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Machinefabriek

ElectronicaExperimentalNoise

Machinefabriek

Stroomtoon II

Herbal International

Bandcamp

デンシノオト   Oct 30,2013 UP

 オランダ人電子音響作家、マシーンファブリックことルトガー・ヅイダーベルト。彼は2004年に録音作品をリリースして以降、厖大な数の作品を発表し続けている(その数は100に匹敵する)。作品の完成度、リリース数といい、いわば電子音響シーンの00年代を代表する音響作家と言っても過言ではないが、同時に彼の全貌を掴むことは困難を極める。

 なぜなら、彼のリリースしてきた録音物はとにかく厖大だからだ。〈12k〉などの著名レーベルからノン・レーベルまで、とにかく出してきた。CD、レコード、カセット、データ……。それらの録音媒体を横断しながら、彼の音響は日々、増殖を重ねていく。つまり作品数そのものが、アーティストとしての存在価値にも繋がっているようにも思える。マシーンファブリックの音響は時にナイフのように鋭い。が、その鋭利な音響が、不意に、その線と面が歪む瞬間がある。まるで生命のように? であれば作品もまた生命のごとく増殖しなければならない。リリース方法もまた作品でありコンセプトを体現するものだ。ゆえにさまざまな録音媒体を横断しながら、彼の音響は増殖を重ねていく。

 となればコラボレーション作品も重要だ。ひとりからふたりへ。その増殖的創作はマシーンファブリックの音楽性の本質とはいえないか。近年も既にヤン・クリーフストラ、ロムケ・ヤン・クリーフストラらとのユニットCMKK『ガウ』、バナディラとの共作『トラヴェログ』、サンジャ・ハリスとの共作『マシン・ルームス』などが‎相次いでリリースされている。そして10月には、セルジオ・ソレンティノとの作品『ビネット』も発表されるのだ。

 日本人実験映画作家、牧野貴の作品(『イン・ユア・スター』など)への参加にも注目したい。牧野貴はまさに日本を代表する実験映画作家である。瞳の網膜を強烈に刺激するその作品は世界でも高く評価されているが、氏の作品において音楽・音響は重要であり、事実、彼の代表作にはジム・オルークが音楽を提供しているのだ(紀伊國屋書店からDVDがリリースされている)。マシーンファブリックは『イン・ユア・スター』という作品の音楽を手がけており、同作品の音楽は3インチCD-R作品として限定リリースもされた。この電子音響、エレクトロニカ、実験音楽、実験映画など、ジャンルを越境する活動はじつにスリリングである。

 それらのコラボレーションは、重要なソロ・ワークスへ確実にフィードバックされているように思う。本年も既に多数の作品がリリースされているが、なかでも注目したい作品は〈アントラクト〉からリリースされた『ドイプファー・ワーム』と、今回取り上げる〈ハーバル・インターナショナル〉からリリースされた『ストロームツーン II』だ。前者『ドイプファー・ワーム』はシンプルにして複雑な運動をするアナログな電子音が空中を蠢くかのようなサウンド。ヘッドフォンで聴くと脳内に電子音が直接的にアジャストするかのような快楽に満ち溢れている。対して『ストロームツーン II』は、より多層的なエレクトロニクス・サウンドによってコンポジションされた作品に仕上がっているのだ。

 じつはこのアルバム、2012年にごく少数のみリリースされた2枚組の7インチ、ヴァイナル盤『ストロームツーン アハト/ネゲン +ティエン/エルフ』に収録されたトラックを中心に、未発表曲を合わせた作品集なのである。アルバム名に「Ⅱ」とつけられているのも、そういう意味であろう。だが聴いてみると分かるのだが、本作はレア・トラックの寄せ集め的なアルバムではまるでない。近年の彼の作品のなかでも抜群に高い完成度を誇るアルバムである。

 霧の向こうで唸るような低音から、鼓膜を震わす微細な音響の揺れ。それらが、上下左右の音響空間にダイナミックに重ねられていく……。雰囲気としては2011年に日本発売した『ディオラマ』に近いが、あの作品よりも音響は太く、そしてアトモスフェリックだ。淡い震動からはじまる“ストロームツーン・タイ”からすでに特別な響きがはじまっている。そして何より8曲め“ストロームツーン Zes”を聴いてほしい。00年代の電子音響的手法が、2013年的な音響の磁場のなかで交錯する瞬間が、はっきりと聴き取れるはずだ。柔らかい音と、研ぎ澄まされた音。硬質な金属がある瞬間にグニャリと曲がってしまうような感覚。

 この「進化」は、たとえば、ティム・ヘッカーの新作『ヴァージンズ』と共鳴しているとも思える。それはどのような共鳴なのか。生々しくも物質的な電子音響が、単なる即興的な音響の運動だけではなく、かといってコンポジションしているだけでもなく、むしろそのふたつが交錯することで生まれる電子音響における新しいノイズ、新しいドローン、新しいサウンドの共鳴である。ティム・ヘッカーは、その新しい音楽をボーダー・コミュニティのポストクラシカルな音楽家たちと作り上げた。マシーンファブリックもまた多くのコラボレーション作品を通じて、濃密な電子音響作品を生み出したのだろうか。

 もちろん、ふたつのサウンドはまるで違うものである。ティム・ヘッカーはヨーロッパの歴史の終焉を音響で描く。対してマシーンファブリックは人間以降のポストヒューマンな世界観を音響で鳴らしている。正反対といっていい。だがこれらの繊細かつダイナミズムなサウンドの奔流と質感に、2012年から2013年という時代の潮流を聴きとることは難しいことではない。そう、電子音響におけるドローン/ノイズは、今も進化のただなかにある。人工生命のように。

 本作はアートワークも素晴らしい。レベッカ・ノートンというアーティストの作品だ。面と線が多層的に折り畳まれながらも、分解と生成を繰り返す、そんな本作の音響の様子が見事にヴィジュアルで表現されている。レベッカ・ノートンのアートワークは7インチ盤『ストロームツーン/Negen+Tien/Elf』に続いての起用。アートワークもまた本シリーズにおいて、欠かせない重要なエレメントということもわかってくるだろう。

デンシノオト