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interview with The Bug

interview with The Bug

ファック・ユー

──ザ・バグ、インタヴュー

野田 努    通訳:原口美穂  photos:FABRICEBOURGELLE   Aug 12,2014 UP

 移民政策というのは、日本にとっていよいよ他人事ではなくなった関心事のひとつで、以下のケヴィン・マーティンのインタヴューからは、そしてザ・バグの音楽からは、ロンドンの、いろいろ混じり合って、さんざん衝突し合ってきた挙げ句のリアリズムが激しく立ち上がってくる。ロンドンにおいては間違いなく移民文化が音楽の活力剤となっている。美しい話かもしれないが、甘さだけのものではない。その甘くはない方に性懲りもなく、律儀に肩入れしてきたのが、ザ・バグである。

 ザ・バグは、ケヴィン・マーティンのソロ・プロジェクトである。もともと彼は、1990年代初頭、ゴッド、アイス、テクノ・アニマルという、3つのプロジェクトによって頭角を表している。パートナーは、元ナパーム・デス(ハードコア/スラッシュ・パンク)のジャスティン・ブロドリック。ハードコアとダブが彼らの魂の拠り所だった。ふたりはインダストリアル・ヒップホップやダーク・アンビエント、テクノやジャングルどなど、様々なスタイルを食い散らかしては取り入れたが、結局、どこのシーンにも属すことなく「孤立主義」を押し通した。彼の言葉を借りれば「どこにも属さない変人」、早い話、浮いていたのである(それでも、ゴストラッドのような、ケヴィン・マーティンの支持者はいた)。

 しかし、ザ・バグをはじめてからのケヴィン・マーティンは、より時代に馴染んでいるように見える。ダンスホールを取り入れた2003年の『プレッシャー』、UKグライムとロール・ディープをフィーチャーした2008年の『ロンドン・ズー』は、いま聴き返しても素晴らしいアルバムで、2枚とも移民文化のエネルギーを吸収しながら、あらゆる角度から小刻みなジャブのように攻めてくる。アグレッシヴで、ヘヴィー級だが、踊りのステップもある。ハードコアだが、ダンスホールでもある。90年代は「浮いていた」彼のパンク精神は、UKグライムのふてぶてしさと相性が良かったし、情け容赦ない低音を有するキング・ミダス・サウンドも、最初の1枚からリスナーに支持された。


THE BUG
Angels & Devils [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤]

NINJA TUNE/ビート

DubGrimeLeftfieldSynth-popAbstract

Amazon iTunes

 この度リリースされる『エンジェル&デビル』は、20年以上にもおよぶケヴィン・マーティンのキャリアにおいて、いちばんの注目作となっている。
 アルバムは、そのタイトルが言う通り、「天使サイド」と「悪魔サイド」に分けられている(わりとこの人は、良くも悪くも言葉遣いが直球なのである)。「天使サイド」では、彼にとっての新しい試みと言えるであろう、妖艶な領域に足を踏み入れている。陶酔的なそのサイドでは、リズ・ハリスインガ・コープランドという、筆者もイチオシのふたりの女性シンガー、そしてフライング・ロータス一派のゴンジャスフィが歌っている。こうした配役は、90年代のマッシヴ・アタックを彷彿させるし、実際のところなかば退廃的なムードも似てなくはない。が、いっぽうの「悪魔サイド」は、USのデス・グリップスほか、ウォーリアー・クイーンやフローダンなどUKグライムのラッパーが威勢良く飛び出しては汚い言葉をわめき散らすという有様だ。「悪魔サイド」は、『ロンドン・ズー』以上にハードで、「怒り」がほとばしっている。その怒りを、ケヴィン・マーティンのビートは100%援護する。いちど溢れ出した水は、元には戻れない。いったいどうなっていくのだろう。ケヴィン・マーティンは、録音中、長年住み慣れたロンドンをあとにして、というか、たとえ愛するジャマイカ文化が身近にあっても、いや、さすがにもう、ここには住めんわーと決意して、ベルリンに移住した。

いまのイギリス政府はとにかく右翼で、人種差別者たちの集まりだから。だから彼らは他の国の人間を受け入れない。ロンドンを出ることはすでに考えていた。どうやっても、ここにこれ以上長くは住めないんじゃないかと思いはじめていたのさ。最後の年は、かなりの貧民地区に住んでいたからね。

通訳:こんにちは。今日はベルリンからですよね? 

ケヴィン・マーティン(KM):そう。ロンドンからベルリンに引っ越したんだ。もう1年以上になるね。

グルーパーのリズ・ハリスがザ・バグに参加するという情報は、たぶん1~2年前に聞いていて、ものすごく期待していたのですが、完成まで、けっこう時間がかかりましたね。実際、今作の準備はいつからはじまっていたのですか?

KM:このレコードを作ることには、ものすごく真剣だった。でも、だからこそベストな雰囲気やイメージをしばらく探していた。自分にとって、このレコードは個人的な旅のようなものというか……正しい言葉が見つからないけど。リズのヴォーカルはたしかに2年前に録った。でも、そこからまたあらためて曲を書き直して、それで時間がかかった。
 リズに関しては、まず彼女と一緒の作品をイメージして、そこから8~9曲くらい作って彼女に送った。彼女にそのなかから彼女自身に合うもの、もっとも彼女が繋がりを感じるものを選んでもらった。で、リズがその上にヴォーカルを乗せて送ってくれたんだけど、そこからまたオリジナル・トラックを書き直した。コラボレーションのプロセスも、音源を送って、そこにヴォーカルを乗せて、それをミックスするという普通のプロセスとは違っていたし、時間がかかってしまった。クリエイティヴなプロセスだったから。パーフェクトなレコードを作るのはどうせ不可能なんだけ……どんなレコードでも常に、あれが出来たら良かったなとか、これをすればよかったっていうのが出てきてしまうから。

通訳:準備自体はいつからはじまっていたのでしょう? 実際は、構想期間を入れると、どのくらいの時間を要したのでしょうか? ザ・バグとしては6年ぶりですよね?

KM:『ロンドン・ズー』が出来てからすぐだね。俺は仕事中毒だから(笑)。このレコードが出来上がるまでに、いくつかやり方を変えたりもしたし、自分に問い掛けたりもした。確かに長い時間だよな(笑)。そのあいだにキング・ミダス・サウンドのアルバムがあったりもしたしね。

録音はロンドンとベルリン?

KM:そう。最初はロンドンでレコーディングして、それからベルリンでミックスした。いくつかのトラックはベルリンで再レコーディングもした。“パンディ”はベルリンで書き直したし、“ファック・ユー”はゴッドフレッシュのショーの後書き直した。なんか、あのショーを見た後に自分のルーツを思い出してね。だからあのトラックをもっとヴァイオレントにしたくなった。あともう1曲あるんだけど……いま思い出せないな。とにかくその3曲はベルリンで書いてレコーディングした。

ベルリンに移住したのは1年と少し前とおっしゃっていましたね。あなたがベルリンを移住先に選んだ理由を教えてください。

KM:理由はいくつかある。まず、俺のパートナーは日本人で、彼女がイギリスに住むための新しいビザをもらえなかった。いまのイギリス政府はとにかく右翼で、人種差別者たちの集まりだから。だから彼らは他の国の人間を受け入れない。3ヶ月ずつ観光ビザで滞在させて、彼らにお金を落とさせるだけ。だから彼女もビザがとれなかった。
 同時に、『ロンドン・ズー』のときからロンドンを出ることはすでに考えていた。当時から、ロンドンに対しては大きなクエスチョン・マークがあった。どうやっても、ここにこれ以上長くは住めないんじゃないかと思いはじめていたのさ。最後の年は、かなりの貧民地区に住んでいたからね。ポプラーっていうエリアさ。
 ロンドンはいろいろな文化の坩堝と言われているけど、みんな貧困に悩んでて、滅入ってて、すごく悲しい街でもある。だから、もう住まなくてもいいんじゃないかと思った。もはや、それは住んでいるというより、無理して生き抜いてるという感じだったから。メインストリームの音楽ももう俺には関係ないしな。俺にとって、音楽というのは金がゴールなんかではない。音楽はセラピーだ。いつだって、俺はセラピーとしての音楽作りを求めてるからね。

あなたは80年代、まだ10代の頃にレゲエやデプス・チャージに共感する怒れる若者でした。ロンドンにやって来たばかりの頃は、フロ無しの部屋に住んでいたと、2008年に取材したときにあなたは語ってくれましたが、あなたが送ったボヘミアンな生活は、地価が急激に高騰した現代のロンドンではもう難しいのではないかと思います。あなた自身もベルリンに越されたそうだし、ドロップアウトという生き方が選べなくなっているように思いませんか?

KM:ロンドンにやって来たばかりの頃だけではなくて、まさに『ロンドン・ズー』を作ってるときもそうだったよ(笑)。スタジオに7年くらい住んでたんだけど、そこにはキッチンもシャワーもなかった。めちゃくちゃ汚かったな(笑)。法律やルールに従えば、ロンドンには住めるかもしれない。あとは、幸せを感じることが出来ないクソみたいな仕事をするか。その仕事ばばかりをやれば住めるかもな。俺はどちらも御免だ(笑)。だから街を出た。

通訳:ひとつ前の質問に戻りますが、ロンドンを出た理由はわかりました。ではなぜベルリンを選んだのでしょう?

KM:ベルリンにはもともと繋がりがあったんだ。ベルリンでは何回も何回もプレイしてきた。知り合いの音楽関係の人間でベルリンを拠点にしている人もたくさんいる。それに、ベルリンの雰囲気がずっと大好きだった。ヨーロッパの大都市のなかで、いまだにソウルを持っている数少ない街のひとつだと思う。ベルリンはオルタナティヴ・カルチャーを基盤としているし、政府もマシなほうだよ。いまはベルリンにとってすごく面白い時代だと思うよ。ヨーロッパの大都市のなかでも唯一物価の安い都市だしね。
 だからいま、ミュージシャンや画家、アーティストたちがたくさん集まってきている。アメリカからももちろんだけど、フランス、イタリア、スペインとか、とくにヨーロッパから。いま、急激に変化してきていると思う。もしかしたら、10年後にはロンドンみたいになってるかもしれないけどね。
 最初に越してきたとき、〈ワープ〉からレコードを出してるアンチポップ・コンソーティウムのプリーストが友だちなんで、彼のショーを見に行ったんだけど、そのとき彼が言ったんだ。「ベルリンは良かった頃のブルックリンを思い出させる」って。とはいえ、いまやベルリンにもたくさん人が来すぎてはいる。それでも、まだロンドンやニューヨークよりはマシだ。これからどうなるかはわからないけどね。

通訳:ベルリンとロンドンを比べてみてどうですか?

KM:ロンドンには23年住んでいた。ベルリンはそのあと、初めて住むロンドン以外の場所だった。だから、引っ越すまではやはりナーヴァスだった。引っ越してからもそれは続くだろうと思っていた。ロンドンは俺に音楽を教えてくれた場所だし、俺の音楽的な基盤はロンドンだから。人付き合いだってここで育んできたわけだし。ロンドンはスペシャルな場所ではある。
 でも、いまベルリンに住んでみてロンドンを違う角度から見てみると、おかしなことに全く恋しくないんだ。恋しくなるに違いないと思ったのに。恋しいと思う唯一のものは建築だね。ベルリンの建築はつまらないから。そこはロンドンのほうが面白い。あとは、ロンドンは社会や文化的な坩堝だけど、ベルリンはヨーロッパの坩堝。だから、ジャマイカやインドのコミュニティが恋しいっていうのはある。俺のロンドンでの生活のほとんどは貧しい地域で過ごしてきたからね。近所は常にパングラディッシュ人やインド人、パキスタン人、ジャマイカ人、トルコ人だった。ベルリンにもトルコのコミュニティはあるけど。これがベルリンを特別な場所にしてると思う。ベルリンというか、ドイツ全体を。いまロンドンに戻ると全てのバカ高さに気づかされるし、街の緊張感を感じる。戻る度に、よくあんなに長く住めたなと言い続けてるんだ。

取材:野田努(2014年8月12日)

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