね。海側のエリアは使えないみたいなんだけど、見るだけの休憩スペースみたいにしようかな。まだ細かいことは決まってない、これからね。


2月、club asiaでおこなわれた〈電気菩薩〉のパーティ。提供:電気菩薩


2023年ごろからはベッドルームでDJソフトを触ってた子たちが集まる場としてのクラブ、っていう小さなパーティが急増した印象があって。「クラブの文脈を知らずに、フレッシュな感じでクラブを使って遊んでる」みたいなね。(亜浪)


電気菩薩のメンバーってどうやって増えていったの? TEI TEIちゃんのほかにインドネシアから来たDIV☆ちゃんと日本人のzoe、ハイテックやダーク・サイケのDJをやってるMt.Chori君、あとはダウンテンポで渋めのプレイをするOwen君(Beenie Pimp)と、パーマネントなDJは5人ぐらいだけど。

TEI TEI:メンバーは……じつは私、めちゃくちゃ適当な人だから、最初は友だちの感じで誘ってた(笑)。DIV☆ちゃんとは最初そんなに喋ってなかったけど、私のパーティに毎回来てくれてたから。zoeちゃんは私のすっごい仲いい友だちで、Chori君とはめちゃ会うんだけど、実はいまでもそんなに喋ったことなくて。Owenは私が派手なルックの子が好きだから誘ったの!(笑)

Owen君はドレッドで不良っぽいスタイルだけど選曲のセンスとかが激渋で、そういうギャップも込みでカッコいいよね。一周して、「派手さ」よりも「渋さ」をカッコいいと考えてそうな人もクラブには増えてきてる気がする。

亜浪:たしかに。新しいものは一旦拡がるところまで拡がったかな、って感じもあるし。ハイパーポップを飲み込んだ新しい音楽の流れにはまだ新しい余地はあるんだけど、もうすぐ天井が見えそうな雰囲気っていうかね。

トラップやドリル以降、日本語ラップのシーンがものすごく大きくなったのとかも関係してそうだよね。草の根的なクラブ文化と交わらなくても独立して存在できちゃうから。

亜浪:あと、コロナが明けたと言われてからすごく感じたのが、クラブの健全なイメージがさらに色濃くなったな、ってこと。自分がちゃんと東京のシーンを観測できてるのはここ7、8年ぐらいのことだけど、最初ヘルシーな感じで遊びに行けてたのが〈CYK〉のパーティとか〈YAGI〉とかで、そのあたりが入口として機能してた印象。行ってなかったけど〈TREKKIE TRAX〉とかもそういう感じだったんじゃないかなと思う。で、2023年ごろからはベッドルームでDJソフトを触ってた子たちが集まる場としてのクラブ、っていう小さなパーティが急増した印象があって。「クラブの文脈を知らずに、フレッシュな感じでクラブを使って遊んでる」みたいなね。これはこれでめちゃくちゃ面白い状況だな、とも思うけど。

一回コロナでそれまで続いてた流れが断絶したから、また新しい文脈がゼロからでき上がりはじめてるってことだよね、いまは。

亜浪:〈みんなのきもち〉とかにもそういう感じがあるかも。

彼らには独特のテック美学みたいなものがあって、先にブレインダンス的な快楽性があってから身体性にアプローチしてくような感じが強いからね。

亜浪:歴史のなかで見ていくと、縦の流れから生まれたというよりは横のつながりから自然発生的に生まれたような動きだよね。

ある種のデジタルな価値観って、いまのメインストリームな感覚になってってる気がする。だから逆にそうじゃないものを求めて、よりアンダーグラウンドで渋い感覚のあるところに向かっていくような動きもカウンター的に生まれてるのかな?

亜浪:まあ、パンデミックを経て明らかに絶対数も増えたからね。海外の人がまた入ってこられるようになってからは本当に爆発的な増え方をして、無数のパーティが毎週、毎日いろんな場所で開かれるようになったし。(コロナ期の)パーティへの飢餓感みたいなものは薄れたような気がするけどさ。


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CCCOLECTIVE #7 AROW open to lastにおけるアニメーション作家/イラストレイターのZECINによるライヴ・ペインティング。提供:CCCOLECTIVE


私たちを支えてくれたのは、もちろん日本のみなさんもそうだけど、やっぱ中国の子たち。小紅書(RED)っていう中国のインスタグラムみたいなアプリにめちゃ載せてたら、中国には電気菩薩みたいなレベルのテクノ~トランスのパーティが全然ないみたいで、文化服装学院とか東京モード学園に来てる留学生がめっちゃ多くて。(TEI TEI)

コロナ禍を経てTEI TEIちゃんとか僕とか、フレッシュな感じでクラブに面白さを見出していろいろとやってたら知らない間にDJになってたようなタイプも結構いるしね。まだ初心者マークが付いてるつもりだったけど、そうじゃなくなったのかも。単純にこの3人とも出演機会が増えたし。

TEI TEI:でも私、そんなにやってないよ。去年は66本ぐらい?

亜浪:いや、それも多い部類に入るんじゃない(笑)。

TEI TEIちゃんはとくに、一回一回がすごく大規模だったりしそうだし。

TEI TEI:野外とか多いし、そうかも。

亜浪:1回の出演で2、3日とか拘束されるわけだし、自分の持ち時間とかも多いだろうしね。

持ち時間でいうと、やっぱり東京のクラブの場合、文脈と一度切り離されたからこそショート・レングスのセット、40分以下みたいなスタイルが増えたっていうのはありそう。

亜浪:その辺の動きをSPACEのスタッフとして見てて思うのが、短いスパンでタイムテーブルを詰め込んでいくようなスタイルには課題もあるなってことで。もともとは箱ないしオーガナイザーからブッキングされて、フロアにいる人たちを楽しませて、お酒が出る雰囲気を作るような「職業としてのDJ像」があったと思うんだけど、ショート・レングスなパーティだとそこの部分が欠けてることもあるじゃん、ホームパーティ的なものの延長にあるコミュニティ的な動き方というか。コミュニティが大きくなるにつれて、それなりにしっかりした規模感のヴェニューでも通用するようになっていくと思うんだけど、そういうアプローチが通用する場っていうのはやっぱり限られるから、中の人たちのライフステージが変わっていくなかでプレイヤーの人口もまたグッと落ち込むんじゃないかな、って危惧してる。

結局のところ、現状遊びに来てくれてる人たちが飽きてしまったら終わる動きではあるし、それはたしかに課題かもね。

亜浪:もちろん否定するわけじゃないんだけど、それで経営的に成り立っているヴェニューもいまは少なくないわけで、縦の歴史的な結びつきが希薄だといつか破綻しちゃうんじゃないか、っていうのが心配。だから、さっき言ってた「渋い」じゃないけど、職人的な感じの強度にもフォーカスしていって、どちらも横断できる感性を育める土壌が作れたらクラブの経済圏と一緒に発展していけるんじゃないかな、って思うんだけど。

自分がまさに、最初期は過去育まれてきた文脈に一切目を向けないような感じだったからわかるなあ……いまは考え方を変えて、料理人とか職人みたいな気持ちでDJに臨むようになったけど。

亜浪:たとえばVENTなんかわかりやすいけど、あそこには下手なことができない空気感があるじゃん、出る側もやる側もテクノやダンスフロアの美学を尊重してるっていうか。撮影禁止だったり、一応ドレスコードがあることもあったり、と。雰囲気へのフィット感って、やっぱプレイヤー側はある程度意識すべき要素だよね。

最初はしがらみにしか感じられなかったんだけど、1~2年ぐらい経ってやっとTPO的なものがいかに大事か気づいた、遅すぎたけど。遊びに行く側としても、やっぱりそういうこだわりとか美学みたいなものが強く伝わる場所にいたいなって思うし。電気菩薩はそこのこだわりがすごく強そう。

TEI TEI:最初は西麻布のTrafficぐらいの規模でやってて、けどもうひとつ違う道を歩きたいな、って思ってclub asiaやWOMBを貸してもらったりして。私たちを支えてくれたのは、もちろん日本のみなさんもそうだけど、やっぱ中国の子たち。小紅書(RED)っていう中国のインスタグラムみたいなアプリにめちゃ載せてたら、中国には電気菩薩みたいなレベルのテクノ~トランスのパーティが全然ないみたいで、文化服装学院とか東京モード学園に来てる留学生がめっちゃ多くて。その子たちの友だちもいまは旅行でめっちゃ日本に来てるから一緒に遊びに来てくれるし、メッセージもめっちゃ来るの、「最近おすすめのパーティはある?」って。小紅書の私のフォロワーはそんなに多くないんだけど、中国のクラバーの子たちはみんな電気菩薩を知ってくれてたの。先週上海のPLAYGROUNDってクラブが私を呼んでくれたりもしたし、アジアではフレッシュなものとして見られてるのかなあ。

つまり、中国ではいま、まさにコロナ禍真っ只中の東京みたいな感じでみんな音に飢えてるような感じなのかな。熱気がすごそう!

TEI TEI:中国、実際いま電子音楽みたいなものがすごく流行ってると思う。ちょっと遅いけど、波が来てる感じ。中国で有名な『NYLON CHINA』って雑誌も、私たちのことをインタヴューしてくれたし。こういうことをやっている人は、まだ中国にはいないみたい。

亜浪:日本のDJも中国、台湾あたりにガンガン行ってるし、そういうアジアとの繋がりも今後強まっていけばいいね。

もしかするとこれから、2年半前のTEI TEIちゃんみたいに電気菩薩とかのパーティに感化されて、新しくDJになったり、音楽を作ったりする人もどんどん増えそうかなと。ただ楽しく遊んでただけなのに、そうやって道ができていくっていうのは嬉しいことだし、希望ですね。

亜浪:そういう動きはいろんなところで起き続けてそう。音楽に限らず、東京って狭くて広い街だから。クラブ・シーンってひとくくりにするにはあまりに広大すぎるし。

そのなかでも、よりアンダーグラウンドで音楽とクラブを本当に好きな人が集まってる場にやっぱり惹かれるよね。コロナ禍の異様な熱量ってやっぱり、現場への飢餓感があったからだと思うし、逆にいまは飽食の時代というか。これだけパーティが増えたのは素晴らしいことだけど、その分いろいろな場所を足で探さなくても自分にフィットする環境がすぐ見つかっちゃうから、広すぎるシーンの一角しか捉えられなくなっていくのかな、とか懸念があって。

亜浪:飽食の時代か(笑)。そういえば、自分の周りのクラバーは今年カウントダウン・イベントとかにも全然行かず思い思いに過ごしてたし、ある程度遊んできた我々世代はもうお腹いっぱいって感じなのかもね。

今年を堺に次のタームに突入しそうだよね。好きなものに飽きてきたら自然と自分で作ったり、別の場所を探したりするようになると思うし、ここ数年のトレンドが肌に合わなかった人は流れを変えたいと思ってるはずだし。

TEI TEI:私も、ちょっと飽きてきた(笑)。でも飽きたから、どんどん自分でヤバいパーティ作ってみよっかな~って! 見たことないパーティ作りたいよ。

そういえば、亜浪は新宿のSPACEで働いてどれぐらい経つんだっけ? 2021年のオープンから今年で3周年になるけど、新宿二丁目エリアに近くて繁華街と少し距離がある立地の感じとか、流れる音楽の多様性とか、ポップなデイ・パーティとディープなナイトタイムが共存してる感じとか、個人的には幡ヶ谷のforestlimitの次ぐらい好きな場所になりつつあるんだけど、そんなクラブでスタッフとして過ごしてみてどうだったかな。

亜浪:もうちょいで1年かな。感想か……疲れた!(笑)。単純に夜勤って体力的な消耗がヤバくて、遊びに行く感じとはまた違う話でさ。もちろんやりがいはあるけどね。あと、パーティを観るときの視点が良くも悪くも変わったかな。裏方の人の表情とかを観てその日がどういう雰囲気かを察せるようになったり、パーティの構成要素を隅から隅までチェックするようになったり。いままではタイムテーブルとかフライヤーの質感とかがパーティを構成する主要素だと思ってたけど、PAのオペレーションや箱の導線とか、いろんな物事が複雑に混ざりあってムードができてるんだな、ってことも知れた。

オーガナイザーがこだわってる部分が人それぞれで異なるからこそ、同じクラブでも日によってまったく違う景色が広がってるっていうのはあるかも。もちろん統一感がある場も最高だけど、同じ空間でおこなわれる表現で空気が一新されるような場所ってやっぱ好きだな。電気菩薩はその点、世界観づくりにすごくこだわってる印象なんだけど、どうでしょう。

TEI TEI:電気菩薩は、もう本当に出てくれる人が自由にやりたいことをやってほしい感じ。私、すごく適当な人だよ(笑)。毎回いい空間ができてることにすごいびっくりしてるぐらいだし。前回はSMパフォーマンスのお姉さんが出てくれて、私はどんなパフォーマンスなのかあんまり知らなかったんだけど、ロウソクを垂らしたりとかしてて(笑)。でもなんか、それも電気菩薩っぽかった。不思議!


2月、club asiaでおこなわれた〈電気菩薩〉でのダンス・パフォーマンス。提供:電気菩薩

電気菩薩は、もう本当に出てくれる人が自由にやりたいことをやってほしい感じ。前回はSMパフォーマンスのお姉さんが出てくれて、ロウソクを垂らしたりとかしてて(笑)。(TEI TEI)


電気菩薩に誘われた人たちが、無意識的にその空間に寄り添うようなパフォーマンスを寄せるでもなく自然体でやってくれてる、ってことなのかな。それってすごく理想的なパーティでカッコいい……。

TEI TEI:ね(笑)。いい空間が毎回ちゃんとできあがってくれて、ほんとにすごいなって思う。最初のころから出てくれてる友だちとかも、どんどんいい感じになってくれてるし。すっごい嬉しい!

パンデミックが一応終息して思ったのが、配信イベントとかの時期を経てVJや映像みたいなヴィジュアル面での表現とか、音以外のクラブを構成する要素の地位が上がったかもな、ってことで。アーティストと音が絶対的、みたいな力関係が崩れたような気がするんだよね。

亜浪:それは良いことだったかもね。フライヤーデザインだったり、会場のポップアップとか展示だったり、いままでサブ扱いされてた要素とその作り手も出演者だよ、ってパーティは少しずつ増えてってるような気がする。というか、そもそもDJも裏方であって、空間それ自体をみんなで作り込んでく、っていうのがクラブ像として昔からあったわけだし、若い世代のシーンも徐々に然るべき形に洗練されてってるのかな、とも。

尊重されるべきはフロアそのもの、というかね。自分含め、ライヴがなくなったからクラブに行きはじめたって感じのお客さんが多かった時期は、やっぱりDJもライヴ・アクトのような感じで観に行く人が多かったと思うんだけど、それだけじゃないっていうのは多くのユースが理解しはじめたのかな。

亜浪:いま(2023–2024)の感じがクラブ原体験になってる人たちが長く遊び続けてくれるかどうかの分かれ目って、自分の好きな物事以外の領域に、いかに興味を持ってもらえるかってことだなと思ってて。私がSPACEで毎月の最終水曜にやってる〈CCCOLECTIVE〉のブッキングは、とにかく人を見て決めてるところがあるんだよね。「この人とこの人がいたらこういうお客さんが楽しんでくれそうだな」っていうのをなんとなく予想して、そこと交わってないけど相性が良さそうなアーティストたちを違うフィールドからそれぞれ呼んでみて、出演者にもお客さんにも刺激を与えられたらいいな、って感じで。ただオルタナティヴな場所を目指すんじゃなくて、未来に繋がっていくようなパーティにしたい。


CCCOLECTIVE #7 AROW open to lastにおける空間演出。提供:CCCOLECTIVE

ただオルタナティヴな場所を目指すんじゃなくて、未来に繋がっていくようなパーティにしたい。(亜浪)


本当の意味でハブになるような場所を作ってくれてるわけなんだ。

亜浪:うん、交わってなさそうで交わってなかったところを繋いでいきたい。

いま各シーンで起きてることは、距離こそ近くても足がかりがないから今後ますます離れ小島みたいな感じになっていくんじゃないかな、ってちょっと心配してて。だから、そこに橋を架けてコミュニティ同士に連帯が生まれていけばいいな、と願うばかりです。音楽が好きで、クラブが好きなのはたぶんみんな同じだし、別に現場的な物事が好きじゃなくても、「ちょっといいかも」って思ってもらえたらいつかは合流できるはずだよね。

 

プロフィール

AROW 亜浪(CCCOLECTIVE)

DJ/オーガナイザー。新宿SPACEスタッフ。旧名Ken Truth時代にはSUPER SHANGHAI BAND、Usのフロントマンとして活動し、ロックとクラブ/レイヴ・カルチャーを横断するコレクティヴ〈XPEED〉を2019年に立ち上げ、2020年代の新たなオルタナティヴを創り上げた。2021年に改名し、現在はDJを主としたパフォーマンスを展開する。
2022年末に始動した〈CCCOLLECTIVE〉は、有機的な繋がりを持ったオープンな共同体を通じ、参加者に精神の自由をもたらすことを目標として掲げている、自由参加型のクリエイティヴ・プラットフォーム。これまで『Orgs』と題したパーティを昨年12月に下北沢SPREAD、今年4月には代官山SALOONにて開催。また、2023年8月からは毎月最終水曜日の深夜に新宿SPACEにて同名を冠したパーティを定期開催中。シーンを牽引するアーティストらを招き、実験と邂逅の場の構築を試みている。
https://www.instagram.com/917arow/
https://www.instagram.com/cccollective22/

TEI TEI(電気菩薩)

中国・北京より日本・東京にやってきたヒプノティック・サイケ・ギャルDJ。サイケデリクス表現を通過し、現在はテクノを主とした先鋭的でディープな音楽をジャンルレスにプレイ。母国文化や仏教的な美学など、汎アジア的な感覚をカオティックに表現するパーティ〈電気菩薩〉主宰。Re:birth、Brightness、EN Festival、ZIPANG Festival、和刻など全国各地の大規模野外レイヴに出演する傍ら、日々首都圏のディープなクラブ・シーンに硬質な華を咲かせている。
https://www.instagram.com/teitei08056/
https://www.instagram.com/denki.bodhisattva/

Piero Umiliani - To-Day's Sound - ele-king

Sun Ra - Outer Spaceways Incorporated - ele-king

2月のジャズ - ele-king

  先に故オースティン・ペラルタの『エンドレス・プラネッツ』についてコラムを執筆したが、彼と同じく現代ジャズにおける重要なピアニストのひとりがヴィジェイ・アイヤーである。ニューヨークを拠点とする彼は、インド系移民の両親の間に生まれ、エール大学に進んで物理と数学を専攻し、その後工学と芸術の修士を得るためにUCLAに進んだという異色の経歴の持主。ハーバード大の音楽教授にも就任した彼は、ピアノはほとんど独学で学んだそうで、フリー・ジャズから即興音楽、現代音楽、さらにDJスプーキーやマイク・ラッドなどヒップホップ・アーティストとのコラボもおこない、クレイグ・テイボーン、ロバート・グラスパー、カッサ・オーヴァーオールら新世代ジャズの騎手たちとも共演するなど、幅広い活動をおこなう。


Vijay Iyer, Linda May Han Oh, Tyshawn Sorey
Compassion

ECM

 私が彼の名前を意識したのは2009年の『ヒストリーシティ』だった。マーカス・ギルモア(ドラムス)とステファン・クランプ(ベース)とのトリオによるアルバムで、ロニー・フォスターの “ミスティック・ブリュー” をカヴァーしている。ヒップホップのサンプリング・ソースとして有名なこの曲を、リリカルだが刺激に富む演奏で覚醒した新しいジャズへと導いていた。様々な演奏形態で活動するアイアーだが、ピアノ・トリオではギルモアとクランプとのトリオを続けた後、アジア系の女性ベーシストであるリンダ・メイ・ハン・オー、クラシック、ジャズ、実験音楽の多方面で高い評価を得る打楽器奏者のタイショーン・ソレイとトリオを組んで『アンイージー』(2019年録音、2021年リリース)を発表。ブラック・ライヴズ・マターに共鳴した楽曲や、多大な影響を受けた故ジェリ・アレンに捧げた楽曲を含むこのアルバムにおいて、過去の自身のレパートリーを新しいトリオで再演・再解釈しており、より自由でフレッシュな感性に満ちたアルバムとなっていた。それ以来のトリオ・アルバムが『コンパッション』である。

 『アンイージー』でもやったジェリ・アレンの “ドラマーズ・ソング” や、度々共演してきたロスコー・ミッチェル(アート・アンサンブル・オブ・シカゴ)の “ノアー” といったカヴァーがあるなか、目を引くのはスティーヴィー・ワンダーの “オーヴァージョイド”。スタンリー・クラーク、ネイザン・イースト、エスペランサ・スポルディングなどジャズ・アーティストのカヴァーも多いこの曲だが、“ミスティック・ブリュー” のカヴァーのとき同様に、知性的でしなやかな躍動感に富む素晴らしい演奏により新しい息吹を吹き込んでいる。“メイルストロム” “テンペスト” “パンジェリック”の3曲は、2022年におこなわれた「パンデミックの犠牲者のためのテンペスト」というプロジェクトのために作曲したもので、アルージ・アフタブ、ムーア・マザー、アンブローズ・アキンムシーレらとの大編成のグループで演奏した楽曲。コロナに限らず、歴史的にパンデミックの陰でアメリカでは黒人やヒスパニックなどの非白人が、十分な治療を得られないなどの理由で死に至ることが多く、それに関する批判やメッセージをトリオ演奏に乗せて伝えている。


Grégory Privat
Phoenix

Buddham Jazz

 カリブ海の仏領マルティニーク生まれで、フランスを拠点に活動するグレゴリー・プリヴァもヨーロッパを中心に注目を集めるピアニスト。マラヴォアのピアニストだった父親の影響でピアノをはじめ、クラシックを学んだ後はジャズや即興演奏へと進む。故郷のマルティニークを離れた後はパリに移住し、ベースのジャン・エマニュエル、パーカッションのウィリアム・ドゥベとともにトリオカというグループを結成。カリブの伝統的な打楽器である「カ」を用い、ジャズやカリビアンのメロディを融合させるのがグレゴリー・プリヴァの音楽である。初リーダー・アルバムの『キ・コテ』を2011年に発表し、続く『テールズ・オブ・シパリ』(2014年)でフランス・ジャズ界における期待の新星の名を決定づけた。この2作はアヴィシャイ・コーエンやティグラン・ハマシアンらをプロデュースしてきたヤン・マルタンのレーベルからのリリースで、そのティグランの後継としてスウェーデンのラーシュ・ダニエルソンによるリベレットというプロジェクトにも参加している。

 近年もピアノ・トリオ作の『ソレイ』(2020年)、ソロ・ピアノ作の『ヨン』(2022年)、ソロ・ピアノによる即興演奏集の『ニュイ&ジュール』(2023年)と充実した作品リリースを続けているが、新作の『フェニックス』は編成的には『ソレイ』を踏襲したもので、クリス・ジェニングス(ベース)、ティロ・バルトロ(ドラムス)とのピアノ・トリオ作となる。『テールズ・オブ・シパリ』では、1902年に故郷マルティニーク島で起こった火山噴火により町が壊滅した悲劇をテーマとしていたが、今回のフランス語のアルバム・タイトルはそれに繋がる。数万の犠牲者のなかで3名が奇跡的に生き残ったという大噴火だったが、その灰のなかから何度もよみがえる伝説の不死鳥を連想させるのが『フェニックス』である。グレゴリー・プリヴァのピアノはそうした不死鳥を思わせる躍動的なもので、悲劇的ではなく、むしろ生きる喜びを表現するとてもポジティヴで力強いものだ。そうした明るくスピリチュアルな演奏がアフロ・ラテン調の表題曲に表れており、ファルセット風のヴォーカルも披露する “テレフォン”、メランコリックな旋律のなかから徐々に光が差し込んで希望が生まれていくような “エリオポリス” など、マルティニークのカリブ文化とフランス文化が結びついたクレオール・ジャズを披露する。


Cosmic Analog Ensemble
Les Grandes Vacances

Jakarta

 中東のレバノンはフランスからの独立後も内戦が起こり、隣国のイスラエルやシリアとの紛争が長く続いているが、ジャズではイスラエルからの影響が見られる。イスラエルのリジョイサーことユヴァル・ハヴキンなどが新しいジャズを発信し、そうした影響が近隣諸国にも広まっている状況だ。コズミック・アナログ・アンサンブルはレバノンのベイルート出身のマルチ・プレイヤー/作曲家のシャリフ・メガルベンによるプロジェクトで、リジョイサーの影響を感じさせるジャズをやっている。実質的にシャリフがひとりで音源制作をおこなうプロジェクトで、「21世紀からのアナログ・サウンド」を標語にヴィンテージな楽器や機材を用いて音を造っている。ほかにザ・フリー・アソシエイション・シンジゲート、トランス・マラ・エキスプレス、ザ・サブマリン・クロニクルズなどの変名もあり、2010年代初頭からデジタル配信で作品リリースをしてきて、初めてLPをリリースしたのが2017年の『レ・スール・オレイユ』。ジャズ、ファンク、ヒップホップ、サイケ・ロック、ソウル、アフロ、アラブ音楽などをミックスしたもので、サントラ風のシネマティックな作品が並ぶアルバムだった。旧統治国であるフランス語を用い、フランス文化を感じさせるところもあってか、ジャン=クロード・ヴァニエが編曲したセルジュ・ゲンスブールのサントラを想起させるといった評価もなされた。

 その後、2022年の『エキスポ・ボタニカ』は中南米音楽の影響を感じさせる作品集で、全体に尺の短い楽曲が並ぶ一種のライブラリー的なアルバム。アンビエントやシネマティックな要素はより強くなり、リジョイサーの作品にも共通するムードを感じさせるものだった。それに続く新作の『レ・グランデ・ヴァカンス』もシャリフ・メガルベンがひとりで多重録音しており、各種ギター、ベース、ヴィブラフォン、ピアノ、各種キーボード、モーグ・シンセ、フルート、ドラムス、パーカッション、ドラム・マシン、ヴォーカルなどをこなし、フィールド・レコーディングスまで駆使している。鍵盤類でもハープシコードやメロトロンのような現在はあまり使わない古い楽器を敢えて使用し、また電子琴やテルミンなど風変わりな楽器も用いるなど、エキセントリックさが際立つものだ。今回も比較的短いライブラリー風の作品集で、1960年代や1970年代頃のシネ・ジャズを思わせる楽曲が並ぶ。5拍子のアラビア音階によるモーダル・ジャズで、ハープシコードや電子琴、メロディカがエキゾティックなメロディを奏で、そこにテルミンが絡んで妖しいムードを醸し出していくという唯一無比の魅力を持つ楽曲となっている。


DJ Harrison
Shades Of Yesterday

Stones Throw

 ソロ活動はもちろん、ブッチャー・ブラウンのメンバーとして精力的に活動するマルチ・プレイヤーのDJハリソン。プロデューサーとしてもカート・エリング、ヌバイア・ガルシアピンク・シーフ、フォンテ、ジャック・ホワイト、スティーヴ・アーリントンら様々なアーティストの作品に関わってきているが、2022年の『テールズ・フロム・ジ・オールド・ドミニオン』から2年ぶりの新作ソロ・アルバム『シェイズ・オブ・イエスタデイ』がリリースされた。前作はラジオ・ショー仕立てというところが鍵で、そのラジオから流れだす様々なタイプの音をコラージュさせたようなアルバムだった。一方、本作は「昨日の色合い」というタイトルが示すようにカヴァー集となっている。ビートルズの “トゥモロー・ネヴァー・ノウズ”、スティーヴィー・ワンダーの “コントゥーション”、ドナルド・フェイゲンの “IGY”、オハイオ・プレイヤーズの “スウィート・スティッキー・シングス” や “トゥゲザー”、シュギー・オーティスの “プリング” とジャンルは様々で、なかにはフランスのライブラリーものもあったりと、DJハリソンの好きな音楽を思いつくままにまとめた感じだ。

 レコード・マニアである彼は、タイラー・ザ・クリエイターとネタの交換をすることもあるそうで、そうしたところで見つけたのがシンタックススというフランスのグループによる “ランスロポファム”。1981年に作られたAOR調のフュージョン・ナンバーで、男性スキャットを配した南国風味漂う楽曲。ハリソンのカヴァーは原曲の風味をそのままに、スキャットをややコミカルにアレンジしており、ヴィンテージ感という点では原曲をさらに数年前に遡らせたような仕上がりとなっている。レコード・マニアと同時に楽器や機材マニアでもある彼は、リッチモンドにある自宅スタジオにヴィンテージな楽器や機材を揃えており、このアルバムもそうした環境のなかでオープンリールのテープを使って録音されたそうだ。そうしたアナログの良さを追求したアルバムでもある。

Josh Johnson - ele-king

 シカゴ・アンダーグラウンド・カルテットやジェフ・パーカー&ザ・ニュー・ブリードマカヤ・マクレイヴンらシカゴ系の作品に参加、昨年は〈Blue Note〉から出たミシェル・ンデゲオチェロ『The Omnichord Real Book』に加勢するなど、着々と活躍の場を広げているLAのサックス奏者、ジョシュ・ジョンソン。最近ではスローソン・マローン1が影響を受けたアーティストとしてその名を挙げていたけれど、そんなジョンソンによる、2020年のソロ・デビュー・アルバム『Freedom Exercise』以来となるセカンド・アルバム『Unusual Object』がリリースされる。エレクトロニクスも用いたエレガントなサウンド、「アンビエント・ジャズ」とも呼べそうな音楽に注目です。

Josh Johnson『Unusual Object』
2024.4.24 CD Release

グラミー賞2024でオルタナティブ・ジャズ部門を受賞し話題になったミシェル・ンデゲオチェロの『The Omnichord Real Book』をプロデュースしたジョシュ・ジョンソンの最新アルバムがCDリリース!! 今、世界が注目する彼が出した、ジャズの未来への答えがここに。

ジョシュ・ジョンソンのソロ・デビュー作『Freedom Exercise』は少しずつ、しかし着実にリスナーの心を捉えていった。彼はゆっくりとしたペースで本質的なことをやり遂げる。グラミーを受賞したミシェル・ンデゲオチェロ『The Omnichord Real Book』のプロデュースで脚光を浴びる中で届けられた本作は、作曲と演奏を研ぎ澄ませ、よりピュアな音楽性が表出されている。ここに刻まれたサックスも電子音も、紛れもなく彼のサウンドであることを証明している。アンビエント・ジャズ、敢えてそう形容したくなる、繊細で美しく、オリジナルな、間違いなく彼の代表作となるアルバムの誕生だ。 (原 雅明 ringsプロデューサー)

※日本限定盤CD(輸入盤CD の国内入荷&流通は、ございません)
※Tシャツ付きは初回受注生産限定セット、限定店舗のみの取り扱いとなります。

【リリース情報】
アーティスト名:Josh Johnson (ジョシュ・ジョンソン)
アルバム名:Unusual Object (アンユージュアル・オブジェクト)
リリース日:2024年4月24日
フォーマット:CD, CD & T-shirts set
レーベル:rings
品番:RINC122
JAN: 4988044098756
価格(CD): ¥3,080(tax in)
価格(CD & T-shirts set): ¥7,260 (tax in)
販売リンク:[予約]ジョシュ・ジョンソンの2ndアルバム「Unusual Object」数量限定CD+Tシャツセットが発売決定|ニュース&インフォメーション|JAZZ|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net
オフィシャルURL: Josh Johnson / Unusual Object – rings (ringstokyo.com)

Tracklist:
01. Who Happens If
02. Marvis
03. Telling You
04. Quince
05. Deep Dark
06. Jeanette
07. Reddish
08. Sterling
09. Local City Of Industry
10. Free Mechanical
11. All Alone
12. Bonus Track追加予定

 これはなんとも興味深いコレボレイションの登場だ。細野晴臣のファースト『HOSONO HOUSE』50周年を記念し、そのカヴァー・アルバムが発売される……のだけれど、リリース元はなんとLAの〈Stones Throw〉、音源制作は〈カクバリズム〉〈BAYON PRODUCTION〉〈medium〉の三者という意外かつ新鮮な組み合わせなのだ。参加アーティストも豪華で、マック・デマルコ、サム・ゲンデル、ジョン・キャロル・カービィ、日本からもコーネリアス、矢野顕子など注目のメンツが集合している。どんなアルバムに仕上がっているのか──まずは第1弾シングルのマック・デマルコを聴いて想像を膨らませておこう。

VMO a.k.a Violent Magic Orchestra - ele-king

 「アート・ブラックメタル・テクノ・プロジェクト」、VMOことViolent Magic Orchestraが8年ぶりのアルバムを発表する。題して『DEATH RAVE』、ブラック・メタル、ハードコア、ガバ、ノイズなどがミックスされたサウンドに仕上がっているようだ(3/13リリース)。Vampilliaのメンバーはじめ、メイヘムやSunn O)))での仕事で知られるアッティラ・チハーら多くの面々が集結しており、Kentaro Hayashi、CRZKNYなども参加。新代田FEVERおよび東心斎橋CONPASSでのリリース・ライヴも決定している。詳しくは下記より。

VMOが8年ぶりのセカンドアルバム「DEATH RAVE」をベルリンのNEVER SLEEPより3月13日に発売決定。併せてリリース記念ライブの詳細も発表。

VMO a.k.a Violent Magic Orchestraが約8年ぶり、ザスターがボーカルを務める新体制後、初となるアルバム「DEATH RAVE」をベルリンのGabber Eleganza率いるレイヴ、ハードコアシーンの総本山 NEVER SLEEPよりリリースする。今作は世界中のメタル、テクノ、アートなどあらゆるジャンルのフェスに出演したVMOの経験とスタジオでの実験が爆発的な化学反応をおこしDEATH RAVEと呼ぶに相応しい作品が完成した。anoのちゅ、多様性を作詞/作曲したエンペラーaka真部脩一らVampilliaメンバーはもちろん、紅一点のボーカルザスター、ブラックメタルの伝説メイヘムのAttila Csihar、現代エクストリームハードコアの雄FULL OF HELLよりDylan Walker、アイスランドの新しい神秘Kælan Mikla、レーベルのボスGabber Eleganza、ビョークの最新作に参加したインドネシアのガムランガバユニットGabber Modus OperandiのIcan Harem、テクノの聖地TRESORからリリースするminimal violenceのinfinity devisionら海外勢に加え、アルセストことKentaro Hayashi、リヴァイアサンことCRZKNY、そしてMASF/ENDONのTaro Aikoら国内勢も参加したブラックメタル、テクノ、ハードコア、GABBER、ノイズがDEATH RAVEの名の下にネクストレベルで完成した。

そして、このアルバムを引っ提げて行われる5月末から7月頭までスペインのSONAR、北欧最大の野外フェスROSKILDEなど巨大フェスを含むリリースワールドツアーの前に、作品の世界を再現するDEATH RAVEを東京と大阪で開催。このリリースライブにはインドネシアより今作にも参加するGMOのIcan Haremも来日。ブラックメタルの暴力性とRAVEの快楽主義が奇跡的に融合する VMOのアルバムとライブを是非お楽しみください。

VMO presents
『DEATH RAVE リリース♾️メモリアル DEATH RAVE』

東京編
@新代田FEVER

2024/03/19 (火)
18:30open 19:00start
3500yen
4000yen
チケットURL
https://eplus.jp/vmo/

【ACT】
VMO
【special guest 】
Ican Harem from Gabber Modus Operandi
Jun Inagawa

大阪編
@東心斎橋CONPASS

2024/03/22 (金)
18:30open 19:00start
3500yen
4000yen
チケットURL
https://eplus.jp/sf/detail/4045710001-P0030001

【ACT】
VMO
【special guest 】
Ican Harem from Gabber Modus Operandi
KNOSIS(DJ set)


VMO a.k.a Violent Magic Orchestra「DEATH RAVE」
2024.03.13 Release | NSR014/VBR-VMO202403 |
Released by NEVERSLEEP (Japanese distribution by Virgin Babylon Records)
各種サブスクリクション同時配信
https://sq.lnk.to/NSR014_
アナログLP版発売日未定

Track List
1. PLANET HELVETECH
2. WARP
3. The Destroyer electric utilities version
4. Choking Persuasion
5. Kokka
6. Welcome to DEATH RAVE feat. Ican Harem - Gabber Modus Operandi
7. Satanic Violence Device feat. Dylan Walker - Full of Hell
8. MARTELLO MOSH PIT feat. Gabber Eleganza
9. VENOM
10. Abyss feat. Kælan Mikla
11. Ecsedi Báthory Erzsébet
12. SUPERGAZE
13. FYRE feat. Infinity Division
14. Song for the moon feat. Attila Csihar - MAYHEM
15. Flapping Dragon Wings


・VMO
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interview with Kode9 - ele-king

以前はロンドンがベース・ミュージックのセンターだったけど、いまは違っていて、いろいろなところからそれが出てきている。ロンドンはあくまでネットワークのひとつという存在になってきているかな。

 最新型の尖ったエレクトロニック・ミュージック、とりわけダンス~ベース寄りのそれを知りたいとき、UKには今日でもチェックすべきインディペンデント・レーベルが無数にある。そのなかでも長きにわたって活動をつづけ、日本における知名度も高いレーベルに〈Hyperdub〉がある。90年代末、当初オンライン・マガジンとしてはじまった〈Hyperdub〉がレーベルとして動き出したのは2004年。今年でちょうど20周年を迎える。
 主宰者コード9自身のレコードを発表すべく始動した同レーベルは、すぐさまベリアルというレイヴ・カルチャー=すでに終わってしまったものの幽霊とも呼ぶべき音楽を送り出すことになるわけだけれど、ほかにもアイコニカゾンビーダークスターといったおおむね「ダブステップ/ポスト・ダブステップ」なるタームでくくりうる音楽──あるいは90年代から活躍していたケヴィン・マーティンによるさまざまなプロジェクト──のリリースをとおして、10年代頭ころまでにひとつのレーベル・カラーを築きあげていた。
 大きな転機となったのはシカゴのフットワーク・プロデューサー、DJラシャドのアルバム『Double Cup』(2013)だったという。ただ他方ではそれと前後し、直截的にダンス・ミュージックというわけではないディーン・ブラント&インガ・コープランドローレル・ヘイローのような実験的なエレクトロニック・ミュージックの名作を送り出したりもしている。注目すべきアーティストの列が途絶えたことはなく、ジェシー・ランザファティマ・アル・カディリリー・ギャンブルクライン、日本との関連でいえばチップチューンのクオルタ330、独自視点で編まれたゲーム音楽のコンピ、近年の食品まつりなども忘れがたい。なかでもここ数年のレーベルの勢いをもっともよく体現しているのはロレイン・ジェイムズに、そしてアヤだろう。それら一級のカタログはもちろん、アンダーグラウンドな音楽にたいするコード9の鋭い嗅覚によって裏打ちされてきたものだ(かつて南アフリカのゴムを世界じゅうに広めたのも彼である)。
 そんな感じでスタイルの幅を広げていった〈Hyperdub〉の姿勢にはしかし、どこか一本太い芯が通っているようにも感じられる。やはりレーベルの根底にダンス・ミュージックが横たわっているからなのだろう、どれほどエクスペリメンタルな作品をリリースしようとも〈Hyperdub〉のディスコグラフィがハイブロウに振り切れることはない。尖りながら大衆に開かれてもいるその絶妙なバランスは、フットワークやジャングル、アフロ・ダンス・サウンドが入り乱れる先月の O-EAST でのコード9のプレイにもよくあらわれていたように思う。とりわけ印象に残っているのは高速化されたDJロランドの “Knights of the Jaguar” だ。いや、あれはほんとにかっこよかった。まるでゲットー・ハウスかフットワークのごとく生まれ変わったそれはヘスク(Hesk)なるDJによるエディットだという。すごいのはコード9なのかロランドなのかヘスクなのかわからない──ダンス・カルチャーにおける反スター主義の好例といえよう。
 さらにいえば、そうしたサウンド上の冒険だけに終始しているわけではないところもまた〈Hyperdub〉の魅力だ。以下でも語られているとおり、アヤのようなコンセプチュアルな要素を含む音楽のリリースを考える際には、友人である思想家、故マーク・フィッシャーもきっと気に入ったにちがいないと想像を働かせてみるそうだし、サブレーベルの〈Flatlines〉ではオーディオ・エッセイにとりくんでもいる。ダンス・ミュージックとともに、ものを考えること──まさにそれを追求してきたのが〈Hyperdub〉であり、だからこそ彼らはいまなお最重要レーベルのひとつでありつづけることができているのではないか。
 そんな〈Hyperdub〉のボスは現在、ダンス・ミュージックの状況をどのように見ているのだろう。

DJラシャド。あのレコードは人びとに大きな影響を与えたし、DJとしての自分を大きく変えてくれたものでもあった。以降10年間の、自分のDJの方向性を定めてくれたものだった。

日本はひさびさですよね。何年ぶりですか。

Kode9:2019年の12月以来。そのときは〈Hyperdub〉の15周年で、場所は渋谷WWW だったかな。あと(その翌週に)渋谷ストリームホールでやった《MUTEK》も。

この5年間でどんどん大きなビルが立ったり、渋谷の街並みはだいぶ変わりました。ひさしぶりに訪れてみてどんな印象を受けましたか?

Kode9:ビルは増えたよね。でも Contact のようなクラブはクローズしてしまったね。代官山 UNIT はどちらかといえばライヴ・ハウスのような感覚が強まった印象だし。東京のクラブ・シーンは少し変わってしまったのかな。

ロンドンも頻繁に再開発されているんでしょうか。

Kode9:ロンドンのクラブ・シーンは悪くないよ。パンデミック後に若いDJやアーティストがたくさん出てこられるようになって活発だ。すばらしいとまではいえないけれど、ロンドンのクラブ・シーンではつねになにかが起きているような感覚がある。ただ、自分も歳をとってきたから、仕事以外ではあまり出かけなくなってしまったんだけど(笑)。

あなたは最新のベース・ミュージックにすごく敏感な方だと思うのですが、いまのロンドンで新たな音楽のムーヴメントのようなものは起こっていますか?

Kode9:UKガラージやジャングルのリヴァイヴァルは起こっているね。あと、新しい流れでいうとアフロ・ハウスやアマピアノ、ゴムのようなアフリカのダンス・ミュージックから影響を受けたものが出てきているように思う。UKにとってそれが新しいものかどうかはわからないけれど、少なくとも10年前、15年前よりは色濃くなっていて、それは大きな違いかな。以前はロンドンがベース・ミュージックのセンターだったけど、いまは違っていて、いろいろなところからそれが出てきている。ロンドンはあくまでネットワークのひとつという存在になってきているかな。
 それとUKドリルが盛んになっている印象が強くて、それはシカゴ・ドリルのUKヴァージョンではあるんだけど、そういうUKスタイルの音楽が世界的に影響を与えているような気がする。ビートだったり、ベースラインだったり、ラップのスタイルだったり。ほかの都市のローカルな音楽にUKからの影響が見られるものが出てきたと思う。自分にとってもその影響は大きくて、ここ2、3年の動きは2000年代初頭のグライムやダブステップのMCを思い出させるね。自分がDJでかける音楽もいまあげたすべてのものから影響を受けているんだけど、とくにジューク/フットワークだったり、ジャングル、アマピアノとかを自分のまわりのDJグループもジャンルレスにミックスしていて、そうしたものの影響は大きいんじゃないかなと思う。

O-EASTでのDJセットを体験して、まさにいまおっしゃっていたようなサウンドが印象に残りました。スクリーンに映し出されたヴィジュアルも記憶に残っているのですが、視覚上のテーマもあったのでしょうか?

Kode9:じつは、来日するまでライヴ・プレイをやってほしいと思われていることを知らなかったんだよね(笑)。だからぜんぜんプランがなくて、どうやってオーディオ・ヴィジュアルのショウをやろうかギリギリまで考えたんだ。2日間くらいで。あの演出はヴィジュアル・アーティストの JACKSON kaki と自分との即興に近くて、彼がぼくのDJセットの世界観に合わせたゲーム・アヴァターのようなヴィジュアルをつくってくれたんだ。

序盤にDJロランドの “Knight of the Jaguar” のテンポを上げて、ゲットー・ハウスのようにかけていたのが強烈でした。

Kode9:あれはDJヘスク(Hesk)のフットワーク・エディットだね。テクノ・ファンなら絶対にわかるトラックだと思ったから、イントロをループで伸ばして盛り上げようかな、と。よく気づいたね(笑)。

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いまイギリスでは、音楽雑誌をあまり信用できなくなっていることが問題になっている。メディアの貧困化でジャーナリストたちも稼ぐことができないから、ライティングの質も低下しているんだ。

今年で〈Hyperdub〉は設立20周年を迎えます。当初はウェブ・マガジンとして発足して、のちにレーベルになっていったわけですが、2004年当時の意気込みと、現在の状況との違いについてお聞かせください。

Kode9:すごく変わったと思う。もともとの目的は自分の音楽をリリースすることだったんだけど、いまは時間がなくてできていないんだ。自分のリリースがないことがまず大きな違いだよね。レーベルをスタートしたあとは自分だけじゃなくベリアルザ・バグだったり、ダブステップやグライム、UKファンキーなどの作品をリリースするようになって、2009年ごろまではUKが主だったけど、日本のアーティストとも契約するようになってだんだん国際的になっていった。2011年ごろからはダンス・ミュージック以外のローレル・ヘイローだったり(近年の)ロレイン・ジェイムズだったり、ジェシー・ランザのようなポップスにIDM、エクスペリメンタルなアーティストのリリースも増えたし、2012年からはシカゴのフットワークも扱うようになって、ダンス・ミュージックだけでもなく、イギリスだけでもなく、どんどん拡がっていったのが大きな変化かな。

いちばん大きな転機となったリリースはなんでしたか? できればベリアル以外で。

Kode9:DJラシャド。あのレコードは人びとに大きな影響を与えたし、DJとしての自分を大きく変えてくれたものでもあった。以降10年間の、自分のDJの方向性を定めてくれたものだったし、そこからフットワークやジュークに影響を受けた音楽をプレイしはじめたから、あのリリースがいちばん大きかったかな。そう自分では思ってるよ。

最近のリリースだと、やはりロレイン・ジェイムズの存在がもっとも大きいのではないかと考えています。彼女の最大の魅力はどこにあると思いますか?

Kode9:彼女の音楽はすごくパーソナルで、親密なものだと思う。内向的なところがいいね。彼女の外向的ではない点はある意味ベリアルとも似ているけれど、やっぱり違っている。ベリアルは姿を見せないけど、彼女はシャイでありながら前に出ていて。そこに人を惹きつける魅力があるのかな。ぼくはシャイなアーティストが好きなんだ。内面を表現しながら成功している人たち。シャイっていうのは音楽の内容にかんして、っていう意味で、彼女は音楽業界のなかでも真摯に、名声なんか関係なく真剣に音楽をつくりつづけている。そこがすばらしいんだ。彼女はシャイでありながらSNSの使い方もうまくて、SNS上でファンとのつながりをもっている点もおもしろいね。みんなをパーソナルな世界に招いて立ち入らせてくれるところはファンも感謝していると思うし、そこですばらしいつながりが築きあげられているんじゃないかな。

去年出たアルバムでもうひとつ大きかったのはジェシー・ランザかなと思うのですが、彼女は〈Hyperdub〉のなかではポップな路線を担っているアーティストですよね。そこで、あなた個人のポップ・ミュージックの趣味が気になりました。どういうポップ・ミュージックが好きですか?

Kode9:ポップ・ミュージックからは学ぶことが多いんだ。すごく皮肉なことに、ポップスのほうがエクスペリメンタル・ミュージックよりもつくるのが難しいしね。だから、ぼくはKポップやアメリカのR&B、ヒップホップも聴くんだけど、自分にとってポップ・ミュージックは学校みたいなもので、聴くとほんとうに感銘を受けるし、楽しむためというより学ぶために聴いているね。ぼくは音楽教育をいっさい受けてないし楽器も弾けないから、ぜんぶ耳で聴いて楽しむんだけど、ああいったベーシックなハーモニーやキャッチーさを聴いただけで「ワオ!」と感心してしまう。自分にとってそれはすごく新しいものなんだ。

ele-kingは〈Hyperdub〉のアーティストだと aya にすごく関心があるのですが、次のアルバムは進んでいますか?

Kode9:願わくは、今年じゅうにリリースしたいと思ってるよ。aya は天才だ。コンセプト的にも音楽的にもすばらしいと思うし、パフォーマンスのレヴェルも違う。歌も歌えてラップもできて、ロック・スター的な雰囲気がありつつパンク的なところもあって、アティテュードにあふれているよね。シャイなところとは正反対な感じが彼女の魅力だと思う。

〈Hyperdub〉はアルバムより尺の短いEPをたくさんリリースしていて、その姿勢からは信念が感じられます。90年代はダンス・ミュージックが12インチをリリースの中心にすることで、アルバム主義を解体しました。〈Hyperdub〉のリリースもその延長線上にあるのではないかとele-kingの編集長は考えているのですが、シングル/EP単位でリリースすることの意義について教えてください。

Kode9:すごく難しいところだけど、まず、レコードのセールスが厳しくなったからデジタルEPをリリースするようになったんだ。ヴァイナルはパンデミック以降つくるのが大変で時間もかかるようになってしまったんだけど、これからはもっとアルバムをしっかり出していきたいと思っているよ。アルバムというのはアーティストの世界観を表現できるフォーマットだけど、EPはそれよりも早くつくれるから、アーティストのそのときのムードや音楽シーンの動向を捉えてリリースできるところが長所だよね。アルバムは制作に時間がかかるからこそ、ステイトメントのようなものを示すのに向いていると思う。逆にEPのスピード感は、レーベルの勢いや現在を捉えてみんなに見せていけるものだね。

マーク・フィッシャーの影響は強く〈Hyperdub〉にも〈Flatlines〉にも残っている。ベリアルや aya のような好きなアーティストたちをリリースするときも、「彼も同じように100%好きだろうな」というイメージのもとで考えるんだ。

次の質問も編集長から預かってきたものです。90年代に東京で暮らしていたとき、UKのアンダーグラウンドなダンス・ミュージックを知る方法は12インチのシングルを聴くことでした。それらは安価に入手できました。今日ではネットが擡頭し、情報が氾濫してすごくフラットな状況になっています。当時は12インチのヴァイナルが日本とイギリスのアンダーグラウンドにパスのようなものを形成していたのですが、いまはそれが途絶えてしまっているように思えます。どうすれば生き生きとした良質なUKダンス・ミュージックにアクセスできるのでしょうか? その方法があれば教えていただきたいです。

Kode9:まず、いまはそれをやること自体が難しくなってしまったよね。シンプルなものからなにかを得ようとするのは時代的に不可能に近い。すごく複雑化していて、いくらでもリリースの仕方やつくり方がある。バンドキャンプを利用したセルフリリースもあるし、ある種のフィルターやクオリティ・コントロールなしに音楽がどんどん出まわる時代になったわけだよね。インターネットが擡頭してから変わってしまったんだ。昔ならジャングルやドラムンベース、ダブステップだったり、それぞれひとつのシーンがあったけど、いまはシーンというものが中心にドンとあるというよりも、焦点がぼやけて、小さなシーンがほんとうにたくさん存在していると思うんだ。ベッドルームとインターネットが直結しているから、あいだになにも入らない。総数が膨大になったがゆえについていくのが大変になったし、つくり手もみんな(シーンや音楽が)ありすぎて大変なんだ。だから、ほんとうに信頼できるレーベルやウェブ、雑誌を自分なりに決めて、そこに絞るしかないのかなと思う。
 いまイギリスでは、音楽雑誌をあまり信用できなくなっていることが問題になっている。メディアの貧困化でジャーナリストたちも稼ぐことができないから、ライティングの質も低下しているんだ。20年前はライターたちがちゃんとフィルタリングして良質な情報を発信していたけれど、いまの音楽業界自体やプレスなども含めて、とにかく情報があふれているから厳しい状況だね。だから、ジャーナリスト側はニュースレターを書くようになった。雑誌に寄稿するのではなく。いまは転換期だと思う。ポッドキャストや配信の場もできているし、書く側も情報を与える側も、これからは自分たち自身で情報を発信できる場をつくっていくことになるかもしれない。信用できる情報は、自分たちで絞っていかなければいけないんだ。

わたしたちはマーク・フィッシャーの著作を3冊出版しているんですが、彼はあなたについても書いていますよね。あなたはマーク・フィッシャーの文章のどんなところが好きですか?

Kode9:マークとは一緒にPh.D.(博士号)をとった仲で、1996年から2000年にかけて一緒に勉強してきたんだ。ちょうど2、3日前が命日だったな……。彼の影響はものすごく大きくて、たとえば彼は、現代資本主義のように、嫌いなものがはっきりしていた。それへの批判を力強いことばで表現するのが特徴的だった。それは好きな音楽についてもそうで、社会的・政治的に音楽がどう広がっているのかも的確に表現していた。
 〈Hyperdub〉のサブレーベルにオーディオ・エッセイやソニック・フィクションをリリースする〈Flatlines〉というのがあるんだけど、そこから2019年にジャスティン・バートンとマークのコラボレイション作品『On Vanishing Land』をリリースしている。その作品は、マークが映画や本について書いた『奇妙なものとぞっとするもの(The Weird and the Eerie)』(原著2016)のアイディアをもとに、(音で)実践したものなんだ。レーベルの〈Flatlines〉の名前もマークが90年代に書いた論文のタイトル「Gothic Flatlines」から来ている。それくらい彼の影響は強く〈Hyperdub〉にも〈Flatlines〉にも残っている。ベリアルや aya のような好きなアーティストたちをリリースするときも、「彼も同じように100%好きだろうな」というイメージのもとで考えるんだ。たとえば、aya はノース・イングランドの出身なんだけど、マークはロンドンの外にある音楽シーンに関心を抱いていたし、彼がつくりあげてきた世界観にフィットするようなアーティストをピックアップすることはいまも意識している。ちなみにオーディオ・エッセイというのは、哲学やフィクション、ラジオ・ドキュメンタリー、ラジオ・ドラマ、エクスペリメンタル・ミュージックのミックスだね。
 それと、アーバノミック(Urbanomic)という出版社のエディターであるロビン・マッカイと『ソニック・ファクション(Sonic Faction)』というオーディオ・エッセイについての本を編集したんだけれど、それを数か月後には出す予定だ(https://www.urbanomic.com/book/sonic-faction/)。「ファクション」というのはフィクション(fiction)とファクト(fact)を組み合わせたもの。だから、理論を書いてはそれを音にして、また理論に戻って、また音の作品に落としこんで……というサイクルを繰り返しているね。

〈Hyperdub〉の2024年はどんな一年になりそうですか? 直近で控えているリリースも含め教えてください。

Kode9:「サヴァイヴァル」だね。20周年を迎えるというのは信じられない(笑)。アルバムをたくさんリリースしたいと考えている。20周年記念のショウケースの予定もたくさんあって、バルセロナのプリマヴェーラ・フェスティヴァルやロンドンのファブリック、オーストラリアのエレヴェイト・フェスティヴァル、フランスのニュイ・ソノール。祝福する場はたくさんあるんだけど、いま小さなレーベルを運営することはすごく複雑で大変なことなんだ。さっき話したようにストリーミングも増えたし、音楽業界自体やジャーナリズムも変わってきているし、それがすべてレーベル運営に影響する。だから、小さいレーベルとしてはサヴァイヴァルになっていくんじゃないかな。生き残りが大変なんだ。ひとりならまだしも、スタッフを3、4名抱えているしね。3月にはシカゴのヘヴィ(Heavee)がDJラシャドの『Double Cup』のようなムードを持ったアルバムをリリースするよ。ロレイン(・ジェイムズ)の前の前のアルバム(『Reflection』)や aya のアルバムにヴォーカルで客演していたアイスボーイ・ヴァイオレットというマンチェスターのラッパー[※UKでは2~3年前から注目されている、アンダーグラウンドで評価の高いMC]のアルバムもリリースする予定。もしできるなら、aya とナザール(Nazar)、DJハラム(Haram)、ティム・リーパー(Tim Reaper)……ぜんぶ出せたらいいな。少なくともヘヴィとアイスボーイ・ヴァイオレットは確実に出すことが決まっているね。

※なお、今回の取材でベリアルの新作が〈XL〉から出たことについて尋ねなかったのは、取材日(1月15日)がその情報が流れるよりも前だったからです。

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