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桜井芳樹・西脇一弘

桜井芳樹・西脇一弘

far home

My Best Records / DIW

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野田 努   May 12,2010 UP

 烈しくもなく弱々しくもない演奏、軽くもなく重たくもなく、暑くもなく寒くもない音楽だ。アンビエントでもチルアウトでもない。これはふたりのギタリスト――ロンサム・ストリングスの桜井芳樹とサカナの西脇一弘によるコラボレーション・アルバムで、ふたりのギター以外のいっさいはない。フェクトもなく、ポスト・ロック的な展開もない。ダブ処理されているわけでもない。ポップの史学が言うようにヴェルヴェッツの『III』のルー・リード・ミックスをローファイの青写真とするのであるならこれはまさしくローファイな録音の作品で、二本のギターの音のみで構成されたアルバムだ。どちらかが伴奏で、どちらかがリードを担当している。ギターのインストゥルメンタルの作品を、われわれはこの20年いろいろなスタイルで聴いてきているけれど(その多くは、大雑把に言ってメロウなチルアウト感覚に導かれている)、そうしたどれとも違っている。ケレンミなく、いっさいの装飾性はない。きわめて素朴なギター演奏集で、それはまあ、ベタといえばベタな音楽かもしれないけれど、"現在"において不思議なほど説得力を持っているように思われる。

 ジョン・フェイヒィのようにその絶対的なルーツがあるとは思えないふたりは、ブルースやワルツやジャズなど、さまざまなスタイルを演奏する。偉大なるキップ・ハンラハンがデビュー・アルバムでカヴァーした"インディア・ソング"もやっている(オリジナルは1974年のマルグリット・デュラスの監督による『インディア・ソング』の主題歌)。他にもいろいろとネタはあるのかもしれないが、周到に計画されたものと言うよりも、ふたりの好みが混合したものだと思われる。
 曲によってはメランコリックである。桜井芳樹はこだま和文のバックでも演奏していたというが、こだま和文やダブステップやブリストル・サウンドといったメランコリーに特徴を持つ音楽を好む者にとっても嬉しいアルバムと言えよう。そして、あまたのアッパーな音楽にどうしても心の底からのめり込めないリスナーにとっても大切な1枚となり得るだろう。

 われわれの住んでいる世界では、街を歩けば、テレビを付ければ、やけにアッパーな音楽で溢れている。それは何かを隠し、何かを感じることを麻痺させるように、どこか暴力的に鳴っている......としか思えないほどアッパーだ。そんな世界において、このアルバムのような抒情主義は信じられないほど美しく響くのである。

野田 努