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Padna

Padna

Burnt Offerings

Preservation

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橋元優歩   Dec 13,2012 UP

 諸行無常、有為転変、音もまた減衰するのが自然の理だ。車のクラクションのようにいつまでたっても弱まらない、太く無遠慮な音が重ねられたシンセサイザー・ドローン"Ddiigduuggg"(ディグダグと読めばいいだろうか?)がどこかはかなく哀れなのは、それがアンリアルを体現するからである。笙を吹くような、クラスター的な音の重なりは、ピアノであったならば自然さを得て心地よく耳になじんだだろう。しかしこの太い断面を露わにしたでくのぼうのような音は、さまざまなノイズを加えて展開を見せる後半部においても不器用に明滅している。
 一転して空間的な隙と広がりを生むミュージック・コンクレート"カフォニック・フォグ"で用いられているのはピアノである。ダンパー・ペダルによってほどよく音は重なり、やがて消える。ひどくこもったプロダクションと、レースの波のように広がるヒス・ノイズが、なんともノスタルジックに幻想性を立ち上げ、すべての音は残響として、減衰しつつも永遠的な輪郭を得るかのようだ。消えゆく音に対してこうも鋭利な感性を持ちながら、平然と"Ddiigduuggg"のようなトラックを冒頭にすえる制作主は、サディストに違いない。電子音に向けたいびつな愛情を感じずにはいられない。この哀れな"Ddiigduuggg"のために、本作は偏執的で嗜虐的な性質を持ったアルバムであるとあえて記しておきたい。

 パドナことナット・ホークスはブルックリンで活動するアンビエント作家。どうも彼にもおびただしい音源のアーカイヴがありそうだが、未詳である。アンダーグラウンドなテープ・シーンの存在を感じさせ、おそらくプロパーなリリースとなるのは本作が初なのではないだろうか。ジャケットからもご推察のとおり、毎度メディテーショナルな作品をマーク・ゴウイングのスタイリッシュなデザインでパッケージングする「サーカ」企画の新作である。〈プリザベーション〉の300枚限定シリーズとして今年で2年め、通算12作めになる。同シリーズで今年かなりツボだったミラー・トゥ・ミラーの無邪気さとは対照的な作風だ。
 "ペルツ"や"ネヴァー・レット・ミー・ゴー"は、シンプルでオーガニックとさえ呼べるアコースティック・トラックに仕上げられている。それぞれ砂地に重いものを引きずるようなサンプリング音源や、低いエンジン音のようなものがフェティッシュに使用されているが、おおむねフォーキーで情緒ある佇まいをしている。いや、後者には発作的に例の無遠慮なシンセサイザーが闖入してくるので、少しも気が休まらない。
"シューグ"も気だるげなサイケデリック・フォークだが、盛大にピコピコが盛られ、スペーシーでエクスペリメンタルな相貌を見せている。ここでは声のサンプルが変調され、合成され、また執拗なほど持続的に用いられる。消えるべき音を消させない、ここにもナット・ホークスの嗜虐性が浮かび上がる。

考えてみれば、このパドナからミラー・トゥ・ミラーまで、複数の作品が同一コンセプトの下によく似たジャケットを着せられていること自体が奇妙な倒錯を含んでいておもしろい。まるで制服だ。しかしそれゆえに微細な差異が大きな特徴としてクローズ・アップされてくるように思われる。よるべなきネットワーク上の個に対し、タグやレーベルの持ちうる力をあまりにあからさまに視覚化するような、なかなかにあなどれないシリーズである。

橋元優歩