Home > Regulars > 借りパク音楽反省会 > 第3回:元カノ/元カレ系借りパクが疼く季節
みなさん、いかがお過ごしでしょうか?
だいぶ冷え込んできた近頃。過去の人間関係の傷跡が疼きだすのも、ちょうどこういった秋から冬に向かっていく気候の遷移とゆるやかに連動しての話なのかもしれませんね。
のっけから何を言っているんだかって感じですが、今回も筆者の借りパク音楽全集より、渾身の作をお届けして参りたいと思います。
さて! 本日ご紹介するのはこちら。
(注:手書きポップに書かれているイニシャル「W.A」とは僕のこと。このポップを書いた2012年当時は33歳だったが現在はもう少し歳をとっている。以後すべて同。)
まず、一言。このアルバム、名盤です。っていうか、あの齊藤由紀が全作詞&セルフプロデュースを担当した重厚なアルバムを制作していたことを、読者の中にご存知の方はおられるでしょうか? しかも歌と歌の間に全編に渡って彼女自身のナレーションが挿入される、いわゆるひとつのコンセプト・アルバム。この写真のパッケージ自体がまさしくそうなのですが、初回生産盤は5面折り特製ジャケット仕様で、棚に置いているだけで異様な存在感を放つジャケット・ワークとなっています。
さて、なんでこんなCDが現在僕の手元にあるかと言いますと、ずばりこれは「元カノ系借りパク」というやつですね(べつにそんな分類ないけど)。大阪で大学生活をはじめたときに、僕は地元の書店でアルバイトをしていたのですが、そこで2才年上の先輩女子と恋に落ちたのです。彼女をひとまずOさんとします。Oさんはなかなかぶっとんだ女性で、当時小説家になることを夢見つつ(もちろん書店でも文庫担当)、京都の私立大学の4回生として就職活動という現実とのハザマで右往左往していた感じだったんだけど、とにかく浮き沈みが激しかった。でもまぁとても優しい方で、新入りの僕の指導をしてくれたり、いつしかお互いの音楽や映画の話で盛り上がったりしているうちに、まぁお付き合いがはじまったんですね。
でも恋人同士になってみたらですね、すごく楽しい反面、まぁなかなか大変なことも多かったんですよ。まず年下の僕と付き合っているってことが父母にバレて、「そんな大学入りたての結婚する気もないような男とは別れろ。さもなくば勘当!」みたくなり、突然、二人で原付で逃亡(もちろん二人乗り、お巡りさんごめんなさい)。ラブホ暮らし数日。そしたら僕の親から電話がかかってきて、家に帰ったら先方の父母がおられて協議の時間へ。結局は、「まぁ若いもんには若いもんの世界がありますから、認めてあげましょう」みたいな話になって、正式なお付き合いがはじまる……みたいな。
とにかく、波瀾万丈だったんです。彼女自身も躁鬱を患っていたし、いっしょに交通事故にあって警察にお世話になったり、彼女に恋心を抱いていた書店の上司からものすごいパワハラを受けたりとか。でもそんな困難を乗り越え、彼女もなんとか就職をしたんです。そう、小説家になるという夢は傍らに置きつつ、金融系の大手の職を得ました。そして、彼女は一人暮らしをはじめたんです。そこで僕の「棚漁り」がはじまります。CD、VHS、本……などなど。2日に1度は泊まりに行っていた僕と彼女は当然、同じものを聴き、同じものを観て、同じものを読むわけですよね。ああ、青春。そんななかで、突如として現れたのがそう、この斉藤由貴の『MOON』というアルバムでした。
彼女は、中古CD屋でこれを手に入れてきたようで、「これさ、なんかすごいテンションのアルバムなんよ」って言いながら、僕に聴かせてくれました。そして、僕は斉藤由貴のこのあまりにも独特な歌世界が誘う時間旅行を体験したんです。とくに2曲めの“大正イカレポンチ娘”(笠置シヅ子風)と4曲めの“回転木馬”(サビの「まわれメリーゴーランド〜♫」という歌詞が頭にこびりつきます)はやばかった。
さてさて、彼女とは1年ほどのお付き合いで結局別れてしまいました。別れてからも友人として会うこともたびたびあり、いまはご結婚もされてお子さんもおられて幸せな家庭を築かれているようです。何度もこのCDを返すタイミングはあったのですが、なんだか返せなかった。まぁ端的に言うと、こんな濃厚なアルバム(思い出とともにというのはもちろんあります)、なかなかもう手に入らないだろうなと思ったから、どっかで意図的に返さなかったんだと思います。Oさん、ごめんなさいね。もうお子さん、だいぶ大きくなったでしょう?
Illust:うまの
■借りパク音楽大募集!
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