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interview with Nagisa Ni Te

interview with Nagisa Ni Te

また正月かあ!

──渚にて(柴山伸二)、インタヴュー

   Dec 29,2014 UP

  その起源を80年代の京都のアンダーグラウンドに持ち、2000年代においては「ローファイ」や「うたもの」として、〈Oz disc〉のサンプラー『so far songs』などによって提示された新しいインディの価値観を象徴し、〈ジャグジャグウォー(Jagjaguwar)〉からパステルズまでを日本のシーンにつないだバンドとしても記憶される、渚にて。2008年の『よすが』より6年、「また正月かあ!」と口をついて出るほど時の流れははやく、この間育児という経験もへてあらたに音楽と出会い直したというその中心人物・柴山伸二の、いまの暮らしと音について、湯浅学が訊ねる。(編集部)

柴山伸二、竹田雅子の夫妻を中心として活動するロック・バンド。柴山は80年代には高山謙一や頭士奈生樹らが結成したバンド、イディオット・オクロックのメンバーとして京大西部講堂を中心としたライヴ活動を展開し、自身では〈オルグ・レコード〉を立ち上げ、ハレルヤズ名義でソロLP『肉を喰らひて誓ひをたてよ』をリリース。92年にレコーディングが開始され、95年に完成をみる渚にて名義でのファースト・アルバム『渚にて』には、頭士奈生樹、工藤冬里も参加し、99年には『Wire』誌による〈ドミノ・レコーズ〉のサンプラーに工藤のMaher Shalal Hash Bazの作品と並んでハレルヤズ「星」のパステルズによるカヴァーが取り上げられるなど活躍のステージを広げた。つづく2001年の『こんな感じ』以降は米〈ジャグジャグウォー〉からも共同リリースがつづき、2014年には2008年依頼6年ぶりとなるフル・アルバム『遠泳』が発表された。


レコーディングも子どもの夏休みがはじまるまでに終らせなければいけなかったんです(笑)。


渚にて - 遠泳
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湯浅学:今回、渚にてのアルバムは計画的に作ったの?

柴山伸二:なかば計画的にですね。子育てが一段落してからはじめたので、6年ぶりというのも必然というか(笑)。子どもがひとりで自分のことができるようになった段階で、練習とかライヴができる状態に回復したという感じです。

湯浅:曲は作り溜めとかするんですか?

柴山:しないですね。何か設定されないと曲が出てこないんです。たとえばライヴをやるとか、レコーディングを年内にしなきゃいけないとか。宿題と同じで、締切とか目標がないとダラダラしてしまうんです(笑)。

湯浅:じゃあ、今回は発売を先に決めていたんですか?

柴山:発売が決まったのは後です。レコーディングがいつ終わるかハッキリとしなかったんですよ。作業を進めて、めどがついた段階で発売日を決めました。レコーディングも子どもの夏休みがはじまるまでに終らせなければいけなかった(笑)。子どもを見送ってから、午前中はスタジオに入って、学校が終わるまでにスタジオから帰ってこなければいけなかったという。だから、毎週午後3時までには帰宅していました。それが2月から7月までの足掛け半年くらいですね。

湯浅:今回、サウンド的なテーマや目標みたいなものはあったんですか?

柴山:サウンドの方向性はいつも同じなんですよ。90年代からそれは一貫しているつもりです。変わるのはスタジオの機材くらいで、目指している方向はつねに一点だけなので。僕は70年代っ子なので、黄金期のピンク・フロイドとかザ・バンドとかのやり方を自分なりに応用してみたり。まあ、勝手に肩を並べたい、という気持ちで。

湯浅:77年くらいまでですかね?

柴山:70年代前半までですね。ピンク・フロイドで言えば『狂気』までです(笑)。

湯浅:そうしたら73年(笑)?

柴山:そうなんですよ。ちょうど中高生くらいのとき。一枚のレコードを2ヶ月くらい毎日聴いていました。それとはまた別枠で76年以降はパンクの影響も入ってきますよね。70年代前半プラス76年以降、みたいな。パンクだったらジョイ・ディヴィジョンあたりまでだから、ディス・ヒートまでっていう感じですね。そう言うと「あ、そうですか」で終っちゃうんですけど、言わないと誰もわからないんです(笑)。

湯浅:そんなことはないと思うけど。でも、渚にてを聴きつづけていないとわからないと思うんですよ。

柴山:昔から聴いてくれている人はどんどん消えていってますけどね(笑)。

湯浅:最近の作品から聴きはじめた人と、昔の作品から聴いている人に接点はあるんだけど、感覚がズレちゃうところがあるらしくて。

柴山:それはいつの時代でもあると思いますよ。いまバンドをやっているような人はジミ・ヘンドリックスも後追いで、もちろん聴いたのは死んでからだし。ドアーズやビートルズでさえ全盛期はリアル・タイムでは知らないわけで。まぁ、僕は青盤赤盤世代ですから、それで聴いてどの曲がどのアルバムに入っているのかなってレコード屋さんで探して。それで『サージェント・ペパーズ』からさかのぼって聴く、みたいな。山本精一くんも検索すればボアダムズとか出てくるけど、いまはそういうイメージの人じゃないでしょう? 渚にても同じように、さかのぼって関心を持ってくれる人も少なからずいると思うんですけど。


僕は70年代っ子なので、黄金期のピンク・フロイドとかザ・バンドとかのやり方を自分なりに応用してみたり。まあ、勝手に肩を並べたい、という気持ちで。

湯浅:渚にてを聴いていると、歌詞の出発点で言葉をどのように紡いでいるのかなって思うんですよ。なんかこう、ある日閃いている感じもするし。

柴山:それもあります。ほとんどは子どもと散歩してるときとか、仕事中にちょっとずつ思いついたものをメモしてまとめて、っていう感じです。「紡ぐ」というのはまったくないですね。

湯浅:題名を先につけて詞を書くっていうのはないんですか?

柴山:タイトルをつけるのは最後ですね。まず歌詞の内容ができあがってから、タイトルを考えます。

湯浅:順番だと曲が先だと?

柴山:そうですね。まず、曲の一部となるメロディができてきて、そこから引っ張り出してくるみたいな感じです。その過程で、土台を忘れないようにフレーズを当てはめながら、残りのメロディを引っ張り出すというか、捻り出すときもありますけど(笑)。それである程度出てきた時に使えるものが採用になる。あとはギターでコードを付けて、という作業ですね。

湯浅:コード進行からメロディを作るんですか?

柴山:そっちの方が少ないです。ギターで遊んでいるうちにというのは珍しいんですが、今回のアルバムにはいくつか入ってますよ。2曲めの“まだ夜”はギターからできたやつですね。コード進行が先にできて言葉をつけていくというのは、普段あんまりないです。

湯浅:じゃあ、メロディがまず最初に浮かぶんですか?

柴山:そうです。急にサビが出てきて、あとでその前後の様子を探るというか。それとも、イントロの最初のメロディがパッと浮かぶか、その2パターンあるんですよ。それがだいたい半々くらいの割合です。

湯浅:タイトルとメロディと詞の3つがあるんですけど、題名が並んでいて、アナログ盤だと最初から聴いて……となる。だけど、CDって意外とランダムに聴けちゃうというか。

柴山:買って初めに3曲めから聴く人とかいますかね? ダウンロードとか?

湯浅:たまにそういうのがあるんですよ。題名で検索して聴いちゃった人もいるし。タイトルと詞の内容がかけ離れていると、かえって喜ばれることがあるらしい。それはほとんど例外的な話なんですけどね。だけど、基本的に詞ができて歌ができて曲ができて、タイトルをつけるにあたっては、詞のテーマと曲全体のイメージとのどっちを優先されるんですか?

柴山:どちらも同じですね。表現したい曲のイメージと、具体的にどういう言葉を選択するかをどこまで追求するかですよね。自分の中でのリアリティというか。これしかない、というところまで考えるという作り方ですね。

湯浅:今回のって、というか毎回そうなんですけど、作り込んでいったあとに、引き算で少し抜いた感じがするんですよ。

柴山:それは音に関してですか?

湯浅:いや、全体的に。歌詞とか。抜いたというか、ここを少し待とうというか。間合いが少し柔らかいというか。

柴山:それはたぶん、歳を取ってきたから(笑)。よく言えば余裕のようなものが出てきている気がしますね。今回の新作の曲も、おととし子どもが4才になって昼間は幼稚園に行って家にいない時間ができてやっと作れたんですよ。ふたりだけで育児をしていたので、その時を待ってました(笑)。子どもは双子で、幼稚園に上がるまでは24時間つきっきりで。おむつが外れるまでは音楽もクソもありませんでしたね。最初の1年はギターをぜんぜん触らなかったから、左手の指先がふにゃふにゃになってしまいましたよ(笑)。
 それでやっと幼稚園に上がって、とりあえず半日は家に子どもがいないので、その間にリハビリを兼ねてギターを練習してみたんですけど、昔の自分の曲のコードがなかなか思い出せなくて(笑)。レコードを聴くほうは夜中にコソコソとやっていたんですが、4年間曲作りはゼロだったんです。でもそれが案外いい方へ出たというか。しまい込んでいたギターを押し入れから出してきて子どもがいないうちに触ったら、「こんないい音がするんやな!」と、自分でギターを再発見してしまったというか。それまで1年以上はギターに触りもしなかったので。ちょっとした浦島太郎状態でしたね(笑)。

取材:湯浅学(2014年12月29日)

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