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interview with Nagisa Ni Te

interview with Nagisa Ni Te

また正月かあ!

──渚にて(柴山伸二)、インタヴュー

   Dec 29,2014 UP

ピッチと時間軸を変えるのだけは絶対にしない、と。

湯浅:アナログのほうが、かえって思い切りがよくできていたのかもしれないな、といまになって思うんですけど。

柴山:ミックスでも同じですよね。いまは0.2dBのレベルの上げ下げでエンジニアからツッコミがきますから(笑)。

湯浅:そうそう(笑)。なんか急に細かいことを言ってる。0.2ってどこだよっていう。

柴山:スタジオの現場でデジタルだと、0.2dB上がったっていうのがわかるんですよ。

湯浅:あと波形でわかるじゃないですか? あれがよくないと思うんだよな。

柴山:まぁプロ・ツールスでも、時間軸とピッチの修正だけはしません。バスドラが少し突っ込んでいるからコンマ1秒ずらして修正しよう、とかはやらないんです。エンジニアは耳が慣れているから気づくんですけど、絶対にいじるなって言ってあります。自分の歌のピッチも「ここ少し修正してもわかりませんよ!」って言われるんですけど、それだけはやめてくれってお願いしてます(笑)。一音だけ歌い直したりとかはしましたけど。

湯浅:それはアリなんですか?

柴山:それはアリにしました(笑)。でもピッチと時間軸を変えるのだけは絶対にしない、と。

湯浅:いまって歌が簡単に直っちゃいますもんね。

柴山:そうなんですよね。だからそれをやると人として終わり(笑)って自分で決めていたので。

湯浅:最初からそうだと潔くていいですよ。なんか細かく直すのにすごく抵抗があるんです。自分で歌っていても、そういうふうに思うし。だけど、たとえば昔も手動でピッチを直していた人もいるわけで。つまりマルチ・トラックのテープで一箇所ずつ微調整して再生して上げて音程を直す。ユーミンとかもそうなんですよ。ものすごく細かくやってもあれだっていうのがすごくおもしろくて(笑)。『ひこうき雲』のときはそうやって全部ヴォーカルを直したらしくて、歌だけでものすごく時間がかかってるんですって。

柴山:一曲やるだけで気が遠くなりそうですね(笑)。だから70年代の後半くらいにはピッチ・シフターが出てきましたもんね。

湯浅:あれは録ったのが72年だから出たのが73年か。すごい大変だったって言うんだけど。

柴山:『ミスリム』のときもそうやってたんですか?

湯浅:その頃までには音程はよくなっていたらしいんだけど。だけど、それはそういうふうにしたかったからそうしてるみたいだけどね。

柴山:70年代は、浅田美代子も修正をしてあれだったから。

湯浅:浅田美代子は直しようがなかったんじゃない?(笑) これは無理だ、みたいな。再生したものを聴いて違和感があるのが嫌っていうのもあるし。

柴山:本人にしかわからないですよ。歌って細かいところを気にしているのは本人だけ、っていう。プロ・ツールスだとエンジニアが簡単に「ここの音程は上がりきってないから一瞬だけ上げてみましょう」とか言うんですけどね(笑)。ピース・ミュージックで録ってたときなんか、あんまり何度も同じ箇所を歌い直すもんだから「テープが粉を吹いてきたので一回テープ止めませんか」(笑)ってなったこともありました。レコーダーのヘッドが熱くなって、テープの磁性体が剥がれ落ちてきたんですよ。新しいテープだったんですが「テープがダメになっちゃうんで、ここは置いといて別の箇所を録音しましょう」って(笑)。

湯浅:今回はパッチワーク感が少ないですよね。

柴山:少ないですね。プロ・ツールスは使っているんですけど。今回は一本筋が通ったアルバムとして手応えはあるんですよ。大体同じ時期にできた曲ばっかりで。半年間くらいかな。

湯浅:前の(『よすが』)はそうでもないんですか?

柴山:違いますね。何年かの間に少しずつ、という感じでした。ライヴが今度あるから、少なくとも新曲を一曲はやろう、という感じで。そうした方が新鮮でもあるんで。それを2、3年やって10曲超えたらアルバムを作ろう、となるんですよ。『よすが』まではその繰り返しが多かったですね。

湯浅:もうそういうふうにはできないんですかね?

柴山:ライヴ自体がコンスタントにできないので。子どもが大きくなったら、ライヴの回数は増やすかもしれないですけどね。


それまでは自分から音楽を取ったらゼロだと思っていた。いまはすべて子どもが最優先という形になってますから。それが幸せということなんですけど。

湯浅:うちは今年で上のが20歳なんですよ。下が中学3年で、ふたりとも女です。

柴山:口をきいてもらえますか(笑)?

湯浅:うちは仲良しなんですよ(笑)。

柴山:A&Rの井上さんの娘さんは14歳から20歳の間まで口をきいてくれなかったらしくて。

湯浅:井上のうちはビッチですから(笑)。うちの場合は子どもが小さかった頃はべったり育児してたからね。ライヴを観に行くのがとにかく大変だよね。双子だったらもっと大変なんだろうなって思います。

柴山:夜、子どもが寝てからヘッドフォンでこっそりレコード聴いていても、育児で疲れてるから3曲めくらいで寝ちゃうみたいな(笑)。

湯浅:生活のサイクルが変わって、昔作れなかったものが作れるってことはないんですか?

柴山:今回の新曲は全部そんな感じですね。表現としてはそんなに変化がないんですけど、子どもがいなかったときとは感覚的に違いますね。

湯浅:1回めはそんなでもないんですけど、2回めからわかるんですよ。最初は渚にての新譜として聴けるんだけど、2回めから「あれ?」と思うことが随所にあってまた1曲ずつ繰り返したくなるんですよ。そこはずっと聴いた身としても発見がありました。

柴山:ありがとうございます。

湯浅:いえいえ。それはやっぱり生活の変化がけっこうあるのかなって思って。

柴山:いちばん大きいと思います。まあフルタイムのミュージシャンではないので(笑)。4年も休んでミュージシャンとか言ったら恥ずかしいですけど。まぁ、片手間だったのが、そうではなくなったというか。自分から子どもとの生活を取ったら音楽しか残らない、みたいな感じですかね。子どもが生まれたのは本当に大きいですね。それまでは自分から音楽を取ったらゼロだと思っていた。いまはすべて子どもが最優先という形になってますから。それが幸せということなんですけど。だから健康に気をつけてますけどね。

湯浅:それはやたら言われますよね。死なないようにってね。

柴山:だからまぁ、生きてるって素晴らしい、みたいなことですよ(笑)。東日本大震災もありましたし。あのときは子どもがまだ3歳でした。そのときにできた曲っていうのはないんですけど、歌詞の世界観には入っていると思います。日本人全員が同時に死をリアルに意識したのが3.11だったと思うんですけど、戦後のナマっちょろい世界を生きてきた自分の世代にとっては、後にも先にもあれほどのものはなかったですからね。豊かな高度経済成長期で育ったので。

“遠泳”ができたときは、もう一度泳ごうという気分だったんですよ。(中略)結局、海へ泳ぎ出してどこかにたどり着くのか、一周して戻ってくるのか、コースは人それぞれなんだけど、そういう、生きていくことのメタファーなんです。

 被災された方々には不謹慎にあたる言い方かもしれないですけど、“遠泳”ができたときは、もう一度泳ごうという気分だったんですよ。津波で亡くなられた方々が、逆に海がなかったら死なずにすんだかというと、そう考えても意味はなくて、そもそも海がなかったら人間だけではなくてあらゆる動物も地球自体も生きてはいけないわけで。“遠泳”の歌詞にはそれがいちばん入っているかもしれないですね。海はもっとも豊かな存在であるかもしれないけれど、もっとも恐い存在でもあるわけで。結局、海へ泳ぎ出してどこかにたどり着くのか、一周して戻ってくるのか、コースは人それぞれなんだけど、そういう、生きていくことのメタファーなんです。比較的早い段階で(アルバムの)タイトル『遠泳』とタイトル曲は決まってました。あとはメンバーを説得するだけでしたね(笑)。他の曲名も全部漢字2文字にしようと思ったんだけど、ひらがなが好きな人もメンバーにいて反対の声があったので(笑)。世界でいちばんすごい存在は海であって、その次は母だということですね(笑)。お母さんもすごいです。

湯浅:そうだよなぁ。男って子どもを生めないしな(笑)。

柴山:次は生きているうちにアルバムを何枚作れるかという最大のテーマについて挑戦したいと思います(笑)。それと、孫の顔を見るというのと、レナード・コーエンに負けないように80歳を過ぎてもアルバムをリリースすることですね。この前、頭士奈生樹くんに会ったんですよ。同い年なんですけど、「あと何枚作れる?」みたいな話をして、「いや〜、あと1枚かなぁ」って(笑)。いや、それは少な過ぎるからせめて5枚くらいは出さないと、って。頭士くんはどこか仙人的な生き方をしている人で、べつに強いてCDを出さなくてもいいというか、いい曲さえできたらあえて他人に聴いてもらわなくてもかまわない、みたいなんですよ。僕は俗世間の人間なのでこんないい曲CDにしなきゃあかんで、と思ってしまうんです。頭士くんは田中一村みたいな考え方なんです(笑)。作品至上主義で。離れ島でひとりで制作に没頭して「ええ絵が書けた!」って完結(笑)。で、僕が出版社の編集者みたいになって「これは画集にしなきゃあかんよ!」って言う、みたいな。人に見てもらってはじめて作品って完結するんだからって言っても、「いや必ずしもそんなことはないんじゃ」っていうような感じ(笑)。

湯浅:死後発見っていうのもあるからね。

柴山:ゴッホになってどうするんだっていう(笑)。生きているうちに騒がれなきゃあかんやろ、と言っているんですけど。山本精一くんなんかも焦っていると思いますよ。ハイペースでライヴもやってアルバムも毎年のように作ってるから、「ちょっと出しすぎ?」みたいな。まぁ、それはそれで彼の生き方なのでいいと思いますけど、でもそれに対して憧れもありますね。彼はまだ独身で子どももいないから、好きに時間が使えていいな、と思います。好きなときにライヴにも行けるし、御前様になっても怒られたりしないし。気が向いたときにレコーディングしてCDを出して、単純にうらやましいなーと思います。いつでも練習できるし(笑)。

湯浅:じゃあ、子どもの成長に従って次のアルバムが決まりそうですね。

柴山:そうですね。だからリリースはいままでより増えると思います。


ゴッホになってどうするんだっていう(笑)。生きているうちに騒がれなきゃあかんやろ、と言っているんですけど。

湯浅:小学校1年生というと授業は5時間ですか?

柴山:5時間ですね。2年生から6時間になるみたいです。だから親の自由時間がちょっとずつ増えていくので、それがいまの楽しみです。あと、お風呂が一人で入れるようになるのが時間の問題で。いまは毎日いっしょに入っているけど、女の子ですから。

湯浅:お風呂は小学校3年生までですね。

柴山:「お父さん臭い」とか「来ないで」ですよね。まだ大丈夫で裸で走り回ってますけど(笑)。いっしょにいられる時間を楽しみたいと思います。

湯浅:こうしている間にも成長していますからね。

柴山:時間のスピードがあいつらと自分でぜんぜんちがいますからね。でも同じ時間軸で生きていることが不思議で楽しいですね。

湯浅:たぶん年齢の分母がちがうからだと思いますね。

柴山:もういま、自分の一か月っていったら一週間くらいの感覚ですよね。とくに子どもが生まれてからはファズをかけたみたいに自分の時間が加速してます。この間、向田邦子のドラマを観てたら、森繁久彌が出ている回があるんですけど、お正月のシーンで森繁久彌が「また正月かぁー!」って言うんですけど、その台詞が最近自分もよく出るようになりましたねえ(笑)。

湯浅:そうそう、すぐに年末になっちゃうんですよね。夏とか短い。

柴山:小学生のときとか、夏休みは永遠に近かったですもんね。

湯浅:夏が3日くらいで終っちゃう感じですよね。

柴山:もう1年が半年くらい、って感じですよね。だから、うかうかしてないでレコ発のライヴに向けて真剣に準備しようと思ってるんですけど。

湯浅:それはいつなんですか?

柴山:1月です。12月はライヴハウスが押さえられなかったんですよ。子どもの学校があるから土日しかライヴができないっていう括りがあるんで。土曜日の朝に子どもを妹に一泊預けて上京して、夜にライヴして翌日帰ってきて引き取って、月曜日に学校に行かせる、という。

湯浅:大阪のライヴは祝日の午後にやるんだ。

湯浅:大阪ではランチ・タイムにやって明るいうちに帰るということです(笑)。年配のファンにはそっちのほうが評判がいいんですけどね。帰るのが楽みたい。会場の外に出たらまだ日が出ていて、一杯飲んで帰るのにちょうどいい、みたいな。

湯浅:一杯飲んでも帰ったら9時みたいな感じですもんね。

柴山:普通のライヴだったら、終ったら10時半とかでゆっくり飲みに行くには終電が気になる。だから大阪は早めの時間にやって、東京は営業的にしょうがないから夜やりますけど(笑)。

湯浅:来年またアルバムができるといいですね。

柴山:来年はどうかな……。

湯浅:じゃあ、再来年。意外と毎日が早いので、気がつかないうちに2年くらい経っているんですよね。

柴山:ははは、今回のは6年ぶりなんですけどね!

取材:湯浅学(2014年12月29日)

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