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OGRE YOU ASSHOLE

KrautrockPost-PunkProgressive RockRock

OGRE YOU ASSHOLE

ペーパークラフト

Pヴァイン

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三田 格竹内正太郎   Oct 14,2014 UP
E王
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積極的にどっちつかずでいること三田格

 物憂げでトゲトゲしい。しかもどこか青臭くて、迷ってもいる。トゲトゲしいといっても、それは歌詞=ヴォーカルだけで、サウンドは真綿のように優しく、いつしか……いや、いつのまにか息苦しさを増していく。上がりもせず下がりもしない。一定のテンションを保っているほうが残酷だということもある。「そういったもののなかにしばらくいたい」と思ってしまう自分はどういう神経をしているのだろうか。誰かとケンカでもした後で、その感情を反芻して泣いたりするのがおもしろいとか、そういうのともちがう。イギリス人がザ・スミスを聴くと、こういう気持ちになるのだろうか。でも、あれほどネガティヴに振り切れた歌詞ではないかもな。相変わらず積極的にどっちつかずで、あまりにも引き裂かれ、ロック的な皮肉からは少しかけ離れている。孤独を盾に取ったようなところがないからだろうか。

 耳が歌詞に行きすぎるので、言葉がわからないようにヴォリウムを下げてサウンドだけを聴いてみた(そうすると低音の太さがより一層際立った)。デヴィッド・ボウイ“レッツ・ダンス”風にはじまる“見えないルール”でコールド・ファンクかと思えば、ヤング・マーブル・ジャイアンツが(編成を変えずに)ボサ・ノヴァをやっているような“いつかの旅行”、そして、マガジンが昭和の歌謡曲をカヴァーしているようにも聴こえなくはない“ちょっとの後悔”などポスト・パンク期のサウンドが目白押しのように感じられた。一時期、彼らの特徴だと言われていたクラウトロックの陰は薄く、ペレス・プラドーの浮かないマンボをカンが演奏すればこうなるかなという“ムダがないって素晴らしい”に残像が焼きついているという感じだろうか。それでも、どの曲もOYAに聴こえるのだから、何をどうやったところで彼らは一定のトーンを編み出しているということなのだろう。「他者」というのは、よく知っていると思っていた人が別人のような顔を見せた時に立ち上がるものだという定義があるけれど、ここには少なからずの他者性があり、いわゆるツボには収まってくれない快楽性がある。控えめなパーカッションが効いている〈クレプスキュール〉調の“他人の夢”から ブライアン・イーノとローリー・アンダースンがコラボレイトしたようなタイトル曲まで、これだけの振り幅を1枚にまとめたのはけっこう大したもの。ガラっと変わるのはエンディングだけで、その“誰もいない”はオープニングの“他人の夢”と対をなしている曲なのだろう。「自分の夢」ではなく“誰もいない”である。ようやく孤独が見えてきた。

 ラテン・アレンジが目立つわりに全体にじとーッとしていて、最後だけカラッとさせるのはテクニックというものだろう。最後の最後にトゲを残さないのも一種のスタイルとはいえる。おそらく、それほどトゲは強くなく、対象のなかに食い込んではいなかったに違いない。悪く言えばOYAはこれまであまりにもヴィジョンのなかったバンドで、他人の描いた夢に乗っていたことを『ホームリー』で自覚しただけに過ぎず、初めて孤独を手に入れた瞬間を「誰もいない」と歌うことができたと考えられる。「他人の夢」を見ていた時期を右肩上がりの日本社会に喩えたり、社会の絶望を個人の希望に読み替える歌詞だと解釈したり、“いつかの旅行”を動物化に対する葛藤ととっても悪くはないかもしれないけれど、基本的にOYAは自分の位置しか歌にしてこなかったと思うと(紙『ele-king vol.4』)、過去を思い出して「バカらしい」と同時に「愛らしい」と感じたり、そのように言葉にできるということはシンプルに成長だと思うし(“ちょっとの後悔”)、忌野清志郎による主観性の強い歌詞が好まれた80年代に戻っているような印象を残しながらも、決めつけるような言葉は周到に退けつつどこか探るような言葉で歌詞を構築していくあたりは自我が周囲に散乱しているのが当たり前、いわゆるSNSや承認論が跋扈する現代のモードに忠実だともいえる。言葉を換えて言えば、ミー・ディケイド(トム・ウルフ)に対する反動から「ひとりよがりのポスト・モダン」(ザ・KLF)を取り除こうとした90年代を経て他人が介在する余地を残さざるを得なくなっているのが現在の「縛り」となってしまい、孤独になるのはかつてなく難しい課題になっているとも(忌野清志郎のために少し言葉を足しておくと「一番かわいいのは自分なのよ」と彼が歌った背景には全共闘による滅私の考えにノーを言おうとしたからだというのがある。松任谷由実の責任転嫁を肯定する歌詞はそれを異次元緩和したようなもので)。

 忌野清志郎がかつて持っていたような過剰なほどの被害者意識がここにはまったくといっていいほど存在していないので、返す刀のような考え方=トゲが他人に対してだけ向けられるものにはなりにくく、自分とは異なる価値観の上に成り立つものも「意外と丈夫にできている」(“ペーパークラフト”)と、妙な譲歩にも説得力がある。忌野が初心ともいえる“宝くじは買わない”(1970)と同じテーマを歌った“彼女の笑顔”(1992)で、「何でもかんでも金で買えると/思ってる馬鹿な奴らに」と切って捨てるような立場をOYAは確立し損なったわけである。OYAがこの先、それを再構築するために「自分の夢」を描く方向に行くのか、それとも「積極的にどっちつかず」でありつづけようとするのか。もちろん、後者のほうがおもしろいですよね……(忌野清志郎のために少し言葉を足しておくと、80年代には「金は腐るほどあるぜ 俺の贅沢は治らねえ」(“自由”)と、彼は物事の二面性を歌うのがホントに巧みだった)。

 言葉がわかるようにヴォリウムを上げて、もう一度、聴き直す。歌詞の意味よりも声だけに耳が行く。出戸学の歌詞はまだ出戸学の声に追いついてないと思った。

三田格

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