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Hard-Fi

Hard-Fi

Killer Sounds

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木津 毅   Sep 05,2011 UP

 ハード・ファイのセカンド・アルバムのタイトル『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』はセルジオ・レオーネ監督による1968年の同名映画(邦題『ウエスタン』)からの引用だが、その話を聞いたときに僕は、ああこのバンドは嫌いになれないな、と思ったものだ。もちろんレオーネと言えばマカロニ・ウェスタンの父として何度となく再評価されている監督だが、たとえばその熱烈な支持者のひとりであるタランティーノが90年代に過去の西部劇やヤクザ映画、ギャング映画のサンプリングをスタイリッシュにやってのけたことを思えば、ハード・ファイのレオーネに対する支持は――アルバムのストリングス・アレンジは映画のサウンドトラックであるモリコーネの音楽を参照したというし――もっとも素直な部類だった。西部劇や60年代辺りのノワール、70年代のギャング映画を10代の頃に夢中で観ていた僕のような人間からするとそれは大いに共感できるものだったし(それにレオーネのギャング映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』は何度も観ているし)、何よりもハード・ファイの音楽にある男たちの物語は、それら映画にたしかに通じるものである。そう思うと、レオーネ作品の主たるモチーフである男たちの友情や裏切りのドラマティックさは、監督自身のそうした男臭い世界への憧れから来ているという話は感慨深いものがある。つまりハード・ファイは、この21世紀においてもそうした暑苦しくドラマティックな男たちの物語は変わらず憧れの対象であると、無防備なまでに信じているということだ。
 ハード・ファイの音楽の主人公は多くのそうした映画の多くと同じように、アウトサイダー、アウトロー、ヤンキーあるいはちんぴら......であり、そしてそこで彼らは華やかでもなんでもない日常を送っているのだが、それはバンドの情熱的な音楽に乗せてドラマティックに描かれる。バンドは、はっきりとそうしたトライブ、つまり金がなくて多くの場合悪さをしでかしてばかりいるような冴えないちんぴらやヤンキー連中、退屈な日常にうんざりしている労働者たちに向けて歌っていた。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』における最大のアンセム、ディスコとダブを合体した"サバーバン・ナイツ"において「(社会から)忘れられている俺たち」が「郊外の騎士たち」だと宣言するその暑苦しさこそが、ハード・ファイの魅力に他ならない。そこではつまらない日常が起伏に富んだ物語となり、労働者やちんぴらはその主人公になる。

 3作目となる『キラー・サウンズ』においても、ハード・ファイの熱さは何ひとつ変わっていない......が、オープニング・トラックにしてシングルの"グッド・フォー・ナッシング"から、その華やかさに少なからず驚かされる。レゲエやダブ、ハウス、ファンク、ロックンロールをミックスした音楽性に大きな変化はないはずなのだが、何かが決定的に違うと感じられるのはアレンジとプロダクションがやたらゴージャスになっていることだ。数曲でメジャーどころのプロデューサーであるスチュワート・プライスとグレッグ・カースティンを起用しているということだが、アルバムを通して金のかけ方がこれまでと違っていることがはっきりとわかる。"グッド・フォー・ナッシング"のホーン・セクションの分厚さや、"ファイアー・イン・ザ・ハウス"の整頓されたビートやレイヴィーにも聞こえる女性ヴォーカルの味つけなどは、これまでの彼らの楽曲にはなかったものだ。歌謡曲的とも言える粘っこいメロディは相変わらずだが、彼らならではの哀愁や根性を感じさせたメロウネスやビターさは後退し、総じてアッパーなダンス・トラックが並ぶ。思いがけずニューウェイヴ調の"ステイ・アライヴ"や"ラヴ・ソング"などはやたら煌びやかなアレンジが施されていて、ちんぴらがブランドで身を固めているように聴こえなくもない。が、ビッグになったら金はしっかりと使うその態度こそが、ハード・ファイらしいヤンキーイズムだとも言える。
 そうした音の変化にしても、あるいは歌の内容が退屈な郊外の日常といった彼らがこれまで得意とした描写から離れていることにしても、本作においては特定のトライブにコネクトするよりも多くの場所、多くの人びとに通用する野心を抱いていることの表れであろう。「金を稼ぐまで汗水たらして働け!」と歌う"スウェット"なんかは非常にハード・ファイらしいモチーフだが、これまでのように特定のシチュエーションを具体的に描くよりも、さまざまな場所で生活する労働者に通じるようなリリックになっている。そういう意味では、パーティ感覚の強いダンス・トラック、先述の"グッド・フォー・ナッシング"や、手拍子と「ストップ!」のかけ声を促す"ストップ"などが何よりもサウンドにおいて不特定多数の人びとを踊らせる可能性が高いように僕には思える。ザ・クラッシュはもちろん『スクリーマデリカ』の頃のプライマル・スクリームやマッドチェスターやレイヴの音楽的記憶を明滅させながら、広い世界のさまざまなアウトサイダーたちを踊らせようと目論んでいる。

 とにかく、ハード・ファイは濃密なコミュニティの絆を少しばかり犠牲にしてでも、新たな場所へと足を踏み入れている。得たものもあれば失ったものもある。まるでギャング映画の主人公が仲間の裏切りや別離を経験して町を飛び出すかのように、彼らは自身にドラマティックな物語を課しているようにさえ見える。ラスト・トラックの"キラー・サウンズ"はアルバムのなかでは穏やかなサウンドで、15歳で死んだ親友について歌う。「お前が警官に殺されたのなら それがお前にふさわしい死に様だったってこと」
 もし近年のスコセッシがディカプリオを主役に神経症的な映画ばかりを撮っていることに不満を覚えているのなら、いまだに男臭いノワールを撮りまくっているジョニー・トーの映画を観るか......ハード・ファイを聴くといい。がむしゃらに力を奮い立たせるようなその熱は、けっして失われていないのだから。"キラー・サウンズ"ではこうも歌っている。「そして若いうちに お前のなかにある若者を祝福するんだ/キラー・サウンドに合わせて踊るんだ」

木津 毅