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SXSW 2012

SXSW 2012

彼は言った。「イギリスから出たくて仕方ない、バンドに対するリアクションは酷いし、もうイギリスには何もないよ」と

――SXSW、レポート

菊地佑樹 Apr 04,2012 UP

SXSW
@SXSW, Austin, Texsas,U.S.A.
Mar 13-18

 3月下旬、僕はアメリカはオースティンで開催されたSXSWに初めて行った。高校生の頃から注目してきたイヴェントだったので、念願の初参加だったわけだが、僕が当時勝手に期待していたものとは違っていた。SXSWに見ていた自由は、僕が憧れていたときよりもかなり薄れている気がして、不完全な感じで終わってしまった。
 SXSWは、海外の音楽関係者、音楽ファン(近年は映画/インタラクティヴアートもスタート)に向けてプロモーションをおこなう世界最大のコンベンション・フェスティヴァルとして知られているけれど、近年あまりにも規模が大きくなりすぎて、逆に自由な気風を損ねているように感じた。毎年参加してる日本人の方に話を伺ったときも、参加する必要性や需要が見えにくくなっているのことだ。早い話、関係者>ファン。この構図の差があまりにも開いている気がしたし、フェスティヴァルと謳っている以上、そのバランスの見極めって絶対大事だ(関係者が入り終わるまで一般の人は入れないというシステムなど)。旅行気分で参加するとたぶん損します!

 僕がやっているイヴェント(BATTLLE AnD ROMANCE)はもともとSXSWのような、いろんなジャンルのアーティストが集まり、音楽に留まらず、アートやカルチャー、ファッション、そしてオーディエンスの音楽観をもクロスオーヴァーさせる自由度の高いイヴェントを目指して、かつ活気のない日本の音楽シーンとリスナーの現状を少しでも変えたいと思い立ち上げたので、もちろん細かい部分にフォーカスすれば参加したことによって新しい発見や得たものもたくさんあったように思える。
 開催中、僕がとくに気になったのが、とにかくこっちは若い世代の参加者が多いことだ。その勢いの凄いこと(ヴェニューによってはパスを持ってなくても無料、しかもオールエイジで入れるところも数多くあった)。なかにはドラッグをやってただ騒いでるだけの連中も居たが、実際こんな時代に現実逃避したくないほうが希有だと思うし、日本のうじうじした若いリスナーよりは全然マシだと思った。
 これはSXSWではないのだが、SXSW終了後、SANT ANAにあるTHE OBSERVATORYというヴェニュー(日本でいうWWWをもっと大きくしたような会場)で開かれた、〈BURGER RECORDS〉主催のイヴェント、BURGERAMA(WAVVES、OFF!、STRANGE BOYS、FIDLARなど出演)に行ったときにも強く思ったことで、とにかくこっちはイヴェントによってリスナーがあまり分散されない。やはり若い世代のリスナー中心で、お洒落な子から、ヤンキー、オタク、家族連れ、すべてがうまい具合に会場に集まっている。その光景を見て、リスナーとイヴェントの相互距離感のバランスの良さみたいなものや、純粋にイヴェントの質がいいのか、単純に環境の違いなのかなど深く考えさせられた。
 僕のイヴェントは、とくに若い世代の子にたくさんライヴに来て欲しいという意図もある。音楽と同じで、若さにはそのときにしか出せない衝動や、そのときにしか許されない夢や希望がきっとある。そしてそのときに出会っておくべきもの、もちろん音楽がきっとあるし、僕のイヴェントがそういうひとつの方法や手段になればいいなーと勝手ながら思っている。
 中学生の頃、ザ・ヴァインズの"ゲット・フリー"を聴いて僕の人生は大きく変わった。"ゲット・フリー"は、クレイグ・ニコルズという幼気な青年が荒々しく、しかしとても繊細に自由を求め叫んでいる。ニリヴァーナでもザ・ビートルズでもない。僕が当時求めていたものがザ・ヴァインズには備わっていた。中学といういちばん多感な時期に、ロックミュージックに出会えたことによって、大げさかもしれないけど、僕には信じるものが出来て、自分の価値観に広がりが生まれた、人生が豊かになったし、とにかく聴いていて毎日が楽しかった。音楽にはそういうパワーがある。音源で聴くよりもライヴはそのさらに何倍も良かったりする。僕はロック独特のグルーヴ感だとか、多幸感に魅了されてどんどん音楽やロックにのめり込んでいって、いろんな音楽に出会った。ザ・ストロークスやザ・ホワイト・ストライプス、ザ・リバティーンズなどのロックンロールイヴァイヴァルと言われたバンドはほとんど聴いた。アークティック・モンキーズ以降のイギリスのバンド・ブーム時なんかは、暇さえあればmyspaceを開いて、フレンドリストから新しいバンドを探した。
 最近のロック・シーン、ことイギリスのロック・シーンに関しては活気がない状態が続いている。とても残念で仕方ない。SXSWの会場でイギリス出身のバンド、BITCHES(COMANECHI、BO NINGENなどを以前サポート)のギターのブレイクが僕との会話で言っていたのだけれど、「とにかくいまはイギリスから出たくて仕方ない、僕たちみたいなバンドに対するリアクションは酷いし、もうイギリスには何もないよ」と。
 今回僕がアメリカで見れたシーンなんてほんのいち部なので大きなことは言えないが、僕がSXSWとこの期間に見たライヴのなかでとくに良かったのは、ZZZ'S、GAGAKIRISE(ともに日本のバンド)、あとはGIRLS、FIDLARくらいで、ジャパンナイトでZZZ'Sが見せてくれたロックンロールや、GAGAKIRISEのライヴのあの熱量は日本の音楽シーンに差し込んだ光だ。これはポジティヴな出来事だ。
 日本のシーン全体を見渡せばもちろん不完全だけれど、それは逆に言えば当たり前のことで、TADZIOや、JESSE RUINS、THE EGGLEなど、ロックンロールを提示する側ではなく、むしろさせる場と環境がいまの日本にはもっと必要だ。そしてバンド(これはリスナーにも言えることなのだけれど)はひとつのコミュニティーに属さないでどんどん自分の敷居から外に出て行くべきだ。きっともっと面白いことが起こると思う。信じよう。先はたぶん明るい!

Profile

菊地佑樹/Yuki Kikuchi菊地佑樹/Yuki Kikuchi
1990年生まれ。2011年からSTYLE BAND TOKYOにスタッフとして参加。2012年よりライヴ・イヴェント「BATTLE AnD ROMANCE」を自らオーガナイズ。春先には平成生まれだけが集まれる新しいパーティ、BOYS & GIRLS CLUBを開催予定。

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