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Fabric 50: Martyn

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野田 努 Mar 01,2010 UP

 マーティンのMySpaceを見ると在りし日のヨハン・クライフ(70年代、世界を虜にしたオランダの天才フットボーラー)の映像が流れる。昨年の素晴らしいアルバム『グレイト・レングス』に収録された"ブリリアント・オレンジ"のデトロイティッシュ・テクノ・ダブステップに合わせて、クライフは長い足を使った華麗なフェイントで相手をかわし、華麗なドリブルで素早くペナルティ・エリアに接近して、そしてゴールを狙う。断っておくが、アヤックス時代のクライフとオランダ代表でのクライフの映像だ、バルセロナ時代も(当たり前だが)フェイエノールト時代もない......と、そんなマーティンだが、いまはアメリカのワシントンに移住した......という話だ。

 ハドソン・モホークの"ジョイ・ファンタスティック"(アルバム『バッター』に収録されたベスト・トラックで、ユニークなエレクトロ・ヒップホップ)からはじまるマーティンのミックスCDは、率直に言って好奇心を駆り立てられるには充分である。他にダブステップのシーンから、急進的で変わり者のゾンビー、〈ハイパーダブ〉所属の女性トラックメイカー、クーリー・G、知性派コード9,そして2562や彼自身のトラックを豊富に放り込んだこのミックスCD(全26曲)は、いまだ動き続けるダンス・カルチャーのもっとも新しい場面におけるドキュメント(記録)となっている。
 マーティンらしさは十二分にある。デトロイトのベテラン、DJボーン(渋い!)、アイルランドのアフロ・フューチャリスト、ヌビアン・マインズ、あるいはレディオ・スレイヴの〈リキッズ〉からリリースされたディープグルーヴ&ジェイミー・アンダーソン......などといったテクノ系のトラックを効果的に混ぜながら、ダブステップのエレクトロ・ファンクめいた側面を強調する。また、ゾンビーのような振り幅の広いアーティストから彼の耳障りの新しい実験的なトラックをチョイスしながら、ロスカやジョイ・オービソンによるUKファンキーまで挿入して、ダブステップなどたいして聴いたことのない"テクノ耳"に新世代のセンスをねじり込む。

 "ダブステップ・オールスターズ"シリーズは、たいていどのミックスも後半になればなるほどその真の正体=ジャングル/レイヴという姿を露わにするものだが、マーティンのこれははっきり言ってテクノだ。スペイシーでファンキーな(ときにドラッギーな)テクノの最新ヴァージョンであると言えるだろう。エンディングは、まるっきりURだし。
 あるいは......広大な一軒家に住むメタル君は彼のレヴューにおいて「最近のダブステップをかけて、逆説的にテクノのクオリティの高さも再認識した」と書いているが、果たして本当にそうだろうか。このミックスCDの20曲目を超えたあたりで、マンチェスターにおけるデトロイト/ディープ・ハウス系のレーベル〈プライム・ナンバース〉から発表されたアクトレスのトラックからゾンビー~2562~マーティンへと続くあたりは、たかがミックスCDであれど、テクノ・ダンスにおける眩しい瞬間が織りなす宇宙とともに新しいムーヴメント固有の猛然とした勢いがあって、そうしたジャンル(縄張り)の壁を意識するような態度を確実に溶解しているのだ。つまりこれは聡明な前向きさを持ったミックスCDなのである。

野田 努