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CORNELIUS

CORNELIUS

NHK「デザインあ」

ワーナーミュージック・ジャパン

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野田 努   Mar 05,2013 UP

 NHKの番組のことは知らないので、純粋に1枚のCDとして、コーネリアスの新作として聴いた。家でかけていたら妻が知っていた。たまに子供と一緒に番組を見ていたらしい。CDは名目上は「デザインあ」という、子供向けのテレビ番組のサウンドトラックとなっている。

 コーネリアスと子供の相性は抜群だ。コーネリアスの音楽、とくに『69/96』~『ファンタズマ』あたりには、ぬぐい去ることのできない子供っぽさがある。そして、それら作品の魅力は、子供性にあると言ってもいい。それは、消費文化の渦中で、ブルース・ハーク(60年代、子供と電子音楽をつなげた先達)をレアグルーヴとして聴いてきた世代の感性による賜物であり、あるいは、そう、一時期のエイフェックス・ツインとも近しい感覚でもある。
 この20年、とくにエレクトロニック・ミュージックにおいては、子供は重要な主題となっている。アシッド・ハウス~テクノ~トリップホップと聴いてきた世代がボーズ・オブ・カナダを過大に評価した理由は、みんなそろそろいい歳になりかけているとき、そのまま順当に大人になってしまうことへの抗いがあったからだろう。つまり、90年代はコアなテクの・レーベルとして一目置かれていた〈ファット・キャット〉がアニマル・コレクティヴを発見したのは必然だったのだ。彼らは、自分のなかの子供性が人生の苦難を乗り切る際にどれほど役に立ったのかを知っているので、それを自分の手札として取っておきたかったに違いない。

 『NHK「デザインあ」』は......コーヘイ・マツナガとコーネリアスのコラボではない。この組み合わせは、両者の子供性と国際性から見ても、あっても良いとは思うのだが、そこまで日本の音楽シーンに流動性はないので、嶺川貴子、大野由美子、salyu × salyu、やくしまるえつこ......といった小山田圭吾と親しい人たちが参加している。
 『NHK「デザインあ」』は......彼のお手の物といった、器用な、声のチョップド&ルーピング&エディティング、ちょっとファンキーで、軽快なエレクトロニック・ダンス・ミュージック、温かいアンビエント、そしてマルとかシカクとか、音とかリズムとかメロディについて歌っているシンセ・ポップ、アコースティック・ギターの揺らめき......クラフトワークで言えば『アウトバーン』のB面、あれを子供番組のためにアレンジしたような感じ......ではない。あれをコーネリアス流に展開した......と説明したほうが正確だ。聴き手を年齢で制限する作品ではない。
 小山田圭吾ならではの清潔感と緻密な音細工がある。基本的にこのアルバムは『ポイント』と(そしてsalyu × salyuと)同類だとも言える。空間を愛して、瑞々しい世界にときめいている。その証拠にアルバムのいたるところには、「あ」「あ」「あ」と、驚きなのか陶酔なのか、「あ」という発語が聞こえる。いろいろな「あ」がある。「あ」は子供にはフックとして通じる。

 先日僕は、アナログ・フィッシュという社会派ロック・バンドの取材をした。話の最後のほうで、理想とする社会はなんでしょうか? という問いを彼=下岡晃に投げた。僕自身そのときは、老人が安心して過ごせる社会とかなんとか、もっともらしいことを言った。
 それからその晩、吉祥寺で、こだま和文、水越真紀、松村正人と会った。奇しくもこまだ和文から「野田が理想とする社会はなんだ?」と訊かれた。酔っていたので、倉本諒の合法化と国籍の自由化という無責任なことを言った。水越真紀から倉本諒の合法化について突っ込まれた。
 それでは、コーネリアスが理想とする社会を考えたとき、何が思い浮かぶのだろう......、子供が幸せな社会か......ある意味「いい人」になっている小山田圭吾は、本気でそう言うかもしれない。
 『NHK「デザインあ」』はそういうアルバムだ。彼自身の子供性は、ここでは、子供たちとの共生に注がれている。デトロイト・テクノもいまでは子供のために人肌脱いでいる段階に来ているわけだが、かつてブルース・ハークが発見したように、エレクトロニック・ミュージックに子供へのアプローチのしやすさがあるのはたしかだ。
 『マダガスカル』や『カンフー・パンダ』を見ても(その内容はともかく)共通しているのは、子供を育てるのは生みの親ではなく社会だという認識なので、アメリカではこれからも、子供と電子音の文化は拡大していくんじゃないだろうか。そのことを考えてみても、コーネリアスが思いつきでこのアルバムを作ったとは思えないのだ。

野田 努