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TECHNO defintive 初音ミク・ヴァージョン(後編)

TECHNO defintive 初音ミク・ヴァージョン(後編)

――『増殖』スペシャル対談:佐々木渉×野田努

   Feb 08,2013 UP

『D.o.A.』、ポルノ、初音ミク

(藤田咲さんの声は)「個人性=我」の強い声だなと思ったんですね。濃いと思ったわけです。それを録って、ぶった切って、ボーカロイドに入れて、ボーカロイドの声として出てきたときはその自己主張のところがバラバラに崩れて、「そもそも自己主張が強かったもの」の残骸として出てくるんですよね。(佐々木)

次のボーカロイドは、モチーフがDX-7からEOSになっていたので、肌が白くて金髪だったんですけど(鏡音リン・レン)、アメリカ人から見れば、ロリータ声でこのヴィジュアルだと道徳的にあまりにひどいから、すぐにやめてくれと。(佐々木)


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野田:なるほど。女性の声を選ぶときに、セクシーな大人の声か、ロリータかという選択肢があったと思うんですけど、少女っぽいほうにしたのはなぜなんですか?

佐々木:ロリータ系の声というのは、いっぱい聴いたんですよ。要は声優さんの声って、ロリータのヴァリエーションの宝庫だったりするわけなので......。いろんな声を聴きましたが、この藤田咲さんというのは、ある種、演じるというより少々感情的に声を前に出すのが強い演者さんで。「個人性=我」の強い声だなと思ったんですね。濃いと思ったわけです。それを録って、ぶった切って、ボーカロイドに入れて、ボーカロイドの声として出てきたときはその自己主張のところがバラバラに崩れて、「そもそも自己主張が強かったもの」の残骸として出てくるんですよね。それが個人的にはおもしろいなーと思っていて。ある意味では、素人性みたいなものにフォーカスしたところがよかったなと思っています。

野田:そこに挑発はなかったですか? たとえばイギリスは、ロリータに対して厳しい国です。イギリスの友人が日本に来てモーニング娘。を観たときに怒り狂ってました。「ありえねえよ!」って(笑)。多くのイギリス人はAKBにも怒るでしょう。マッシヴ・アタックの3Dが反イラク戦争のデモに参加して、反ブレアを訴えていた頃、当局は彼を幼女ポルノ画像を集めていた罪で逮捕しましたからね。ドラッグよりもロリータのほうがスキャンダルなんです。

佐々木:初音ミクの次、2作目(鏡音リン・レン)を作っていたときに、頻繁に電話をかけてくる人はいましたね。次のボーカロイドは、モチーフがDX-7からEOSになっていたので、肌が白くて金髪だったんですけど、アメリカ人から見れば、ロリータ声でこのヴィジュアルだと道徳的にあまりにひどいから、すぐにやめてくれと。真剣に何度も説得されました。そんな電話対応の記憶もありますね(笑)。

野田:佐々木さん自身はどうなんです?

佐々木:それこそモーニング娘。があり、その前の東京パフォーマンスドールがあっておニャン子クラブがあってという流れ、「若さ」とか「生命力としての鮮度」を誇張するトレンドのなかで、ロリータというのは重要な記号にどんどんなっていっているんだろうなとは思います。コンビニエンス・ストアなんかに行くと、アダルト雑誌のコーナーなんてとんでもないことになっているわけじゃないですか。のどかな田舎も含めた日本全国。そういうものがすごくノイジーだなとは思いますね。自分が中学生の頃にレンタルビデオ店でデスファイルってのが流行ってたんですけど酷い国だなと思いましたね......(苦笑)。

野田:スロッビング・グリッスルの『D.o.A.』もそうですよね。あのジャケットは、当時イギリスではずいぶんと物議を呼んでいるんですよね。幼女のパンツ姿が映っていたからです。タブーだからこそ彼らはやったわけです。

佐々木:スロッビング・グリッスルって「脈打つ男根」って意味でしたっけ(笑)。小難しい空気もありつつ、小学生男子のスカートめくり的というか、直感的におもしろがってやっている風というか、彼らはファンキーですよね。それを喜ぶリスナーも、まぁ子供っぽいというか直感的ですよね(笑)。ストック、ハウゼン&ウォークマンで、おもちゃと性器がコラージュされているような、いたずらの感覚に近いと思いますね。そもそもノイズやコラージュと、ファッションやロリータ、エロって親密じゃないですか。カエルカフェの白石さんや、嶽本野ばらさんや、ディアステージの喪服ちゃんとか、皆さんそんな要素を持っている方が、90年代~00年代の東京アンダーグラウンドに根付いていた。
 たとえば実験音楽のCDショップに行ったらもっとひどいものあります。部屋のなかにレコードをざーっと敷き詰めて、その上で猫とか豚とかを殺しまくって返り血を浴びせまくった返り血レコードだったり、豚の頭の剥製で鼻ところにカセットテープがポコッとはまっていたり、っていうジャケットとかですね。刺激的で目立てばなんでも良い世界(苦笑)。自分は、10代の頃にサウンドアートにハマってしまった関係で、それはそれで表現の極北っていう感じがあったので......。全部、人間の所業として存在するものと感じます。 
 ただ、アートとしてのエログロと、コンビニでエロマンガだとかDVDだとかが無造作に並んでいるような状況は、それはまたべつの次元ですごいものだな、とは思っていて。そのあたり、インターネットで気軽に検索してはいけないワード(惨殺動画~グロ動画)とか、xvideos(何でもありのエロサイト)とか、いろんなものをキャーキャー喜んで見ることができるというような状況が一般的になっているのはアングラ文化ではないわけで。もしくは世界中がアングラを気にしないようになったんですよね......。特に日本は性的な興味関心の部分ではずっと先取りしていたんじゃないかなというようなことは感じます。CD-ROMが安くなった時点からコンビニにはハッキングまがいの裏ツール本とか、エロデータ本とか、そういうものが並んでいたわけですから。
 それに、日本のエロマンガとかのデフォルメの仕方もそうですよね。日本のなかの性的暴力と幼児退行みたいな感覚は、物心ついたころからそのへんに兆しがあふれていたし、音楽でもマゾンナやゲロゲリゲゲゲ、もしくはへーターズ的なアートもノイズ文化として一部で支持されていました。自分のなかでは、そうした極端な表現や破滅的な表現の傾向は、個人の好き嫌いに関係なく、すでに世のなかにあるものとして考えています。だから自由という暴力がまかり通るインターネットの時代に「目立てばなんでも良い表現」がクローズアップされてしまうのも、現状しょうがないし当たり前のものになっていくのだろうな......としか言いようがありません。

YouTube(=海)の向こうの初音ミク

インターネットで、世界同時にいろんなものが見れてしまうという環境のなかで、いまの10代の子たちの感覚っていうのは、けっこうクォンタイズされてきているという気もします。みんな似たような感覚で、似たようなものに注目している。(佐々木)

野田:初音ミクは海外でもかなり多くの人に受け入れられていると聞いています。ライヴでも、アメリカや台湾ですごい人数の現地の人たちが日本語で歌っているとか......。

佐々木:これはほんとにショックですよ。日本のライヴよりも、アメリカや台湾のライヴのほうがお客さんが熱狂してるんですよ。日本人は比較的冷静というか、精鋭のファンたちが集まってるといった感じになってるんですけどね。日本では、みんなで作ってみんなで選別してっていう、ウェブ上でみんなが育てた実感のあるインタラクティヴなカルチャーが、台湾や西海岸の人たちには変なバイアスがかかってハイパークールジャパン(笑)みたいに受け入れられている。日本からとんでもないカルチャーが出てきた、みたいな感じですね。それに、インターネットで、世界同時にいろんなものが見れてしまうという環境のなかで、いまの10代の子たちの感覚っていうのは、けっこうクォンタイズされてきているという気もします。みんな似たような感覚で、似たようなものに注目している。ユーチューブの再生数であるとか、ものの注目のされ方、ネットの構造みたいなところにそれが表れている。みんながどういうふうに時間を使っていくのか――学生は時間があるわけじゃないですか、そんな子たちが見ているものが、似てきていると思うんですね。世界同時に。自分もたまにユーチューブのアクセス解析みてみるのですが、初音ミクはやばいです......。

野田:やっぱ、エクストリームなものとして受け入れられてるんでしょうね。ホントに『D.o.A.』ぐらいに、キリスト教的な縛りから解放しているのかもしれませんよ(笑)。向こうのマッチョイズムは日本なんて比較にならないぐらいすごいから、その分、ナードなものがカウンターとして機能して、熱狂を生んでいるのかもしれませんね。

――いま佐々木さんがおっしゃったなかには、日本の中高生も海外のティーンの子たちも、ウェブで見聞きする情報に対しては同質な視線やリアクションを持っているのではないかという問いが含まれていましたが、そのあたりはどうですか?

野田:初音ミクがこの先、どこまで広まっていくのか興味がありますね。テクノは、00年代以降もさらに国境を横断しています。ジャカルタとか、イスタンブールとか、サンパウロとか、イスラエルのガザまで。ケン・イシイが海外のレーベルから出て、「テクノは国境を越えた」なんて言ってましたけれど、まだまだ欧米文化圏のなかでの話でした。それが最近はさらに多様な文化圏を横断しています。僕は初音ミクのグローバリゼーション......というと語弊がありますが、その広がりに期待したいですけどね。あれで世界中を腑抜けにさせるとか(笑)。

佐々木:まぁ、腑抜けという表現は鋭いですね(苦笑)。自分の立場でいうと、逆に従来のロックやテクノがいまとなっては真面目な硬いカテゴリー過ぎるんだと思うところがあります。今後、大多数の電子音楽が気になるような若者たちは、ゲーム音楽とテクノと初音ミクのエレクトロニカ風ポップスを区別しないでしょう。テクノには、チルアウトなアンビエントがありますが、リラックスする聴き方はあっても、ユーモラスだったり、ジョークだったり、もしくはプリティだったり、日常的な表現は少なかった気がしますね。 昔、電気グルーブがプッシュしていた、ポンチャックっていう、韓国のテクノ歌謡がありましたが、あんなテイストは本当に少なかった。ポンチャックのような、日本で言うところの嘉門達夫もしくは昔の電気グルーヴやスチャダラパーの言動のような「緩さ」や「日常のなかの感覚」は、いまの他のジャンルの音楽に本当に少ないですよね。それが、ニコニコ動画や初音ミク・カテゴリーではすごく上手く取り上げられていて、他のエンタメにない魅力の一部として確立されつつあります。ただただ、ひたすらに需要があったのだと思います。

佐々木渉、野田努 (構成:橋元優歩)(2013年2月08日)

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