Home > Interviews > interview with Vondelpark - 水底のヴァカンス
音をチェックしていなかったとしても、あの犬ジャケは覚えている、という人は多いのではないだろうか。デビューEP(『サウナEP』2010年)ではビーチ・リゾート風の海が、つづく『NYCスタッフ・アンド・NYCバッグスEP』では飼い犬らしい犬の表情がジャケットにあしらわれている。それぞれトイカメラ風の叙情性をたたえながらもプライヴェート・ショットのような何気なさが演出され、ウォッシュト・アウトやあるいはエール・フランスなどがそうであったように、柔らかくてどこかインナーな光源を感じさせる。つまり2010年当時のインディ・ミュージックにおけるひとつのリアリティがありありと刻まれたアート・ワークだ。たとえばチルウェイヴやバレアリックという呼称とともに、たとえばベッドルーム・ポップという概念とともに、われわれはローファイでリヴァービーな音像や、ロング・トーンのヴォーカルや、気だるげなサマー・ブリーズ、逃避的なムード、それでいて清潔感のある曲調などを容易に思い浮かべることができるだろう......そうしたヴィジュアリティである。
フォンデル・パークは鋭くまばゆくこのフィーリングをすくいとっていた。だがビートにおいては、より強くダンス・ミュージックとしてのシャープさを持っていたかもしれない。なにしろ〈R&S〉が送り出した新人というインパクトもあったのだ。しかしダンス・ミュージックだと呼ぶには、あまりにインディ・ロックのヴァイブをあふれさせた存在でもある。本人たちは「エレクトロ・ギター」と奇妙な呼び方をしているが、彼らのルーツがギター・ロックであることは音からも瞭然だ。こうしたあたりが、彼らの個性でもあり、またクラブ系のリスナーとインディ・ロック系のリスナーの双方を心地よく揺さぶった要素でもある。両者の混交が著しかったこの時期のシーンを象徴してもいるだろう。
Vondelpark Seabed |
フル・アルバムとして初となる今作では、よりクリアで整理されたプロダクションが目指されるとともに、ポスト・チルウェイヴのひとつの着地点とも言えるR&B傾向が強まった。ジェイムス・ブレイクの成功もひとつの布石になっているかもしれない。スムーズで洒脱なソウル色が深まる一方で、そもそものサイケデリア(このあたりはレーベル・メイトのエジプシャン・ヒップホップとも共通する)や内向的で繊細なドリーム感といった持ち味も失われておらず、さらにシー・アンド・ケイク的なリリカルなポスト・ロックまで加わっている。時間とともに、方法も掘り下げられたようだ。
今作のキーワードは「アンダー・ウォーター」。陽気に浮かれ騒ぐヴァカンスではなく、水底から眺めるヴァカンス......どこか隔絶感があって、どこか不随意で、しかしどこか安心するようなうす碧い空間を思わせる。デビューから3年をへて彼らが着地しようとしている地平は、どのような場所なのだろうか?
エフェクトを付け足すのをやめるタイミングをどこかで見極めて、ピュアでミニマルな手法でいきたかった。(ルイス)
■2010年の『サウナEP』から時間を経て、今作はサウンド的にとてもソフィスティケートされたという印象があります。しかし、あのEPのカジュアルなプロダクションも、チルウェイヴなどに象徴的だった当時のムードをとてもよく表していて魅力的です。いまからみて、あの当時のフォンデルパークの音はどのように感じられますか?
マット:曲を作るときに感じていた感情とかがベースになっているから、僕たちが年を重ねるごとに音楽も進化してきていると思うよ。前回から2年も経っているから、あの頃のプライヴェートの状況や心境にも変化はあったし、音楽を聴いていると当時の心境を表していると思う。
アレックス:あの頃からミュージシャンとして腕も上がったし、ここ数年間でもっとクリーンな音を出せるようになったと思う。次の作品ではファーストEPのような制作手法に、家でレコーディングしたり「生」のサウンドにこだわったプロダクションで、ルーツに戻ろうかと話し合っているところだよ。
■『サウナEP』や『NYCスタッフ・アンド・NYCバッグスEP』など、その頃の音がアルバムとしてまとめられていないのはなぜなんでしょう?
マット:どうしてかなぁ? でも"カリフォルニア"の新ヴァージョンをこのアルバムに入れたのもそんなことを考えていたからかもしれない。EPを作った頃はいつかアルバムにしようなんて思っていなかったし、レコーディングした当時のフィーリングはそのままの形でもいいと思うんだ。これからもまたEPを出すと思うよ。
■今作はセルフ・プロデュースなのですか? また、今作の録音について重視したことを教えてください。
ルイス:他の人にプロダクションを手伝ってもらったところもあったけど、最初から最後まで立ち会って関わっていたよ。家にある機材じゃできないミックスをしたりコンプレッサーを使ったり、生収録した音楽にテープや機材でエフェクトをかけたりする作業はスタジオでやった。でも、プラグインをあれこれ使いたくなかったからあんな感じのアナログ・サウンドができたんだ。エフェクトを付け足すのをやめるタイミングをどこかで見極めて、ピュアでミニマルな手法でいきたかった。
今回のアルバムではヴォーカルやドラム収録のためにスタジオにいる時間がいままででいちばん長かったね。スタジオ作業っていうのもおもしろかったけど、自分の部屋、自分の空間にいた方がもっとうまく表現できる気がするんだ。自分の猫とかテレビとかハーブ・ティー(最近はカフェインを控えるようにしていて、ペパーミント・ティーにハマっている)とか、自分が好きなものに囲まれている方が落ち着くし、インスピレーションもスタジオにいるときより浮かびやすい。スタジオはレコーディングをしなきゃいけないから行く場所だけど、自分の部屋でやると、音楽が生活の一部と感じられるから、そっちの方が好きだ。
スタジオ作業っていうのもおもしろかったけど、自分の部屋、自分の空間にいた方がもっとうまく表現できる気がするんだ。自分の猫とかテレビとかハーブ・ティーとか、自分が好きなものに囲まれている方が落ち着くし。(ルイス)
■クリアなプロダクションを得たことで、今作はドラミングがものすごく生きているように思います。〈R&S〉というテクノの名門が、あなたがたやエジプシャン・ヒップホップのようなバンド・アンサンブルを重要視するのはなぜだと思いますか?
アレックス:たぶん、ちょうどその頃、いままで中心的だった音楽とは違う、新しいスタイルの音楽を探していたんだと思うよ。僕たちは当時はバンドっていうより、3人集まったプロダクションとして音楽を作っていた感じだったんだ。テクノよりチルアウト要素が強い音楽も扱ってみたいと思っていたんだろうね。
■実際に、2ステップや90年代のUKガラージ、R&Bのマナー、またポスト・ダブステップやポスト・チルウェイヴ的なムードをバンド編成でやってしまうところはフォンデルパークのとてもユニークなところでもあると思います。あなたがた自身ではこのフォーマットで活動することについてどのような思いがありますか?
アレックス:ドラムマシンでビートを数時間流しっぱなしにして3人でジャミングしながら音楽をつくり上げるのはすごく気持ちのいいことだよ。それぞれの音楽を各自の趣味で作ることもあるけど、3人で集まるときの音楽スタイルとはぜんぜん違うんだよな。3人で集まらないとフォンデルパークのような音楽、チルアウトでエレクトロ・ギターっぽい音楽は作れないんだ。
取材:橋元優歩 (2013年3月19日)
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