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interview with Isao Tomita

interview with Isao Tomita

音に色を塗る

――冨田勲、インタヴュー

野田 努    写真:小原泰広   Nov 17,2011 UP

ワーグナーは、それほど宇宙のことは知らなかったと思うんだけど、聴くと宇宙そのものと言いますか、やはり愛は宇宙なのかと、そのことを僕はすごく感じていたんです。あの曲には、いくつものいくつもの星雲を乗り越えていくようなイメージがありますからね。


冨田勲
PLANETS ZERO ~Freedommune<zero> session with Dawn Chorus

日本コロムビア

Amazon

■それはまたすごい話ですね。そろそろ時間がなくなってきたので、今回の『PLANET ZERO』について訊きたいと思うのですが、当日に設営してあったドーン・コーラスの装置の写真をあらためて見ると、残念でなりません。

冨田:ドーン・コーラスの装置に関しては、そんなにたいしたものではないんですよ。実にちゃちなものでね、コイルを置けばそこに(電磁波が)入ってくるんです。低周波ですから、それを音に置換すれば「ぴゅーぴゅーぴゅーぴゅー」と出てくるんです。

■まあ、〈FREE DOMMUNE〉では、ジェフ・ミルズというテクノDJをはじめ、出演者のなかでも楽しみにしていた人も少なくなかったですし、本当にこれをあの場で生で聴けたらなと、CDを聴いていてもついつい思ってしまうのですが、冨田さんご自身はあのフェスティヴァルでのライヴに関してどのような期待がありましたか?

冨田:まあ、NASAで発表する宇宙の天気予報と、地球の天気予報を両方気にして見ていたわけですが、地球の天気は楽観してたなぁ。地球のほうでやられるとは思っていなかった。そこへもってきてさらに、晴れて朝日がトランペッターの顔を照らすとき、天空に向かって"ジュピター"を吹くというのを想像していたんですが、ぜんぶがうまくいくとは限らない......。まあ、そういう考えが天に通じて意地悪されたんでしょうかね(苦笑)。やぁ......。

■あのロケーション、そしてオーディエンスを考えてみても、実に惜しい。そう思います。

冨田:ねぇ。ツイッターを見るとすごい人たちが期待してくれていた(笑)。8月の1、2、3日と浅間山麓でドーン・コーラスの降りてくる未明に頑張ってテストをやったんです。それで2日に良い音が入ってきたんです。それを収録したんですね。それで、まあ、ドーン・コーラスの音もあり、シンセサイザーの背景音楽もすでにできている。本間(千也)さんのトランペットの録音もオッケーだと。これだけ素材が揃っているのに、これは出さない手はないんじゃないかと。それをリリース元の日本コロムビアが理解してくれた。

■それで今回のリリースにいたるわけですね。

冨田:楽しみにしてくれていた方々が本当に多かったんです。だから、この作品を聴けば、「あー、そうだったのか」と。わかっていただけるんじゃないかと思います。そもそもドーン・コーラスは、リハーサルができないんですよ。(もしリハーサルをやるとしたら)前の日の夜明けにやらなければならないですし、その両日のドーンコーラスの元になる太陽の黒点の状態が同じ状態であるとは限らないわけですよ。浅間山麓で録音したときも1日と3日は(音が)来ないんです。ものすごく大きな黒点が直線上に4つ揃ったんですが、地球に対する向きも関係しているみたいでね、2日だけ非常に強いのが入ってきたんです。

■シンセサイザーは冨田さんにとって音をクリエイトできる装置だったと。パレットであり、音を塗ることができる。ドーン・コーラスとはまたそれとは違った発想ですよね。

冨田:そうです。音源であればパレット以外のものであってもいいのです。戦時中、いつ敵の空襲に遭うかわかりませんから、寝るときもラジオをつけっぱなしにしておくわけです。名古屋のNHKでしたけど、とにかく長波で、長波にしないと、相手に電波の発信源がわかってしまうんですね。潜水艦も長波だったらしいですけどね。まあ、敵にわからないってわけで長波を使うわけです。そのかわりに長波は混線の神様みたいなもので、いろんなものが入ってきてしまう。そのなかにドーン・コーラスも入ってきたんですね。明け方、朝の30分ぐらい、毎朝聞けるわけじゃないんですが、入るときは「ぴーぴーぴーぴー」言うわけです。

■最初は何の音だと思いましたか?

冨田:何の音かわからなくてね、第一次大戦のときに無線のヘッドフォンのなかにドーン・コーラスが入ってきて、最初は敵の妨害の電波かと思ったらしいですね。要するに程度の悪いラジオや送信機に入ってきてしまうんですね(笑)。ノイズとしてね。ドーン・コーラスはノイズですから、性能が良い機械になれば入ってこないんです。太陽と地球の関係というのはたかが半世紀ぐらいではそう変わらないので、いまでも入ってくるんです。ただし、いまでは電波の数が多いですから、AMラジオの音も入ってきてしまうんですね。その周波数は帯域を調節することで抜け出すことができるんですが、どっかで雷があれば、かなり遠方であってもその音が「ガリガリガリガリガリ」と入ってきてしまうんですね。地球上のどっかでそれはかならず鳴ってしまうからね。だから浅間山で録ったときにもやっぱりそういう音も入ってきてしまったんですが、それは削除して、編集したんですね。実際に(コイルを使って)やるとあんな(CDで録音されているような)綺麗には出ないですよ。いろんなノイズが入ってしまいますから。

■そのドーン・コーラスは、音としての面白さなんですか、それともそのドーン・コーラスというコンセプトの面白さなんですか?

冨田:まあ、天空からの音ですからね。地上からはそれをトランペットで迎えると。そのアイデアです(笑)。それを聴いてリスナーがどう思うか? あるひとつの雰囲気は浮上したんじゃないかと僕は思っているんですけどね。

■なるほど。

冨田:ドーン・コーラスをモノラルにしてスピーカーに分岐して出すべきか、サラウンドにするべきか......、違う場所にいくつかのコイルを置けば、飛び込んでくる磁力線は違うでしょうから、違った磁力線をそのままそれぞれのスピーカーにつなげばサラウンドになるんじゃないかとも思ったんです。だけども、現場でそんな凝ったことをやってもうまくいかないんじゃないかと。それでひとつのコイルに飛び込んできた音にディレイをかけてサラウンドにすることにしたんです。それならひとつの音だけ監視していればいいわけですからね。

■なるほど。

冨田:でも、実際はノイズも入ってきたでしょうね。とくに川崎のあの場所は工場地帯ですからね。たしかに明け方は工場は動いてませんが、昼にリハーサルをやったときにはいろんなノイズが入ってきましたね。

■それはそれで逆にそのノイズを聴きたかったですね。

冨田:そうですね。

■インプロヴィぜーションですね。

冨田:そうです。あなたの言うように、まさにインプロヴィぜーションなんです(笑)。それができなかったことは本当に残念です。

■ライヴでは、『PLANET ZERO』に収録された曲順通りの演奏予定だったんですか?

冨田:ええ。"トリスタンとイゾルデ"を入れるかどうかだけは迷いましたけどね。

■まさに最後の質問として、なんで"トリスタンとイゾルデ"を入れたのかということを訊こうと思っていました。

冨田:あの曲から感じるものはまさに宇宙でしょう。せっかく本間さんにトランペットを吹いてもらうんだし、CDでは"トリスタンとイゾルデ"でトランペットのパートを作って吹いてもらいたかったのと、ライヴでは太陽が出る前の明け方の混沌とした状態のなかで宇宙の広がりを見せようと思ってましたけど、今回はレコードですから、最初からドーン・コーラスと"トリスタンとイゾルデ"をみなさんに聴いて聴いていただいてもいいんじゃないかと。"トリスタンとイゾルデ"は、すでに1986年のニューヨークでの「自由の女神100年祭」でハドソン川で演奏しているんです。ワーグナーは、それほど宇宙のことは知らなかったと思うんだけど、聴くと宇宙そのものと言いますか、やはり愛は宇宙なのかと、そのことを僕はすごく感じていたんです。あの曲には、いくつものいくつもの星雲を乗り越えていくようなイメージがありますからね。

取材:野田 努(2011年11月17日)

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