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三田 格   Aug 26,2013 UP

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 リッチー・アフメドのミックスCDオーディオ・アトラスのデビュー作を聴いていると、なるほど三度めのアシッド・ハウス・リヴァイヴァル(ティン・マンいわく、ネオ・ネオ・アシッド)が本格的になってきたようである(一度めのリヴァイヴァルは93年から96年まで。二度めは04年から05年にかけて)。ハイエログリフィック・ビーイングのレーベルからリリースされたギリシアのオーディオ・アトラス『ウインドウ・2・ザ・ワールド』(あえて橋元優歩の議論には乗りません)は「よくできている」。文句はない。完成度も非常に高い。イギリスではチャンピオン・オブ・グライムと言われたリンスがついにハウスのDJとして起用したリッチー・アフメドも前半のホット・ネイチャードからダニー・テナグリアにかけての展開はフラッシュ・バックを起こしそうなほど強酸性で、現在のLAに負けないドラッグ・カルチャーが音楽の背後に蠢いていることを感じさせてくれる。それに続けて収録されているアフメド自身のトラックは「♪エル・オー・ヴイ・イー、ラ~ヴ~」と単刀直入なコーラスを聴かせてしまうほどである。ほとんどサマー・オブ・ラヴである。迷いがない。

 とはいえ......なんとなく新鮮味がない。ジミ・ヘンドリクスそっくりのレコードやジョイ・ディヴィジョンもどきが現れても「世界が変わる」などとは感じないように、言ってみればアシッド・ハウスという音楽的なジャンルの底力に驚くだけである。ソウル・ジャズ、ポーカー・フラット、ボーイズノイズを追って、いまさらながらにテリー・ファーリーが5枚組みのCDボックスをコンパイルし、DJピエール&グリーン・ヴェルヴェットVsフューチャー名義で"アシッド・トラックス2012"がリリ-スされ、ヴァキュラ"ピクチャー・オブ・ユー"が高値を呼び、ミスター・フィンガーズが再発され(それは野田努か)、ムーヴ・Dがマジック・マウンテン・ハイでいまさらながらに絶頂を極め、リフレックスがここぞとばかりにデイヴ・モノリスやシーファックス・アシッド・クルーを送り出してくるなど「ネオ・ネオ・アシッド」を待ち焦がれていた人は思ったより少なくなかったのだろう。そういえば電気グルーヴも20周年でやりまくっていましたよね。

 ドゥロ・ケアリーの名義で"ジャンプ・ウイズ・ザ・ヘヴィ"(2011)や"リーリー・ブリップス"(2012)といった話題のEPを連発してきたユージン・ヘクターはなぜかファースト・アルバムをタフ・シャームの名義でリリース。シャームというのはどうやらエンジェル・ダストのことで(よい子の皆さんはググらないように)、これまでガラージ・ハウスを妙な角度からいじくりまわしてきたサウンドが多かっただけに、この気運に乗じて聴いたこともないような幻覚サウンドが期待できるのかと思ったら、そういうわけでもなく、むしろ作風は地味に。トーン・ホークやナッティマリ(=カート・クラックラッチ)の別名義であるロン・ハードリーとともにクラン・ダスティンの"ダーク・アシッド"にもフィーチャーされるほどアンダーグラウンドからは多大な期待を集めているだろうに、最初はなんで......と思っていたところ、後景の音に意識が集中しはじめると、ああ、やっぱり、これはアシッド・ハウスを洗練させたものであり、独自の文法を作り上げたものだということがわかってくる。アシッドというのは、後景に退かせたサウンドが肝だったりして、曲のなかでヘンな風に動いている音を発見してからが楽しいわけで。あるいは前景に押し出されているリズムにもユニークなものが多いし、19歳で脚光を浴びたヘクターが21歳でここまで歩を進めたことに早くも感動が......。

 それにしても微細なところに神経を使ったアルバムである。どの音に集中するかでぜんぜん曲の特徴も変わってしまうし、ある種のスタイリッシュな印象だけで終わってしまう人も少なからずではないだろうか(それはそれで恰好いいし)。そうかと思うと"ボイルド"のイントロダクションのようにいきなり泥沼に引きずり込むようなトリップ・サウンドを仕掛けてきたりもする(この曲はアシッド・ハウスのノイ!かと思うほど、一曲のなかでスピード感に翻弄される)。あるいは、アシッド・サウンドに特有のズレも随所に盛り込まれていて、予想もしないところで急に快楽への穴が空いたりもする。ヤバい。楽しい。初めてアシッド・ハウスというタームを知ったときの驚きがここでは何度も蘇ってくる。繰り返すけれど、完成度ということではオーディオ・アトラスのそれもミスター・フィンガーズやカール・クレイグに匹敵するものはあるのである(『ウインドウ・2・ザ・ワールド』からはUR"ファイナル・フロンティア"のような曲が次から次へと出てくる)。しかし、トリップ・サウンドにはやはり定型ではなく意外性が求められるのではないだろうか。それを満たしてくれたのはタフ・シャームであって、オーディオ・アトラスではないのである。

 ウイ・コール・イット・アシ~~~~~ッド!!??

三田 格