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Here We Go Magic

Here We Go Magic

A Different Ship

Secretly Canadian /ホステス

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橋元優歩   May 30,2012 UP
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 これを買うのならファースト・アルバム『ヒア・ウィ・ゴー・マジック』もぜひとも聴いていただきたいと思うのは、筆者がそれをとても好んで聴いたからだというだけではなく、この完成度の高い『ア・ディファレント・シップ』だけではヒア・ウィ・ゴー・マジックという体験にとって完全ではないと思うからだ。それは、ぺイヴメントを聴くのに『テラー・トワイライト』からはじめるだろうか? という疑問と相似している。『テラー・トワイライト』はとても素晴らしい作品だが、それをもっとも好むという筆者はぺイヴメント・ファンの異端であろう。レディオヘッドやベックの音を作り上げ、いわゆるオルタナ・ロックの知的な側面を支えてきたカリスマ・プロデューサー、ナイジェル・ゴドリッチが手掛けたことで、『テラー・トワイライト』の音はスマートに切り分けられ、クリアに磨かれ、独特の浮遊感をえた。しかしそれは、ローファイという方法をコテとして音楽ファンに大きな影響を及ぼしたぺイヴメントの、その中心を聴くということとは少し異なる。本作『ア・ディファレント・シップ』もゴドリッチをプロデューサーとして迎えることとなった作品である(2010年のグラストンベリーでトム・ヨークとゴドリッチに多大なインパクトを与えたとのこと)。そしてまず筆者の率直な感想は、これはヒア・ウィ・ゴー・マジックにとっての『テラー・トワイライト』になった、ということだ。彼らはまだ3枚めではあるけれど。

 ヒア・ウィ・ゴー・マジックといえば、筆者にとってはまずなによりサウンド・プロダクションであり、ミニマルでパーカッシヴなスタイルのギター・ワークである。空間のオーヴァーダブとでも言おうか、あの独特すぎるローファイ感は、空気の上に空気を録ってそれを何トラックも重ねたような、なんともいえない質量と体積を持っている。アコースティック・ギターがそのたくさんの空気の向こうに聴こえている。遠くにみえる村の灯、それがちらちらとふるえているような音だ。空気じたいは冬のそれのようにつめたく澄み、緊張している。旋律を奏でるベースは、アフリカンなビートを淡々と鳴らすリズム・パートとともにとてもさりげなく、しかしアディクショナルに身体を縛る。なんという体験だろう......ルーク・テンプルの消え入りそうなヴォーカルが聴こえてくるころには、意識が澄みすぎて、自分の鼓動がうるさいほどだ。同時に妙な高揚感もある。そこには大気中のおびただしい分子たちがせわしなく動き回るようなエネルギーも充満しているからだ。これは、たとえば"ファンゲラ"(『ヒア・ウィ・ゴー・マジック』収録)の場合である。

 そこで"オーヴァー・ジ・オーシャン"(本作収録)を聴いてみる。いきなりアコギの音がゴドリッチである。つづく"メイド・トゥ・ビー・オールド"もそうだ。そして重ね録りした空気と空気の、その境目をすべてつなげて磨き上げたというような具合に、あの異様な質量を持ったローファイ感が無菌的でクリアな、洗練された音へと変化している。"イントロ"にもっとも顕著かもしれない。ゴドリッチが彼らの奇妙な音響に魅力を感じていたであろうことは、このセッションをトラックのあたまに入れていることから類推できるのだが(『ヒア・ウィ・ゴー・マジック』の冒頭"オンリー・ピーシズ"に彼はそうした魅力の粋をみたのだろう)、それは似て非なる、とても知的で上質なものになった。もちろんこれは彼らの新しい魅力だと思う。レディオヘッドの近作のファンならば"メイク・アップ・ユア・マインド"などには心おどるだろう。バンドとしての幅もゴドリッチによって大きく広げられたようだ。しかし、『ヒア・ウィ・ゴー・マジック』にわれを忘れて夢中になった経験を持つ者として、また2009年前後のブルックリン周辺のインディ・シーンの混淆としたエネルギーに突き動かされていた者として、なかなか複雑な気持ちになるのも事実なのだ。ゴドリッチと組んでゴドリッチらしくなったというだけでは、それはただ歴史の針を戻す行為ではなかったのか? よいものを作れたという充実感があるのならばそれもいい。それに、作品としてとても完成度のあるものに仕上がっていることはまちがいない。だがヒア・ウィ・ゴー・マジックにとってこれは必要なことだったのだろうか、そういう疑問が少なからず湧いてもくるのである。

 とはいえ、"オーヴァー・ジ・オーシャン"などに加わったルーク・テンプルのシンガー・ソングライターとしての艶は、彼の新しいステージをひらくようなものであるかもしれない。コーラス・ワークも"ミラクル・オブ・ラヴ"など数曲に共通して緻密さをふかめている。このうえでもし可能ならば、次作は原点から、テープでもCD-Rでもいい、もういちどあの風変わりな音を、あのマジックを聴かせてほしいと思う。

橋元優歩