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interview with Keigo Oyamada

interview with Keigo Oyamada

ガラパゴス、リミックス、脱原発

──小山田圭吾、インタヴュー

野田 努    Sep 04,2012 UP

「『空中キャンプ』も『ファンタズマ』もすっかり過去のものになっていく。日本、終了」(大幅に中略)「音楽だけでなく、あらゆるジャンルで日本にはクリエイターが育たず、せっかくの文化的蓄積を食いつぶしてしまったのである。そして、いまはガラパゴスを決め込み、J・ポップを聴いていれば洋楽を聴く必要はないと開き直っている。......動物化とはよく言ったかもしれない(いいものだってある。でも、それが日本で人気を集められないことはさらに深刻な事態を意味していないだろうか)」
三田格、8月2日、イヴェイドのレヴューより

 そして『ファンタズマ』の作者は、9月5日に自ら手がけたリミックスを編集した『CM4』をリリースする。最初の『CM』がリリースされたのは1998年、UNKLE、マニー・マーク、バッファロー・ドーター、ザ・パステルズ、ザ・ハイ・ラマスを小山田圭吾がリミックスした音源が収録されている。『CM2』は2003年で、ブラー、ベック、クルーエル・グランドオーケストラ、ボニー・ピンク、電気グルーヴ、モビー、マニック・ストリート・プリーチャーズ、テイ・トウワ、ジ・アヴァランチーズ、スティングなど。『CM3』は2009年にリリースしている。スケッチ・ショー、坂も龍一、ジェームズ・ブラウン、クリスタル・ケイ、キング・オブ・コンヴィニエンス、ブロック・パーティ、電気グルーヴ+SDP……等々。『CM4』は、布袋寅泰、小野洋子、MGMT、相対性理論、ラリ・プナ、ビースティ-・ボーイズ、アート・リンゼー、マイア・ヒラサワ、イフ・バイ・イエス(ユカ・ホンダのユニット)、野宮真貴、三波春夫。コーネリアスらしい遊び心があって、工夫があって、可笑しくて、楽しいリミックス・アルバムである。
 『ファンタズマ』の作者は、FREE DOMMUNEでSalyu×Salyuのライヴに出て、翌日にはYMOのライヴ、そして数日後この取材に答えてくれた。

クラフトワークが日本語で「いますぐ止めろ」って言ってたのがけっこうびっくりした。すごいなと思って。あんなにクールな音楽じゃないですか。メッセージもすごいシンプルじゃないですか。それが日本語で。


CORNELIUS
CM4

ワーナー

Amazon

小山田くんさ、「ガラパゴス化現象」って知ってる?

小山田:あー……なんとなく。携帯とかそういうやつでしょ? ガラケー(ガラパゴス・ケータイ)とか。ガラケー知らないですか?

いや、それ知らない(笑)。

小山田:えー(笑)! インターナショナルじゃないってことでしょ? 日本で独自に進化したっていう……モードとかそういう、海外じゃ使えないっていう。

そうそうそうそう! まさにそう(笑)。いい面も悪い面もあるとい思うんだけど、すべて内需で成立してしまってる世界というか。音楽シーンは典型的なまでにそうですね。90年代は、『ファンタズマ』でも石野卓球でも、ピチカート・ファイヴでもボアダムスでも、国際社会へと開けていったじゃないですか。ところがここ数年のバンドは、まあ、ほとんどすべてが国内で完結してしまっているっていう。

小山田:どうなんですかねえ。90年代はやっぱそういうのあったんですよ。まだ音楽産業良かったし。日本もまだ大丈夫だったし。でもやっぱ、それ以降ね、音楽産業も世のなか的にも下向いてきたじゃないですか。なかなかそういうのが難しくなってきてるんじゃないですかね。

経済的な問題だけかね?

小山田:うーん……まあ、それもあると思いますけどね。それだけじゃないと思いますけど、でもそれ(経済)がけっこう大きな問題じゃないですかね。

貧して鈍するじゃないけど、貧して創造どころじゃないっていうこと?

小山田:うん……わかんないけどね。

やっぱ寂しさって感じない? なんか航路を作ったのに利用されなかったみたいな。

小山田:感じますね(笑)。思いっきり感じます。でもまあ、そうじゃなくやれてるんで、まあいいのかなあと。

だはは、自分は(笑)?

小山田:はははは。

国際的に開けていった連中に経済的なバックアップがあったわけでもないじゃん。むしろ、経済的なバックアップがありながら、成功しなかった人だって少なくなかったでしょ。経済力だけではないと思うけど。

小山田:そうでもないですかね。何なんでしょうね。でもやってるひとはたくさんいるでしょ、若いひとたちでたくさん。

エレクトロニック・ミュージックの世界ではけっこういるけれど、やっぱりポップ・フィールドではいないよね。

小山田:コーネリアスもポップ・フィールドかって言ったらどうなんだろうね。わかんないけど(笑)。

たとえば、最近コロンビアのラス・マラス・アミスタデスっていうポップス・バンドがロンドンの〈オネスト・ジョンズ〉からアルバムを出したのね。ちょっとヤング・マーブル・ジャイアンツみたいなんだけどさ。イギリスのメディアのレヴューで「スペイン語で歌っているポップスがアングロサクソン圏内の音楽シーンで支持されるには、よほど音楽が面白くなければ無理だ」っていうのがあって。日本の音楽文化もほんの10年前までそうだったはずなのに……。

小山田:なくなっちゃったのかな。

逆に誰か知ってたら教えてほしい(笑)。海外で知られることだけが音楽の価値じゃないんだけど。

小山田:そうですね、そう考えると。いるんですかね。

クール・ジャパン戦略みたいなものじゃなくてさ。

小山田:そうですよね。

そう、コーネリアスがアルバム出さなくなって、日本の音楽はますます危機に瀕しているんでしょう!

小山田:いやいやいやいや(笑)。そんなことないでしょ(笑)!

今回もこうやって、リミックス・アルバムで何とかその場をしのいでいくっていう(笑)。

小山田:はははは(笑)。いや、いろいろやってるってことをね、ちゃんとまとめようかなあと思って。

なるほど。リミックス・アルバムも4枚目じゃないですか。リミックスの依頼っていうのはどうなんですか? 小山田くんは依頼されるとほとんど引き受けるほう? それともけっこう選ぶほう?

小山田:リミックスは、最近はけっこう断ったりしてるよね。最近はいろいろ忙しかったりとか。ちょっとあんまり盛り上がらなかったりとか(笑)。

ああ、気持ち的に燃えてこないと。

小山田:うん(笑)。でも最近リミックス増えてきてるよね。ポツポツ来てるよね。一時期あんまなかったんだけど。

リミックス自体は好きなんだ、自分でも?

小山田:うん、まあ好きですよ。好きですね、どっちかって言うと(笑)。

リミックスを引き受けるか引き受けないかは、自分の音楽の好みで選ぶの? それとも別の理由?

小山田:いやまあ、トータル的な理由です。

好みじゃないけど、リミックスはやってみたいってことはあるの?

小山田:うん、ある。

たとえば今回のアルバムでは?

小山田:それはちょっと……(笑)。

ははははは(笑)。そんなこと言ったら友だちなくしそうだもんね(笑)。

小山田:それはちょっと(笑)。元曲がいい曲だからやりたいっていう場合と、これやったら面白いだろうなっていう場合と、まあ2種類ですよね。

まあそりゃそうだよね。

小山田:うん。

自分が手がけたリミックスをまとめたリミックス・アルバムが4枚というのは、多いほうだと思うんだけど、リミックスという作業には、その固有の上達とかあるの?

小山田:上達……なんか、あるかもね。

はははは(笑)。

小山田:良くなってるかっていうことよりも、時間が短くなったとか(笑)。早くできるようになったとか、そういう意味では上達なのかもしれないけど、作品のクオリティっていうか良さが昔に比べて上がったかっていうと……良かったり悪かったりするときもやっぱりあるし。昔のでもすごいいいのがあったりとか、自分的にね。最近でも「うーん」みたいなのもちょっとあったりとか。

「これはコーネリアスの作品だ」っていう気構えでやってるの?

小山田:うーん、まあ後でまとめることは一応考えてますけどね。全部が全部「コーネリアスだ」っていうわけではないんですよ。でもやっぱり並べると色が見えてくるじゃないですか。

見えてくるね。年々テクノっぽくなってる。

小山田:あ、そうですか。

うん。まあ当たり前なんだけど、打ち込みというか、エレクトロニック・ミュージックの要素が。

小山田:そうか……。

そうは思わない? アート・リンゼーのリミックスなんかもIDMっぽいし。

小山田:完全パソコンで作ってるんで、まあそういう意味ではそうなんですけど、鳴ってる音はけっこう生音を録って使ったりとかはしているので。電子音みたいなものが前面に出てるって感じてもなくて、普通にギター、ベース、ピアノとかドラムとか――ドラムも普通の生音っぽい音色(おんしょく)だったりとか。そういう意味ではテクノっぽくないのかな、っていう気もするんですけどね。

そうだね。野宮真貴さんのリミックスのように、アコースティックな綺麗な反響を活かしている曲もあるし……。全部パソコンでやるんですか?

小山田:いや、全部は全部ではないですけど、まあほとんどパソコンですね。パソコンと楽器ちょっと弾いたりとか。

PCを使うようになってから、やっぱり作業はやりやすくなった?

小山田:まあ、外のスタジオとか使わなくていい分、楽にはなりましたよ。でもやることは増えるから、そういう意味での労力は増えるけど。

最初のガラパゴスの話じゃないけど、今回のアルバムがいままででいちばん日本人が多いじゃないですか!

小山田:そうですね。日本人いままでそんなになかったっけ?

これまではスケッチ・ショウとかさ、電気グルーヴとかさ。

小山田:たしかに。今回は三波春夫まで入ってるから(笑)。日本色強いね。

これはいまのシーンを反映してるんでしょうかね?

小山田:そうなんですかねえ。シーン……。

今回の『CM4』は『CM3』を発表したあとのリミックスってことでしょ?

小山田:基本そうです。アート・リンゼイだけちょっと前なのかな。

でも『CM3』ってそんなに昔じゃないよね?

小山田:そう、3年ぐらい前。

だから多くの曲がここ2年ぐらいのものなんだよね。

小山田:そうですね。

この三波春夫の“赤とんぼ”を最後に持ってきたっていうのはなんで?

小山田:いや、ここしか置くところが思いつかなかったんで……(笑)。

さすがに1曲目から“赤とんぼ”は変化球過ぎるらね(笑)。これはどういう企画だったの?

小山田:これはね、坂本龍一さんのレーベルで『にほんのうた』っていうコンピレーションがあって、唱歌とかそういうものを現代のひとたちでもういっかいやってみようっていう企画でやったんですけど。三波先生はこれはもともとライヴ・テイクで、ロサンゼルスかどこかの公演で歌っていたマルチが残ってて、そこから歌だけ出してきてパーツを付け直したみたいな。

10年前ならやらなかったであろうことをやる年齢になったんだね(笑)。

小山田:そう、できる年齢に(笑)。10年前とかだったらたぶんできなかったと思う。

依頼された曲のなかで、一番好きな曲だったら言える?

小山田:リミックスとして? “赤とんぼ”はけっこう(笑)。食い合わせがたぶん想像できないと思うんだけど、意外に食ってみたらうまかったみたいな感じ(笑)。

MGMTていうのはわかりやすいっていうか、コーネリアスが好きそうな感じがするね。

小山田:あとヨーコさんは別ですね。これはいちおうコーネリアス・ミックスってなってるんですけど、プラスティック・オノ・バンドのセッションを僕が最終的に全部まとめたって感じなんで。これもすごく印象に残ってますね。一緒にやったんで。

小野洋子さんの曲では、ダンス・ミュージックへのアプローチをやっているけど、ラリ・プナはアンビエントなフィーリングが展開されています。これも今作のなかのベストな1曲ですよね。

小山田:ラリ・プナもけっこう気に入ってます、これ。リズムまったくなくて。あんまりそういうの作ったことないから。

これはいつやったんですか?

小山田:1年か1年半ぐらい前かな。

マイア・ヒラサワさんって方は僕存じてなかったんですけど、このひとはスウェーデンなの?

小山田:スウェーデン人と日本人のハーフで、けっこうCMとかでやってる。で、向こうですごく人気があるみたいで。ちょっとビョークに声が似てて。音はタンバリンスタジオみたいな感じのスウェディッシュ・ポップみたいな。

たしかにビョークっぽい。魅力的な良い声ですね。あと、ビースティー・ボーイズのリミックスもやっていたんだね。マシナリーなファンクというか、これはコーネリアスらしい音の遊びがあるっていうか。

小山田:ビースティーはね、ちょうど『センシュアス』のときにパリでライヴがあって、コーネリアスでオープニング・アクトをやったんですよ。たぶんそのときに観て気に入ってくれたのかな。そのすぐ後ぐらいに依頼が来て。

取材:野田 努(2012年9月04日)

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