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Twin Shadow

Twin Shadow

Confess

4AD/ホステス

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木津 毅   Jan 11,2013 UP

 ジョン・ヒューズ監督が2009年に急逝したとき、勝手に追悼と称して彼の代表作群......『プリティ・イン・ピンク』(脚本)、『ブレックファスト・クラブ』、そして『フェリスはある朝突然に』辺りを観直したことがあったのだが、自分の脳内で作り上げている80年代の決定的なイメージ(のひとつ)はこれだな、とそのとき妙に腑に落ちてしまった。やたらに感傷的で甘いムード、予めノスタルジックな舞台装置としての学園とティーンエイジャーたち、その思春期の恋と青春。たとえばジェイソン・ライトマン監督(『JUNO/ジュノ』)辺りの70年代生まれのひとたちの作品にもヒューズ映画の匂いを感じることがしばしばあるのは、80s学園ドラマや映画の懐かしさがアメリカでは根強いことの証左だろうが、80年代なかば生まれで日本に住む自分ですら、どこかで抗えない感傷を覚えてしまうのはどうしてなのだろう。エイティーズの幻視としてのシンセ・ポップ・リヴァイヴァルがシーンに溢れたとき、それは80年代生まれのミュージシャンたちにとっての「未知」であったから......という分析がなされたが、もっと正確に言うならば、記憶の底にその時代の記憶が微かに刷り込まれていたからではないだろうか。それらが厳密さに欠いたものであろうとも。
 ツイン・シャドウとしてのセカンド作『コンフェス(告白する)』において、83年生まれのジョージ・ルイスJrは歌う。「オレは泣くぜ。その映画が終わったら、オレは泣くぜ」......僕には、「その映画」がジョン・ヒューズの作品にしか思えない。

 年末年始は多くの音楽好きと同じように各メディアのチャートを見ながら聴き逃していた作品をチェックするのが恒例行事になっているのだが、発売当時はそこそこ評価を集めていたにもかかわらずほとんどチャートからはスルーされていたのが本作で、それならばせめて個人のチャートには挙げればよかったかなと思う。というのは、2012年に聴いたすべての音楽作品のなかでもっとも笑わされたのがこのアルバムだからだ。前作『フォーゲット』のときはタイミング的にチルウェイヴとの距離で説明されたりもしたが、もはやシンセ・ポップということ以外チルウェイヴのチの字もない。音はクリアでゴージャスに、そしてすべてはドラマティックに。捏造されたイメージとしてのニュー・ロマンティックス、そのペルソナを完璧に演じきっている。冒頭の"ゴールデン・ライト"、ムーディなシンセのイントロに導かれてビートが入ると、ルイスJrが悩ましげに歌う......「お前は黄金の光だ」。これはいったい、なんなのだろう。
 シングルの"ファイヴ・セカンズ"がケッサクで、アップテンポのシンセ・ポップの上で色男の恋の物語が腰を抜かすほどキャッチーなメロディに乗せられて、無闇にエネルギッシュに情熱的に歌い上げられる。「オレはお前を信じない/お前はオレを信じない/どうやってお前はオレを泣かせるんだ」(←やや意訳)。時折ブレイクが入るとステージでスタンド・マイクを片手にポーズを取っている姿しか思い浮かばず、電車のなかでこれを聴くのはキツい。というか既に3度ほど吹き出して、向かいの席のひとに怪訝な顔で見られている。この味わい深すぎるジャケットにしても、その"ファイヴ・セカンズ"のヴィデオにしてもそうだが、ここではまったくの虚像としてのバッド・ボーイが自己演出されている。のだが、そこで鬱陶しいほどに沸き立つエナジーの動機がまったくわからない。無意味。リリックにおけるメロドラマめいた愛の物語もはっきり言ってどうでもいいものばかりで、逆説的に巷に溢れる大半のラヴ・ソングのどうでもよさを浮き彫りにしていると言えなくもない......と思うのはもちろん勘違いだ。
 時折入ってくるハード・ロック風のエレキ・ソロがやかましくもあるが、それもまあ、この舞台を盛り上げるための小道具のひとつだ。アルバムはリーゼントの黒人青年にあくまでスポットライトを当てたまま進行する。"アイ・ドント・ケア"で「その夜オレはお前のところへ行き、真実を告げてお前を泣かせたああーー」と熱唱したあとのラスト・トラック、"ビー・マイン・トゥナイト"は80sの学園ドラマのハイライト・シーン=プロム・パーティの場面で流れるのに相応しい、必要以上に甘美なシンセ・ポップのファンタジーだ。殺し文句は、「オレのものになってくれ、今夜お前が家に帰れないのなら」......。そうたとえば、ギャングスなどは曲名に"ラスト・プロム・オン・アース(この世で最後のプロム・パーティ)"とつけたが、そこでのジョン・ヒューズ的なものの引用は自覚的なユーモアだ。が、ツイン・シャドウにおいては、それが本気と書いてマジで繰り広げられるものだから、かえって笑いを誘われずにいられない。いや、『フォーゲット』のときはもう少し、ムードとしてはチルウェイヴに近接するフワフワしたものがあったはずだ。だが根拠はないが、間違いなくこちらの暑苦しさのほうが彼にとっては正解である、と思わせられる妙な説得力が本作にはある。
 とにかく、どこを見ても勇ましいスローガンばかりが溢れる日々のなかにこそ、これほどまでに清々しく意味のないポップ・ミュージックがあってもいいではないか、というか、あってほしいと思う。軽薄な80sへの、偽もののノスタルジー。そのエモーションの熱量だけは、ほかのどんなシリアスな音楽にだって引けを取らない。リヴァイヴァルも80年代のシンセ・ポップから90年代のR&Bやヒップホップに軸足が移ってきたように見えるが、このアルバムに充溢する無意味な情熱に触れていると、まだ何か見るべきものがあるのではないかと錯覚させられる。

木津 毅