Home > Reviews > Album Reviews > World's End Girlfriend- Seven Idiots
『セヴン・イディオッツ』はワールズ・エンド・ガールフレンド(WEG)にとって6枚目のオリジナル・アルバムで、Wonderland Falling Yesterday名義の作品やMONOとのコラボレーション・アルバム、映画のサウンドトラックなどを加えると通算9枚目のアルバムとなる。2000年に自主制作による『エンディング・ストーリー』でデビューしたWEGは、当初から"終わり"というオブセッションを抱えながら、そしてまた、ゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラー!(GYBE!)に刺激を受けながら、際だった美しさと神経質で分裂症的なエネルギーと、あるいはダイナミックな混乱と深いエモーションを同時に研ぎ澄ませながら、世界中に多くのファンを持つに至っている。2002年のバルセロナのソナー・フェスティヴァルではバカ受けして、その3年後には2度目の出演を果たしている。2008年にはオール・トゥモローズ・パーティにも出演している。海外のアーティストと話しているときに、この10年で何度かWEGの話を耳にしている。
『セヴン・イディオッツ』は、とくに評判の良かった2007年の『ハートブレイク・ワンダーランド』以来のオリジナル・アルバムで、WEGが設立したインディ・レーベル〈ヴァージン・バビロン〉の第一弾となる。そして『セヴン・イディオッツ』は、おそらくこれまでのWEGのなかでもっとも挑発的な作品だと思われる。
WEGの音楽はGYBE!のように物語性があり、そしてGYBE!の作品と同じようにそれを聴くことは決して楽とは思えない。リスナーの心を叩きつけることさえ厭わない激しさが、つねにある。それを踏まえたうでも、『セヴン・イディオッツ』はとびきり狂おしい作品となった。
前半は素直に楽しめる。諧謔的で、ところどころチャイルディッシュで、早い話、親しみやすい。ロック・ギターとドリルンベースの"Les Enfants Du Paradis"、メタリックなギターとテクノ・ダンスとの混合"Teen Age Ziggy"、美と激しさがぶつかり合うドリルンベースの"Ulysses Gazer"......言うなればマーズ・ヴィルタとエイフェックス・ツインがいっしょにスタジオに入ったような曲が続いている。とくに"Ulysses Gazer"の分裂症的な展開とその疾走感には素晴らしいものがあり、僕の鼓膜はいっきに引きつけられる。WEG流のジャズ・ファンク"Helter Skelter Cha-Cha-Cha"も魅力たっぷりの曲だ。これはIDMスタイルによるザ・ポップ・グループのようで、しかも"Ulysses Gazer"同様に細かい仕掛けがいっぱい待っている迷路のようだ。
"Helter Skelter Cha-Cha-Cha"に続いて突然はじまる"Galaxy Kid 666"はスラップスティック調の曲だが、ときおり入る悲しみの旋律がこのあと展開される壮絶な地獄を予感させる。まあ、それでも"Bohemian Purgatory pt1(自由人煉獄)"は彼が得意とするリズミックで執拗なまでのエディットが素晴らしい曲で、終末を祝福するかのような"pt 2"にしたってそのジャジーな展開に陶酔できる。そう、問題は"Bohemian Purgatory pt3"から"Der Spiegel Im Spiegel Im Spiegel(鏡のなかの鏡のなかの鏡)"、"The Offering Inferno(献上される地獄)"へと展開される容赦ない狂乱状態の3曲だ。こんな世界などさっさと終わらせてしまったほうがいいだろうとでも言いたげな"The Offering Inferno"はその頂点で、狂った天才と言われる前田勝彦は冷酷な眼差しで悪夢を描こうとする。"Unfinished Finale Shed(未完成のフィナーレは落ちる)"はクローサーにぴったりの美しい曲だが、聴き惚れると言うよりも気持ちとしては安堵のほうが強い。WEGのディストピアからようやく戻って来れたのだ。
海外での評価を読んでいて面白いのが、WEGとはある種の気の触れたファイナル・ファンタジーだという解釈である。日本という"型"にはめたいという欲望があるのだろうし、あるいは『エンディング・ストーリー』から一貫している前田勝彦の細かいエディットやどこか子供じみた展開がそう思わせるのかもしれない。と、同時に彼らはこの音楽がそう簡単に分析できるものではないことも感じているようだ。いったいこの異様なエネルギーはどこから来るのだろう、そう思っているフシがある。WEGと同じ国に住んでいる僕には、ぼんやりとだがその気持ちを共有できる気がする。が、それにしても......だいたい、もし"Bohemian Purgatory pt3"と"The Offering Inferno"が入ってなければ、もっと気楽にこのアルバムを楽しめただろう。けれども、この2曲を入れてしまうところがWEGであり、そしてその妥協のない態度からは〈ヴァージン・バビロン〉の第一弾としての強い意気込みを感じる。
野田 努